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第四章 ボクたちの町
第二十三話 治癒
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Szene-01 レアルプドルフ、ブーズ東地区
ザラの追手を一瞬で消し去ったティベルダは、ヴォルフと共にエールタインの元へ向かった。
ヴォルフは、茂みに隠れるように作られた町壁の出入り口へとティベルダを連れて来た。
背が伸び切っていないティベルダでも潜らなければ通ることが出来ない高さの出入り口を入ると、町壁が鋭角に曲がった隅で一人の男と横たわる少女がティベルダの目に入った。
「エール様!」
再びヴォルフと共に走り、エールタインと武具屋の束ね役の傍に着く。
「待ってましたぜ。矢は折ってありやす。血止めのために、体には布を巻いておきやした」
ティベルダは、バースト・レイジを発動した後とは思えない落ち着きで束ね役に深々と礼をした。
「ご主人様を助けてくださってありがとうございます!」
「いや、俺は止血をしただけで。それより、この矢は毒矢。見ての通り顔色が悪くなる一方なんで、能力ってやつで何とかして差し上げてくだせえ」
「毒!?」
「ヒールとかってのなら治せるんすよね? 本当に治せるんなら早く矢を抜いて処置を」
ティベルダはその場で膝を下ろし、四つん這いでエールタインに近づいた。
束ね役は立ち上がってティベルダに場所を譲り、手に付いた血を布で拭いて言った。
「あとは任せやしたぜ。すぐに剣士様も来るでしょうしね。では」
束ね役の去る足音は壁の扉を出ると聞こえなくなった。ヴォルフはエールタインから一歩間を置いた場所で地に体を下ろし、二人の様子を伺う。
「エール様――体を張ってザラさんをお守りになったこと、とても素敵ですけれど私は苦しいばかりです。でも今のエール様は毒でもっと苦しいはず。その苦しさは私が取り払うので、治ったらいっぱい可愛がってくださいね。約束ですよ」
ほぼ気を失っているエールタインに話しかけながら、ティベルダは目をオレンジ色に変え、片手を傷に当てる。
ほんのりオレンジ色の光を発すると、もう片方の手で矢を抜いてゆく。
「――う、うぐ」
「痛みを無くすことができなくてごめんなさい。でも矢が抜けてしまえばあとは治るのを待つだけですからね。私がついています」
ティベルダは矢が作った傷口に当てる手を両手にしてかざす。
地面に伏せているヴォルフは、傷口がオレンジ色の光に照らされているのをじっと見つめている。
「エール様のことが心配なの? 私がちゃんと治すから安心して。だって、エール様は私の大事な人だもの」
ヴォルフはティベルダの話を聞き終わると、前足の上に顎を乗せてエールタインを見守る。
ティベルダの両手から放たれるオレンジ色の光が弱まり、ヴォルフが軽く頭を上げた。
「そっかあ……私、能力を使った後だから力が無くなってるんだね」
ヴォルフが小さく悲しげな鳴き声を発し、改めて前足に顎を乗せる。
「でも大丈夫。エール様、許しを得ずにしてしまうことをお許しください」
ティベルダは、所々紫色に変色したエールタインの顔にある一部分に目線を集中した。
「ヒールではなくて、これで起きてくれたら嬉しいんだけどなあ」
目線を向けられているエールタインの唇に自身の唇を重ねて微笑むティベルダ。
その姿を見ているヴォルフはゆっくりと瞼を閉じ、壁沿いでも流れる風が体毛を撫でて揺れていることに意識を向けた。
ティベルダの両手から放たれている光は徐々に力を増し、オレンジ色が温かさを感じさせたのか、ヴォルフが再び二人の様子を見る。
ティベルダはおもむろに上半身を上げると、ヴォルフへ振り返って言う。
「こうしてずっと手をかざしていれば治るよ。もしかしたら、私はこの時が一番幸せなのかも。あはっ、エール様に怒られちゃうね。ボクが苦しんでいる方が幸せなの? って。早くそんな風にお話がしたいな」
ティベルダの目は、周りをオレンジ色に照らしてしまうのではないかと思う程に光力を増していた。
Szene-02 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川東岸
「おい、これは」
「聞いてはいたが、発動後はこうなっちまうのか」
レアルプドルフのザラ救援部隊の一班が、ブーズ北東部の守りのために移動中、ティベルダによって消されたスクリアニア兵たちの無残な姿なき状況を目にした。
血の海に散らばる布切れや武器の一部を見渡して絶句していたが、血の臭いが行動に移させる。
「この臭いは魔獣討伐以来だな。決して長く嗅ぐものではない――だが俺たち剣士は体にこの臭いをしっかりと覚え込ませておかないと、いざ戦いとなった時に敵ではなく、吐き気に負けてしまうことになる」
「嗅ぐ側でいるためには必要な耐性か。大きな国ではこれを毎日のように体験しているんだよな。レアルプドルフが平和な町なんだと実感する」
「まったくだ。その平和を守って、美味い酒を飲めるようにしないとな」
「エールタインは大丈夫かな」
「あ、お前上級剣士様を呼び捨てにしたな」
「俺たちだけの時ぐらい構わないだろ?」
「いいや、許されないね。回復したらエールタイン様に伝えておかねえとな」
「やめてくれよ! 俺は純粋にだな――」
からかっている剣士は笑顔から真顔に戻り、真面目に答えた。
「ティベルダが手当てをしているはずだ。これだけの能力を使えるんだから、彼女を信じるしかないだろう」
「――だな」
血の海を前に会話が弾んでしまった剣士たちは、改めて凄惨な光景をちらりと見てからスクリアニアとの境を目指して川岸から森の中へと入った。
ザラの追手を一瞬で消し去ったティベルダは、ヴォルフと共にエールタインの元へ向かった。
ヴォルフは、茂みに隠れるように作られた町壁の出入り口へとティベルダを連れて来た。
背が伸び切っていないティベルダでも潜らなければ通ることが出来ない高さの出入り口を入ると、町壁が鋭角に曲がった隅で一人の男と横たわる少女がティベルダの目に入った。
「エール様!」
再びヴォルフと共に走り、エールタインと武具屋の束ね役の傍に着く。
「待ってましたぜ。矢は折ってありやす。血止めのために、体には布を巻いておきやした」
ティベルダは、バースト・レイジを発動した後とは思えない落ち着きで束ね役に深々と礼をした。
「ご主人様を助けてくださってありがとうございます!」
「いや、俺は止血をしただけで。それより、この矢は毒矢。見ての通り顔色が悪くなる一方なんで、能力ってやつで何とかして差し上げてくだせえ」
「毒!?」
「ヒールとかってのなら治せるんすよね? 本当に治せるんなら早く矢を抜いて処置を」
ティベルダはその場で膝を下ろし、四つん這いでエールタインに近づいた。
束ね役は立ち上がってティベルダに場所を譲り、手に付いた血を布で拭いて言った。
「あとは任せやしたぜ。すぐに剣士様も来るでしょうしね。では」
束ね役の去る足音は壁の扉を出ると聞こえなくなった。ヴォルフはエールタインから一歩間を置いた場所で地に体を下ろし、二人の様子を伺う。
「エール様――体を張ってザラさんをお守りになったこと、とても素敵ですけれど私は苦しいばかりです。でも今のエール様は毒でもっと苦しいはず。その苦しさは私が取り払うので、治ったらいっぱい可愛がってくださいね。約束ですよ」
ほぼ気を失っているエールタインに話しかけながら、ティベルダは目をオレンジ色に変え、片手を傷に当てる。
ほんのりオレンジ色の光を発すると、もう片方の手で矢を抜いてゆく。
「――う、うぐ」
「痛みを無くすことができなくてごめんなさい。でも矢が抜けてしまえばあとは治るのを待つだけですからね。私がついています」
ティベルダは矢が作った傷口に当てる手を両手にしてかざす。
地面に伏せているヴォルフは、傷口がオレンジ色の光に照らされているのをじっと見つめている。
「エール様のことが心配なの? 私がちゃんと治すから安心して。だって、エール様は私の大事な人だもの」
ヴォルフはティベルダの話を聞き終わると、前足の上に顎を乗せてエールタインを見守る。
ティベルダの両手から放たれるオレンジ色の光が弱まり、ヴォルフが軽く頭を上げた。
「そっかあ……私、能力を使った後だから力が無くなってるんだね」
ヴォルフが小さく悲しげな鳴き声を発し、改めて前足に顎を乗せる。
「でも大丈夫。エール様、許しを得ずにしてしまうことをお許しください」
ティベルダは、所々紫色に変色したエールタインの顔にある一部分に目線を集中した。
「ヒールではなくて、これで起きてくれたら嬉しいんだけどなあ」
目線を向けられているエールタインの唇に自身の唇を重ねて微笑むティベルダ。
その姿を見ているヴォルフはゆっくりと瞼を閉じ、壁沿いでも流れる風が体毛を撫でて揺れていることに意識を向けた。
ティベルダの両手から放たれている光は徐々に力を増し、オレンジ色が温かさを感じさせたのか、ヴォルフが再び二人の様子を見る。
ティベルダはおもむろに上半身を上げると、ヴォルフへ振り返って言う。
「こうしてずっと手をかざしていれば治るよ。もしかしたら、私はこの時が一番幸せなのかも。あはっ、エール様に怒られちゃうね。ボクが苦しんでいる方が幸せなの? って。早くそんな風にお話がしたいな」
ティベルダの目は、周りをオレンジ色に照らしてしまうのではないかと思う程に光力を増していた。
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「おい、これは」
「聞いてはいたが、発動後はこうなっちまうのか」
レアルプドルフのザラ救援部隊の一班が、ブーズ北東部の守りのために移動中、ティベルダによって消されたスクリアニア兵たちの無残な姿なき状況を目にした。
血の海に散らばる布切れや武器の一部を見渡して絶句していたが、血の臭いが行動に移させる。
「この臭いは魔獣討伐以来だな。決して長く嗅ぐものではない――だが俺たち剣士は体にこの臭いをしっかりと覚え込ませておかないと、いざ戦いとなった時に敵ではなく、吐き気に負けてしまうことになる」
「嗅ぐ側でいるためには必要な耐性か。大きな国ではこれを毎日のように体験しているんだよな。レアルプドルフが平和な町なんだと実感する」
「まったくだ。その平和を守って、美味い酒を飲めるようにしないとな」
「エールタインは大丈夫かな」
「あ、お前上級剣士様を呼び捨てにしたな」
「俺たちだけの時ぐらい構わないだろ?」
「いいや、許されないね。回復したらエールタイン様に伝えておかねえとな」
「やめてくれよ! 俺は純粋にだな――」
からかっている剣士は笑顔から真顔に戻り、真面目に答えた。
「ティベルダが手当てをしているはずだ。これだけの能力を使えるんだから、彼女を信じるしかないだろう」
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