14 / 15
幸せの果実
しおりを挟むそれから、誠は、猪熊と顔を合わせると、目を合わせる事は出来ないが、目線を鼻の下あたりに付けて、にっこり微笑むことや、最低限の礼を、猪熊に尽くした……。
それに対して、猪熊の反応は、というと……。
猪熊は、「気持ち悪い」と、言って、嫌な顔をしてみたり、訝る様な顔をして不快感を露わにした。
……なんだ、コイツ……
誠は、激しい怒りを感じた。
けれど、誠は、その怒りを抑え、綾香が温かく見守る中で、誠は、綾香の言葉にしたがって、皆は仲間だという意識を、もって、誠の仲間や、猪熊や猪熊たちに、礼儀正しく振舞う努力を続けた。
すると、その甲斐もあって、少しづつ、彼らとの軋轢が、改善していった。
その温かさの中で、猪熊は、色々な人に、諭される様になって……猪熊は、反発しながらも、その言葉に、耳を傾けるようになって、自分が、どんなに破滅的行動をしていたのか、という事に気づいていった。
それから、誠と誠の仲間たちは、猪熊たちを抱えながら、いつものように、漬物切りの作業を、協力してやっていた。
例外は、仲間達を、守る役目の「のぶゆん」で仲間達は、「作業をしよう」と、「のぶゆん」に、勧めない事が、暗黙の了解になっている。
悠作は、何となくこの一件の後、ポジティブになって仲間と、前より深く、学びを通して、関わるようになって、 誠は、嬉しく思っていた。
誠が、旗を振る、漬物切りの作業に、問題がなくなると、支援員さん達は、別の遠くのテーブル移っていった。
遠くのテーブルから、支援員さん達は、時々、彼らの様子を見ている様だ。
そこでは、6つあるテーブルの内の2つのテーブルに新聞紙を敷き、そこに、漬物切りの作業の材料を置いて作業を、していた。
彼らは、漬物切りの作業に加わった、新入りの仲間たちに、漬物切り作業の手順を説明していた。
ただ、誠は、数ある色々な漬物切りの作業の内容を、全部知っているわけではない……。
そんな時は、昔から作業をしている、光ちゃんや、綾香に、誠は、助けを求めることが今でもある。
「この葉、腐っているんだけど、どうしたらいい?」
「これも、脇に除いた方がいいですかね?」
すると、綾香ちゃんと、光ちゃんから、「それ、使っちゃえば……」
すると、誠は、光ちゃんと綾香ちゃんに返事をする。
「そうね、ありがとう、そうするよ……」
誠は、そうやって、自分の分かる所は、新入りに説明して、誠の分からない所は、長年やって経験のある仲間の人達に、やり方を聞いて、説明してもらいながら、漬物切りの作業を進めていった。
そうやって、作業のやり方を説明していくと、誠は、段々仲間たちの特徴的な動きに、余裕で対応出来るようになり、相手を知らないと云う、不安が減って、安心感が生まれると、安定的に、作業の進める事が、出来る様になっていった……。
そんな様子を、猪熊が、じっと、敵対心をあらわにして、見つめていた。やがて、作業について、説明することがなくなり、もっと、広範囲な仕事の連携、例えば、ホウレンソウの「声のかけ方」の作法に、及ぶようになっていた。
彼らは、思った。
……さあ収穫の時だ……
激動の日々の後、誠と誠の仲間達は、作業所「ハトさん」の部屋の一つである、キッチンと、沢山のテーブルとイスのある部屋にある、頑丈そうな白い冷蔵庫の中で、増殖して、たわわに、実った幸せの果実を、楽しそうに収穫する。すると、皆は、両手いっぱいの果実を、作業場テーブルに押し広げた。
椅子に座って、お互いの顔を見合わせると、収穫の喜びに、思わず、皆の笑顔がこぼれる……。
やがて、クロウが、「頂きます」と言って、果実を食すと、皆もそれに続いて、食べ始めた……。
それは、皆を、何とも言えない、幸せな気持ちにさせた。
そんな幸せの果実のおこぼれに、猪熊達も、皆と一緒に、ありついた……。
綾香が、誠のところに来た。
「よっかったね」
「ああ」
綾香は嬉しそうだった。
「あのね、貴方に言いたい事があるの」
「何?」
「猪熊さんはね、父親を若くしてなくしたの……」
「そうなんだ」
「私の想像なんだけど、猪熊さんは、お母さんを守る為に、あんな風になったのよ……貴方も母親を亡くしているからわかるでしょ……」
誠は、猪熊の意外な話を聞いて考えた。
「ほんとは、良い奴なのかもしれない……」
「そうよ」
そういって、綾香は、にっこり笑った。
この日、作業所「ハトさん」の皆は、幸せな、ひと時を、満喫していた……。
やがて、幸せの果実を食べ終えると、テーブルの上の食べカスを片付けて、元の作業場に戻った。
結局、誠は、ボス・キャラには、なれなかった。
癒しキャラにも、成れたのかも分からない……。
今日の作業が終わると、誠は、リサを呼んだ。
「おおー、リサぽん、帰るぞ……」
「あぁぃ!」
誠は、リサを載せて車を発進させた。
光ちゃんと、悠作は、既に、家に帰っていたが、綾香に、ぞっこんの猪熊は、綾香に、キツイお灸を据えられて、渋々、綾香と、二人で、彼らを見送った。
猪熊は、誠とリサを、恨めしそうに見ていた。
誠は、この一件で、あんなに、強大だと思っていた猪熊が、少し、小さく見えた……。
やがて、二人が、帰る途中に、誠は、薄暗い空を見上げた。
雲が切れて、太陽の光が差し込んできた……。
「眩しい」
長い冬が終わり、梅の花の咲く頃、誠とリサは、春の訪れを感じた……。
誠は、リサと一緒に、その時代(季節)を、一直線で走り抜けて行った……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる