鶴の恩返し

Grisly

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鶴の恩返し

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美しい娘が、機織りをしている。
彼女の正体は鶴。

罠に捕まっていたところを
若い男に助けられ、
遂に、今では恋仲となっている。

彼の暮らしを支えるべく、
人間と偽り、機織りをしているのだ。



バレたら全て終わる関係。
秘密を抱えながらも、
彼の優しさに触れ、
人間として、初めて感じる様々な体験。

あの時、
彼に助けられてから私の世界は変わった。
鶴としての全てを捨てて
飛び込んだが、後悔はない。

人間になれて、あなたの恋人になれて嬉しい
彼女は幸せだった。



しかし、彼女、というより鶴だが、
この布を織り終われば、
何も言わず、出ていくことを決めている。

正体がバレたわけではないが、
彼女は気づいてしまったのだ。
彼の部屋に置いてあった、
一丁の銃。

彼が貧乏になる前、猟師だった時、
仕掛けていた罠こそ、
彼女を傷つけた元凶だったのだ。



よくよく考えてみれば、
素人が、複雑な狩猟用の罠等、
解けるはずもない。

気づいた時は、
復讐で彼を殺そうとも思った。



しかし、
助けてくれたのは事実だし、
彼と過ごした、短いけれども幸せな日々。

彼のことはどうしても傷つけられない。
この恋は本物。

それでも、傷は疼く。
もう2度と飛ぶことはできないのだ。
だからこそ、羽を犠牲にして、
彼のために布を織ろうとも思えた。



人間としての暮らし。
人間の気持ちも分かり、大好きだったが、
自分がこうなった、
その元凶こそが彼であり、人間なのだ。

愛しているのに、何を憎めばいい。
ああだめだ。しかし傷は未だに疼く。
これ以上一緒にいたら彼を殺してしまう。

戻りたかった。昔の自分に。
だが、全てを捨てて
彼の元へ飛び込んだあの時にはもう戻れない



なんという複雑な心境。

秘密を持っていたのは、
鶴の方ではなかったのだ。
もっとも彼は
秘密とも思っていないだろうが…



襖が開けられたのは、その夜のことだった。
彼女の幸せな日々は、
完全に終わりを告げることとなった。





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