~綿 アメ~ 全編

ひいらぎ ゆい

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~綿 アメ~ 全編

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『まるで貴方はおおかみこどもの雨と雪』みたいだよ。
彼女から何度も、何度も言われるんだ。意味が全く分かんないや、観たことはあるんだ
けど、わかんないな。彼女から映る僕は何者なんかな?人間だと思っている事が間違い?
そもそも、人間って何?人間でもオオカミでもいいんだよ。自由な彩を奏でればね。
出逢いは突然だったんだ。彼女がポツンとした表情してさ、こっち見てくる
いつから居たんだろって思うくらいにね。気が付いたら、よこっちょに居るんだよ。
でもね、空気みたくて居る事すら感じられないんだ。綿あめみたにフアフアしてるんよ。
雲の上でお昼寝してる気分に近いんだ。そんでもって早いの。体温を感じるのがね。
だからね安心するんだよ。駆け足で走らなくて済むから。いっつも横に居てくれるん。
そんな彼女が大好きなんだよね。僕の生きて行く一部かな。なんて身勝手なんだけど。


彼女の事について語るね。最初の印象はね、正直言えば横に居るだけって感じかな。
怒られちゃうけど、嘘言えないんだ。女の子って感じはなかったよ。なんでだろ?
僕の性格もあるんかな。小っちゃい頃から遊ぶ相手に対して男女は気にしてなかったな
簡単にいうと誰でもいいんよ。波長さえ合えばね。その感覚ってすっごく複雑な感覚
誰にでもある直感なんかな。あ、これ食べたいとかあるよね。そんな感じだよ。きっと
でもね、一度食べたいと思ったら残すのはいけないな。残すくらいなら手を付けない。
これはね、基本なんだ。僕にとっての道しるべみたいなものかな。
その道しるべに、ひょいっと乗って来たのが彼女なんだ。何にも言わずにね。一言もね
そんでも彼女には乗れるだけの光る物があったんよ。ちょこっと歪だけどね。
その歪さがとっても眩しいんだ。この世に、こんなキラキラした輝きを放つ物があるの?
って程にね。しかもずーと一定の輝きを保っているんだよ。磨かなくてもだよ。
真っ白でね、例え他の色が混じっても染まらないんだ。不思議なん。白色って何色にでも
なるのに、彼女だけはならないんだ。なんでならないのかはね、後から分かるんだけど
この時は、久しぶりに新鮮な空気をおもいっきし吸えた感じだったな。この先あるかな?

一つだけ、彼女に闇があるのは直ぐに気が付いたよ。でも気にはならなかったんだよ
そこに居てる彼女が全てだもん。それ以外にあるかな?その事実だけあれば十分だからね
それに触れようが、触れまいが関係ないんだ。でもね、それが彼女にとって息苦しかった
んだよ。毎日のようにさ息止めの。すっごく苦しそうなんだけど、それすら出さずにさ。
思い返すとね、彼女の笑い顔しか見たことないかな?それって、限られた人しか出来ない
と思うんだ。僕には到底で出来っこないな。
彼女だけが持つ、唯一無二の能力なんかもね。
日本の人口は約1億2千万人くらいかな、正確には分からないけどね。
でも、一生に出逢える人は限れる。それが世界となると、何十億ともなるからね。
欲を言えば、世界中の人達に一度は出逢いな。現実的には不可能なんだけどね。
そう考えると、自分が出逢い交わる人ってのは、すっごく貴重な存在だと思うんだ。
その中でも、自分との波長が合うのって、奇跡的に近い確率だよ。
神様などは信じないけどね、彼女に出逢った時だけは神様っていてるんやなってね
実感したんよ。そんくらい彼女は心地よい雲のような存在なんだ。

でもね、いつも晴れてる訳でもなく色んな形、模様、色合いを見せてくれる。
最初は、一定の音しか奏でなかったけどね。波風が立たないのか?抑えているのか?
きっと、抑えていたんだろうけどね。その穏やかな水面に一滴の水を落とすのに時間が
掛かったのかな。いや、落とさなくてもよかったのかな?って未だに答え見つからない
けどね。人生に答えなんてないんよ、それが答えかな。
そんな風にさ、彼女と居ると毎日が刺激と違う風景に出逢えるから、楽しくてね。時間
なんてあっという間に過ぎるんだ。
僕はね、人の笑顔が一番好きなんよ。だから、毎日笑顔でいて欲しくて必死だったな。
笑顔が見たくて、ただそれだけなんだ。それ以上も以下もないよ。
それに答えるかのように、彼女は笑顔でいっつも僕の間の前に現れてくれた。
とってもハッピーな日々。この時間が永遠に続けばいいのにな。そんな訳ないよ。
分かっているんだよ。悲しみがあるから、幸せがあるって事をね。
その気持ちを変換させるのは、人それぞれに違う物語があるように。
その物語にちょっことでも、ヒビが入るといけないんだ。ほっておくと大きな地割れに
なるからね。散らばりでもすれば、欠片を集めなきゃならない。でもね、それも楽しい
作業だと思うんだ。ちょっとした実験なんかも知れないね。
そんな愉快な発想さえも彼女と居たら考えちゃうんだよ。意地悪かも知れないけどね。
意地悪って表現したんは、後に彼女から言われたからなんよ。彼女が変化する様子を見たかっただけなんだ。それだけ。
彼女はハッピーになる事を極端に嫌ってた感じが当時はあったな。なんでだろ?
自分よりも人の事を真っ先に考えてた。真っ白な綿アメを上げるように、自分を痛め付け
てる様にも思えて、すっごく不憫で理解出来なった感覚。その綿アメを一番貰ってたのは
僕だけどね。だからさ、彼女は唯一無二なんだ。僕に渡す綿アメと同じ位に甘い物を渡す
んだ。そりゃ、疲れちゃうよ。自分のが無くなるんだからね。変なの?簡単な事なのにね
だからさ、彼女に対しての態度がね、ついつい強くなってきちゃったのかな。おかしいね。
彼女は、なんにも悪い事してないんだよ。きっと、焼きも持ちなんだな。それを彼女に
悟られるのは恥ずかしいんよ。その裏返しなのかもって、自分勝手だね。
ほんと、自分勝手な欲張りさんだったな。
気が付けばね、一緒に暮らしていたんだ。毎日会って、毎日電話やメールのやり取りに
疲れたのかもね。僕は、そもそもが自由で居たいタイプなんだ。でも彼女は違ったんだ
すっと居ても疲れないんだって。彼女は10歳も下だったのかも知れないけどね。
メールの返信が遅れるとね、直ぐに何してたの?って言われるよ。その返答が困るんだ。
だから、一緒に住めば解決すると思ったからね。それだけかな?きっと違うんだよ。
素直になればいいのにね。何より彼女が求めていたことは確かなんだよ。
最初はね、まるでおままごとだったな。8畳一間のフローリングに生活に支障がない程度
の家具のみでさ。シンプルで生活感が全くなくてさ。必死で作る夕食に『美味しい?』
って聞いてくるんよ。正直にいうとね、当時の彼女が作る料理は美味しくはなかったね。
面倒だから、いつも『美味しい』って言ってたんよ。実際に美味しい時もあったからね。
でも、彼女は美味しいだけじゃ物足りない感じだったな。僕には不思議だったよ。
美味しいに理由なんかある?ってね。だからさ、時に『あまり美味しくない』って言うと
しょんぼりするんだ。そんな顔みると切なくなるな。
でもね、数か月もすると各段に美味しくなってたよ。ホント。美味しくなるだけじゃなく
僕の好みの味付けを何気ない会話から聞くんよ。凄くないかな?なかなか出来ないよ。
ホントはお刺身が好きな彼女だけどね、僕は好きじゃないんだ。僕の目の前でお刺身を
食べてる記憶はないくらいに徹底していたんだよ。何気なく発した言葉を全て把握してく
れてるん。何気に言ったから忘れてる事でさえ。とことん寄り添う姿勢には呆れる程に
素晴らしい才能を感じたね。
時には、呑みに行ったりする事もあるよね。必ず彼女は『誰と?男?女?』って聞くよ
嫌ではなかったから、正直に言ってたよ。でもね、そこに女性が居たら表情が険しくなる
女性なら当たり前なのかな?だから、常に彼女に聞いてたよ。でも本心は言わなかった。
ホントは嫌なのにね。友達と一緒に居る時でも電話、メール何度もしてきたな。
タイミングによって、出れない時もあるんよ。メールなんて多い時で30通くらいはあったな。流石に嫌になるから電話越しで怒鳴る事もあったな。そしたら直後にメールでね
『ごめんなさい』って。そんなメール見ると何故か哀しくなる。そして、何故か怒りの
感情も湧いてくるんよね。謝る必要性ないからね。そこからは、しばらく音信不通になる
そして何時も以上に帰りが遅くなるんよね。夜中であろうが、彼女は笑顔で『おかえり』
って言うんだ。そして、ぎゅって抱きしめてくる。その時の表情がたまらなく愛おしい。
それと同時に、とてつもなく不思議。それから僕の話しに耳を傾けてくれるんよ。
何時だったかな、そんな彼女の性格を分かってるから電話で『今日のご飯は何がいい?』
って聞く彼女に『今日は仕事で遅くなるから先に食べてね、ご飯も適当に食べるからいい』
ってホントは飲み会だったんだ。夜中に家に帰ると彼女は『お疲れ様』と起きていてね
テーブルには生姜焼きがあった。しかも、彼女は食べずに待っていたんだよ。
『今から、レンジで温めるね』って。振り返ると、僕の昔話しで同じような事があって
それを再現してくれたんだと。
彼女との日々は常に手探り状態の連続性なんだ。というかね、何も知らないかも。

少し僕の話をするね。彼女と恋愛関係になる以前にも数名の女性と恋愛はしてきたな
恋愛?って表現が適切なんかな?って考えるとね難しいな。そもそも僕に恋愛って言葉
は彼女と出逢うまではなかったとは思うんだ。男女問わず人は好き。勿論、男女の関係
においての差はあるんだけどね。これまでも彼女が出来ても、彼女と認識して無かった
部分もあったんかな。どちらかといったら、男友達が優先だったな。
それとね、女性と付き合うのに理由を求めないんだ。好きになれば、直ぐに告白してたな
『え、でも良く知らないし』なんて言われるんは度々あったよ。
でもね、知らないからこそ付き合うんじゃないんかな。って常に思っていたけど。
それで、合わなければ別れたらいいだけなのに。って考えてたな。
実際に中には、同じ考えの女性もいたけど、今思うと決まって長続きしなかったな。
それには、性格の不一致などもあるけどね。根本的に僕は恋愛って事に対し積極的では
ないのは確かかな。興味本位、その時々の感情、直感に任せるスタイルだね。
『貴方ってホントに私の事が好きなの?』『友達関係ならいいけど恋愛対象じゃない』
この言葉は耳にタコだったね。
僕自身も、特別嫌な感情にはならなかったしね。だって世の中に女性は星の数程いるし
より多くの出逢いを求めていたから。その本質的な思考は今でも同じなんだ。

亜美(彼女の名前)との出逢いで、そんな僕の思考の壁が徐々に崩れていくのは実感するん
初めての恋愛や、人を好きから愛する事への感情の移り変わりをね。
新鮮な空気をお腹いっぱいに吸った気分かな。意識的にしてるんじゃないんよ。ごく自然
そのごく自然な感覚こそが新鮮だったんだ。
後に、結婚までするんだけどね。今想うとね、それもごく自然な現象だったんかな。
枠内を歩むだけの人生を好まないのに、知らない間に枠内にいたような。そんな感じだね
運命って言葉を用いるのなら、それが相応しいいかも。
考えてみてよ、亜美とは10歳も離れていて生まれも育った環境もまるで違うんだよ。
亜美が小学校1年の時、僕は高校生だよ。その頃は頭にすら無かった相手と結婚までする
時間って不思議。これが運命という一言で片づけられるかな。
理論上では解明できないのはたしかだね。この世には、説明付かない事なんて山ほどある
答えの無い事だらけの世界だから面白いんよね。だから、運命が存在してるんかもね。
その見えない糸が無数にある中で、知らず知らず導かれるようにさ、乗らされてるんよ。
世界中で起こっている様々で奇妙な出来事含めてね。
なんか壮大な話しに発展してきてるよね。日常の出来事って、そう考えると全てが壮大で
創造すら出来ない事だらけなんだよ。きっと。きっとそうに決まってるよ。
だから、人生って面白く儚く愛おしいんよ。
この世に事情がない人間なんていてないよね。誰しもに物語があり、その物語はその人
を形成しているんだ。亜美と同棲し色んな話しをしていく中で、亜美の物語のページを
開いていくようになったよ。亜美は『どうせ私なんか』『私みたいな…』などの発言が
よく聴こえてきたんだ。その事から口喧嘩が多くなってきたんだ。
なぜなんだろう。どっか亜美と同棲しているような感覚が持てんかな。
目の前に居る亜美ではなく、亜美が囚われた檻に入ったままの少女と暮らしてるように。
『俺は、誰とくらしてるん?』幾度となく怒鳴ってしまっていたな。その度に亜美はね
大きな瞳に溢れそうな泪を溜める。その姿がものすっごく哀しくもあり、愛おしいから
ぎゅっと抱きしめるんよ。それ以上は何も聞かないんだ。亜美の背景がどうであれ
今この瞬間の幸せな空間さえあればいいからね。その想いは亜美も一緒だったんだよね
時間がとまればって思える程に安らげる瞬間。
何物にも代えがたい感覚で心地よいね。その心地よさを味わう為に同じ様な繰り返しを
何度も、何度もしていたんかもね。バカだよ、大バカだよ。でもね、その滑稽な二人が
創り出す空間も幸せのカタチなんだよ。幸せのカタチは同じものなどないと思うな。
僕と亜美だけのカタチなんだ。その瞬間、世界の何処かで同じように幸せを味わっていて
くれたらってさ、そんな優しい居場所なんだ。
今でもさ、亜美が過去に何があって、何を振り払えないのかは詳しくは分からないけどね
亜美は男性に対して、少し恐怖心があるんだ。女性には心の傷として残る出来事なんだ。
その一部始終を聞くと、男性に恐怖心を抱くのは当然だよ。
僕の心は押しつぶされそうになり、怒りもこみ上げてきたんだ。その怒りを、まるで人毎
のように話す亜美。その当時は、その気持ちに寄り添えてなかったな。
それどころか、その傷を植え付けた人物をこの世から消したいと思ったよ。亜美は猛烈に
反対したけどね。当然だよ、消したい記憶を呼び起こされるのと同じだから。
僕は、亜美を傷つけた人物と同じ事をしようとしてたんだ。最低だね。ホント最低だよ。
亜美の事を考えすにね、自分ばかりだ。『こんな私と別れてもいいよ』って呟く亜美。
何も言えずに、黙ってその場を離れるしか考えられず、マンションの下でさ泪すんの。
ホントは頭撫でながら抱きしめたいんだよ。そんな簡単な事すら、なんで出来ないんかな
自分が憎くてさ、何にも出来なく、どんな言葉を掛ければいいのかさえ分からずにね
ひたすら立ち尽くすだけだよ。まるで自分が一番傷ついてるかのようにね。バカだよね。
一番傷ついてんのは亜美なのにね。ホントにバカだ。一人淋しくて、哀しくて、暗闇で
凍えそうな心を自分で必死に守ってんのにね。強いよね、ホント強いよ。
僕なんて、亜美の足元にも及ぶわけないよ。星空みながらつくづく思った瞬間だったな。
それからさ、1時間程して部屋に戻るの。何にも無かったかのようにね。
そしたらさ、亜美もいっつもの笑顔で『おかえり』の一言だけ。たったそれだけなんだ。
まるで僕が、帰る事を分かっていたかのようにさ『お腹すいたね、何か食べに行かない』
って言うんだ。その言葉で全て報われたよ。逆なんだよね。サカさまなのにね。変なの。
未だに印象的で想いを馳せる出来事があるんだ。最初のデートでの魔法の様な時間だ。
初めて、亜美と2人きりでのデート。そもそも亜美との出逢いはね、友達の紹介なんだ
複数名での飲み会に亜美も参加していてね、その時の帰りに遅くなったんでタクシーで
帰る事になり、その組み合わせで亜美と初めて話したのかな。他愛もない会話のみだけね
でもね、亜美がタクシーから降りる手前でね『電話番号教えてくれませんか』って言うの
それが切っ掛けかな。そして家に着くと亜美からメール来てたんだ。
『今日は楽しかったです。よかったら、いつか二人で食事でもしませんか』
直ぐには返事出来なったな。それはね、その時点で付き合っていた女の子がいたんだ。
僕は器用ではないからね、2人と同時並行で付き合うなんて不可能だし、面倒だしね。
何よりも、僕のポリシーに反する行為なんだよ。すっごく悩んだね。友達にも相談したよ
友達は『上手くやればいいんじゃない、でもお前にはむりだよな』どっちなんだよ。
幸いにもね、付き合っていた女の子とはギクシャクしていた時期だったのもあってか
強引に別れる方向へと事を進めようと思ってさ亜美に『いつなら食事にいけるの』と返事
を返したんだ。直ぐに日時の連絡がきて、ビックリ。その日は偶然にも彼女との約束が。
それも、かなり前からの約束でね、慌てて断る理由を考えたんだ。
しばらく考えたんだけどね、思いつかないし、面倒になって。忘れていたことにしようと
最悪な発想に落ち着いたんだ。この時点で既に気持ちは亜美に傾いてたんだよね。
で、当日を迎えるわけ2月14日バレンタインデー。彼女との約束を忘れた事にしてさ
最悪だよね。バレンタインデーに彼女との約束を忘れる奴いるの。いたら相当なバカだな
そんなバカで、自己中の塊な行動をしても亜美と逢いたかったんだよね。
不謹慎極まりなく、まるで小さな子どもがお菓子を買ってくれない事に駄々をこねる様に
【彼女がいたら人を好きになったらいけなの】などと逆に発想転換するんだもん。
当時の彼女にしたら、いい迷惑だよ。それから亜美もね。その事実を知らないから。
これも、運命という目に見えない道のりに従っているだけだ。なんてね。
そこで、亜美との約束をキャンセルし彼女と予定通りバレンタインデーを過ごしていたら
きっと今の僕は存在してないんよね。って、後出しじゃんけんだな。
でも僕が行った選択と行動について一切の罪悪感も、後悔もないんだ。あるのは痛みだけ
痛みには二種類あると思うんだ。実際に病気やけがによる痛み。もう一つは改心の痛み
後者の痛みは一生付きまとうな。今はこの痛みが厄介だ。でも避けれないな。当然だよね
それも、この世で一番愛する人さえも傷つけたんだからね。そんくらいの代償は仕方ない
当時はね、そんな事すら頭に無かった。自分の感情に従って行動してただけなんだ。
今でも根本的には変わってないんよ。誰に何を言われようが、曲げない信念なんかな。
勿論、自分も傷つくけどね。それは覚悟しているんだ。ホントだよ。
だって、自分の好きなことをやっているからね。全部はもてやしないんよ。全てはね。
その選別は僕の中にある定義だから、捨てなきゃ生けない物は捨てるんよね。
いくら、大切にしていた宝物でもね、でも、亜美だけは違うんだよ。失いたくないんだ。
デートプランなんて、一切立てた事ないからね。いつも行き当たりばっか。
でもね、亜美との初デートのプランは少しだけど計画したんだ。それでも結構悩んだな。
その日は夕方から、僕が考えていた『ベンジャミンバトン・数奇な人生』って映画を観る
事になった。劇場公開して間の無い映画でね、僕も観たかったから。亜美はどうだろ?
映画館前で待ち合わせするこ事に。僕は時間に関しては守るから、最低でも30分前には
デートに限らず、その場所に行くんだ。その日は多少緊張もしていたから1時間前には
到着していたんだ。余裕を持ってね、亜美に対して何を話そうかなどを考えてたんよ。
待ち合わせ時間10分前くらいになって、そろそろ来るんじゃないかと思った。
1時間前からも待っている事をバレたくないのと、亜美に気を使わせたくないと思ってね
時間を見計らってね、来た道を戻り待ち合わせ場所まで歩く事にしたな。面白いね。
それでも5分前に付いたね。でも亜美の姿がなかったから、少し不安だったけどね。時間
前だし、またせるよりはいいや。って気分で亜美が来るかと思われる方向をじっと眺めて
いたんよ。その間にも時間は過ぎていき、約束時間を過ぎたんだ。亜美は地方出身なんで
土地勘がないんだ。その事もあるかもって思いながらも待っていたね。
それと、余りにも直ぐに電話するのも余裕のない男だと思われたくなかったな。我慢だ。
でも一向に亜美の姿は見えないから、流石に何かあったんじゃないかなと電話したな。
30分予定より遅れていたのもあったし、上映時間もあるからね。
電話したけど、繋がらなかった。2回目の電話も同じく。あれ、忘れてるんかな?
そしたら、慌てた姿の亜美が走って来たんだ。その瞬間はホント良かったよ。ホントにね。
『本当にごめんなさい。すごく待たして』と何度も頭を下げる亜美。
『大丈夫、5分前くらいにきたから』『それより、大丈夫?』って返答したんだ。
遅れた理由を説明しようとしてい亜美。だけどね、上映時間が迫って来ていたから
亜美の落ち着いた状況を待って、映画館に行くことにした。間に合って良かったよ。
3時間ある映画だったけどね、内容も感動的で涙流したな。真っ暗だから気づかれないんだ
でも、上映中何度か僕の顔を見てくるのが分かったから、バレるって思って下向いたな。
僕も亜美を何度か見たけど、亜美の瞳にはウルっとした物が光っていたな。
エンドロールに近づいてきて、慌ててあくびをしたんだ。バレるからね。嫌だもん。
亜美は持って来たハンカチで目を覆っていたんだよ。その姿がとっても可愛いんだ。
あまり直視すると、亜美に気づかれるからさり気なく何度も見ちゃったな。バレてたな。
上映が終了し、お客さんが退席していく中でタイミングを見計らって僕らも移動した。
時間を見たら、8時過ぎてたね『お腹減ったから、何が食べたい?』って聞いたらね
亜美は『何でもいいよ、一緒だったら』って言うんだ。この言葉で僕は確信したんだ。
今日の自己中で身勝手な僕の行動と選択は間違ってなかったとね。ちょっと強引だけどね
でもね、こんな言葉って中々言える言葉じゃないと思うんだ。例えお世辞でもね。
そして、亜美の場合は心の底から漏れ出した本心だと分かるんよ。ホント可愛いよね。
すっごく愛おしくて、映画の内容など忘れちゃうくらいだったよ。愛おしく優しい時間
『ホルモン好き?』って亜美に聞くと『嫌いな物ないので大丈夫です』だって。
実はね、映画を見る事だけ計画していて夕食を何処で食べるかなんて計画してなかった。
来る途中に、ホルモン専門店が見えたの。それでとっさに言っただけなんだ。
亜美が『そのホルモン屋は美味しいんですか?よく行くんですか?』って聞いてきたから
『その店は最近できたけど、系列店には行った事あるよ』って答えたんだ。一度もないよ
その答えを来た時の亜美の表情は天使みたくてね。すっごく輝いてたんだ。眩しいくらい
映画館からは歩いて5分くらいだから、さっき観た映画の話していたら、直ぐに着いた。
思っていた感じよりは狭かったけど。関係なかったよ。だって隣に天使が居るからね。
十分だよ。別にホルモン食べなくてもさ。このまま歩き続けるだけでね。満たされるから。

店に入ってね、まずはビール注文したんだ。そんなに呑めないんだけどね。そしたらさ
亜美は梅酒ロックだって。ビックリだよ。亜美の容姿とのギャップに。
『お酒好きなの?』って聞くとね『そんな事ないですよ』だって。猫かぶっているよね
それから亜美はね、話し続けんの。僕の事を知りたくてしょうがないって感じでさ。
『産まれはどこですか?』『趣味はなんですか?』『モテそうですね?』など止まらない
僕は隠し事は基本的に嫌いだから、何でも答えたよ。亜美は僕と会話している表情がね
どんどん和らいでいくんが、とっても素敵で新鮮だったな。飾らない亜美がいるってね。
そこからね、時間なんて気にしてなっかったけど、今日遅れた理由を話し始めたんだ。
僕は地元だから、馴染みのある映画館で迷う事など無いんだけど、有名な施設だったから
土地勘が無くてもね、調べれば直ぐに分かる場所。最寄りの駅から徒歩で5分位かな。
でもね、その内意がとびっきりキュートで面白くてね。おとぎ話みたいなんだよ。
度々その話をすると、亜美は照れるんだ。その顔見たさにするんだけどね。
実は、亜美も時間に余裕を持って現地についてたんだって。最寄りの駅から地図みてさ
何度も迷いながら映画館に向かっていたんだけどね、いつまで経っても着かないから
通りすがりの人に聞くとね、反対方向行ってたみたい。その繰り返しで時間が迫ってきて
流石に時間に遅れるって思ったんだって。そこで僕に連絡してくれれば良かったんだけど
亜美はね、何したと思う?考えられないよ。でも、物凄く斬新な考えで関心したんだ
駅前にタクシー乗り場あってさ、亜美はタクシーで向かおうと考えてね、乗り込んだの
『○○までお願いします』そしたら運転手がね『ねーちゃん、歩いて3分位の場所やよ』
って笑いながら言ったんだって。でも亜美は『大切な待ち合わせに遅れているんです』
その必死さに運転手も心を動かされたんかな。わずか2分も掛からずに到着したんだって
しかもね、映画館に一番近いギリギリまで行ってくれたんだって。すごいよね。
テレビ番組である、ちょっと良い話しみたいな出来事だよ。亜美の人間性に触れた瞬間。
僕だったら同じ事出来んのかな?って考えるとね、即答できないや。
店でね、色んな亜美の話、僕の話しをしたんだけどね、この話だけで全て満たされるよ。
お腹いっぱいになるな。心に染みる味付けにね。シンデレラはいるんだって。
二人でさ、大笑いしてね。気が付いたら終電終わってたよ。亜美は結構お酒を呑んでたね
でも、全く酔ってる感じはなかったね。僕は少し辛かったな。弱いからね。
店を出で『まだ帰らなくてもいいの?』って聞くとね『大丈夫です』だって。
僕が少し酔っていたんでね、近くにあるコーヒーショップに行くことにした。
お互いにね、翌日は休みだったから時間は気にしなくて良かったんだ。一人暮らしだから
0時を過ぎてね、それでも亜美は話し続けるんだ。正直、僕は疲れてたんだけど。
チョコレートパフェを互いに食べてね、1時間ほどして店を出たんだけど。夜中だよ。
互いに歩いて帰れる距離でもなかったし、始発までには時間もあるしね。少し困ったな。
『これからどうしようか?』って聞くと亜美はね『カラオケに行きたい』だってさ。
『始発まで時間あるし、そうしようか』と返答して、カラオケに行く事にしたんだ。
カラオケ店に入ると亜美が『何か歌って下さい』だって。苦手ではないけど下手くそなん
それでも、自分の中で何曲か自信がある曲を歌うんだ。亜美は聴くだけなんだよ。
だから『次は歌ってね』って言うと『私は下手なので、聴く専門なんです』だってさ。
聴く専門って何?素人のましてや、上手くない歌を聴いて満足なんかなってね。
それで少し強引に歌える曲を聞き出してさ、予約したんだ。上手い基準はわかんないけど
結構色んな人とカラオケ行ってる中で、圧倒的な差を感じたね。次元が違うって感じだよ。
僕は下手ながらも、上手く歌える曲を選択して、自分では調子に乗ってたんだけど。
亜美の歌声聴いた瞬間、二度と亜美の前では歌えないやって確信したね。ハンパないよ。
一曲歌ってさ、緊張が解けたんだね。その後は亜美のオンステージ状態になった。
僕はある意味でホッとしたんだ。結構疲れていたからね。そして子守唄のような歌声が
心地よい眠気を誘ってくるんよ。
何曲か歌って、時間を確認するとね朝6時を回っていたんだ。亜美も流石に眠たそうだ。
しばらく部屋が無音の状況になった。椅子にずっと座っていたからさ、足もダルくてね。
『もう電車も動いているから、そろそろ帰ろうか』って言うんだけど、亜美は悩んでたな
そしてね、ボソッて『もう少し一緒に居ていいですか?』ってね。僕も悩んだね。
亜美とは一緒に居たいけど、それよりもその時は寝たい気持ちが優先してたからね。
しばらく無言の空間が続いたよ。なんとなくこの雰囲気(男女間ならではの)が苦手なんだ。
でもね、亜美はそれを促しているように感じた。ますます悩んだね。眠たい頭の中でだよ
悩んだ挙句に出した答えが『ちょっと足を延ばせる場所にいこうか』これしか言えないや。
亜美は返答せずに、うなずくのみだった。緊張したな。バクバクだよ。
何度も同じ様な経験あるのにね、なんでだろ?亜美となると全く別感覚になるんよね。
無意識の中で、自然に亜美の存在を特別な位置づけにしていたんだと思うね。
僕は、自分の中で大切な事、人物、物などを直感で判断するんよね。それを曲げないん
大切な中でも、僕の中での優先順位があるん。亜美は特別だよ。いつも間にかだけどね。
だからこそ、優しく心から寄り添いたいんだ。暖かく包み込むようにね。
僕だけの身勝手な感情だけだけどね。きっと伝わっていると感じていたよ。きっとね。
その時点で、この関係性は恋人同士なのかな?そんな事は特に問題ないんだけどね。
実際に今の瞬間が全てなんだからさ。これがホントの恋愛って事なんだろう。なんてね。
亜美と僕は、その夜共に一夜を過ごしたんだ。余り寝れなかった。眠れるわけないよ。
同じベットで横たわっていたけどね、手が触れるか触れないかのギリギリの距離感でね。
会話なんて一切ないんよ。でもね、それがすっごくあったかい。
いつの間にか僕は眠っていたな。目を覚ますと横に亜美の顔があった。微笑みながらね。
亜美は寝たんかな?シャワーを浴びようとすると、『お風呂沸かしているから』優しいね
僕は、ゆったりと湯船に漬かりながらね、色んな事を想像してたな。
これから先、亜美とはどうなっていくんかな。心も身体もあったかいのは事実だけどね。
先に知る事だけど、亜美は僕と出掛けたことや会話した事、僕に対する想いを日記として
こと細かに綴っていたんだよ。すっごく愛らいいよね。いつ撮影したか分からない僕の
写真も添えてだよ。その一枚一枚にコメント付けてね。ホント天使だよね。ホントにね。

その後、亜美もお風呂に入って帰りは昼過ぎてたね。帰りは昨日と違い無言だったな。
亜美の表情も淋しげだった。僕もだけどね。駅の改札口でしばらく見つめあっていたね。
別れを切りタイミング、つかめないままにね。人が溢れかえっているのにさ、無音みたく
別空間にいるみたいでさ。実際は5分程なんだけどね、永遠だったよ。二人だけの空間
でもさ、僕から重い口を開いたんだ『昨日は楽しかったよ。ありがとね』淋し気な亜美
『うん。良い想いでをありがと』って言うんだ。まるで永遠の別れみたいだよ。
そしてね、バックから赤のギンガムチェックに包まれたハート型の箱を取り出してね
『初めて、手作りしたんで上手く出来ていないかも』『美味しくなかったら捨てて下さい』
といってね、バレンタインチョコを貰ったんだ。なんて健気なんだろう。不味い訳ないよ
『ありがと。家に帰って楽しみに食べるね』と言って、バイバイしたんだ。
これまでも、チョコは何度も貰った事はあったよ。正直、欲しいって思った事なんてなく
貰えるから、まぁいいや。程度の感覚だったんだ。それが手作りであろうがね。
小学校の時なんてね、手作りチョコ学校で渡されてね、放課後に貰えなかった友達とさ
一緒に食べてたのを、渡してくれた女子に見つかってビンタされたんだよ。
えっ!なんでだろ?貰った時点で僕の物になるから、僕の好きにして何がいけないのって
思っていたくらい。成長すると共に少しづつは理解していったけどね。
なんせ、手作りチョコなんて久々だったから嬉しかったんだね。特に亜美の手作りだから
それから、昨日の事を想い返りながら家に向かうんだ。その間も亜美からメール届くんよ
内容を直ぐにでも見たかったけど、落ち着いて丁寧に見たかったから、敢えて見なかった
きっと亜美は不安だったんだろうな。既読もつかないからさ、何とも表現出来ないや。
15分程して家に着いたらね、流石に疲れていたんだと思う。一気に糸が解けるようだった
そのまま布団へダイブ。ウトウトしながらもね、このままじゃ、完全に爆睡決定だよ。
横になった身体を起こし、顔を洗い少しでも眠気を覚ましてね、チョコを開けるんよ。
それと同時に、メールに既読をつけないとって思い。直ぐに携帯を開くんだけど。
一通じゃなかったんだ。驚いたね。亜美の方が疲れているに違いないんだ。凄いよ。
なんて憂い心の持ち主なんだと、涙が自然と溢れ出した瞬間。これこそが恋愛なんだよ
2通のメールはね、かなりの長文だったから、先にどんなチョコなのかを確かめたく
既読をつけて、箱を開けるんだ。丁寧な町長結びされてあるピンクのリボンを開くの。
中には、決して整った形とは言えないけどハート型をした小っちゃい宝石みたいな粒がね
キラキラしてたんだ。箱の片隅にさ、ハート型のメモが添えてあったんだ。一番のギフト
『私なんかとデートしてくれて、とても幸せです。一生の想いでをありがとうござました
世界で一番大好きな人へ。亜美より』
直ぐにメールも読んだね『昨日は疲れているのに、とっても楽しくて面白くて嬉しかった
です。あんなデートは今まで経験ないくらいでした。こんなに幸せになっていいのかな?
とも思いました。私を好きにならなくても平気です。きっと、モテると思うので…
でも、叶うならもう一度だけデートしたいな?無理ですよね?でもいいんです。だからね
大好きな気持ちだけは持っていてもいいですか?それだけでいいんです』
『やっぱダメなんだね…ごめんなさい。さっきのメールは忘れて下さいね。私バカだから
気にしないでいいですよ。でも大好きな気持ちは一生変わりません。迷惑だったとしても
許してね』

眠気なんて覚めたよ。直ぐに返信送ろうって思ったんだけどね、言葉が思いつかないよ。
色んな事を考えるとね。亜美の言葉から連想される物語をね。言葉なんて必要ないのにね
しばらく色んな事に想いを馳せながらね、何もせずに時間だけが過ぎるんだ。
何かをして紛らわそうとしても無理だったね。気が付くと夕方になってたんよ。
いくら考えても悩んでも、何も進展なんかしないんだ。だからね、亜美に逢おうってね。
『今日逢えるかな?』ってメールしたら、10分経たないくらいで返事がきたんだ。
『うん』それだけだけどね。それから時間と場所伝えてね、準備するんだ。ドキドキだよ
なんて話そうかな?どこに行こうかな?なんて頭をフル回転させてもダメだ。
考えるより行動するタイプの僕がね、初めて逆の発想をしても無理なんだよ。無理だよ。
流れに任せるしかないよね。自分の心に従うんだ。背伸びなんか性に合わないよね。
待ち合わせ場所は昨日辺りで、より分かり易い場所にしたんだ。
出来る限り、亜美が迷わない様にね。僕は設定した時間よりも早く付くために急いだね。
正直、眠気は無いって言ったら嘘だけど、アドレナリンがでてたんかな。気にならないよ
自分が一番気に入っている服装をしてね、家に帰って来てから、2時間も経ってないや。
駅に向かい、さっきまでいた場所んへ行くんだよ。なら、そのまま居たら良いのにね。
変なの?恋愛って変なのかな?だってさ、恋愛の〝変〟と漢字が似てる。でも心があるん
と考えるとね、やっぱ〝恋愛〝ってのは色んな形があっていいんだよ。理屈じゃなくて。
普遍的で神秘的な永遠に色褪せない物語なんだよ。きっとね。
予定より30分前に到着し、亜美の姿を探す。普段なら気にないけどね。気になるね。
店の鏡をチラチラ見ながらさ、服装や髪型をチェックしてるんだ。あり得ないよ。
これまでは一切気にも留めなかったことだからさ。亜美には内緒だよ。照れるからさ。
亜美はさ、ここでも才を見せつけてくれるんよ。ホント、幾つ特別をもってんだろ。

駅の○○出口を出ればさ、目の前にある待ち合わせ場所。でもね、亜美は時間に現れない
僕は直ぐに気が付いた。別の入口前で待ってることにね。多くは正面か裏口なんだ。
メールに『〇〇の前』としか入れなかって亜美も『分かった』と返信きたからね。
きっと裏口に居るんだと思ってね、急いで向かったんだ。もうすぐに亜美に逢えるんだ。
小走りでね。そしたらさ、居ないいんだ。驚いたよ。実はね、もう一か所入口があるの
でもね、その入り口は便利なんだけど、待ち合わせって場所ではないんだ。
そこに向かうとね、亜美がちょっこんって居たよ。『ごめん遅れてね』と言ったらね亜美は
『大丈夫です。入口がいっぱいあってウロウロしてました』だって言うんだよ。
そしたら僕らは、互いにすれ違っていたんだって。そう思い自然に和やかな空気になり
二人で爆笑したんだ。何も言葉を交わさなくても伝わるんだ。これだけでも満足なんだよ。
この瞬間だけでさ。何にもいらないよ。他に何があるの?って感じだね。
天然キャラって言葉あるけどね、亜美はそれには当てはまらないな。確実に言えるんだ。
亜美の心の中心は常に〝相手〟この場合は僕なんだ。この先ずっと僕でありたいけどね。
でもね、この能力って素晴らしい反面で自分の身を削っている事でもあるんだよ。
誰もが持ってんだけど、色んな状況などで捨てているだけ。誰でも自分が一番可愛いよね
でも、亜美には失ってほしくないな。だからさ、解れた心を結び直す存在に僕はなりたい
心より願ったね。心から亜美に触れたいと実感し、亜美との出逢いに感謝したんだ。

亜美はね、お刺身が特に大好物なんだ。きっと育った環境も影響してるんだな。僕は苦手。
だからね、近くにある居酒屋でご飯食べる事になった。お酒も強い亜美だからね。
お刺身の盛り合わせに始まり、焼き魚、とにかく魚料理中心。お酒も進むんよね。
僕は結構食べるペースが早いんだ。そして直ぐに満腹になる。亜美は遅い。当時はだけど
だからさ、この日に限らず二人で食事するとね、必ず僕が先に食べ終える。当たり前か。
ついつい亜美に『まだ、食べるの?』って聞いてしまうんよ。特に意味はないんだけどね
そしたら亜美は『え!そんなに食べてますか、私?』って答えるんだ。そんな意味では…
今振り返るとね、亜美は僕より食べていなかったんだ。僕が早すぎるのもあるけどね。
一番は、大皿で注文し二人で食べる事が多かったから、早い僕が多く食べてるんだ。
そして、亜美は殆ど口にできない状況って事なの。そりゃ、お腹みたされないよね。
なんて自己中なんだ。亜美とは真逆にいる僕。だから惹かれあうのかも?勝手だけどね。
だからこそ、亜美が意図しなくても、解けていく心を結べる存在になれるんだよ。
身勝手ながら、そう確信したんだ。何より純粋に守ってあげなぎゃってね。
亜美と同棲し半年くらいたたんかな。互いの細かい癖などが徐々に分かるようになり
それと同時に自分の価値観、倫理観などの違いに徐々に気づき始める。当然で自然な事
同時に些細な事での口喧嘩も増えてくるよね。ホント些細な事なんだよ。でも大切な事
亜美は思っている事を直接的に言ってはこない。溜めて言うタイプなんだ。
それとね、想いでを保存するアプリを使用していたんだ。そこで、亜美は自身の感情を
さらけ出していたんだ。僕はそれを余り見なかったのか、亜美の発信している想いに
鈍感だったのかもしれない。それも喧嘩の要因なんだ。亜美は自分の想いを知っていると
思っていたのだからね。もっとマメにチェックしとけばと。遅いよね。遅すぎるよね。
それとね、亜美の性格もあるんだけど、その頃は僕の方に主導権が傾いていたんだ。
それは亜美の気遣いだとも知らずにさ、喧嘩の最後には『もう別れる!出ていくから!』
と吐き捨てるような言葉を浴びせていたんだ。何様なんだよ。人ん家なのにだよ。
それでもさ、亜美は必ず家を飛び出した僕に『ごめんなさい。帰ってきて』メールするん
それ見たらね、情けない男だよって思う反面で、亜美に甘えている自分の複雑な感情が
自分でもコントロールできなくなり、甘えた自分に着地するんだ。ホント最低だよ。
家に戻ると亜美は必ず、ぎゅっと抱きしめてくる。力いっぱいにだよ。『ありがと』って
言うんだ。そんな亜美を傷づけた自分を許せなくてね、腹立たしくてね。
抱き寄せる事にすら抵抗を覚えるんだ。ホント身勝手で亜美なんかには勿体ないよね。
その後、何事も無かったの様に振る舞う亜美。しょんぼりする自分。チグハグだよ。

亜美が眠った後に日記を見るんだ。愛に溢れた言葉と想いでの写真で埋め尽くされてる
(〇月〇日、今日の寝顔。犬みたいで可愛いね。ツンツンしても起きない)
(〇月〇日、初めて手を繋いだよ。直ぐに放された…しょんぼり…きっと照れ屋さんなんだ)
(思った事を直ぐに口に出すのムカつく!本人は気づいてないの!でも愛おしいんだ)
などが無数に書かれてあるんだ。真っ暗な部屋で読んでる傍で寝てる亜美を直視できない
ホントは『ありがと。大好きだよ。ごめんね』って言えばいいのにね。それだけなのにね。
一番大切で失っていけないのにね。そんな簡単な事が一番難しいのかな。ひねくれ者だよ
守られてんのはどっちなんだろね。答えは簡単だ。僕のほうなんだよ。
気づいていたのか?それとも、ちっぽけなプライドでかき消していたんか?後者だね。
亜美の存在の大きさと寛容な心に、甘え切った悪ガキみたいだな。それも悪くないかも。
そんな事を考えているとね、心が安らいでくるんよね。そして眠りにつく。
まるで、お母さんに子守唄を歌ってもらい、絵本を読み聞かせしてもらっているみたいな
亜美は眠りながらもね、心を落ち着かせる事が出来るんだと思うと、亜美の心に触れられ
亜美の体温を感じられ、亜美の魅力からは離れられなくなるんよね。
離すと二度と手元にには戻ってこないだろうね。これだけは確実に断言するよ。絶対にね
離れられたらね、それでも哀しいけど。時が解決してくれるとは思うんだ。
でも、自ら話す行為はこの世で一番したらいけない行為だなと、胸に刻む瞬間だったな。
亜美とのエピソードは尽きないよ。毎日が新鮮で違う世界で居るみたいだったからね。
ある日亜美が『私達の関係って…』言うんだ。そういえば告白どころか、同棲する事さえ
曖昧で、亜美の了解など何も得てないんだよ。もしかしたら、ホントは僕の事よりもね
好きな人が居ても可笑しくないんだ。まぁ、それはないかな。
日記にも(私達って何なんだろうね…たまに不安になるよ…一緒に居て楽しいけど、いつまで続くのかな?)って書いてあったね。そりゃ、そうなるよね。
僕は『今、この現実が全てなんだよ』って言ったけど、納得するわけないよ。
更に亜美は、幼馴染にも相談していて、勝手に彼氏って思ってるだけ?不安でしかないよ?
僕の想いは伝わっていると感じていたからね。そして、それは亜美も同様に。
そんな不安と隣り合わせで、一緒に居たんだって考えるとね、言葉って大切なんだって。
そして、互いに理解し合っていたと思っていた自分に気づかされたね。
それから、亜美に改めて告白する事を決意したんだ。とはいえ、タイミングどうしようか?
直ぐに告白ってなると、さっき言い放った言葉に説明がつかなくなるからね。
亜美の表情を見ると物憂げだったね。直ぐにでも告白して欲しいのは分かってるんだ。
ちっぽけなプライドが邪魔するんよね。ホント、ちっぽけでつまんないや。なんでだろね?
そんな雰囲気が耐え難かったため『ご飯食べに行こうよ』と声かけるんよね。
そしたら亜美は『うんっ!』って何時の表情に戻ったんだ。良かったよ。天使の笑顔だ。
亜美のマンションからね、徒歩で2分くいかな。全国チェーンの喫茶店だけど、二人して
お気に入りの場所なんだ。そんなに混雑もなくて居心地いいんだよね。安心できる場所だ
何度も通っていたから、ほぼ常連みたくてね、一部の店員さんとも仲良かったんだ。
僕のおススメはBLTサンドセットで、ほぼ決まってんだ。亜美も僕に合わすかのように
同じ物を注文する。そのお決まりパターンが幸せなんだ。
亜美は自分の食べ物が先に来てもね、絶対に手を付けないんだよ。『先に食べてね』って
言ってもだよ。一度だけ『暖かいうちに食べたほうがいいよ』って言ったことあるんだ。
そしたらさ『でも、一緒に〝いただきます〟したいから』って言うんだ。あったかいね。
少しの時間差なんだけどね。この感覚ってね、すっごく大切だと思うんだね。
そして、二人で一緒に〝いただきます〟して食べるの。幸せの調味料でより美味しくなる
その間も亜美はね、ずっと話してくんだよ。僕の人柄や性格など知りたいんだろうね。
過去にどんな女性と付き合っていたのかもだよ。そこは、ちょっぴり嫌だったな。
後に知るんだけどね、亜美と付き合う直前まで、僕が強引に別れた事を、共通の知人から
亜美は耳にしていたんだ。それも踏まえてね、告白が無いのが不安で仕方無かったんだ。
当然だよね。まだ完全に別れていないのか…、私は都合のいい相手…、など考えるよ。
実際はね、その彼女とは完全に別れていたんだけどね。それも当然だけど…
その彼女とも同棲してたんだ。バレンタインの翌日に、家の前に僕の荷物が出されてたね
その一連の事を亜美には話して無かったんだ。話せる訳ないよ。自分勝手だけどさ。
それが、亜美にとっては不安で押しつぶされる原因。情けなくなるよ。バカな自分がね。
実際に付き合い始め、同棲し半年以上の月日が流れて、告白するの。チグハグだよね。
告白する場所を色々と考えたね。夜の夜景を眺めながら?観覧車内で?何気に?
そもそも、今までにチャンスなどいくらでもあったのに… って思いつかないや。
どこで告白したと思う?それはね、亜美の家から一番近い駅の近くにある純喫茶なんだ
僕は喫茶店が好きで、その当時はカフェが主流だったんだけどね、喫茶店の懐かしさが
とっても居心地が良くて、何よりね喫煙出来るのが一番の理由かな。
その純喫茶に前からね一度は行って見たいのもあってさ、そこで告白しようと考えたんだ
後は告白する文言だね。今更何て言ったらいいの?(好きです、付き合ってください) 笑
いや、付き合ってるどころか同棲してんだよ。あまりにも可笑しすぎて、笑えるよね。

当日なんだけど、電話で『前から、凄く気になる喫茶店あるんだ○○って知ってる?』
そいたら亜美は『知ってるよ』だって。なら話しは早いよね。その電話の喋り方からね
亜美に感じ取られたなって思ったね。そりゃ不可思議だよね。僕はバクバクだのにね。
亜美は楽しそうだったな。なんか、罰ゲームみたいだよ。自分でもクスクス笑ったね。
いつも通り、時間前に到着すんだけどね。喫茶店の前には既に亜美は居たんだ。驚いたよ
まさか居てるとは思ってなかったからね。直前で告白する言葉を考えよと思っていたから
ぶっつけ本番だよ。それまでに考えてれば問題ないんだけどね。整える時間すらないよ。
まるで、亜美が仕掛けた罠のよだね。意図的ではなくてもね。そう感じたな。さぁ行こう!
信号の前から、美は僕に気づいたんだね。おもいっきり手を振ってくるの。
僕は照れくさそうにね、小さく手を振るんだ。振ってるかさえ亜美には見えてないかもね。
亜美は言うんだ『今日はどうしたの?この喫茶店て有名なのかな?でもオシャレ』
僕は『そうだよね。一度行って見たかったんだ』それしか言えないよね。ギリギリだよ。
そして、店内へ入ると思って以上に雰囲気良くてね、びっくりだったね。ここで正解だ!
赤の年代物のソファーの座り、何を注文したか忘れたけどね。そんな事などはいいんだ。
しばらくね、おしぼりで顔を拭いたりね、明らかに何時もとは違う行動すんの。バレバレ
亜美は涼し気な表情で、まだかなぁーって顔で見つめていたのを覚えているね。
僕も男だ!告白しようと決心してさ、重い口を開いたんだ。いつもより小声だったな。
『遅くなったけど、僕と付き合って下さい』ってね。亜美は『分かりました』の一言だけ。
どれだけ遅いのって感じだよね。しかも同棲もしているんだよ。二人して笑ったね。
ドリンク一杯だけ頼んでさ、たった一言だけの、ありふれたセリフ。でも大事なんだよね。
それからは、いつもの日常なんだね。ホッとすると同時にね、亜美との距離を近くに感じ
嬉しくなったな。これで、亜美の不安を一つ解消できる事に成功。時間かかり過ぎだネ。
でもね、これが〝恋愛〟なんだなって、心から想えた瞬間でもあったんだ。
きっとね、恋愛ってのは正解も不正解もなく、あるのは大好きな人に大好きだと伝える。
これだけなんだよ。きっとそうだよ。きっとね。色んな表現、カタチ、彩りはあるけどね
僕の恋愛のカタチはこれだ!亜美の一緒だといいけどね… 一緒だよね、きっとね。
その日を境にね、亜美の表情や僕に対する接し方が徐々に解けてくるんだよね。
その変化は嬉しい反面、辛さもあったね。楽しい感情と哀しい感情は相反しているよ。
どちらが欠けても成立しないと思うな。だから楽しいんだよ。亜美はその両面にある膜が
薄いんかな、それとも混在してるんかな。時折ね、同時に爆発させて来るんだよ。
本人は無意識だとは思うけどね。こんな感情の表出は珍しいね、まるでピエロのようだ。
笑いながら泣いてるって事なんだよ。初めは戸惑い、迷いながらも切なくてね。哀しいね
でもね、次の瞬間はケロってしてんだよ。僕の考えすぎなんかな。頭痛くなってくるよ。
それでもね、全力で自分を出してくれる亜美が愛おしかったんだ。さからさ、僕も全力だ
そうしないとね、負けちゃうから。勝ち負けではないんだけどね。何と勝負してんだろ?
そのくらいにエネルギー注がないと、亜美の愛を受け止められないからさ。ホントだよ。

同棲してさ、一年弱になる頃だったのかな。転機が訪れたんだ。なるべくしてなったね。
その、どこのカップルにでも起こる転機がね、今の僕らを形成しているのは間違いないね
夜中の2時過ぎだったね、些細な事から始まる口喧嘩。でもその時は、何時もと違ったん
それは、亜美から『もう別れる!』強くて確固たる意思を感じたね。この関係も終わりだ
束の間の静けさ、亜美のすすり泣く声だけが虚しく響く。何も発せずにいる僕…
しばらく続く中でね、僕も覚悟を決め荷造りを始めるんよ。最初で最後の恋愛の終了だな。
『最後に、これだけ見てくれる』亜美がね、か細い声で言うんだ。直ぐに気づいたよ。
でもね、このタイミングなの!ってのが率直な思いだったな。絶妙だもんね。ホントに。
亜美に近寄り確認すると、思った通りの展開だったよ。新しい生命の印があったんだ。
クッキリとね。声なき声で【だめだよ!】って叫ばれてるみたいだった。これが運命だね。
『明日、病院へ行こう』と亜美に告げる。亜美は『うん。分かった』これで、いいんよね。

翌日にさ、近くの産婦人科へ一番に駆け込むんだ。二人してさ、ドキドキしながらだよ。
亜美はね、僕の腕を離さずにいたんだ。昨日が嘘みたいな景色だったな。まるで絵本だよ。
個人病院だったからね、直ぐに診察室へ。『間違いありませんね。3か月でかな』
優しい眼差しでね、先生が言うんだ。『おめでとうございます。これから頑張ろうね』
助産師の人も笑顔で話し掛けてくるんよ。嬉しかったな。素直にね。それだけ。
亜美の顔にも笑顔が戻った事にも安心したね。とびっきりの笑顔だった。一番ステキなね。
その後、先生や助産師さんからの説明あったけどね、頭には入ってこなかったな。
亜美は真剣な表情で、耳を傾けていたけどね。当然だよ、女性から、お母さんになる瞬間
少しばかり亜美の顔がね、これまでの〝可愛い〟だけでなく〝美しい〟が備わったように
覚悟を感じたんだ。その表情を見ると、僕もしっかりしなきゃって思ったんだ。ホントに?
帰り道で亜美はね、さっきまでとは全く別の表情になっていたな。なんでだろう…
ただ『家に帰ったら、これから先の事を色々と話そうね』と言って。そりゃ不安だよね。
いつもの、たこ焼きを買ってね、家に帰るんだ。
たこ焼きを食べながら、亜美は口を開くんよ『ホントに産んでもいいの?』ってさ。
『当たり前だよ』って返答する僕。それ以外の返答なんて無いよね。あるんかな?
その疑問は直ぐに分かったんだけどね。『私、これが初めてじぁ無いの…』亜美が言うの
『なんか問題あるの?』亜美は『その時は、堕ろしたんだ』それ以上の理由は聞かない。
『なにがあったのかは分からないけどね、そんな事は関係ないよ!』強めに言ったんだ。
『今、亜美のお腹には僕たちの子供がいるんだよ!それでけで十分だからね』
涙を流し『ありがと』って亜美は嬉しそうに言ってくれたんだ。僕も心から『ありがと』
と亜美に伝えたね。僕には、それ以上の理由など必要ないからね。それは今も変わらない。

それからは、この事については触れなかった。亜美は全て話したいと思っていたと思うね
そりゃそうだよね。漠然とし過ぎだもんね。でもね、ホントそれが全てなんだ。チグハグ
感情的な側面だけでの話しだけでなくてね、現実的な側面もあるんだ。だからチグハグ。
まずは、産まれてくる子供の事。それには亜美と結ばれないといけない。結婚する事だよ
そこで問題になるのが、挨拶だね。そう、実はこれまで一切、亜美の両親について話す事
無かったんだ。でもね、これは避けれないし、避けちゃいけないんだ。避けたいけどね。
『お父さんや、お母さんにはどこまで言ってるの?』と聞くとね。『何にも言ってない』
まさかの回答だったな。これまでに事もあるから、言いづらいとは思うけどね… でも、
あれこれ考えてもね、答えは決まってるんだ。まずは亜美の両親に挨拶からだとね。
でもさ、冷静に考えてね、亜美の両親に会ってさ、雪崩式に報告だよ。間髪入れずにね。
逆の立場だったらと考えるとね、ゾッとするよね。受け入れるしか選択肢ないんだよ。
よくテレビのドッキリである企画物だったら分かるけどね。現実なんだ。恐怖だよ (笑)
でもさ、現実は止まってくれないんだね。皆に等しく与えれる時間。やるしかないんだよ
まずはね、亜美と一緒にさ、挨拶用に必要なスーツを購入しに行くんだ。今更なん (笑)
スーツはね、何着か持っていたけど、とても挨拶するんに相応しくないって。亜美がね。
お店に行ってさ、亜美の言うがままにスーツと靴を購入したんだ。センスいいんだよね。
僕はね、服など購入することは好きでね。今まで自分で選んだ物しか身に着けなかった
けどね、亜美の選ぶ服は僕のセンスと合致していたんだよ。これも恋愛のマジック?
でもないかな。亜美が僕の事にすっごく関心を持って接していたって事なんだよ。
僕がね、常にリードしていたと思っていたんだけど。それは、ミスリードだったんだな。
ミスリードって小説を執筆する手法としてね、よく用いられるけど。導いてくれてたんよ
僕が気が付かないうちにね。脱線しないよう、緩やかなで優しく。あたかも自身の道を
歩み続けている僕を錯覚させるようにさ。意図的なのかは不明だけど、才能だよね。
そんな事考えたらさ、亜美と出逢うまでの道のりって、僕にとってはミスリード?
亜美と出逢う為にね、これまで色んな道筋を歩んで来たのかなって思うよ。大袈裟かもね。
でも、そんな神秘的な事すら体感させてくれる存在って事は事実なんだ。
やっぱ、僕は幸せ者だよ。この世で一番の幸せ者だ。亜美のお陰だよ。
それから、最も重要な事を行うんだ。夫婦になる事。人生の岐路だよね。実感はないけど
これは責務だからね。産まれてくる子供の親としての自覚を持つため、何より亜美の為に
欠かせないイベントだ。でもね、結婚式ってそれなりの費用も必要なの。当然だよね。
亜美の両親は勿論の事、僕の両親も何も知らないんだ。何もかも全てだよ。笑えるね。
僕の両親は、僕が中学生の頃に離婚してね、そこから何度かは連絡取り合っていたんんだ
けどね、ここ10年程は全く音信不通だった。その事は亜美にも伝えていたけど、亜美はね
『お母さんや、お父さんに伝えなくていいの?』って何度も聞いてきたんだ。
その当時は、疎遠で両親との間にも確執あったから『いいんだよ』って突っぱねてたね。
でもさ、お婆ちゃん、お爺ちゃんだけには伝えたかったんだ。どうしてもね。
その事は一部叶ったんだけどね、心残りな面もあるんだ。けど、まずは入籍なんだよ。

結婚ってあらゆる形があるんだよ。盛大な結婚式、仲間内だけの結婚パーティーなどね。
世界中に何通りあるか分からない位にね。でもさ、本質的には互いの気持ち次第。きっと。
でもさ、特に女性には結婚式に男性とは違う特別な想いがあるとは思うんだ。亜美もね。
華やかなドレスに身を包む姿に憧れ持つよね。大小異なる価値観はあるとは思うけど。
亜美は口に決して出さないけど、両親に自分の華やかな姿を見せかったと感じていたよ。
ひしひし感じていたからね『心がつながる事が何よりも大切なんだ!』って亜美に言って
亜美の気持ちに応えてあげれない自分を美化していたね。『何かカタチが欲しい』ポツリと
亜美が言うんだ。当たり前だよね。亜美の数少ない切なる想い。すっごく刺さるよね…
『分かったよ。楽しみにしといてね。サプライズするよ』って伝える。喜ぶ亜美がいた。

入籍もすまし、亜美との両親と会う日時も決定する。それから、亜美と僕の永遠のカタチ。
いつもとは違う装いでね、購入しに行くんだ。緊張と興奮が入り混じるキラキラした時間
お店に入ると、見た目にも華かな世界が広がっていたね。店員さんが声をかけてくる。
でもね、自分で選びたかったんだ。始めてで分からなくてもね。亜美の事を想う時間。
何よりも幸せな時間だね。正直物は何でもよかったんだ。少しでも長く浸りたかったんだ。
二人だけの〝幸せのカタチ〟に酔いしれたかったな。
一通り店内の商品を見てね、幸せを購入したよ。直ぐにでも亜美に手渡しかったけどね
亜美の特別な笑顔が見たくて、しばらくね手渡す機会をうかがっていたんだ。
亜美もね、僕が購入していたことは知ってたような感じだったね。女性の勘は鋭いよ。
早く欲しくてたまらない表情していたな『今日はどこ行ってたの?』しきりに聞くんだ。
『ちょっと友達と久々に会ってたんだ』って返答するんが精一杯だったな。
必死に普段を装ってたけどね、そんな僕の仕草をからかう様にさ、何度も同じ事聞くんだ。
何て無邪気なんだろ。そんな一面も愛らしいね。亜美もバレバレなんよね。可笑しいね。
直ぐ近くにあるのにさ、まるで手の届かない場所にあるみたいだ。不思議で温かい。
こんな時間が永遠に続くと願ったんよ。二人だけの特別な空間だね。誰にも見つからない。
いよいよ亜美の両親に会う日が迫ってくる。緊張感が増してくるよ。亜美も同様にね。
色んな想定をするんだけどね、そんなの意味ないよね。だって想定外の事なんだからさ。
亜美が『一度、会う前に両親と電話で話して欲しいの』と言ってお母さんに電話するんだ
いきなりだよ。これこそサプライズだよね。そしてね、何時もの様に親子の会話が終了し
僕に電話を渡してくるんだ『はい。ちゃんとはなしてね』って。一番緊張したね。
『初めまして、亜美さんとお付き合いしている○○と言います。挨拶遅れてすみません』
舌ちゃんと回っていたんかな?覚えてないよ。そいたらね、亜美のお母さんも緊張した声
でね『こちらこそ初めまして。亜美の母です、亜美がいつもお世話になってあありがとう
ございます』ってすごく丁寧に話してくれたんだよ。一気に緊張の紐が解けたね。
想っていた通りの亜美の母親像だったからね。亜美との距離感がまた縮まった瞬間だった。
最後に『こちらへ来る時は、気を付けて来てくださいね』って付け加えてくれたの。
亜美のお母さんの事は少し分かったけどね、お父さんとは話せなかった。それが肝心だよ
亜美は『お父さんは、仕事が朝はやくて夜は早く寝るんだ』って言うけどね。ウソだよ。
亜美は2人兄妹で、1つ違いのお兄さんがいるんだって。男親にとっては一人娘な訳だよ。
どこの馬の骨か分からない男の事をね、直ぐに受け入れるわけないよね。とっても心配。
初めての会話でね、亜美と付き合ってる事だけを報告するんじゃないからね。ドキドキ。
殴られる覚悟をしている事を亜美には伝えたね。『そんな大丈夫だよ』って亜美は言うんだ。
それに亜美は電話でお父さんの事をね、あだ名っぽく呼んでるんだ。相当仲いいよね。
もうなるようになれ!ある意味、開き直らないとダメだ!そんな事を決意したんだ。
そんな、あたふたする僕を見て笑う亜美。この不可思議なバランス。完璧な世界だよ。
この瞬間を大切にしたいよ。二人してさ、バカ笑いしてさ、いたわり合う世界。完璧だ。

亜美は色んな表情や、感情を表出してくれるようになったよ。剝き出しの感情をね。
『ありのままの亜美が大好きだよ』って僕は常に言ってるんだ。亜美は『嬉しいよ』
とは言うんだけどね。なーんか物憂げでね、しっくりこないんだ。幸せって難しいよね。
亜美の〝幸せのカタチ〟ってどんなだろう?ふと立ち止まるとね、考えてしまうんよね。
今まで突っ走て来たからね、そんな亜美の繊細な心に寄り添えてなかったんかなって。
〝恋愛〟と〝結婚〟の差ってなに?初めてのデートの時の亜美の言葉がね、印象的なの
『私は結婚しても、初めて抱いた好きという感情を忘れずにしたい。結婚してもね』って
僕は、当時は結婚どころかね、恋愛の意味すらも曖昧でね、あるのは亜美が好きなだけ。
そして『僕も亜美ちゃんと同じ考えだよ』と安易すぎる返答をしたんだ。何も考えずにね
でもね、ノンストップで走り出してる暴走特急にはブレーキないんだ。踏めないよね。
踏んで欲しいって亜美の合図を見逃してさ、とんでもない所まで来ちゃったんだ。もう
戻れないよ。戻ってはいけないんだよ。何より戻る理由が無いんだからね。それが全て。
しばらくは、このパズルを完成させないでおこう。ピースはいつでもはめ込めるよね。
それまで違ったパズルを完成させたらいいよ。枝は幾つもあるんだからね。
亜美の実家はね、僕らが同棲している場所からは車で6時間程掛かるんだ。何で行くか
迷ったけど、僕が車を持っていたのとね、車だと亜美と二人の時間を何より優先出来るし
亜美の希望に沿う形になったよ。僕は車が好きでね、亜美と出逢う以前より自分で運転し
色んな場所に行く事には慣れていたから、亜美は長時間の運転を気にしてくれてたけどね
平気だったよ。亜美も免許持ってんだ、しかもゴールド!地元で免許取って、地元でしか
運転経験がなかったからね、交通量の多い場所で運転するんは苦手なんだって。
出発は午前中でね、亜美のお父さんが仕事を終えて帰宅する時刻に合わしたんだ。
当日はね、朝からお買い物。亜美はとっても張り切ったな。家族に会えるんだからだよね。
僕も、亜美がどんな環境で育ち、どんな生活を送っていたのかを肌で感じれるのが楽しみ。

いよいよ出発だ。緊張感と旅行気分が混ざった変なきもちだったね。亜美は終始笑顔だ。
何度も、お母さんに連絡する姿に現れてたね。『今から出発するかね』嬉しそうだ。
電話口から漏れる、お母さんの声からも笑顔を連想させられるんよね。幸せな時間だよ。
それと同時に、何て挨拶しようか?まるで見当もつかない思いだったな。なるようになる!
車の中では、亜美のお気に入りに音楽、幼少の話し。そして家族の事。盛り上がる車内だ。
お腹が空いたらね、パーキングエリアで食事するんだ。そこでしか食べれない物をね。
車を走らせて行くと、景色が移り変わっていく。広大な自然が目の前に広がるんだ。
それと共に亜美もテンションも上がるんだ。都会とは違った空気や匂いにね。懐かしさを
感じている亜美の表情は子供のように無邪気だ。今までにない素の表情があるんだよ。
何色にも染まってない無色透明な美しさ。一番に惹かれ、魅力的な亜美の要素だね。

辺りが薄暗くなり、カーナビに従い高速道路を降りる。いよいよだ。緊張感が走るね。
『もう〇〇だから、後30分くらいだよ』亜美がお母さんに電話する。
『まだ、お父さんが帰っていてないから、ゆっくり来てくれたらいいよ』とお母さんが
電話口で言っているのを耳にするんだ。少しだけ緊張感が解れたね。
『どこに行く?』亜美が聞くんだけどね『亜美に任せるよ』だってね、分からないからね。
亜美の誘導でね、亜美が学生時代から良く行っている場所で時間を潰す事になるんだ。
そこは、複合施設になっていてね。到着した時は、すっかり夜になっていたからね、お腹
も減り、レストランで待機する事に。亜美は懐かしそうに辺りを見回しているんだけどね
そんな余裕は僕には無かったな。そりゃ、そうだよね。当たり前かな。心臓バクバクだ!
亜美はね、お構いなしに好きな物を注文するの。僕はコーヒーだけ。サカサマだね(笑)
スーツの上着を着てさ、慣れないネクタイをするの。亜美に確認してもらいながらね。
そんな僕の表情を見ながらね、クスクス笑う亜美。まるで他人事みたくだよ。コントだよ。
筋書が既に用意されていたようなね、オチが無いコントだ。どこでオチをつければいい?
今だからさ、笑えるけどね。こうして笑い話しに出来るって事はね、幸せなんだ。
時間がそうさせてるのもあるけどね、全ては亜美のお陰なんだよ。確実にね。
『お父さんが帰って来たから、そろそろ来てもいいよ』お母さんから電話が入るんだ。
時間を見るとね、夜の8時を回っていたんだ。『こんな夜遅くに行ってもいいの?』と
亜美に聞くと『いいよ』だけなんだ。僕はね、最後の抵抗で言った言葉を一蹴されるんだ。
『よし!それじゃ行こうか』と腹を決めてね、亜美の実家へ行く事になる。ドキドキだね。
そこからの道中はね、今まだにはない位に静かだったな。亜美も緊張してるのが分かった。
そこから1時間程し、亜美の実家に到着するんだ。まず驚いたんは、圧倒的な自然だね。
近くには港があってね、海の香りが広がるんだ。季節は夏場なのに、ジメジメしない暑さ
が心地よかったな。亜美が育った環境を感じられ、嬉しくなったね。素晴らしい風景だよ。
亜美が先に降り、実家に向かう間に車を指定された場所に止めるんだ。いよいよだ!
車を停車させ、外で待っているとね、亜美が合図を送るのが見えたんだ。大きく深呼吸し
向かうんだ。亜美の家族との初対面に緊張と、これから先の未来を見据えてね。

玄関前でね、亜美が『ちょっとだけ、待ってて』と言うの。中では何やら慌ただしい様子
『もういいよ』との声で、亜美の家に入るんだ。『夜分に失礼します』と言うとね、お母さんが『どうぞ、こんな田舎までわざわざと』って言ってくれたんだ。緊張が解けたよ。
何度か電話で話すようになってね、イメージしていたお母さんと合致したんだ。勝手にね。
玄関横にすぐある部屋に通されたね。『ここで、少し待っててね』と亜美が一言。
慣れない正座をして待つんだけどね、思った以上に時間が掛かってる印象だったな。
実際は5分程度だけどね、足に痛みが限界だったんだよ。体勢保つのに必死なの(笑)
そしてね、ついに亜美の両親と初対面するんだ。何を話したのか、話されたのか、緊張の
余り覚えていないんだ。覚えているのはね、亜美のお母さんの話しが止まらないんだよ。
可愛い一人娘を愛する母親の気持ちがね、おもいっきり伝わってきてね、嬉しかったな。
それとは真逆にね、お父さんは一言も話さないんだ。それが唯一気がかりだった…
亜美の両親を目の前にし『初めまして○○です。亜美さんとお付き合いさせて頂いており
新たな命も授かる事になりました。今後、一生かけて亜美さんを守り抜きます』と言った。
そしたらね、お母さんは涙くんでね『こちらこそ、こんな娘ですが宜しくお願いします』
『はい!』とだけ言ったんよ。それ以上は涙が零れるからね、言えないよ。感謝だよね。
でもね、お父さんからは一言も貰えなかったな。流石に複雑なんだと思ったね。当然だよ。
胸ぐら掴まれてね、殴られた方がスッキリしたんだけどね。なんだか切ない気持ちに…
一連の報告が終わるとね、お母さんの独壇場だったな。亜美の学生時代や、性格などね
亜美が『ちょっと、やめてよ』って言うくらいに話していたよ。時間の許す限りね。
その間もね、お父さんが話すことはなかったな。でもね、表情は穏やかになっていたよ。
結局はね、お父さんとは一言も会話する事なかった。すっごく複雑な感情を抱いたまま
その日は夜も遅くなったので、僕と亜美は実家の近くのホテルに泊まるため、実家を後に
したんだ。どこかスッキリしない感情のままでね。『お父さんは無口だから、気にしないで』
亜美は僕を気遣うんだ。でもね、直ぐに認められる訳ないよね。そりゃ当然だよ…
亜美の実家で、家族に会えた事の喜び。これで良かったんかな?なるようになるや!
感情を整理出来ないままだったね。でも亜美は、常に笑顔で話し掛けてくれたよ。
それはね、亜美には全て分かっていたんだな。後で分るんだけどね。ドッキリだよ(笑)
部屋に入ったと同時にね、疲れが一気に押し寄せてきたんだ。バタンキューかな(笑)
亜美は平然として『今日はお疲れ様。ありがとうね』その言葉が、とっても優しいんだ。
亜美も疲れているのにね。その顔は、初めて会った時よりもね、大人びて美しかったな。
その後、先にお風呂に入るんだ。明日も亜美の家族との予定があるからね。楽しみだな。

この先に起こる出来事など予測できないよね。ここからが始まり。何もかも全てがだよ。
刺激に満ち溢れた世界がひろがるんだ。どんな事が起きようともね、亜美は手放さいよ。
改めて実感したんだ。僕にとってね、唯一無二の存在だから。どこにも居てない天使だよ。
亜美は、どう感じていたのかは分からないけどね。きっと一緒だよ。そう信じるんだ。
そんな事を感じながらね、お風呂から出てくるんよ。そして、携帯を見て涙が溢れたんだ。
『ふつつかな娘ですが、これから末永くお願い致します』亜美のお父さんからだった。

たった一行だけど、お父さんの複雑な気持ち、葛藤、不安、期待、すっごく悩んでる事が
情景として浮かんでくる一行。優しくもあり、厳しくもあり、温かくもあり。
そして、どこか淋し気でもある文面。どんなパンチよりも重たいよ。そして、優しいよね。

この事を亜美は知っていたのかもね。ずるいよ。ホントずるいな…
でもね、とびっきり幸せだよ。この瞬間が続けばいいなって。永遠にね。きっと続くよね。

この先に、何が待ち構えているか分からないけども。亜美と居れば乗り超えられるよね。
きっと…
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