ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第四十七話 合流

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Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城敷地内

 門番に始まり、一歩進む度に出て来る常駐兵も数頭のヴォルフによる威嚇に阻まれ、エールタインたちへ手を出せずにいた。
 ヴェルム城の居館へと続く道を進むエールタインと、短剣を向けられたままの兵士は歩く時間の中でスクリアニア公国に所属する町における生活について話をし、半ば打ち解けつつあった。
 エールタインと兵士の密着している状況が不愉快だったティベルダは、主人の口調が柔らかいものに変わっていく様子に合わせるように、普段の表情へと戻っていた。
 ティベルダの機嫌の悪さが気になっていたルイーサは、いつか能力が暴発するのではとヴェルム城の兵士が向かって来ることよりも危惧していた。

「ふう、ティベルダは落ち着いたようね」
「心配していたのですか?」
「これまでのことを間近で見てきた者としては、気にしないわけないじゃない。あの子はこちらが言うより先に動いてしまう子なのだから……あ、エールタインもそうだったわ」
「ふふふ」
「主人に似ていただけなのかしらね。まったく、色んな意味でずっと見続けさせるんだから」

 ルイーサから一歩下がって歩いていたヒルデガルドは、ツツツっと真横に追いついて話を続ける。

「全然困っているように見えませんよ?」
「だから困っているのよ。エールタインは人の気持ちをかき回す能力の持ち主なのかも。ティベルダが執拗に懐くのは仕方ないのかもね」
「ティベルダと同じ思いだからわかるのですね」
「ちょっと、あの子と私を一緒にしないで」
「私から見ると、どちらも同じ様にエールタイン様への思いを持っているように感じるのですが」
「…………えっと、ヒルデ。私があなたを大切に思っているのは揺るがないから」
「承知していますし感謝もしています。そのお言葉を直接聞かせていただけるので、ルイーサ様が大好きです」
「はあ……あなた、言わせるために誘導したわね。従者にも心を掴まれているだなんて、私は心の修練が必要ってことかしら」

 ルイーサがため息を連発しているうちに、スクリアニア公がいると思われる居館が見えてきた。
 緊迫感は薄らいだものの、いまだにエールタインから短剣を向けられている兵士が言う。

「確か当時の門番に聞いた時、あれが居館であっちが別棟だと言っていた。俺は兵として雇ってもらう時に来て以来だからな、建物には入ったことが無い。門番から、入れやしないから気にするなと言われたぐらいだ」
「ふーん、スクリアニアの城って大きいね。ローデ……むごむご。ルイーサ、何するのさ」

 エールタインは、ヴェルム城の全容を目にした感想を言おうとしたが、ルイーサに手で口を塞がれた。

「ちょっと、ここは敵地よ。迂闊にこちらの情報を言わないの」
「あ、そっか……ごめん。建物に入ったことが無いのなら、あなたへの用は済んだってことになるね」

 エールタインに抱えられたままの兵士は、肩をぴくりと動かして言った。

「こ、ここで解放されたとしてもどっちみち消されちまうだろう。いっそあんたに斬られた方が納得いくのかもな」

 自分より大きな体格をした兵士へ抱き着くように剣を突き付けていたエールタインは、兵士の体が委縮したのを感じて腕の力を抜いた。

「ここまで連れて来てくれたし、話も色々と聞かせてくれたあなたに危害を加えるつもりはないよ」

 エールタインは軽く振り返ってから話を続ける。

「まあ、仲間とヴォルフが傍にいる状況では何もできないだけなのかもだけど」
「ははは、確かにそれもあるが、俺はあんたと話をしてから敵と思っちゃいないよ。刺すつもりならここへ着いた瞬間にやられているはず。こんな話をする暇なんてなかったろうよ。で、閣下に会うまで付き合えばいいのか?」

 エールタインは仲間を見回してから兵士に答えた。

「ううん、しばらくヴォルフに交代してもらうよ。ここで待っていて」
「――ヴォルフだと!?」
「あー、何もされないから安心して。今のあなたがスクリアニア公に会えば、たぶん命は無いと思う。だからここに残ってもらうんだ。ヴォルフはあなたの護衛だよ。ここで残るのも安全ではないからね」
「まさか魔獣に守ってもらう日が来るとは思いもしなかったな」

 エールタインは兵士から短剣を離し、抱え込みから解放してヴォルフと交代した。

「さてと、ここからスクリアニア公を捜すんだけど……どうしよ」

 エールタインが自身に剣や槍の矛先を向けている城内の兵士を、まるで獲物を見るような目で見渡した。
 ルイーサはエールタインの仕草を見るまでもなく次にやることを見越していたため、エールタインの質問に即答した。

「また兵士を捕まえて聞くんでしょ? でなければ強行する気よね。暴れる時は私から離れないことを約束して。約束を破ったら……その、辛いけど……今後デュオとしての連携は終わり。この場もヒルデと撤退するからね」

 ルイーサは言葉を出し切った後、唇を噛みしめた。エールタインは目を見開いてルイーサを凝視する。

「ち、ちゃんと言う事聞くから! 傍にいてくれないと嫌だよ……怒らせちゃった?」
「まだ何もしていないから怒ってはいないわ。ふふふ、エールタインにちゃんと言う事を聞くって言わせることが出来たからむしろご機嫌よ。一番大事な人の心を少しは掴めていたみたいでとても気分がいいわ」
「一番大事な人?」

 エールタインが首を傾げて尋ねたところで、懐かしさを感じる声が少女四人の耳に届いた。

「お前たちの通った後は、何の苦労もなく歩けてしまうな。とうとうこんな所まで来ちまいやがって。親であり師匠、さらに隊長でもあるこの俺に一言も無しにやることではないぞ、エール」
「ダンっ!」

 エールタインはダンが言い切る前に地面を蹴って宙に浮かんでいた。当然着地点はダンの胸元であり、見事に着地する。
 この光景に慣れているダンは、至って普通にエールタインを受け止めた。

「おお、いつものエールじゃないか。元気なことがわかったのはいいが、知った場所が町壁ではなく敵城内だってのはいただけないな」
「ごめんなさい……ボクの悪い所が全部出ちゃった。やられた分をやり返そうと動いたけど、やればやるほどルイーサたちに迷惑を掛けているのを実感して、そしたら早く決着をつけないとって思って、それでもっと進んでしまって……もう、引き返せないところまで来て……だから――」

 ダンはしがみつくように抱き着いているエールタインを強く抱き返して言った。

「なんだ、しっかりわかっているじゃないか。分かっているなら次に活かせよ。ルイーサ、面倒を掛けてすまんな。こいつに付いていけるのはルイーサしかいないと思っている。これからも見守ってやってくれると助かる」

 ルイーサは両手の指を絡ませる仕草をして照れながら答えた。

「ダン様からそのようなもったいないお言葉をいただけるなんて……私などでよろしければ、エールタインのお供はお任せくださいませ」

 エールタインはダンに抱き着いたままルイーサをじっと見て言った。

「よろしくね、ルイーサ。ところで、一番大事な人って――」
「コホン、このお城はなんだか埃っぽいわね。さあ、ダン様が来られたのならスクリアニア公とは剣を交えず話し合いにしたいところ。剣の汚れは少ないに越したことないから」

 ダンはエールタインを難なく引き離すと、ルイーサの言葉に続けた。

「ルイーサの言う通りだ。ヴォルフがいるだけで兵士が全く攻撃出来ないような状況である今、我々が優勢なのは明らかだ。戦いの終結に向けての話し合いへ移行する時期が来たと思われる。この話が聞こえている兵に頼みたい。話し合いの場を設けるようスクリアニア公へ伝えてくれ」

 ヴォルフがうろつく様子に釘付けとなっている兵士たちの中から、数人が動き出す足音が聞こえたところでヘルマが呟いた。

「スクリアニア公へ伝えに行く兵がいるようですね。となるとこのまま静かに終わることが出来るかもしれないということ。これはとても嬉しいことなので、私もダン様に飛びついても良い場面なのでは?」
「は? ヘルマ、お前は何を言っているんだ」
「ローデリカ様とエールタイン様は、ダン様に会うなり飛び込んで行かれますよね。ならば私も飛び込んで良いのかと思ったのですが」
「いや、お前がすることではないだろう」
「私はダン様に仕える身。ローデリカ様とエールタイン様の次に近い存在であると自負しています。ならばその資格があるかと」
「待て待て。ヘルマ、疲れているのか? ティベルダ、ヘルマの疲れを癒してやってくれ」

 突然話に混ぜ込まれたティベルダは、少しだけ頬を膨らませて答えた。

「ダン様からの指示であればしますけど、なんだか嫌です」
「ティベルダ、お前までどうした?」
「だって、私は道具ではありません。ダン様がお返事に困っただけなのに、私を使ってヘルマさんから逃げようとしているだけですもん」
「ですもんって……おい、エール」

 にやにやとした表情で話を聞いていたエールタインは、困って助けを求めるダンに答えた。

「ははは、師匠が弟子に助けを求めてどうするのさ。まあ父上でもあるし、娘としてお助けしましょう。ヘルマとティベルダ、その辺にしてあげて。ボク的には緊張がほぐれて助かったから、もう少し見ていたいけど」
「エールタイン様のお気持ちが軽くなったのならこの辺にしておきます。抱き着くのはいつか隙を突いてみることにして」

 ダンはごつい手をヘルマの目の前に出して言う。

「やらんでいいと言っている。これはスクリアニア公と話をする方が楽そうだ」
「なら良かったじゃない。話し合いの修練が出来たってことだね」

 敵城の敷地内においても和やかな雰囲気で話すレアルプドルフの剣士に、スクリアニアの兵たちは困惑顔で立ち尽くしていた。
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