天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー

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苦しい

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「リム…」

 目を開けた自分の前には悔しそうな顔をしたリムが眉に皺を寄せていて、なんでそんな顔をしているのって聞きたかったけれど、その前にリムの方が先に口を開いた。

「なんで、そこまであの男がいいんだよ…」

「…」

「良い様に使われて、浮気までされて…こんな過呼吸と過労で倒れるなんて…どうして…」

 握り締められた右手が痛い。力をこめ過ぎよ。寝台に横たわっているのは分かるけど、ここは何処だろう。救護室かと思ったけれど、白い壁ではなく薄い茶色の壁で違うのだと知らされる。

「どうして…ね。好きだからかしらね」

「っ!?だから、なんでそんな男がいいんだよ!」

 だんっと足を踏みしめ、苛立ちを表しているリムを横目で見ながら、貴方こそなんで私の為に泣いているのと言いかけた口を閉じた。自分にその資格があるとは思わないから。

「私だって嫌よ…」

「じゃあ!」

「でもね、好きなの!一旦好きだって気づいたらずっとあの人で頭の中がいっぱいなの!最低だって思うけど、あの人で頭の中が埋め尽くされてる!あの橙色の髪を見る度、あの人かと思って追いかけちゃうし、あの人の香水の匂いを嗅ぐとあの人がいるって心が高鳴る…あの人の為に何か出来ないかって常に探してるし…自分が一番そんなのだめだって…分かってるのよ…」

「シェリー…」

「ずっとあの人の影を追って、自分を嫌いになっていないか、今の言動も嫌われていないか、何か言い返したらきっと嫌われるってずっと不安で…」

「…」

「あの人を好きって気持ちを忘れたい…」

 寝台が自分の涙で濡れてゆく感触がする。目の前が歪み、多量の涙で溺れそうだ。それでも、止まることのない涙が次々と溢れ、寝台を濡らしてゆく。

 リムはそんな自分の手を握りながらずっと自分の顔を見つめていた。

「シェリー今は寝ろ。体を休めろ」

「……っ、わか、ったわ」

 しばらくすると頭を撫でて、自分を一人にするようにリムは部屋を出ていった。

 一人になると寂しくて、リルの顔が浮かぶ。なんでこんなに好きになったんだっけ?あぁ、そうか。私に笑いかける時だけ少しえくぼが出るのが可愛くて、そこから意識しだしたのよね。他の人にも笑いかけるけど、私の時だけでるえくぼ。それから嫌われないように努力するようになった。

 それに良い様に使われていても、婚約者だと優先されることも多かった。彼の友人が私を馬鹿にしても、彼は好きだとはっきり言ってくれるのだ。それが嬉しくて…沼にはまっていった。

 浮気ってどこまでが浮気なんだろう。手を繋いだら?体を重ねたら?

 今回は手を繋いでいただけ…私は彼から離れられるのかしら…。
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