ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

文字の大きさ
31 / 218
第一章 見習い剣士と新人奴隷

第三十一話 一件落着

しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ、鐘楼前広場

 荷車に乗せられたベーアの頭部と共に、ダン剣聖率いる小隊が町に戻った。
 町民たちは家から恐る恐るのぞき見ている。
 荷車が輪留めされると隊員たちは整列した。
 出迎えた町長が拍手をしながらダンに歩み寄り、状況の説明に耳を傾ける。

「そうでしたか。何はともあれ全員無事に戻られたということが最大の功績でしょう! ダン様と剣士様方、本当にありがとうございます! 町は守られました」

 町長の拍手はずっと止まなかった。
 それに続くように剣士たちも拍手をし始め、お互いを労いだす。
 全員の緊張が解けたのであろう。
 町を守り切った十年前以来、戦争が起きていない。
 守り切るだけの戦力を持った町として他の町や国から認知されていることもあり、平和に過ごすことが出来ている。
 そのことが良くも悪くも剣士として実際の戦いを経験した者が少なくなった要因だ。
 今では魔獣討伐も主なものが小型から中型までであり、人を殺めることはほぼ無い。
 旅人の護衛の際、まれに対人戦が発生する程度だ。
 そんな中で起きた今回の騒動。
 剣士の町としては久しぶりに漂う戦の空気となった。
 平和が長く続くことを願うも悲しいかな、戦いが無ければ剣士が成り立たないのである。

「なんだよ、あの血まみれな見習いは……ああ、ダン様の」
「そう。ダン様の弟子らしい」
「まだ見習いだよな。後衛じゃなかったのか?」
「のはずだが……」

 ベーアの血を全身に浴び、一部を残して赤黒くなっているエールタイン。
 隣にいるルイーサも足元に血しぶきの跡を付けている。
 ランタンの灯りで浮かびあがるそれらの姿と染み付いた獣の臭いが漂っているのだから非常に目立つ。
 剣士たちは徐々にエールタインたちの事が気になり始め、様々な意見を出し合っていた。

「ダン様、始まりましたよ」
「だな。苦情係までやらなければならんのか……剣聖というのも楽じゃないな」
「偉い人が苦労をすることで皆がまとまるのです」
「ええい、分かっている! ヘルマよ。最近助言の内容を変えていないか? 俺のことを知り尽くしているはずのお前のことだ。言わなくても分かっていることをワザと伝えているように思えるのは気のせいか?」
「私はいつもと同じでございます、ご主人様。さあ、皆の目がこちらに向き始めましたよ」

 ダンは怪しいと言いたげな表情のまま剣士の集まりへと目線を向けた。
 剣士の一人が意見を述べるために一歩前に出る。
 それを確認したダンは剣士に向けてうなずき、発言を認める合図をした。

「僭越ながら申し上げます。そちらの二組のデュオは見習い剣士とお見受けしますが魔獣の血を浴びている様子。魔獣討伐に参加したと捉えてよろしいのでしょうか?」

 ダンとヘルマが思った通りの質問を投げられた。

「うむ。当然の疑問だ、説明をしよう」

 ダンは町長の横から二組の見習いデュオの横へと移動し、説明を始める。

「この者たちは討伐に参加した」

 剣士たちがざわつく。
 集まりの後方ではその言葉で知った者もいて、あちこちから疑問の声が聞こえ出した。

「もちろんこれには理由がある。隊員全員が休みなく攻撃をしていた。しかしこの魔獣は大型だ。こいつが倒れるより前に剣士たちが倒れる可能性が高くなっていた。そこで俺の従者に伝令を頼み、この者たちを呼んだというわけだ。選んだ理由は言うまでもないだろう」

 質問をした剣士が用意していた言葉を飲み込んだような仕草をする。
 続ける言葉が無いのかしばし間が空いたあとに一言絞り出した。

「……わかりました。ご説明ありがとうございます」

 他の剣士たちもダンに向けて軽く頭を下げた。
 ダンは長めの鼻息を出してから大きく息を吸い込んだ。

「こいつらが魔獣討伐を締めくくってくれたのだ。ぜひとも称えてやって欲しい!」

 剣士たちの中から手を叩く音が聞こえ出す。
 それはたちまち広がり、気づけば全員が拍手をしていた。

「みんなありがとう。これで俺たちの存在が大きいことを実感できたと思う。より一層の修練を頼むぞ!」

 全員が揃って大きく声を上げた。

「おー!」

 ダンは町長から握手を求められそれに答える。
 その横ではエールタインがティベルダにウインクしてにっこりとほほ笑んだ。
 それに答えようとティベルダは両目を瞑った。

「エール様……それ、できないです」
「あはは。両目で十分可愛いよ」
「できたらエール様が私のことを好きになってくれると思うので」
「ええ!? 好きだけど。いつも言っているじゃないか」

 エールタインの腕をグイグイと引っ張るティベルダ。

「もっと、もっともっと、もっと! もっと好きになってください!」
「どうしたのさ。そんなに言わなくてもちゃんと大好きだって。討伐が怖かったのかな」

 上目遣いでエールタインを見つめるティベルダ。
 エールタインはティベルダからランタンを受け取って後ろ向きにしゃがむ。
 あたかもランタンの調子が悪いようなフリをしながらティベルダを呼んだ。

「手伝ってくれる?」
「ランタンがどうかしましたか?」

 ティベルダも主の傍にしゃがんだ。
 すると主人は顔を従者に近づけて口角越しにキスをした。

「みんなが見ている前でするのは大変なんだよ。これで少しは納得してくれたかい?」

 絶好調なランタンを直しているふりを続ける主人を見つめたままティベルダは慌てた。

「あ、は、あの……ここまでしてくれるなんて」
「だって、ティベルダが納得してくれないんだもん。血まみれだから臭いけど、するしかないじゃないか」

 エールタインは立ち上がって元の姿勢に戻った。
 目を見開いたままティベルダも姿勢を戻す。
 主から持つように目の前へ出されたランタンを持ちしばし固まっていた。

「もう夜も更けている。今回はこれで終わりとしよう。皆も疲れただろうからゆっくり体を休めてくれ。では解散!」

 ダンの言葉で締めくくられた今回の一件。
 町が平穏へ戻っていくように剣士たちは自宅へと戻っていった。

「はっ。気に入らねえなあ。なんでお咎めなしで納得しちまっているんだよ。筋が通ってねえんだよなあ」

 鐘楼前の広場をじっと眺めていたひとりの男。
 今回の締めくくりに全員が納得したわけではないようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...