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1話

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『一話 下校』

 放課後に文化祭の準備で残るようになってから数日がたったある日のこと。
 普段は教室の隅で某音ゲーをするなどとして時間を潰し、部活動をしている人が部活に向かう時間である十六時三十分までひたすら待つ。
 そして時間が来れば、出来る限りクラスメイトにバレないように (部活に入っていない人は十八時まで残らなければいけない。ちなみに俺は無所属) 教室から出て下校するわけであるが、今日は少し違った。
 なぜなら、普段は我ら陰キャは仕事が与えられず暇なのに対し、今日は仕事があるからである。
 仕事を与えられたのだ。そして意外にもこれが楽しい。
 内容はダンボールで文化祭の模擬店で使用されるセットを作るというなんとも地味な作業であったが、このダンボール工作が高校生になっても、まるで小学生の頃のように楽しいのである。
 そして俺ともう一人の友達との共同作業ということもあり、かなり盛り上がった。楽しい時間が過ぎ、気づけば十七時三十分になっていた頃。
 普段はたまにしか話さないが、他の女子よりかは話す程度の仲である鈴村さんが寄ってきた。
 そしてお互いの体温が伝わりそうなくらいの距離で肩をならべて、

『私、七時から神戸で予定があるんですよね。そろそろ帰らないとやばいな。いやー でもなんだか帰りにくいなー どうしましょ』

 まるでお昼の番組で政治について話す専門家的な人のような口調で鈴村さんは呟いた。
 正直、いったい彼女は何が言いたいのか俺にはさっぱりわからない。
 するとまた、彼女から一声が飛んできた。

『部活入ってないとやっぱり帰りにくいなー 流石に今から一人で帰るのは周りの目が気になるなー』

『あ!!』

 ……

『遠野さん、一緒に帰りません? 確か君も用事ありましたよね? 嫁が待ってるんじゃないですか?』

 ――なんでそうなった。

 ちなみに嫁とは、俺の二次元の推しキャラのことである。
 元々鈴村さんと俺は二次元の住人なので、よく推しについて語ったりするのだ。

 これは下校のお誘いと捉えていいのだろうか?!

 だがしかし、どうやら鈴村さん的には俺を誘っていることに対して何も思っていないらしい。そしてそれがどういったことなのかも理解していないらしい。

 ――これ、ラノベなら別れ際でお家お誘いイベント来るやつ!!
 もちろん俺にこのお誘いを断る理由などない。なんなら鈴村さんと二人きりで下校できることに対する嬉しさが半端じゃない。

『なるほど……まあ気持ちはよく分かりますしいいですよ。一緒に帰りましょう』

 あまり食い気味に答えると変に思われそうなので、ちょっとだけ素っ気なく答えた。
 先程まで共に作業をしていた友達には申し訳ないが、またとない機会だ。
 このチャンスを逃すものか――
 俺と鈴村さんはそれぞれ自分の机に置いてある鞄に荷物を入れる。
 そして俺は友達に事情を説明し、軽い謝罪をしてから鈴村さんに準備が出来たことを伝える。
 すると鈴村さんは俺のもとに来て、二人で肩を並べて中央玄関まで階段を下る。
 靴を履き替えると玄関の外に出て、少し怪しい雲行きを感じながらも陽の光を浴びる。
――まじで鈴村さんと一緒に帰れるとか
幸せすぎる!!
 なんてことを思っていると、
中央玄関の方からちらほらと同じクラスの男子が少数現れてきた。
 そして俺達に一気に視線が向けられる。
そんな状況に俺は優越感を覚えながらも、
鈴村さんと二次元について語り合いながら肩を並べて帰るのであった。
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