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お兄様
しおりを挟む朝日が眩しくて目を覚ますと気怠い体を寝台から起こす。傍にはいつから居たのか、兄が良かったと微笑んでいた。
「あ、頭が割れそう…」
「ほら、薬。飲めるかい?」
「えぇ、大丈夫」
小さい薬を渡された後に水が入ったコップを受け取る。心配そうに自分を見ている兄にいつまで見てるのと言うと心配でと返された。過保護で優しい兄が大好きだ。
「最近、思い悩んでいるみたいだけれど…」
「…」
「リルの事かい?」
「いいえ…」
「シェリー、言いたくないのなら良い。だけれどね、いつだって婚約破棄出来る事を忘れてはいけないよ。俺はずっと君を幸せだけを願っているよ」
額に唇を落として、まだ寝ていなさいと部屋を出ていった。本当に妹思いの良い兄を持ったものだと荒んだ心が温かくなる。血も繋がっていないのに。
そう、自分は子爵家の直系だが、兄は親戚筋からの養子である。自分しか子を作らないと決めたのは父だった。難産だった母の姿が目に焼き付いて離れなかったと昔聞いたことがある。このままでは爵位を継ぐ者が居ないという事で、自分がまだ赤ん坊の時に兄は養子になった。自分とは十歳も離れた兄だが、物心ついた時にはもう溺愛され、過保護に傍をついて回ってきた。
婚約の時も凄く心配してくれ、いつでも破棄していいと言ってくれた。十も歳が離れていれば、小さい子供と一緒なのだろう。いつまでも大事な妹。どうせ血のつながらない義理の兄なら、お兄様と結婚したかったわ。と思ってみても、心はリルにある。理想と現実の差に酷く打ちのめされる。
「私も幸せになりたいわ…」
一途に誰かを愛し、愛されたい。子も慈しみ、夫と二人三脚で人生を歩みたい。きっとリルとでは仮面夫婦になるだろう。自分には愛してると言って、他で女を囲う。そうなる未来が手に取るように見える。
本当にいいの?
本当に幸せなの?
本当にそれでリルが手に入るの?
それは硬い強固な執着という橋にピシリとビビが入った瞬間だった。まだ芽吹き始めたばかりの違和感は、すぐに行動を起こすほどではなかったが、確実に着実にビビが入った。
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