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Folge 19 長女との時間
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タケルからのかまってアピール後。
ソファーではカルラが膝枕をしてあげている。
頭を優しく撫でられ、言いたかったことも吐き出した。
ホッとしたのか、眠ってしまったようだ。
「こんなに可愛い弟をかまっていなかったなんて、駄目な姉ね」
「駄目なんてことはないよ。寧ろ駄目なのはオレだろ。家事全般をお前たちにさせちまっているから、知らず知らずのうちに手が回らなくなっていた事が増えていったんだよ。ごめんな」
「兄ちゃんはいつもあたし達の傍にいることで安心させてくれているんだから、そんなこと言わないでよ」
「サダメがいなかったらと思うとゾッとするわ。わたしは生きていけないからとっくにこの世から消えているわよ」
「またそういう怖いことを。でもそれだけ思ってもらえると凄く嬉しいよ」
「あたし達は彼女になったぐらい愛しているんだからね! そこんとこ、よろしく!」
ツィスカが片手を腰にやる。
もう片方は人差し指をオレに向けるポーズ。
そしてどこかで聞いたようなセリフを吐いてみせる。
「わたしはタケルが起きるまでこうしているつもりだから、二人はお好きにしていいわ」
「なんだかカルラに愛想を尽かされたようで寂しいな」
「ふふふ。たまには冷たい態度をとってみるのもあり?」
オレは片手を振って拒否した。
「いや、そんなことされたらツィスカを抱きしめたまま夜通し泣くことになるからやめてくれ」
そう言ってツィスカを後ろから抱きしめた。
「あたしがいるわ! 兄ちゃんを一人にはしない! ずっとあたしにこうしていればいいのよ」
「ちょっと、何を勝手に話進めているのよ。わたしがサダメから離れるわけないじゃない! いや待って。今のサダメの言い方だとわたしと離れたくなくてツィスカを抱きしめるのだから、ツィスカはわたしより愛の順番は下ってことになるわね。それならいいわ」
「はあ!? 何を言ってくれちゃってるのかな!? あたしを愛しているから抱きしめているんでしょ? あれ? カルラと離れたくなくてあたしを抱きしめるってことは~、うーん、あたしのことは離さないぞ! ってことになるから、離れて行ったカルラを追うわけじゃなかったんだし、あたしを一番愛しているってことになるじゃない! そうよ、ね! 兄ちゃん!」
あ~あ、タケルが起きちゃっているよ。
寝たふりしてるけど。
「二人共、そんなにヒートアップしていたらタケルが起きちゃうだろ。可愛そうだから静かにしてあげようよ」
妹二人がお互いに向かってシーっと人差し指を口の前に立てて見せる。
「まったく、カルラはほんとにうるさいんだから」
「なんでわたしがうるさいのよ。ツィスカが大きな声を出しているんでしょ?」
「カルラが変な事言わなきゃそんなことしないわよ!」
「何よ! わたしは買い物デートしたから次はツィスカの番よってことでお好きにって言ったんじゃない! それなのに愛想を尽かされたとか言うから……あれ? それ言ったのサダメじゃなかったっけ?」
「それを言ったのは兄ちゃんね。あれ? じゃあこうなったのは兄ちゃんが悪いんじゃん!」
「サ~ダ~メ~」
げっ!
結局矛先はオレになるのかよ。
確かに、オレが返す言葉のチョイスを間違えたのが原因だけど。
「す、すまん。悪いのはオレ、だな」
「そうだよ!」
二人揃って思いっきり言われてしまった。
くっそ~、タケルはニヤニヤしていやがる。
黙っておいてやってるんだぞ~。
助けてくれたって良くね?
いや、救援を頼める立場ではないな。
はあ、完敗だ。
「悪かった。ごめん」
そう言ってオレはツィスカから離れようとした。
けど、ツィスカがグイっと腕を掴んで離れさせてはくれなかった。
「なんで離れるの?」
「こうしているのは違うかなと思って」
「離れたらもっと怒るよ!」
「はい」
どうしたらいいの~。
「フランツィスカさん、どうしたら良いのです?」
「ギュ~っとして~、チュッとすればいいのよ」
「あ~、はい。じゃあ、ギュ~っとして~」
言われた通り頬にチュッとした。
「口よ、く~ち!」
言われた通り口にチュッとした。
「よく分からなかったからやり直し!」
言われた通りにしっかりとチュッとした。
「ま、まあそれで許してあげるわ」
カルラまで笑ってる。
なんだよ、こいつらオレで遊んでるだけじゃないのか!?
「じゃあデートしよ!」
「それは構わないんだけど、買い物、じゃあないよね?」
「ん~と、え~と、何しようかな」
考えていなかったのか。
とりあえず動いてから考える。
ブレない娘だなあ。
「今から外へ行くにしても、もう夕方近いぞ」
「そうねえ。じゃあデートは次の週末! 今日はあたしと寝て」
「結局そこに落ち着くのか。いいよ、今日はそういうことになりましたがカルラさん」
「それならわたしはタケルと寝るわ。明日はツィスカの番ね」
「任せて!」
お、ツィスカが絶好調のサイン、「任せて!」が出た!
スキル、『周囲を不安にさせる』が発動されたぞ。
「何よ~、その目は」
「ツィスカは長女なんだなあと思ってさ。いつも胸を張って自信満々な所を見せてくれるから、こっちも常に上を向いて進めるんだって感じがしているんだよ」
「あん。そういうのは寝るときに耳元でこっそり言って欲しかったなあ」
オレの腕を掴んだまま左右に揺さぶって喜ぶツィスカ。
いつもいないけど両親に感謝するところなんだろうな。
その代わりにいつも親がいないのか。
そういうこと!?
そんなバランスいらねえよ~。
ん~、でも文句言うのは罰当たりなのかな。
「それじゃあこれと言ってやることないし、夕飯までの間二人でゆっくりしますか」
「それも凄くいいんだけど、勿体ない気がしちゃうのよね~。ちょっとお散歩ぐらいしてみる?」
「んじゃその辺をブラっと歩いてみるか。結局デートじゃん」
ウチはテレビを観たりゲームもしない。
随分時間が空く時がある。
よってウチでは時間つぶしとして散歩はよく選ばれるんだ。
カルラの時と同じく、手を繋いで歩く。
いつも元気いっぱいのツィスカ。
こうやってカップルらしい状況になると途端に大人しくなる。
手を繋ぐとかえって身体を寄せてくるんだ。
そして口数も一気に少なくなる。
手をガッチリと握りしめる。
もしくは腕に抱き着いて出来るだけ至近距離に居ようとする。
何かに怯えているんだろうかと心配するほど。
今回はカルラの時にしたかった腰抱きをしてみよう。
「あっ。はう」
「なんて声を出すんだよ」
「だって、そんな風にされるとは思ってなかったから」
「この方が近いだろ?」
「うん」
この照れているツィスカは本当に可愛い。
夕日になりつつある太陽より赤くなった顔。
肌の色が白いから鮮明に赤みがわかる。
「ツィスカは腰に手をまわさないのか?」
「そっか。そしたらもっと近づくね。ボーっとしちゃった」
オレに言われた通り手を腰にまわしてくると、思っていた以上に密着した。
「汗かきそうだな」
「構わないわ、そんなの。ずっとこの時間が続けばいいのに」
「そう思える時間はもっとあるだろ」
「……あるわよ、いっぱい――思い出したら恥ずかしくなってきた」
「恥ずかしがるような仲なのか?」
「そういうのじゃなくって、その、兄ちゃんを好きなことを実感しちゃうことが、よ」
「よく言えたな、そのセリフ」
「もう! 言わせておいて。今とんでもなく恥ずかしいんだからね」
「恥ずかしいのを吹き飛ばしてやろうか」
「え?」
体勢は変えずにその場で立ち止まる。
ツィスカに思いっきりキスをした。
「え!?」
再び歩き出す。
外で思いっきりキスしてみたかったんだよ。
「兄ちゃん」
「ん?」
「恥ずかし過ぎてどうしたらいいか分からなくなってきた」
「そっか。分からないなら何も考えるな。オレとのデート中だろ? 二人の世界だけ見ていればいい」
「そうなの、かな」
「そうなの!」
ガッチリくっついて歩く二人。
自分で言った後で何だけど、これだけくっついていると本当に自分たちしかいないような気がしてくる。
周りなんてどうでもいい、二人さえ良ければいい。
――そんな風に。
「あれって、藍原姉妹のお姉さんの方じゃない?」
「うわ、くっついて歩いている。あの人がお兄さんかな」
ん?
オレたちのことを話しているのが聞こえてくるんだけど。
「そうだとしたら、言ってたこと本当ってこと!?」
「そりゃ男子全員振られるよ」
「でもお兄さんが彼氏ってどうなの?」
おいおい。
そういう話を本人たちに聞こえるようにするなよ。
「ツィスカ、どうやらお前の同級生と思われる子がオレたちのことを思いっきり話しているみたいなんだけど」
「へ? そうなの?」
「聞こえていなかったのか」
「うん。兄ちゃんの言う通り二人だけの世界にいたから」
そんなセリフ、ゾクゾクするな。
あ、オレがそうしていなって言ったんだっけ。
ちゃんと言った通りにしている素直な良い娘だ。
「ツィスカってさ、学校で兄と付き合っているって言っているの?」
「そうだよ。だって本当にそうだし」
「ま、まあそうなんだけど。なんだかその辺を気にしている話が聞こえてくるからさ」
「それこそ気にしちゃダメじゃない。二人の世界を邪魔する人は無視よ」
「そう、だな。でもそろそろ帰るか。家で続きをしませんか? フランツィスカお嬢様」
「あら、よろしくってよ、お兄様……あははは」
「なんだよ、ムードが台無しじゃないか」
「なんだか笑えちゃって」
「お嬢様って言ったやつにお兄様は可笑しいけどさ」
「そこなの? あははは。楽しい」
「それは何より」
楽しんでくれたのなら何でもいいよ。
笑えるってことはいいことだ。
すでにカルラと買い物に行った上、ツィスカと散歩。
実は結構足が疲れた。
部活も何もやっていないから完全に運動不足だな。
「兄ちゃん、ポストに何か届いているよ」
「ほんとだ」
何やら真っ黒い封筒が入っている。
チラシの類ではないと分かるそれをポストから取り出してみる。
「誰宛かな?」
封筒の表には何も書かれていない。
裏を見てみるとピンクのペンで『美咲』と書かれている。
「あ! あの人からだ。また何かするつもりかな」
「とりあえず家に入ろう」
リビングのソファー。
カルラが寝てしまっていることを除けば何も変わっていなかった。
「もうちょっとこのままにしておいてあげるか」
「そうね、カルラも疲れていたのかな。ぐっすり寝ているわ」
二人を起こさないようにオレの部屋へ移動する。
ベッドに二人で座って気になる封筒を開封してみた。
「えっと――私はやはりサダメさんが大好きです。付き合ってください」
「はあ。あの人まだそんなこと言っているの?」
「言われている方としては嬉しいことだけどな」
「実は兄ちゃん喜んでる?」
「嫌われるよりはいいだろ」
ツィスカは腰抱きが気に入ったようで。
座ったままくっついてオレの腰を抱えた。
「ブラコンのあたしが嫌われていないのに、なんでシスコンの兄ちゃんがモテないのかな」
「それはオレが聞きたいことだが……この手紙からするとモテているかもしれない」
「……かも、ね。それは置いといて、不思議なのよね」
置いとくのか。
「何が?」
「兄ちゃんと同じようになるかな~と思って、普通なら言わなくていいことだけど、兄ちゃんと付き合っているってわざと広めたの。でもあたしが嫌われることは無いのよね」
「それを超える魅力がお前にはあるからじゃないのか? オレはシスコンだからってことで敬遠されているし、寄ってきてもお前たちのことを聞いてくるだけだから」
「兄ちゃんは凄く優しくてカッコいいから大好きなのに。兄ちゃんの周りにいる女子の目がおかしいのよ。進級するか大学行けば凄くモテるんじゃない? その代わりにあたしが心配になっちゃうけど」
ああもう可愛い、食べちゃうぞ。
「それで、この手紙はどうするの?」
「どうもこうも、これだけじゃ何もしようがないし。文字になっただけで、これまでと変わらないからね。オレのことが本気で好きなんだろうなってことがわかるぐらいしかないな」
手紙を適当に放り投げてツィスカを押し倒し、顔をしっかりと見る。
「兄ちゃん?」
「今は、ツィスカとのラブラブタイムだから堪能しま~す」
「――――優しくしてね」
ソファーではカルラが膝枕をしてあげている。
頭を優しく撫でられ、言いたかったことも吐き出した。
ホッとしたのか、眠ってしまったようだ。
「こんなに可愛い弟をかまっていなかったなんて、駄目な姉ね」
「駄目なんてことはないよ。寧ろ駄目なのはオレだろ。家事全般をお前たちにさせちまっているから、知らず知らずのうちに手が回らなくなっていた事が増えていったんだよ。ごめんな」
「兄ちゃんはいつもあたし達の傍にいることで安心させてくれているんだから、そんなこと言わないでよ」
「サダメがいなかったらと思うとゾッとするわ。わたしは生きていけないからとっくにこの世から消えているわよ」
「またそういう怖いことを。でもそれだけ思ってもらえると凄く嬉しいよ」
「あたし達は彼女になったぐらい愛しているんだからね! そこんとこ、よろしく!」
ツィスカが片手を腰にやる。
もう片方は人差し指をオレに向けるポーズ。
そしてどこかで聞いたようなセリフを吐いてみせる。
「わたしはタケルが起きるまでこうしているつもりだから、二人はお好きにしていいわ」
「なんだかカルラに愛想を尽かされたようで寂しいな」
「ふふふ。たまには冷たい態度をとってみるのもあり?」
オレは片手を振って拒否した。
「いや、そんなことされたらツィスカを抱きしめたまま夜通し泣くことになるからやめてくれ」
そう言ってツィスカを後ろから抱きしめた。
「あたしがいるわ! 兄ちゃんを一人にはしない! ずっとあたしにこうしていればいいのよ」
「ちょっと、何を勝手に話進めているのよ。わたしがサダメから離れるわけないじゃない! いや待って。今のサダメの言い方だとわたしと離れたくなくてツィスカを抱きしめるのだから、ツィスカはわたしより愛の順番は下ってことになるわね。それならいいわ」
「はあ!? 何を言ってくれちゃってるのかな!? あたしを愛しているから抱きしめているんでしょ? あれ? カルラと離れたくなくてあたしを抱きしめるってことは~、うーん、あたしのことは離さないぞ! ってことになるから、離れて行ったカルラを追うわけじゃなかったんだし、あたしを一番愛しているってことになるじゃない! そうよ、ね! 兄ちゃん!」
あ~あ、タケルが起きちゃっているよ。
寝たふりしてるけど。
「二人共、そんなにヒートアップしていたらタケルが起きちゃうだろ。可愛そうだから静かにしてあげようよ」
妹二人がお互いに向かってシーっと人差し指を口の前に立てて見せる。
「まったく、カルラはほんとにうるさいんだから」
「なんでわたしがうるさいのよ。ツィスカが大きな声を出しているんでしょ?」
「カルラが変な事言わなきゃそんなことしないわよ!」
「何よ! わたしは買い物デートしたから次はツィスカの番よってことでお好きにって言ったんじゃない! それなのに愛想を尽かされたとか言うから……あれ? それ言ったのサダメじゃなかったっけ?」
「それを言ったのは兄ちゃんね。あれ? じゃあこうなったのは兄ちゃんが悪いんじゃん!」
「サ~ダ~メ~」
げっ!
結局矛先はオレになるのかよ。
確かに、オレが返す言葉のチョイスを間違えたのが原因だけど。
「す、すまん。悪いのはオレ、だな」
「そうだよ!」
二人揃って思いっきり言われてしまった。
くっそ~、タケルはニヤニヤしていやがる。
黙っておいてやってるんだぞ~。
助けてくれたって良くね?
いや、救援を頼める立場ではないな。
はあ、完敗だ。
「悪かった。ごめん」
そう言ってオレはツィスカから離れようとした。
けど、ツィスカがグイっと腕を掴んで離れさせてはくれなかった。
「なんで離れるの?」
「こうしているのは違うかなと思って」
「離れたらもっと怒るよ!」
「はい」
どうしたらいいの~。
「フランツィスカさん、どうしたら良いのです?」
「ギュ~っとして~、チュッとすればいいのよ」
「あ~、はい。じゃあ、ギュ~っとして~」
言われた通り頬にチュッとした。
「口よ、く~ち!」
言われた通り口にチュッとした。
「よく分からなかったからやり直し!」
言われた通りにしっかりとチュッとした。
「ま、まあそれで許してあげるわ」
カルラまで笑ってる。
なんだよ、こいつらオレで遊んでるだけじゃないのか!?
「じゃあデートしよ!」
「それは構わないんだけど、買い物、じゃあないよね?」
「ん~と、え~と、何しようかな」
考えていなかったのか。
とりあえず動いてから考える。
ブレない娘だなあ。
「今から外へ行くにしても、もう夕方近いぞ」
「そうねえ。じゃあデートは次の週末! 今日はあたしと寝て」
「結局そこに落ち着くのか。いいよ、今日はそういうことになりましたがカルラさん」
「それならわたしはタケルと寝るわ。明日はツィスカの番ね」
「任せて!」
お、ツィスカが絶好調のサイン、「任せて!」が出た!
スキル、『周囲を不安にさせる』が発動されたぞ。
「何よ~、その目は」
「ツィスカは長女なんだなあと思ってさ。いつも胸を張って自信満々な所を見せてくれるから、こっちも常に上を向いて進めるんだって感じがしているんだよ」
「あん。そういうのは寝るときに耳元でこっそり言って欲しかったなあ」
オレの腕を掴んだまま左右に揺さぶって喜ぶツィスカ。
いつもいないけど両親に感謝するところなんだろうな。
その代わりにいつも親がいないのか。
そういうこと!?
そんなバランスいらねえよ~。
ん~、でも文句言うのは罰当たりなのかな。
「それじゃあこれと言ってやることないし、夕飯までの間二人でゆっくりしますか」
「それも凄くいいんだけど、勿体ない気がしちゃうのよね~。ちょっとお散歩ぐらいしてみる?」
「んじゃその辺をブラっと歩いてみるか。結局デートじゃん」
ウチはテレビを観たりゲームもしない。
随分時間が空く時がある。
よってウチでは時間つぶしとして散歩はよく選ばれるんだ。
カルラの時と同じく、手を繋いで歩く。
いつも元気いっぱいのツィスカ。
こうやってカップルらしい状況になると途端に大人しくなる。
手を繋ぐとかえって身体を寄せてくるんだ。
そして口数も一気に少なくなる。
手をガッチリと握りしめる。
もしくは腕に抱き着いて出来るだけ至近距離に居ようとする。
何かに怯えているんだろうかと心配するほど。
今回はカルラの時にしたかった腰抱きをしてみよう。
「あっ。はう」
「なんて声を出すんだよ」
「だって、そんな風にされるとは思ってなかったから」
「この方が近いだろ?」
「うん」
この照れているツィスカは本当に可愛い。
夕日になりつつある太陽より赤くなった顔。
肌の色が白いから鮮明に赤みがわかる。
「ツィスカは腰に手をまわさないのか?」
「そっか。そしたらもっと近づくね。ボーっとしちゃった」
オレに言われた通り手を腰にまわしてくると、思っていた以上に密着した。
「汗かきそうだな」
「構わないわ、そんなの。ずっとこの時間が続けばいいのに」
「そう思える時間はもっとあるだろ」
「……あるわよ、いっぱい――思い出したら恥ずかしくなってきた」
「恥ずかしがるような仲なのか?」
「そういうのじゃなくって、その、兄ちゃんを好きなことを実感しちゃうことが、よ」
「よく言えたな、そのセリフ」
「もう! 言わせておいて。今とんでもなく恥ずかしいんだからね」
「恥ずかしいのを吹き飛ばしてやろうか」
「え?」
体勢は変えずにその場で立ち止まる。
ツィスカに思いっきりキスをした。
「え!?」
再び歩き出す。
外で思いっきりキスしてみたかったんだよ。
「兄ちゃん」
「ん?」
「恥ずかし過ぎてどうしたらいいか分からなくなってきた」
「そっか。分からないなら何も考えるな。オレとのデート中だろ? 二人の世界だけ見ていればいい」
「そうなの、かな」
「そうなの!」
ガッチリくっついて歩く二人。
自分で言った後で何だけど、これだけくっついていると本当に自分たちしかいないような気がしてくる。
周りなんてどうでもいい、二人さえ良ければいい。
――そんな風に。
「あれって、藍原姉妹のお姉さんの方じゃない?」
「うわ、くっついて歩いている。あの人がお兄さんかな」
ん?
オレたちのことを話しているのが聞こえてくるんだけど。
「そうだとしたら、言ってたこと本当ってこと!?」
「そりゃ男子全員振られるよ」
「でもお兄さんが彼氏ってどうなの?」
おいおい。
そういう話を本人たちに聞こえるようにするなよ。
「ツィスカ、どうやらお前の同級生と思われる子がオレたちのことを思いっきり話しているみたいなんだけど」
「へ? そうなの?」
「聞こえていなかったのか」
「うん。兄ちゃんの言う通り二人だけの世界にいたから」
そんなセリフ、ゾクゾクするな。
あ、オレがそうしていなって言ったんだっけ。
ちゃんと言った通りにしている素直な良い娘だ。
「ツィスカってさ、学校で兄と付き合っているって言っているの?」
「そうだよ。だって本当にそうだし」
「ま、まあそうなんだけど。なんだかその辺を気にしている話が聞こえてくるからさ」
「それこそ気にしちゃダメじゃない。二人の世界を邪魔する人は無視よ」
「そう、だな。でもそろそろ帰るか。家で続きをしませんか? フランツィスカお嬢様」
「あら、よろしくってよ、お兄様……あははは」
「なんだよ、ムードが台無しじゃないか」
「なんだか笑えちゃって」
「お嬢様って言ったやつにお兄様は可笑しいけどさ」
「そこなの? あははは。楽しい」
「それは何より」
楽しんでくれたのなら何でもいいよ。
笑えるってことはいいことだ。
すでにカルラと買い物に行った上、ツィスカと散歩。
実は結構足が疲れた。
部活も何もやっていないから完全に運動不足だな。
「兄ちゃん、ポストに何か届いているよ」
「ほんとだ」
何やら真っ黒い封筒が入っている。
チラシの類ではないと分かるそれをポストから取り出してみる。
「誰宛かな?」
封筒の表には何も書かれていない。
裏を見てみるとピンクのペンで『美咲』と書かれている。
「あ! あの人からだ。また何かするつもりかな」
「とりあえず家に入ろう」
リビングのソファー。
カルラが寝てしまっていることを除けば何も変わっていなかった。
「もうちょっとこのままにしておいてあげるか」
「そうね、カルラも疲れていたのかな。ぐっすり寝ているわ」
二人を起こさないようにオレの部屋へ移動する。
ベッドに二人で座って気になる封筒を開封してみた。
「えっと――私はやはりサダメさんが大好きです。付き合ってください」
「はあ。あの人まだそんなこと言っているの?」
「言われている方としては嬉しいことだけどな」
「実は兄ちゃん喜んでる?」
「嫌われるよりはいいだろ」
ツィスカは腰抱きが気に入ったようで。
座ったままくっついてオレの腰を抱えた。
「ブラコンのあたしが嫌われていないのに、なんでシスコンの兄ちゃんがモテないのかな」
「それはオレが聞きたいことだが……この手紙からするとモテているかもしれない」
「……かも、ね。それは置いといて、不思議なのよね」
置いとくのか。
「何が?」
「兄ちゃんと同じようになるかな~と思って、普通なら言わなくていいことだけど、兄ちゃんと付き合っているってわざと広めたの。でもあたしが嫌われることは無いのよね」
「それを超える魅力がお前にはあるからじゃないのか? オレはシスコンだからってことで敬遠されているし、寄ってきてもお前たちのことを聞いてくるだけだから」
「兄ちゃんは凄く優しくてカッコいいから大好きなのに。兄ちゃんの周りにいる女子の目がおかしいのよ。進級するか大学行けば凄くモテるんじゃない? その代わりにあたしが心配になっちゃうけど」
ああもう可愛い、食べちゃうぞ。
「それで、この手紙はどうするの?」
「どうもこうも、これだけじゃ何もしようがないし。文字になっただけで、これまでと変わらないからね。オレのことが本気で好きなんだろうなってことがわかるぐらいしかないな」
手紙を適当に放り投げてツィスカを押し倒し、顔をしっかりと見る。
「兄ちゃん?」
「今は、ツィスカとのラブラブタイムだから堪能しま~す」
「――――優しくしてね」
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
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27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
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⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
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