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第三章 平和のための戦い
第五十一話 気付く者、気付かざる者
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Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城門前
海賊の居場所が特定されたという報告を受けたスクリアニア公は、傭兵として雇うために海賊の元へ向かうところだ。
「閣下自ら海賊に会うのは大変危険なことかと思われますが」
「ではお前が交渉出来るのか? 怯むだけで何もできずに帰って来るだけであろう。ならば俺が直接会うしかあるまい」
返す言葉の無くなった執事は、スクリアニア公が乗った馬から離れる。後ろに続く兵士数名と共に去ってゆく主の背中を見送りながらつぶやいた。
「あなたとその護衛が不在の城は、どのような状況かお分かりではないのですね。直接歩くより幾分マシな程度の馬では何日かかることやら。他国やあなたに良からぬ感情を持った民にとっては好機です――いえ、私からは何も言いませんよ。ただ気付かれたらどうなるか、というお話です」
執事は主に伝えたい言葉を吐き出し、深々と礼をしてからヴェルム城内へと戻った。
Szene-02 ハマンルソス山脈、街道峠野営地
ローデリカとの対面を済まし、カシカルド城を後にしたダン一行。再び徒歩による山越えに挑んでいるところだ。
峠の野営地に到着すると、ティベルダは何度も振り返って目を細めている。
「どうしたの、ティベルダ。何か気になることがあるの?」
「エール様、夕焼けが暗くなってしまいました。とても綺麗だったのに」
エールタインは、残念そうに眉尻を下げてぼーっと立ち尽くすティベルダへと近寄る。
「レアルプドルフはこの山脈があるから、夕焼けがほぼ見られないもんね。そっか、目に焼き付けていたのか」
エールタインはティベルダが下げた眉毛に指で触れると軽くなぞった。そのまま頭へと手を運ぶとゆっくり撫でながら言う。
「きれいだったね。町の外には出たことが無いから新鮮なことばかりだったなあ。これをみんなと一緒に経験していることがとても幸せで、大切な人たちなんだと改めて思ったよ」
「そうですね。私はエール様がそばにいないと幸せを感じませんけれど。それでもみなさんと一緒に旅をしていることはとても楽しいです!」
「んー、ティベルダはボクがいないと幸せを感じられないのかあ。うれしいけどさ、少しもったいないような気もするよ」
「どうしてですか? まずエール様がいて、次に幸せですよ。私はエール様に身を捧げたのですから、エール様がいなければ話は始まりません!」
ティベルダの眉はきりっと吊り上がったが、エールタインの眉尻が下がってしまった。
二人がやりとりしているそばでは、ルイーサが片足の踵を軸にして地面をコツコツと鳴らしていた。
「はあ、もう!」
「ルイーサ様、ダン様もご一緒なのですから落ち着いてください」
「落ち着いているわ。ほら、ちゃんとじっとしているじゃない」
「コツコツと音がするのですが」
「靴が地に触れれば音はする。何も不思議は無いわ」
ヒルデガルドは主人を満喫すると、腰鞄の一つを外してアムレットの防寒具合を確認した。
「尻尾に抱き着いているし、ストールも巻いてあるから大丈夫ね。寒い所に付き合わせてごめんなさい」
ヒルデガルドは、アムレットの小ぶりな前足を人差し指で触っておやすみの挨拶代わりにした。
「ん? 私との話を中断して何を――アムレットが寝ているのね。温かくしてあげた?」
「はい、この通り。ルイーサ様も手に触ってあげてください」
「あら、そう――しかたないわね」
ルイーサもヒルデガルドが触ったアムレットの前足に人差し指で触った。
「かわいい! ――じゃないの。もうフタを閉じてあげて」
ヒルデガルドは笑いをこらえながら鞄のフタを閉じた。
二組の少女デュオがそれぞれ楽しんでいるところで、ダンがひと声かける。
「よし、ひと眠りすれば次は家だ。帰ってから何かと忙しいだろうが、今何か出来るわけじゃない。この夜はあまり考えずゆっくり休んでくれ。まあ、寒いからどれだけ寝られるかわからんが」
雪や氷が所々にある野営地でゆっくり過ごすのは厳しい話だ。それでも頭の中を空っぽに出来る時間とは言える。
行きと同じく全員が円になるように横たわり、眠りに就いた。
海賊の居場所が特定されたという報告を受けたスクリアニア公は、傭兵として雇うために海賊の元へ向かうところだ。
「閣下自ら海賊に会うのは大変危険なことかと思われますが」
「ではお前が交渉出来るのか? 怯むだけで何もできずに帰って来るだけであろう。ならば俺が直接会うしかあるまい」
返す言葉の無くなった執事は、スクリアニア公が乗った馬から離れる。後ろに続く兵士数名と共に去ってゆく主の背中を見送りながらつぶやいた。
「あなたとその護衛が不在の城は、どのような状況かお分かりではないのですね。直接歩くより幾分マシな程度の馬では何日かかることやら。他国やあなたに良からぬ感情を持った民にとっては好機です――いえ、私からは何も言いませんよ。ただ気付かれたらどうなるか、というお話です」
執事は主に伝えたい言葉を吐き出し、深々と礼をしてからヴェルム城内へと戻った。
Szene-02 ハマンルソス山脈、街道峠野営地
ローデリカとの対面を済まし、カシカルド城を後にしたダン一行。再び徒歩による山越えに挑んでいるところだ。
峠の野営地に到着すると、ティベルダは何度も振り返って目を細めている。
「どうしたの、ティベルダ。何か気になることがあるの?」
「エール様、夕焼けが暗くなってしまいました。とても綺麗だったのに」
エールタインは、残念そうに眉尻を下げてぼーっと立ち尽くすティベルダへと近寄る。
「レアルプドルフはこの山脈があるから、夕焼けがほぼ見られないもんね。そっか、目に焼き付けていたのか」
エールタインはティベルダが下げた眉毛に指で触れると軽くなぞった。そのまま頭へと手を運ぶとゆっくり撫でながら言う。
「きれいだったね。町の外には出たことが無いから新鮮なことばかりだったなあ。これをみんなと一緒に経験していることがとても幸せで、大切な人たちなんだと改めて思ったよ」
「そうですね。私はエール様がそばにいないと幸せを感じませんけれど。それでもみなさんと一緒に旅をしていることはとても楽しいです!」
「んー、ティベルダはボクがいないと幸せを感じられないのかあ。うれしいけどさ、少しもったいないような気もするよ」
「どうしてですか? まずエール様がいて、次に幸せですよ。私はエール様に身を捧げたのですから、エール様がいなければ話は始まりません!」
ティベルダの眉はきりっと吊り上がったが、エールタインの眉尻が下がってしまった。
二人がやりとりしているそばでは、ルイーサが片足の踵を軸にして地面をコツコツと鳴らしていた。
「はあ、もう!」
「ルイーサ様、ダン様もご一緒なのですから落ち着いてください」
「落ち着いているわ。ほら、ちゃんとじっとしているじゃない」
「コツコツと音がするのですが」
「靴が地に触れれば音はする。何も不思議は無いわ」
ヒルデガルドは主人を満喫すると、腰鞄の一つを外してアムレットの防寒具合を確認した。
「尻尾に抱き着いているし、ストールも巻いてあるから大丈夫ね。寒い所に付き合わせてごめんなさい」
ヒルデガルドは、アムレットの小ぶりな前足を人差し指で触っておやすみの挨拶代わりにした。
「ん? 私との話を中断して何を――アムレットが寝ているのね。温かくしてあげた?」
「はい、この通り。ルイーサ様も手に触ってあげてください」
「あら、そう――しかたないわね」
ルイーサもヒルデガルドが触ったアムレットの前足に人差し指で触った。
「かわいい! ――じゃないの。もうフタを閉じてあげて」
ヒルデガルドは笑いをこらえながら鞄のフタを閉じた。
二組の少女デュオがそれぞれ楽しんでいるところで、ダンがひと声かける。
「よし、ひと眠りすれば次は家だ。帰ってから何かと忙しいだろうが、今何か出来るわけじゃない。この夜はあまり考えずゆっくり休んでくれ。まあ、寒いからどれだけ寝られるかわからんが」
雪や氷が所々にある野営地でゆっくり過ごすのは厳しい話だ。それでも頭の中を空っぽに出来る時間とは言える。
行きと同じく全員が円になるように横たわり、眠りに就いた。
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