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第三章 平和のための戦い
第二十三話 溢れる気持ちの届け合い
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Szene-01 レアルプドルフ五番地区、地区道
ヴォルフにブーズの護衛を頼んだエールタインたち四人は、自宅に戻るところである。
ほっと胸をなで下ろしたヒルデガルドが言う。
「よかったですね、ヴォルフが協力してくれて」
「主人だと認めてからは、ヒルデガルドのために動くことを何よりも優先しているね」
ティベルダに腕を振る遊びをされながらエールタインが言った。ルイーサも続けて言う。
「ブーズでの巣ってどうしたらいいのか困っていたけれど、確かにあの子たちが探した方がいいわよね。納得いく場所はあの子たちが一番よく知っているのだから」
ルイーサの家が見えてくると、アムレットの仲間がいる茂みからゴソゴソとざわめくのが聞こえてきた。
「それじゃあね、エールタイン。次の指示に備えて待っているわ。アムレットか茂みの子たちに時々行かせるから、何かあればいつでも言ってちょうだいな」
「ありがと、とっても心強いよ」
主人同士と従者同士が各々挨拶を交わして自宅を目指す。
二人きりになった途端、ティベルダは振って遊んでいた主人の腕に抱き着いた。
「えへへ、やっとエール様を独占です」
「二人きりの時間は多いと思うけど、ティベルダは足りないの?」
「ずっと二人きりがいいですから……知っているのに聞くのはあ、言わせたかったってことですかあ?」
エールタインはティベルダの肩を抱き寄せると、頭を雑に撫でまわした。
「そうだよー。ボクもティベルダに言わせたい時があるんだ」
「どうしてですかあ?」
「あー、主人で遊ぶのをやめないんだね? 今日から一人で寝てもらうよー」
「べ、別にエール様がそれでいいなら私はご主人さまに従うだけです……わかりました、一人で寝るようにします」
エールタインはその場に止まり、撫でるのをやめてから両手でティベルダの頬を挟んだ。
ティベルダの両頬が盛り上がるのを見て、エールタインは軽く噴き笑いをした。
主人の反応を見て、ティベルダの顔には眉間のしわも追加された。
「ぷっ――よーし、それじゃあ今日から別々で寝よう」
エールタインが頬から手を離すと、ティベルダはブーツの紐を直すように地面へ片膝をついてみる。
「あ、ひもを直さなくっちゃ。全部ほどいてやり直し」
ぶつぶつ言いながら、ティベルダはタイツで隠されている脚の根元まで裾から出した。
エールタインは何をするのかとティベルダの様子を見ているが、主人の目線が脚へ向いていることにティベルダは気づく。
ブーツを直し終わったのか立ち上がり、腕まくりを始めるティベルダ。白くて細い腕が表に出された。
「どこかにぶつけたのかなあ、この辺に傷があったら治さなきゃ」
独り言を呟きながら、ティベルダは片腕を伸ばして二の腕の裏をのぞくような仕草をする。
エールタインが半笑いの呆れ顔で口を開いた。
「はあ――はいはい。そんな風にワザとらしく、それも外で肌を見せないように。ボクしかいないからいいけど」
「どうしたんですかあ? 私は気になるから見ただけですよお」
「むう、ティベルダが段々悪い子になっている気がするなあ。主人の愛情が伝わっていないのか、残念だなあ」
ティベルダが一瞬腰を下げてから、勢いをつけてエールタインの胸に飛び込んだ。
「エール様、大好きッ! ちゃんと相手してくれる素敵なご主人様!」
「あはは、ボクの勝ちだね」
「エール様には初めから負けています。思いっきり負けて、思いっきり愛してもらえたら幸せです」
ティベルダはエールタインの胸に顔を埋めたまま、幸せそうな顔が止まらない。
「まあ、ボクもティベルダに負けたから選んだのだろうね――いや、勝ち負けじゃなくてさ、会うべくして会ったってことにしない? たぶん、本当にそうだと思うし。だからこそ仲良く出来ていると思うんだ」
ティベルダが主人の胸から頭を上げて、エールタインの顔をうっとりと見つめる。
エールタインはそれに答えるように見下ろして、ティベルダの目をじっと見つめ返した。
「ティベルダの目はよく澄んでいてきれいだなあ。じーっと見ちゃう。でもさ、見てると青色がオレンジに変わって、紫色になるんだよね。いつも紫色になったなあってところで記憶がなくなっちゃう」
「……エール様の目もきれいだから、いつも見つめてしまいます。見ていると、この人は私だけのって気持ちが止まらなくなって――気づいたらもう、頭の中はむちゃくちゃになっています」
「無茶苦茶になっているんだ」
「はい。だから紫色と赤色の時って覚えていないし、調整できないんです」
エールタインはティベルダのおでこから前髪を上げて、顔がよく見えるようにする。
「これから二人でやることがいっぱい待っているはず。国の女王様にあったり、魔獣と一緒に戦うかもしれないし、人もたくさん消してしまうかもしれない。でもこれから起こることは全部二人でやっていくんだ。よろしくね」
「――はい」
エールタインとティベルダは、自宅が間近に見える道のど真ん中で、二人の時間に浸っていた。
ヴォルフにブーズの護衛を頼んだエールタインたち四人は、自宅に戻るところである。
ほっと胸をなで下ろしたヒルデガルドが言う。
「よかったですね、ヴォルフが協力してくれて」
「主人だと認めてからは、ヒルデガルドのために動くことを何よりも優先しているね」
ティベルダに腕を振る遊びをされながらエールタインが言った。ルイーサも続けて言う。
「ブーズでの巣ってどうしたらいいのか困っていたけれど、確かにあの子たちが探した方がいいわよね。納得いく場所はあの子たちが一番よく知っているのだから」
ルイーサの家が見えてくると、アムレットの仲間がいる茂みからゴソゴソとざわめくのが聞こえてきた。
「それじゃあね、エールタイン。次の指示に備えて待っているわ。アムレットか茂みの子たちに時々行かせるから、何かあればいつでも言ってちょうだいな」
「ありがと、とっても心強いよ」
主人同士と従者同士が各々挨拶を交わして自宅を目指す。
二人きりになった途端、ティベルダは振って遊んでいた主人の腕に抱き着いた。
「えへへ、やっとエール様を独占です」
「二人きりの時間は多いと思うけど、ティベルダは足りないの?」
「ずっと二人きりがいいですから……知っているのに聞くのはあ、言わせたかったってことですかあ?」
エールタインはティベルダの肩を抱き寄せると、頭を雑に撫でまわした。
「そうだよー。ボクもティベルダに言わせたい時があるんだ」
「どうしてですかあ?」
「あー、主人で遊ぶのをやめないんだね? 今日から一人で寝てもらうよー」
「べ、別にエール様がそれでいいなら私はご主人さまに従うだけです……わかりました、一人で寝るようにします」
エールタインはその場に止まり、撫でるのをやめてから両手でティベルダの頬を挟んだ。
ティベルダの両頬が盛り上がるのを見て、エールタインは軽く噴き笑いをした。
主人の反応を見て、ティベルダの顔には眉間のしわも追加された。
「ぷっ――よーし、それじゃあ今日から別々で寝よう」
エールタインが頬から手を離すと、ティベルダはブーツの紐を直すように地面へ片膝をついてみる。
「あ、ひもを直さなくっちゃ。全部ほどいてやり直し」
ぶつぶつ言いながら、ティベルダはタイツで隠されている脚の根元まで裾から出した。
エールタインは何をするのかとティベルダの様子を見ているが、主人の目線が脚へ向いていることにティベルダは気づく。
ブーツを直し終わったのか立ち上がり、腕まくりを始めるティベルダ。白くて細い腕が表に出された。
「どこかにぶつけたのかなあ、この辺に傷があったら治さなきゃ」
独り言を呟きながら、ティベルダは片腕を伸ばして二の腕の裏をのぞくような仕草をする。
エールタインが半笑いの呆れ顔で口を開いた。
「はあ――はいはい。そんな風にワザとらしく、それも外で肌を見せないように。ボクしかいないからいいけど」
「どうしたんですかあ? 私は気になるから見ただけですよお」
「むう、ティベルダが段々悪い子になっている気がするなあ。主人の愛情が伝わっていないのか、残念だなあ」
ティベルダが一瞬腰を下げてから、勢いをつけてエールタインの胸に飛び込んだ。
「エール様、大好きッ! ちゃんと相手してくれる素敵なご主人様!」
「あはは、ボクの勝ちだね」
「エール様には初めから負けています。思いっきり負けて、思いっきり愛してもらえたら幸せです」
ティベルダはエールタインの胸に顔を埋めたまま、幸せそうな顔が止まらない。
「まあ、ボクもティベルダに負けたから選んだのだろうね――いや、勝ち負けじゃなくてさ、会うべくして会ったってことにしない? たぶん、本当にそうだと思うし。だからこそ仲良く出来ていると思うんだ」
ティベルダが主人の胸から頭を上げて、エールタインの顔をうっとりと見つめる。
エールタインはそれに答えるように見下ろして、ティベルダの目をじっと見つめ返した。
「ティベルダの目はよく澄んでいてきれいだなあ。じーっと見ちゃう。でもさ、見てると青色がオレンジに変わって、紫色になるんだよね。いつも紫色になったなあってところで記憶がなくなっちゃう」
「……エール様の目もきれいだから、いつも見つめてしまいます。見ていると、この人は私だけのって気持ちが止まらなくなって――気づいたらもう、頭の中はむちゃくちゃになっています」
「無茶苦茶になっているんだ」
「はい。だから紫色と赤色の時って覚えていないし、調整できないんです」
エールタインはティベルダのおでこから前髪を上げて、顔がよく見えるようにする。
「これから二人でやることがいっぱい待っているはず。国の女王様にあったり、魔獣と一緒に戦うかもしれないし、人もたくさん消してしまうかもしれない。でもこれから起こることは全部二人でやっていくんだ。よろしくね」
「――はい」
エールタインとティベルダは、自宅が間近に見える道のど真ん中で、二人の時間に浸っていた。
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