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♡最終章♡

何度でも、君に恋をする⑤

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「ーーお? なんだー? 懐かしいもの見てるなぁ」


 そんな軽快な声を響かせながら、ダイニングへとやって来たお父さん。
 テーブルに広げられているアルバムを覗き見て、「懐かしいな~」と言ってニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。

 ーーその手元にチラリと視線を移してみれば、そこには写真らしき物を持っている。


「お父さん。もうプリントできたの?」

「……ん? あぁ、もう終わったよ」


 アルバムから視線を上げてニッコリと微笑んだお父さんは、手にしている写真の中から一枚だけ引き抜くと私に差し出した。
 その写真を受け取ると、残りの写真をアルバムに入れ始めたお父さん。


「いやぁ~。本当に可愛いなぁ、二人共っ」


 そんな事を言いながら、デレデレとした顔をするお父さん。
 そんなお父さんが整理しているのは、私と彩奈が写っている大量の写真。

 あの地獄のようだった三十分間に、これだけの量を撮影していたのかと思うと……。目の前にある写真達を眺めて、その多さにドン引きする。
 渡された一枚の写真と見比べて、その枚数の違いに思わず顔が痙攣る。


(お父さん……。今日の主役は、お兄ちゃん達なんだよ……? 何の為にデジカメ持って行ったのよ……)


 そんな事を思いながら自分の手元へと視線を移すと、※銘板めいばん前で全員で撮った写真を見つめてクスリと笑い声を漏らす。
(※校門にある学校名の書かれた看板のこと)


「……お父さん。はい、これも」

「ん……? あぁ、良く撮れてるだろー? それっ」

「うん、そうだね」

「よしっ。じゃあ……この写真はここだなっ」


 私から写真を受け取ったお父さんは、ニコッと爽やかに笑うとその写真をアルバムに収めた。


「響は、相変わらず泣き虫だなぁ~」


 そう言ってハハハと豪快に笑うお父さん。


(うん……。お父さんもね)


 そんな事を思いながら、たった今アルバムに収められたばかりの写真を眺める。
 そこには、とても幸せそうに微笑む私の姿とーーその後ろで、私を抱きしめて泣いているひぃくんの姿が写っている。

 思わずクスッと笑い声を漏らすと、その写真にそっと指で触れるとひぃくんの姿をツーッとなぞってみる。


(本当に、泣き虫だよね……。大好きだよ……ひぃくん)


 私を想って涙を流すひぃくんの姿を見ていると、何だかそれがとても愛おしく思えてくる。
 写真を見つめながらそんな事を考えている私の横で、優しい眼差しで私を見つめているお父さん。
 そんな視線に気付かないまま、幸福感からフフッと小さく微笑む。


「ーー花音」


 背後から聞こえてきたその声に振り向いてみると、そこにはニコニコと微笑むひぃくんが立っている。


「……っ」


 何だか異常に嬉しそうに微笑むひぃくんを見て、反射的に思わず一歩後ずさる。


(長年の経験から、嫌な予感しかしない……)


 目の前のひぃくんを見ると、何だかそんな気がするのだ。


「約束、覚えてるよね?」


 そう言ってフニャッと笑って小首を傾げたひぃくん。


(えっ……? 約束……? 私、何かひぃくんと約束したっけ? ……ダメだ……っ、全然思い出せない……)


 どうやら約束? をしたらしい私は、その約束を忘れてしまった罪悪感から、幸せそうに微笑むひぃくんを見上げてヘラッと笑った。


(……ごめんなさい。……忘れました)


 そんな事言えない私は、何とか誤魔化そうと必死で笑顔を作ってみる。
 そんな私の口元がピクリと痙攣った、その時ーー。

 目の前のひぃくんがニッコリと笑むと、私に向けて嬉しそうに口を開いた。


「高校卒業したら、結婚するって約束したでしょ?」


 そう告げると、私の手を取って婚姻届を渡したひぃくん。
 ーーしかも、ご丁寧な事にちゃっかりとボールペン付きだ。


「えっ……?」


 手元の婚姻届を見つめて、暫し放心状態のままその場で固まる。
 そんな私を見てニコッと笑ったひぃくんは、私の腕を掴むと椅子へと座らせる。
 そして私の右手にボールペンを握らせると、「はいっ。ここに名前書くんだよ~?」と言ってフニャッと嬉しそうに微笑んだ。



 ーーー!?



「……っえ!? ちょっ……、ちょっと待って、ひぃくん! 私、そんな約束してないよっ!?」


 椅子に座ったまま軽く飛び跳ねると、隣にいるひぃくんを見つめて両目を見開く。
 私はそんな約束をした覚えはない。一体いつ、そんな約束をしたというのか……。

 視界に映るひぃくんは、私の発言に一瞬驚いた顔を見せると、途端にその顔を曇らせて悲しそうな表情をさせる。


「高校卒業したら、いいって言ったのに……っ」

「 いっ、言ってないよ……っ! 私、そんな事言ってないっ!」

「……っ、酷いよ花音っ!! 忘れちゃったの!? 期末テストの勉強見てあげた時っ……、約束したのにっ!!」


 大きな声でそう言ったひぃくんは、ついにボロボロと涙を流すと泣き出してしまった。


(え……っ? あの時の事を……、言っているの?)


 目の前でメソメソと涙を流しているひぃくんを見つめながら、私は一人、あの日の会話を思い返してみた。


(私……卒業したら結婚するなんて……言って……、ないよ。……うん。卒業するまでは結婚の話はしないでね、って話しだったはず……)


 そもそも、ひぃくんが卒業するまでではなく、私が卒業するまでという意味だ。
 ひぃくんが卒業したところで、私が高校生である事には変わりないのだから……。それでは何の意味もない。

 あの時、妙に聞き分けの良かったひぃくんの姿を思い出すーー。
 実際、あれから一度も結婚を迫ってくる事はなかった。それもそのはずだ。

 数ヶ月後にはひぃくんは無事、高校を卒業するのだからーー。


「……ひぃくん。っ……あれは、私が卒業するまでって意味だよ……? そもそも私、結婚するなんて言ってなーー」



 ーーー!?



 そこまで言った後、目の前を見て後悔した私。

 物凄い勢いでブルブルと震え始めたひぃくんを見て、焦った私は恐る恐るとひぃくんへと向けて右手を伸ばしてみたーーその時。
 
 俯いていたひぃくんが、突然ガバッと勢いよく顔を上げた。



 ーーー!!?



 鼻水を垂らしながらブルブルと震えて涙を流しているひぃくん。その豪快さに、思わず差し出しかけた手がピタリと止まる。
 すると、悲痛に顔を歪めたひぃくんが勢いよく口を開いた。


「卒業するの、嫌だったのに……っ! でもっ……花音と結婚できると思ったからっ……! だからっ……、っだから我慢したのにぃぃいいーーっっ!!!」


 あまりの大声に、堪らず後ろへ仰け反り卒倒しそうになる。


(こ……っ、鼓膜が破れるかと思った……っ)


 滝のような涙を流して大泣きするひぃくんを見て、私はヒクリと顔を痙攣らせた。


(申し訳ないとは、思う……。だけど、勝手に勘違いしたのはひぃくんだし……っ)


 私にはどうする事もできない。


「っ……、ひっ、ひぃくん……? なんか……ご、ごめん……ね……?」


(これって、本当に私が悪いの……?)


 そんな事を思いながらも、大泣きするひぃくんを黙って放っておく訳にもいかず、とりあえず謝罪の言葉を述べた私はヘラッと笑ってみせる。


「花音っ……、花音っ……。結婚してっ……下さい……っ」

「……っ。それは……できないよ、ひぃくん……。ごめんね……?」

「どうして……っ? 約束したのにっ……。……っ!? ま……まっ、まさか……っ!!!」


 青白い顔をしてガクガクと震え出したひぃくんを見て、今度はまた一体何事かと怯えて身構える。


「ふっ……!! ふりっ……、不倫っ!! っ……、花音……不倫だなんてっ……!! 不倫だなんて……っ、酷いよ……っ!!!」


 ガシッと私の肩を掴むと、そう言って泣きながらガクガクと私の身体を揺らすひぃくん。


(…………。不倫て何よ……っ。私達、まだ結婚もしてないじゃない……。私が浮気してるとでも言うの……? っ……、酷いよひぃくん。私、こんなにひぃくんの事好きなのに……っ)


 ユラユラと揺れる視界の中に見えるのは、鼻水を垂らしながら涙を流しているひぃくんの姿。
 そんな情け無い姿を目にしても、やっぱり好きだなーなんて思えてしまう私は……。
 相当、ひぃくんに惚れているのだ。



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