色をなくした世界

乃愛

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第1章

貴方を想う

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「柚樹さんっ!」私は二人のそばに駆け寄り、女性に会釈をすると柚樹さんの目を見た。
「…少し二人で話す時間がほしいの。」
「…あぁ、ごめん柴崎、ちょっと待ってて。」柚樹さんは女性を苗字で呼んだ。ということはまだ付き合ってはいない…?
脳内で不安と期待が入り混じって混乱した。だがまずは、素直に気持ちを伝えたい。

彼は私を家にいれた。そして何も言わずソファに腰を掛けた。
「なに?話って。」彼の表情は、苛立っているように見えた。
「急にきてごめんなさい。あと…待ち合わせに遅れたのに怒って叩いてごめん、二週間近く経って久しぶりに話したくなって電話をかけたの。そしたら貴方は出なくて、心配だった。」
「…自分から避けたくせに、話したくなったなんて都合いいな。」
「本当にごめんなさい…」
「恋人に避けられて俺がどんな気持ちだったかお前にわかるか?」
彼は声を荒げるでもなく、冷静だった。でも、仲直りをする気はなさそうで、このまま終わるかもしれない、そう思った。
「辛い思いさせてごめんなさい。でも私、さっき女性といるところを見て少し嫉妬した。好きじゃないなんて言っといて結局柚樹さんのことが好きなんだって痛いほど思い知らされた。もう貴方は私を愛せないかもしれない。けど貴方が必要なの!お願い…」
私は頭を下げた。涙が溢れた。修復できる可能性がないかもしれない、でも、でももしかしたら彼が…まだ私を好きだと思う気持ちが一ミリでもあるなら…
「…ごめん、今は何も言えない。時間がほしい。今日は人待たせてるし、帰ってくれる?」
「…わかった。最後に一つだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「さっきの女性のことは、好き…なの?」
「彼女は…」 柚樹さんはばつが悪そうに目を逸らした。
「…ごめんなさいやっぱりいい。今日は時間割いてくれてありがとう。ゆっくり考えて。」
私は彼の家を出て走った。大粒の涙がとめどなく溢れて、目の前の夜空が滲んだ。
聞きたくなかった。自分から聞いて、答えを聞くのが怖かった。
もし、彼女が好きだと言われたらと思うと、逃げ出すことしかできなかった。

私は彼に、切り捨てられることが怖かった。
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