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誠の転進
しおりを挟むそんなある日、博学な悠作が、誠が、心を入れ替えた事を、感じて一冊の本を貸した。
「マコたん、この本読んでみる?」
「いいの?」
その本は、機能的な記録の付け方であった。
誠は、その本を元に、他の人達の優れた点を記録して、その点に関連する本を漁って、その事について研究して、自分の行動に、取り入れようと考えた。
その事をリサに伝えると、リサは憤慨した。
「思いついたら一直線、初志貫徹しなきゃダメじゃない」
誠は言った。
「可能性のないことにエネルキーを、つぎ込むわけには、いかない」
リサはハッとした。
……そんな事を言った、人が、いたっけ、その人は、私に、そんなに強くなくたって、いいじゃないって……
リサは、ガクッとうなだれて、「いつでも良いから、困った時は、相談に乗るから話して……」
誠は、「うん」と、寂しそうに一つ頷いた。
その頃、綾香は、支援員さん達から、誠達の極秘情報を、入手していた。
それによると、小川リサは、猪突猛進な頑固者で周りとトラブルを起こす、トラブルメイカー……
鍋島悠作は、有名大学を中退、学はあるが行動力が無い…。
光ちゃんは、事なかれ主義で、人畜無害……。
所が、平野誠は、プチ・リーダーシップはあるが、極度の秘密主義で、どのくらいの力があるかは、こちらからは、はっきり読み取れない……悪い事を一杯しているが、その都度、上手く切り抜けている。
そのレポートには、そんな彼らの情報が記されていた。
綾香は思った。
……この「誠」って人に、ちょっと、興味を感じるわぁ……食事に誘ってみようかしら? へへっ……
さて、困った、誠が目指した、ボス・キャラから、性格が違う、癒しキャラに、鞍替えすることは、そう簡単な、事ではなかった。
我が身を振り返ってみると、自分のコミュニケーションには、難があるのは分かっている。
記録の付け方の本を、「悠作」から借りたので、試しにそれを使って、コミュニケーションの能力をアップさせることについて、記録を付けながら実地を通して、学ぼうと考えた。
そこで、白羽の矢が立ったのは、施設長の坂井さんの話し上手な様子だった。
誠は、早速、ランダムに、施設長の坂井さんの素敵な仕草について、思った事を、メモやノートに記録し始めた。
そんな様子を光ちゃんは、拒絶反応を起こして見ていた。
光ちゃんは、誠に言う……。
「そんな、簡単に、性格なんて変えられない……」
光ちゃんは、知っている。
……そんな記録を付けたって、それを、生かすことなんて出来る筈がない、それは無駄だ……
光ちゃんは、そんな事をする誠をバカにしていた。
誠は、そんなことは、お構いなく、簡単な記録を付けて、分析する事を繰り返した。
まず、誠が、最初に気が付いたのは、話を最後まで聞き、途中で話の腰を折らないこと……
頷きながら、「うん、うん」や「うん~」と、頷きながら、相槌を、打って、相手の話したい気持ちを引き出すこと……。それらは、昔から言われていた事なので、簡単に、納得する事が出来た。
しかし、ここからが難しかった。これだけでは、会話が続かないからだ……。
誠は、施設長の坂井さんの素敵なところは分かるのだが、どういう仕組みなのか? 分からず、自分の中に、上手に取り入れることができず、袋小路に入っていた。
そんなある日、誠は、悠作に声を掛けた。
「悠作、聞いて欲しい……」
悠作は、こっちを見て、にっこり笑った。
今日の悠作は、珍しく落ち着いているので、誠は、安心して隣に座った。誠は、悠作に、早速、コミュニケーションについての考えを求めた。
「悠作、話し上手になるには、どうすればいいんだろうか?」
「?」
悠作は、一つ首を傾げた。
「話し上手になるには、意識をもって経験を積むしかないよ……」
「!」
誠は、「この手のやり方に、王道はないんだな」と、思い、悠作の指摘を受けて無い知恵を、集めて自分で、正解を導くべく考えを練った。
その頃、会話の本を読んでいて、共感の言葉、「ホントだね」「分かる」「確かに」という言葉を使うと良い事を、知った。
更に、「凄い」とか「嬉しい」という感動する相槌も、あることも……。
しかし、頭の悪い誠は、それらを上手く取り入れることが、中々出来なかった。そこで、施設長の坂井さんの素敵な会話の進め方を、取り入れ様と、観察をすることを続けた。
やがて、少しずつ分かってきた。
「うん、うん」や、「うん~」と頷いたり、「~ですね」と、オーム返しをしたり、「そうね」、「そうなんですね」と相槌をうって、相手の話を、しっかり受け止めている事に、気付いた。誠は、話し上手の良い点を素早くメモした。
そこで、誠は、これらを使える様にする為に、光ちゃんと話して、経験を積むことにした。光ちゃんに白羽の矢 を立てたのは、話し好きで多少迷惑をかけても、許してくれそうな人なつこさが、彼にあったからだ。
そんな、ある日、誠は、作業室のテーブルに座っている、光ちゃんに話しかけた。
「今日の、漬け物切りの作業はどうだった?」
「うん、大変だった」
「うん、うん」
誠は光ちゃんに、うなずきながら言った。
「そうね」
「……」
誠は思った。
……ミスった・・・・・
誠は光ちゃんと話しながら、会話がしっくりこないのが、不満だった。
何度かやってみて、共感の相槌である「ホントだね」や「分かる」や「確かに」と、言う、フレーズを取り入れて 話したが、思った様にいかなかった……。
そこで、誠は、会話のことについての本を読んだ。
「会話は、気持ちと気持ちの交流だ」と書いてあった。
誠は、そうなんだと思い、感情を伝える相槌である、、「良かったんじゃない」、とか「嬉しかったんじゃない」という言葉を、意識して使おうと考えた。
でも、どうしても、最後の壁を超えることが出来なかった。
結構、良いところまで来ているんだが、合格点まで至らなかった。誠は、合格点にいかないことに困惑して、自分は、価値のない人間のように思えた。
……私は、ダメな人間なのか? ……
誠は、また、袋小路に陥ってしまった。
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