ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第三章 平和のための戦い

第三十二話 進む仕込みと経験を積む弟子

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Szene-01 レアルプドルフ、鐘楼前

 カシカルド王国からの輸送隊は、レアルプドルフの町役場最寄りにある鐘楼前広場に到着した。
 衛兵や町民たちは、西門をくぐる時から普段見る行商人とは違う行列に目移りしていた。
 見慣れない容姿の兵士も相まって、いつもと違う光景を作り上げている。
 役場からは町長と受付係が鐘楼前で出迎えをするために待機しており、輸送隊の数名の兵士は迷わず行列から離れて挨拶をしに近づいた。
 町長と受付係は同時にお辞儀をして出迎える。初めに町長が口を開いた。

「私がレアルプドルフの町長です。長旅お疲れさまでした」
「我々はカシカルド王国の女王ローデリカ陛下より任を授かった者です。この度は貴町への贈り物として弓を運んでまいりました。ぜひ貴町の平穏維持に役立ててもらいたいと、陛下からの伝言であります」
「剣しか無い町としては大変心強い支援です、ありがたく頂戴します。とまあ固い話はこんなものでよろしいでしょう。荷の方はこちらの剣士が下ろします。宿を用意しておりますので、兵士の方々は普段陛下の思いつきに付き合って疲れている体を休ませてあげてください」

 輸送隊の面々から笑い声が漏れ、広場に響き渡った。

「はっはっは。陛下のことはよくご存じだと伺っていましたが、情報は正しいようですね。以前こちらの人材調査員も大変お世話になったと聞きます」
「いえいえ、こちらは何もしていませんよ。峠越えは誰であろうと厳しいもの。ただゆっくりしていただいただけです」

 町長はしわを寄せて笑みを浮かべ、受付係に後を任せる。

「それでは、こちらの柵を馬留めに使ってください。みなさんが揃いましたら宿へご案内します」

Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城

「こちらが届いた弓でございます」

 スクリアニア公は、輸送船が港へ到着しないことに苛立ちが募るばかり。
 スクリアニア所属の町にいる武具職人たちへ、質はどうあれとにかく大量に弓を用意しろという指示を出していた。
 家臣は届けられた弓の一山から一つを取り、スクリアニア公に見せた。
 スクリアニア公は家臣から奪うように弓を取り、端から端まで目を走らせると弦を一度弾いて言った。

「はっ、なんだこれは。舐められたものだな。これを作ったヤツは本当に職人なのか?」

 吐き捨てるように言うと、弓を振り上げて床に叩きつけた。

「ふんっ! これぐらいでは壊れないようだな。飛距離が知りたい。兵士に何度か射させて結果を伝えよ」
「かしこまりました」

 家臣は弓の山を抱えて、逃げるようにその場を去った。

「矢が飛ばなければ意味がない――ザラ、ザラはいるか?」

 ザラ――スクリアニア公の夫人である。十年前のブーズ襲撃の際、奴隷漁りをしようと兵士に紛れて物色していたスクリアニア公は、逃げ遅れたザラを見つけて連れ去る。
 この時ザラは十六歳。東地区出身だが、能力の開花はしていなかった。
 技術も剣士の元へ送り出すには足りないからと、ブーズに残って修練中の身であったが、運悪く連れ去られてそのままスクリアニア公の夫人となり、子を二人生んだ。

「お呼びいたします」
「くっ、あいつは俺が呼んだらすぐ来るぐらいできんのか? 奴隷を公爵夫人にしてやったというのに、なんの能力も出さぬし。他のヤツを探しに出るか」

Szene-03 ハマンルソス山脈、街道峠野営地

 カシカルドへ向かうダン一行は、峠の野営地に建っている朽ちかけた小屋で一泊した。
 ランタンや証石で灯りはなんとかなるが、暖を取ることが難しい。そのため、全員が体を寄せて眠っていた。
 未明になって夜通し吹き続けた風が止み、耳障りに感じるほどの静けさが訪れる。
 耳が静寂を嫌ったのか、ルイーサは目を覚ましてしまった。

「静か過ぎる……それにとても寒いわ。旅人はこんな思いをして移動しているのね」

 ルイーサは一人呟いてから、目の前にいるヒルデガルドに抱いている背中越しに声をかけてみた。

「ねえヒルデ、起きてる?」
「……はい、つい先ほど静か過ぎて起きました」
「そう。寒くない?」
「いつもと変わらずルイーサ様に背中を抱かれているので、大丈夫です」
「アムレットは?」

 アムレットにとっても峠は初めてだ。普段来るところではない。ルイーサが心配をするのは当然と言える。
 ヒルデガルドが言う。

「鞄の中で、アムレットのために用意したストールにくるまっていますし、私とティベルダの間にいると安心して眠れているようです」
「眠っているの?」
「はい。眠る前にティベルダの髪の毛に顔を潜らせていたら、そのまま寝てしまいました」

 そのティベルダはエールタインの背中を抱いて眠っている。エールタインに接触していることと寒さがきっかけとなって、ヒールを発動していたのだろう。
 そしてエールタインはダンの背中に軽く片手を触れて眠っている。
 ダンの前には向き合ってヘルマが横たわり、その背中をヨハナが抱いていた。ダンを起点にストールを被った円を形作っていた。
 ルイーサは徐々に覚めていく目で、全員の様子を確認した。

「この人たちの仲間になれたのね。なんだか不思議な感じ。今は隣国の王に会いに行こうとしているし、剣士としての案件をろくにこなしていないのにね」
「いいえルイーサ様。この方たちと町に貢献しているではないですか。大きな案件をこなされていると思います」
「そうね、あなたの言う通りだわ。役場で受ける案件とは毛色が違うだけ――とは言っても、比べ物にならないほど大きな案件ばかりだけどね」

 ルイーサとヒルデガルドは同じ感覚を共有したようで、同時にクスクスと笑う。
 皆を起こすまいと声を殺しているつもりの二人だが、傭兵を経験した上に剣聖にまで上り詰めたダンが起きていないわけがない。
 二人の話を聞いてにやりとした笑みを浮かべている。その剣聖の従者ヘルマも同じ場数を踏んできた戦いのベテランだ。ダンと同じく寝を浅くして見張るよう訓練されている。
 ルイーサとヒルデガルドの話を聞きながら、ダンと目を合わせて笑みを浮かべていた。
 ちなみに、ティベルダとヨハナは安心しきって眠っているが、エールタインは起きていた。
 常にダンの様子を見て、初めての環境における動きを習得しようと、剣聖の弟子らしく静かに自主修練をしていた。
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