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第三章 平和のための戦い
第三十七話 こみ上げる感情
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Szene-01 カシカルド王国、カシカルド城廊下
複数の門番に引率されて城を周回するように敷かれた道を歩き、ようやく居館にたどり着いたダン一行。
次に出迎えたのは体格のよい秘書官である。
「ようこそカシカルドへ。陛下がお待ちかねですので、王室までもう少しだけ歩いていただけますか?」
「ははは、待ちかねているのか。時々届く手紙でも変わらないヤツだとは思っていたが、どうやら本当に変わっていないようだ――いまさらあいつを変えるような出来事は無いだろうがな」
秘書官は自分よりもローデリカをよく知る人物に初めて出会い、目を見開いている。
さらにダンの隣にいるヘルマも従者とは思えない堂々とした立ち姿でありながら、主人を立てる雰囲気をさりげなく漂わせる様子にも驚いているようだ。
「で、ではこちらへ」
秘書官を先頭にダン一行が居館へと入る。エールタインとティベルダは、つないでいる手の握りをどちらからともなく強くした。
「当然だけど、役場とは違うね。門番さんの目力が強くて威圧感に驚いたし、この建物の空気がまた違う。妙に気合が入っちゃうよ」
「エール様がいなかったら私はとっくに倒れていそうです。私なんかが来てもいいのでしょうか。場違いな気がして落ち着きません」
エールタインとティベルダの前を歩くヘルマが振り返り、ティベルダに言う。
「あらティベルダ、今回はエール様とあなたが招待された主役よ。こういう時はね、堂々としたもの勝ち。とにかく胸を張って、王様より姿勢をよくするの。王様の出す独特な圧力に飲まれないようにね」
「はい! ではヘルマさんの真似をします!」
エールタインと最後尾にいるヨハナがプッと吹き出し笑いをした。
「ははは、それなら間違いないや。ボクもカッコよくして、ティベルダに先を越されないようにしないと」
「私の方が先にカッコよくなっちゃいます!」
「いいや、ボクだね」
ヘルマは振り返りをやめて呟いた。
「これって、私は褒められているのかしら」
隣にいるダンがヘルマのつぶやきに答える。
「そりゃあ褒めるだろ。あいつらは、町で有名な可愛い子だぞ。俺が自慢しているのは知っているだろ? あいつらには内緒だが。そんなやつらが手本にしているのはお前、ヘルマだ。自信持ってくれよ、あいつら云々のまえに俺の従者やってんだからよ」
「――ダンさま!?」
ヘルマが胸に手を当てて少しうつむいたのをヨハナは見逃さなかった。
「ヘルマ、もうあの人に会うのよ。平常心、忘れないで」
「そ、そんなこと言ってもダン様が――」
ヨハナの言った通り王室扉の前に到着し、秘書官が言う。
「こちらが王室となっております。ただいまから陛下とお会いしていただきますが、よろしいですか?」
「ああ、かまわんよ。ここまできたら何を準備しようが、入ればあっちの話に付き合うだけになる」
「――それでは」
秘書官は苦笑いを浮かべつつ、扉を叩く。
Szene-02 カシカルド城、王室
「陛下、お連れしました」
「い、い、いいぞ」
歯切れの悪い返事が王室の扉によってこもった声になり廊下に届くと、秘書官がゆっくりと扉を開けた。
扉が開かれる寸前まで落ち着きが無かったローデリカは、廊下から聞こえてくる声と足音に加えて人数なりの気配を感じて、最終的に椅子に座るという選択をしたようだ。
秘書官は、一般的に王室という部屋名から想像するものとは違って、必要最低限の広さと生活道具が置かれた部屋の奥へ入るように一行へ促す。
招かれた七人の剣士と従者はぞろぞろと入り、横一列に並んだ。
ローデリカは席を立ってゆっくり一行の前へと移動する。向かって右側に立つダンへと近寄り、目の前で立ち止まった。
「ダン!」
ローデリカは突然ダンの名を口にして、厚い胸板目がけて足を浮かすほどの勢いで飛び込んだ。
ダンはただ受け止めることしか出来ず、倒れないように半歩だけ足を下げて踏ん張った。
「おい、あぶね――」
「うう、ダンだあ! 相変わらずがっちりしているね。まだ飛び付いても大丈夫じゃん。さっすがダン! アウフはたまに倒れちゃったよね。ダンは一度も倒れなかったから頼りになるなあ」
ダンとヘルマ、それにヨハナは呆れ顔でローデリカを見ているが、他国の女王に会うからと緊張していたエールタインとルイーサの組四人はキョトン顔になるのが精いっぱいだった。
「お前も全然変わってないじゃねえか。毎度顔みりゃ飛びつきやがって、こっちの身にもなってみろと何度言えば――」
「へえ、今でもそうなんだ。うれしい、すごく嬉しいよ。ダンの熱が冷めていたら寂しいなって思っていたから」
ダンは頭の後ろを掻きながら、まだ抱き着いているローデリカに言う。
「叶わねえ想いを続けさせるんじゃねえよ。少しは男の気持ちを考えろって」
「私、男じゃないからわかんないもん。ダンにも想っていて欲しい、それはなぜでしょうか?」
「だからよお、それを俺に言わせるなと言い続けて来ただろう。心をえぐられるんだよ、まったくひでえ女だ」
「えー……ダンってさ、体は頑丈なのに心が弱いよね。そこかなあ、一歩足りないところ」
「お前なあ――もういい、他の者が引いているぞ」
「あ――ごめんなさい」
ダンに言われるまで気付かなかったローデリカは、真っ赤な顔をしてダンを除いた六人に軽く会釈をした。
複数の門番に引率されて城を周回するように敷かれた道を歩き、ようやく居館にたどり着いたダン一行。
次に出迎えたのは体格のよい秘書官である。
「ようこそカシカルドへ。陛下がお待ちかねですので、王室までもう少しだけ歩いていただけますか?」
「ははは、待ちかねているのか。時々届く手紙でも変わらないヤツだとは思っていたが、どうやら本当に変わっていないようだ――いまさらあいつを変えるような出来事は無いだろうがな」
秘書官は自分よりもローデリカをよく知る人物に初めて出会い、目を見開いている。
さらにダンの隣にいるヘルマも従者とは思えない堂々とした立ち姿でありながら、主人を立てる雰囲気をさりげなく漂わせる様子にも驚いているようだ。
「で、ではこちらへ」
秘書官を先頭にダン一行が居館へと入る。エールタインとティベルダは、つないでいる手の握りをどちらからともなく強くした。
「当然だけど、役場とは違うね。門番さんの目力が強くて威圧感に驚いたし、この建物の空気がまた違う。妙に気合が入っちゃうよ」
「エール様がいなかったら私はとっくに倒れていそうです。私なんかが来てもいいのでしょうか。場違いな気がして落ち着きません」
エールタインとティベルダの前を歩くヘルマが振り返り、ティベルダに言う。
「あらティベルダ、今回はエール様とあなたが招待された主役よ。こういう時はね、堂々としたもの勝ち。とにかく胸を張って、王様より姿勢をよくするの。王様の出す独特な圧力に飲まれないようにね」
「はい! ではヘルマさんの真似をします!」
エールタインと最後尾にいるヨハナがプッと吹き出し笑いをした。
「ははは、それなら間違いないや。ボクもカッコよくして、ティベルダに先を越されないようにしないと」
「私の方が先にカッコよくなっちゃいます!」
「いいや、ボクだね」
ヘルマは振り返りをやめて呟いた。
「これって、私は褒められているのかしら」
隣にいるダンがヘルマのつぶやきに答える。
「そりゃあ褒めるだろ。あいつらは、町で有名な可愛い子だぞ。俺が自慢しているのは知っているだろ? あいつらには内緒だが。そんなやつらが手本にしているのはお前、ヘルマだ。自信持ってくれよ、あいつら云々のまえに俺の従者やってんだからよ」
「――ダンさま!?」
ヘルマが胸に手を当てて少しうつむいたのをヨハナは見逃さなかった。
「ヘルマ、もうあの人に会うのよ。平常心、忘れないで」
「そ、そんなこと言ってもダン様が――」
ヨハナの言った通り王室扉の前に到着し、秘書官が言う。
「こちらが王室となっております。ただいまから陛下とお会いしていただきますが、よろしいですか?」
「ああ、かまわんよ。ここまできたら何を準備しようが、入ればあっちの話に付き合うだけになる」
「――それでは」
秘書官は苦笑いを浮かべつつ、扉を叩く。
Szene-02 カシカルド城、王室
「陛下、お連れしました」
「い、い、いいぞ」
歯切れの悪い返事が王室の扉によってこもった声になり廊下に届くと、秘書官がゆっくりと扉を開けた。
扉が開かれる寸前まで落ち着きが無かったローデリカは、廊下から聞こえてくる声と足音に加えて人数なりの気配を感じて、最終的に椅子に座るという選択をしたようだ。
秘書官は、一般的に王室という部屋名から想像するものとは違って、必要最低限の広さと生活道具が置かれた部屋の奥へ入るように一行へ促す。
招かれた七人の剣士と従者はぞろぞろと入り、横一列に並んだ。
ローデリカは席を立ってゆっくり一行の前へと移動する。向かって右側に立つダンへと近寄り、目の前で立ち止まった。
「ダン!」
ローデリカは突然ダンの名を口にして、厚い胸板目がけて足を浮かすほどの勢いで飛び込んだ。
ダンはただ受け止めることしか出来ず、倒れないように半歩だけ足を下げて踏ん張った。
「おい、あぶね――」
「うう、ダンだあ! 相変わらずがっちりしているね。まだ飛び付いても大丈夫じゃん。さっすがダン! アウフはたまに倒れちゃったよね。ダンは一度も倒れなかったから頼りになるなあ」
ダンとヘルマ、それにヨハナは呆れ顔でローデリカを見ているが、他国の女王に会うからと緊張していたエールタインとルイーサの組四人はキョトン顔になるのが精いっぱいだった。
「お前も全然変わってないじゃねえか。毎度顔みりゃ飛びつきやがって、こっちの身にもなってみろと何度言えば――」
「へえ、今でもそうなんだ。うれしい、すごく嬉しいよ。ダンの熱が冷めていたら寂しいなって思っていたから」
ダンは頭の後ろを掻きながら、まだ抱き着いているローデリカに言う。
「叶わねえ想いを続けさせるんじゃねえよ。少しは男の気持ちを考えろって」
「私、男じゃないからわかんないもん。ダンにも想っていて欲しい、それはなぜでしょうか?」
「だからよお、それを俺に言わせるなと言い続けて来ただろう。心をえぐられるんだよ、まったくひでえ女だ」
「えー……ダンってさ、体は頑丈なのに心が弱いよね。そこかなあ、一歩足りないところ」
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