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第一章 見習い剣士と新人奴隷
第三十一話 一件落着
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Szene-01 レアルプドルフ、鐘楼前広場
荷車に乗せられたベーアの頭部と共に、ダン剣聖率いる小隊が町に戻った。
町民たちは家から恐る恐るのぞき見ている。
荷車が輪留めされると隊員たちは整列した。
出迎えた町長が拍手をしながらダンに歩み寄り、状況の説明に耳を傾ける。
「そうでしたか。何はともあれ全員無事に戻られたということが最大の功績でしょう! ダン様と剣士様方、本当にありがとうございます! 町は守られました」
町長の拍手はずっと止まなかった。
それに続くように剣士たちも拍手をし始め、お互いを労いだす。
全員の緊張が解けたのであろう。
町を守り切った十年前以来、戦争が起きていない。
守り切るだけの戦力を持った町として他の町や国から認知されていることもあり、平和に過ごすことが出来ている。
そのことが良くも悪くも剣士として実際の戦いを経験した者が少なくなった要因だ。
今では魔獣討伐も主なものが小型から中型までであり、人を殺めることはほぼ無い。
旅人の護衛の際、まれに対人戦が発生する程度だ。
そんな中で起きた今回の騒動。
剣士の町としては久しぶりに漂う戦の空気となった。
平和が長く続くことを願うも悲しいかな、戦いが無ければ剣士が成り立たないのである。
「なんだよ、あの血まみれな見習いは……ああ、ダン様の」
「そう。ダン様の弟子らしい」
「まだ見習いだよな。後衛じゃなかったのか?」
「のはずだが……」
ベーアの血を全身に浴び、一部を残して赤黒くなっているエールタイン。
隣にいるルイーサも足元に血しぶきの跡を付けている。
ランタンの灯りで浮かびあがるそれらの姿と染み付いた獣の臭いが漂っているのだから非常に目立つ。
剣士たちは徐々にエールタインたちの事が気になり始め、様々な意見を出し合っていた。
「ダン様、始まりましたよ」
「だな。苦情係までやらなければならんのか……剣聖というのも楽じゃないな」
「偉い人が苦労をすることで皆がまとまるのです」
「ええい、分かっている! ヘルマよ。最近助言の内容を変えていないか? 俺のことを知り尽くしているはずのお前のことだ。言わなくても分かっていることをワザと伝えているように思えるのは気のせいか?」
「私はいつもと同じでございます、ご主人様。さあ、皆の目がこちらに向き始めましたよ」
ダンは怪しいと言いたげな表情のまま剣士の集まりへと目線を向けた。
剣士の一人が意見を述べるために一歩前に出る。
それを確認したダンは剣士に向けてうなずき、発言を認める合図をした。
「僭越ながら申し上げます。そちらの二組のデュオは見習い剣士とお見受けしますが魔獣の血を浴びている様子。魔獣討伐に参加したと捉えてよろしいのでしょうか?」
ダンとヘルマが思った通りの質問を投げられた。
「うむ。当然の疑問だ、説明をしよう」
ダンは町長の横から二組の見習いデュオの横へと移動し、説明を始める。
「この者たちは討伐に参加した」
剣士たちがざわつく。
集まりの後方ではその言葉で知った者もいて、あちこちから疑問の声が聞こえ出した。
「もちろんこれには理由がある。隊員全員が休みなく攻撃をしていた。しかしこの魔獣は大型だ。こいつが倒れるより前に剣士たちが倒れる可能性が高くなっていた。そこで俺の従者に伝令を頼み、この者たちを呼んだというわけだ。選んだ理由は言うまでもないだろう」
質問をした剣士が用意していた言葉を飲み込んだような仕草をする。
続ける言葉が無いのかしばし間が空いたあとに一言絞り出した。
「……わかりました。ご説明ありがとうございます」
他の剣士たちもダンに向けて軽く頭を下げた。
ダンは長めの鼻息を出してから大きく息を吸い込んだ。
「こいつらが魔獣討伐を締めくくってくれたのだ。ぜひとも称えてやって欲しい!」
剣士たちの中から手を叩く音が聞こえ出す。
それはたちまち広がり、気づけば全員が拍手をしていた。
「みんなありがとう。これで俺たちの存在が大きいことを実感できたと思う。より一層の修練を頼むぞ!」
全員が揃って大きく声を上げた。
「おー!」
ダンは町長から握手を求められそれに答える。
その横ではエールタインがティベルダにウインクしてにっこりとほほ笑んだ。
それに答えようとティベルダは両目を瞑った。
「エール様……それ、できないです」
「あはは。両目で十分可愛いよ」
「できたらエール様が私のことを好きになってくれると思うので」
「ええ!? 好きだけど。いつも言っているじゃないか」
エールタインの腕をグイグイと引っ張るティベルダ。
「もっと、もっともっと、もっと! もっと好きになってください!」
「どうしたのさ。そんなに言わなくてもちゃんと大好きだって。討伐が怖かったのかな」
上目遣いでエールタインを見つめるティベルダ。
エールタインはティベルダからランタンを受け取って後ろ向きにしゃがむ。
あたかもランタンの調子が悪いようなフリをしながらティベルダを呼んだ。
「手伝ってくれる?」
「ランタンがどうかしましたか?」
ティベルダも主の傍にしゃがんだ。
すると主人は顔を従者に近づけて口角越しにキスをした。
「みんなが見ている前でするのは大変なんだよ。これで少しは納得してくれたかい?」
絶好調なランタンを直しているふりを続ける主人を見つめたままティベルダは慌てた。
「あ、は、あの……ここまでしてくれるなんて」
「だって、ティベルダが納得してくれないんだもん。血まみれだから臭いけど、するしかないじゃないか」
エールタインは立ち上がって元の姿勢に戻った。
目を見開いたままティベルダも姿勢を戻す。
主から持つように目の前へ出されたランタンを持ちしばし固まっていた。
「もう夜も更けている。今回はこれで終わりとしよう。皆も疲れただろうからゆっくり体を休めてくれ。では解散!」
ダンの言葉で締めくくられた今回の一件。
町が平穏へ戻っていくように剣士たちは自宅へと戻っていった。
「はっ。気に入らねえなあ。なんでお咎めなしで納得しちまっているんだよ。筋が通ってねえんだよなあ」
鐘楼前の広場をじっと眺めていたひとりの男。
今回の締めくくりに全員が納得したわけではないようだ。
荷車に乗せられたベーアの頭部と共に、ダン剣聖率いる小隊が町に戻った。
町民たちは家から恐る恐るのぞき見ている。
荷車が輪留めされると隊員たちは整列した。
出迎えた町長が拍手をしながらダンに歩み寄り、状況の説明に耳を傾ける。
「そうでしたか。何はともあれ全員無事に戻られたということが最大の功績でしょう! ダン様と剣士様方、本当にありがとうございます! 町は守られました」
町長の拍手はずっと止まなかった。
それに続くように剣士たちも拍手をし始め、お互いを労いだす。
全員の緊張が解けたのであろう。
町を守り切った十年前以来、戦争が起きていない。
守り切るだけの戦力を持った町として他の町や国から認知されていることもあり、平和に過ごすことが出来ている。
そのことが良くも悪くも剣士として実際の戦いを経験した者が少なくなった要因だ。
今では魔獣討伐も主なものが小型から中型までであり、人を殺めることはほぼ無い。
旅人の護衛の際、まれに対人戦が発生する程度だ。
そんな中で起きた今回の騒動。
剣士の町としては久しぶりに漂う戦の空気となった。
平和が長く続くことを願うも悲しいかな、戦いが無ければ剣士が成り立たないのである。
「なんだよ、あの血まみれな見習いは……ああ、ダン様の」
「そう。ダン様の弟子らしい」
「まだ見習いだよな。後衛じゃなかったのか?」
「のはずだが……」
ベーアの血を全身に浴び、一部を残して赤黒くなっているエールタイン。
隣にいるルイーサも足元に血しぶきの跡を付けている。
ランタンの灯りで浮かびあがるそれらの姿と染み付いた獣の臭いが漂っているのだから非常に目立つ。
剣士たちは徐々にエールタインたちの事が気になり始め、様々な意見を出し合っていた。
「ダン様、始まりましたよ」
「だな。苦情係までやらなければならんのか……剣聖というのも楽じゃないな」
「偉い人が苦労をすることで皆がまとまるのです」
「ええい、分かっている! ヘルマよ。最近助言の内容を変えていないか? 俺のことを知り尽くしているはずのお前のことだ。言わなくても分かっていることをワザと伝えているように思えるのは気のせいか?」
「私はいつもと同じでございます、ご主人様。さあ、皆の目がこちらに向き始めましたよ」
ダンは怪しいと言いたげな表情のまま剣士の集まりへと目線を向けた。
剣士の一人が意見を述べるために一歩前に出る。
それを確認したダンは剣士に向けてうなずき、発言を認める合図をした。
「僭越ながら申し上げます。そちらの二組のデュオは見習い剣士とお見受けしますが魔獣の血を浴びている様子。魔獣討伐に参加したと捉えてよろしいのでしょうか?」
ダンとヘルマが思った通りの質問を投げられた。
「うむ。当然の疑問だ、説明をしよう」
ダンは町長の横から二組の見習いデュオの横へと移動し、説明を始める。
「この者たちは討伐に参加した」
剣士たちがざわつく。
集まりの後方ではその言葉で知った者もいて、あちこちから疑問の声が聞こえ出した。
「もちろんこれには理由がある。隊員全員が休みなく攻撃をしていた。しかしこの魔獣は大型だ。こいつが倒れるより前に剣士たちが倒れる可能性が高くなっていた。そこで俺の従者に伝令を頼み、この者たちを呼んだというわけだ。選んだ理由は言うまでもないだろう」
質問をした剣士が用意していた言葉を飲み込んだような仕草をする。
続ける言葉が無いのかしばし間が空いたあとに一言絞り出した。
「……わかりました。ご説明ありがとうございます」
他の剣士たちもダンに向けて軽く頭を下げた。
ダンは長めの鼻息を出してから大きく息を吸い込んだ。
「こいつらが魔獣討伐を締めくくってくれたのだ。ぜひとも称えてやって欲しい!」
剣士たちの中から手を叩く音が聞こえ出す。
それはたちまち広がり、気づけば全員が拍手をしていた。
「みんなありがとう。これで俺たちの存在が大きいことを実感できたと思う。より一層の修練を頼むぞ!」
全員が揃って大きく声を上げた。
「おー!」
ダンは町長から握手を求められそれに答える。
その横ではエールタインがティベルダにウインクしてにっこりとほほ笑んだ。
それに答えようとティベルダは両目を瞑った。
「エール様……それ、できないです」
「あはは。両目で十分可愛いよ」
「できたらエール様が私のことを好きになってくれると思うので」
「ええ!? 好きだけど。いつも言っているじゃないか」
エールタインの腕をグイグイと引っ張るティベルダ。
「もっと、もっともっと、もっと! もっと好きになってください!」
「どうしたのさ。そんなに言わなくてもちゃんと大好きだって。討伐が怖かったのかな」
上目遣いでエールタインを見つめるティベルダ。
エールタインはティベルダからランタンを受け取って後ろ向きにしゃがむ。
あたかもランタンの調子が悪いようなフリをしながらティベルダを呼んだ。
「手伝ってくれる?」
「ランタンがどうかしましたか?」
ティベルダも主の傍にしゃがんだ。
すると主人は顔を従者に近づけて口角越しにキスをした。
「みんなが見ている前でするのは大変なんだよ。これで少しは納得してくれたかい?」
絶好調なランタンを直しているふりを続ける主人を見つめたままティベルダは慌てた。
「あ、は、あの……ここまでしてくれるなんて」
「だって、ティベルダが納得してくれないんだもん。血まみれだから臭いけど、するしかないじゃないか」
エールタインは立ち上がって元の姿勢に戻った。
目を見開いたままティベルダも姿勢を戻す。
主から持つように目の前へ出されたランタンを持ちしばし固まっていた。
「もう夜も更けている。今回はこれで終わりとしよう。皆も疲れただろうからゆっくり体を休めてくれ。では解散!」
ダンの言葉で締めくくられた今回の一件。
町が平穏へ戻っていくように剣士たちは自宅へと戻っていった。
「はっ。気に入らねえなあ。なんでお咎めなしで納得しちまっているんだよ。筋が通ってねえんだよなあ」
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