さだめの星が紡ぐ糸

おにぎり1000米

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第7章 糸のゆくえ

7.溶けあう糸

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 伊吹の唇が七星の口を覆う。柔らかく、押しつけては離れ、押しつけては離れをくりかえしながら、唇をすこしずつ食んでいく。ついばまれるたび、七星の背筋から足先まで、波のように甘い感覚が押し寄せる。甘い波がうなじの噛み跡に達した瞬間、腰の奥が熱く蕩けて、膝が揺れた。

 声にならない熱い吐息はアルファの唇に飲みこまれてしまう。七星は両手で伊吹の背中をつかみ、高まる欲望をこらえようとする。それなのに舌を吸われながらうなじの生え際を愛撫されると、いつのまにかせがむように相手に胸をこすりつけている。無意識に快感を拾おうとして体が勝手に動いてしまうのだ。かたくなった乳首がTシャツに擦れ、股間がぐっときつくなる。

「……いぶきさん、ベッド……ベッドがいい……」
 舌を解放されたとたん、甘えるような声を出してしまったことに七星は自分で驚く。それでも伊吹に回した手をほどきたくなくて、抱きあったまま靴を脱ぐ。もつれながら床を踏み、そのあいだも何度も、何度も唇をあわせる。

 どうにか寝室までたどりついたとたん「あ……」と伊吹が声をもらした。ベッドをふりかえったとたん、七星の頬に血がのぼる。朝起きたままのシーツの上に、四月のあの日、伊吹が残していったスーツがくしゃくしゃになってかぶさっている。
「あ、あの」

 とっさに言い訳しかけたが、伊吹の体に押されるようにベッドの上へ倒されて、何もいえなくなってしまった。天井のあたりでエアコンの作動音が鳴った。人の気配を感知して自動で運転をはじめるのだ。伊吹が上にのしかかり、噛みつくように激しく口づけてくる。

 絡まる舌と鼻腔にあふれる伊吹の香りで頭の芯がぼうっとした。なのに体はますます敏感になって、伊吹の指が肌をかすめるたびに股間の緊張が増していく。見計らったようにファスナーが下げられ、先走りで湿った下着に伊吹の手が触れた。

「このスーツ……」
 伊吹が耳もとでささやいた。舌が耳たぶの先をちろりと舐め、七星の腰はびくんと震える。チノパンごと下着を半分ひきずりおろされ、濡れたペニスがあらわになる。伊吹の手のひらが焦らすように触れる。
「そんなに俺の匂いが恋しかった?」
 はじめてきく「俺」という響きに背筋がぞくっとした。
「ごめんなさい、だって」
「まさか」

 伊吹は七星の耳を舌で濡らし、首筋を強く吸いあげる。Tシャツをまくりあげ、かたくなった乳首に舌を這わせた。ちろちろと先端を舐めたあと、軽く吸って歯を立てる。
「あっ……ん、そこっ……あっ、あっ……」
 背中に敷いた伊吹のスーツは会えないあいだ七星の夜を慰めていたものだ。その上で本人の容赦ない愛撫をうけて、七星はたまらず喘ぎをもらす。伊吹は体をおこし、七星の下半身にまとわりつく余計な布を脱がせた。自由になった両足をひらかせ、股間に顔をうずめる。

「ああん、あん、いや、だめ……」

 七星はこらえきれずに声を漏らしたが、伊吹は蜜の香りの根源を舌と唇で容赦なく責めたてる。甘い水音が部屋に響き、追い上げられた七星が達しても、伊吹は愛撫をゆるめない。後孔のすぼまりを舌で弄られ、指で中をかきわけられる。つがいの楔を求めるオメガの本能に追い立てられて、七星はむせび泣くような声をあげる。
「伊吹さん、お願い、中にほしいから……」

 伊吹は体を起こし、シャツのボタンを外しはじめる。厚い胸板があらわになり、スラックスと下着を脱ぎ捨てる。伊吹が動くたびに甘い香りがただよい、七星自身の匂いと混ざりあった。
 七星もTシャツを脱ぎ捨て、裸の伊吹を正面からみつめる。股間にそそりたつアルファの欲望に唾をのみこんだとたん、腕をとられてうつぶせにされた。

 背中に伊吹の重みがかかり、うなじに唇を押し当てられる。さっきからつづく愛撫で後孔はすっかり蕩けて柔らかくなっていた。それでも押し入ってくる雄の熱さに体が一瞬すくんで、後孔がぎゅっと締まる。
 伊吹はうなじの噛み痕を舐め、軽く歯を立てた。ほどかれるように七星の体はゆるみ、伊吹を奥へ迎え入れた。あたたかくつながった感覚にほっと息を吐いたのもつかのま、襞の一カ所をぐっと押されて、喉から声が漏れた。
「あっ、ああっ」

 自分の中で伊吹が動いている。奥を突かれるたびに襲ってくる電撃のような快楽がやがて、やわらかく揺すられる感覚に変わった。つつみこむような波に揺られて、今度はため息に似た甘い声が止めようもなくあふれだした。
「あんっ、あんっ……はっ、あぁっ、あんっ」

 背に覆いかぶさるアルファの息が荒くなり、七星の奥のどこかをひっかけるように突く。あっと思ったときにはそこがびくんびくんと震え、七星はふわふわとした快楽の高みにおしあげられている。伊吹の歯がまたうなじをかする。今度はがりっと深く噛まれ、とたんに甘い刃でつらぬかれるような衝撃が七星の背筋を駆け抜けた。赤裸々な声がこぼれる。
「あ―――」

 伊吹は両手で七星の腰を抱き、さらに深く奥をえぐった。快楽でぐずぐずに蕩けているはずなのに、七星の体はつがいのアルファの雄をしめつけて離そうとしない。もう許してほしいのか、もっと欲しいのかもわからなくなったとき、腹の中に熱いものがほとばしった。




 伊吹が中からいなくなっても、七星の快楽の余韻はなかなか抜けなかった。伊吹は湿ったシーツを避けるようにタオルケットでふたりの体をくるんだ。エアコンの風の下ではこのくらいがちょうどいい。ライナスの毛布のようにベッドに持ちこまれていたスーツはいつのまにか床にすべりおちている。

 伊吹の手がひたいに伸びて、くせ毛を指でかきまわしては、つまんでは伸ばし、つまんでは伸ばしした。七星は思わず笑った。
「面白いですか?」
 伊吹はいたずらをみつかった子供のような顔になった。
「その……かわいくて」

 そんな答えが返ってくるとは思わなかった。固まってしまった七星に伊吹は畳みかけるようにつぶやく。
「ずっとやってみたかった」
「そんなの、いくらでも」
「いや、すごく贅沢だ」
「じゃあ僕も」
 え? という顔つきになった伊吹の方へ七星も手をのばす。伊吹の髪は七星とちがい真っ黒で、かたかった。

 向かいあって髪を撫であううち、七星はまた伊吹に体をすりよせている。つがいの胸の中心に顔をうずめて匂いをかぐ。かつてない安心感に包まれるうち、とろとろと眠気がやってきた。こんなふうに抱きあっていられるなんて、奇跡みたいなことじゃないだろうか。そんなことを思いながら、七星はいつのまにか眠りにおちている。



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