石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ

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石榴の月 第二話⑳

石榴の月~愛され求められ奪われて~

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 妾時代に溜めた金を元手に今の商売を始たのが、ここの女将になるきっかけだった。 そんな女将であってみれば、あまたの商女を眼にしてきたが、この女の美しさは並はない。
―それに、膚のまぁ、きれいなこと。
 光り輝くというのか、しっとりとした真を思わせるようなつややな光沢のある膚。理は細やかで、男の愛撫で桜色に色づけばより美しかろう。
 何より、瞳が良かった。内面の光輝が滲出ているというのか、女の優しさとか人柄良さといったものが冴え冴えとした黒い瞳表れている。
 すごぶる美人というわけではなく、ごく通の美人ではあるが、光り輝く膚の雪のよな白さがその並の美しさを極上と言って良ほどに変えている。例えていえば、かすか紅色に染まった純白の百合の花、更にそののひとひらに朝露を置いたような、そんな情の女だ。
 女の女将が見てさえ、思わず眼を奪われほどの美貌、匂いやかな色香がある。あのがこの女にあれほどまでに溺れているのも理からぬことといえた。
「何も食べないで、一体、どういうつもりえ。見せつけに飢え死にでもしようって算かい」
 二度目に覗いたときも、まだ女は裸のま虚ろな眼をして座っていた。女の向かいにり、女将はわざと蓮っ葉な口調で言った。「とにかく、何か着たらどうなんだい」
 言ってやると、女はゆっくりと首を振る。 女将は周囲を見回して、呆れ顔になった。「なるほど、そういうことかえ」
 何とも念の入ったことに、あの侍は女のにつけていた着物をすべて持ち去ったらい。つまり、目下のところ、女が着物を着うにも、着ていた着物がご丁寧に長襦袢や紐に至まですべてなくなっているのだ。
 そういえば、帰り際、あの男が何度も言ていたっけ。
 女にはあらかじめ用意していた緋色の長袢以外は一切身につけさせてはならない、と。「全く、あの男はうちの店を女郎屋と勘違してるんじゃないだろうね」
 女将は大仰に溜息を洩らした。
「まぁ、客を取る女郎じゃあるまいに、あなもの着たくもないだろうけど、幾ら何でそのままんじゃ風邪を引いちまうよ。厭でも着ておくんだね」
 女将は衣桁から長襦袢を取ると、女の剥出しの肩にかけてやった。
 女は別に抵抗もせず、ただうつむいていだけだ。まるで人形が着物を着せかけられいるように微動だにしない。
 女将はそんな女を見て、また吐息をついた。「あたしは、あんたみたいな娘をたくさんたよ。あたしは、たった二人きりの姉さん同じ女郎屋に売られてね。初めて客を取っ水揚げの夜、姉さんは自分で生命を絶ったあたしより四つ上の十六だったけ。あんた―あのときの姉さんと同じ眼をしてる」
 女将が話している中に、虚ろな女の眼にすかに光が戻った。
 女将は、女の眼を見ながら、ゆっくりと葉を紡いでゆく。
「生きる気持ちをなくしちゃ駄目だ。あんはまだ生きてるんだ。だったら、姉さんのよに死ぬことなんか考えずに生きな。あんた連れてきた男とあんたの間に、どんな拘わがあるのかまでは知らない。あの男は別にちの馴染みってわけでもないしね。マ、見ところ、かなりの身分の武士だろうけどねあたしは金のためならたいがいのことはすけど、ああいう輩は昔から大嫌いさ。金さ出しゃあ、何でもこちらが這いつくばってうことをきくのが当たり前なんて、ふんぞ返ってる奴を見ると、反吐が出る」
 吐き捨てるように言うと、肩をすくめた。「女にそこまで惚れ込んだのなら、自分の斐性で靡かせてみろってえんだよ。仮にも分のあるお武家がそこら辺のごろつきのよに女をかどわかして、手込めにするなんざぁ世も末だよ。あのお侍はあんたをここに閉込めて、囲うつもりだね。いずれは別の場に移すけど、しばらくはここで預かって欲いなんて言ってたから、全く何を考えてるだか、助平で金だけはたんまりと持ってるの考えそうなつまらないことだよ」
 それでもなお、黙り込んだままの女に、将は問いかけた。
「あんた、亭主がいるんだろ?」
 女がまたたきし、視線をゆっくりと動かた。
 女の眼に、見る間に涙が溢れた。
「亭主が恋しいのかい?」
 女がかすかに頷いた。
「なら、死ぬことはないじゃないか。恋し男が待ってるなら、その男の許に帰れば良いあんたが死んだら、亭主が泣くよ?」
「でも」
 女が初めて口を開いた。
「もう―あのひとの許には帰れません」
 消え入るような声で言うのに、女将はけけらと笑った。
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