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ヒビ
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「おはよう、シェリー」
「おはよう、リル」
それだけ交わすと手を引かれ馬車に乗り込む。すぐに行動に起こせない弱い自分だが、ひとつ自分の中にルールを決めた。リルと目を合わせない。それだけだったが、自分には大きな一歩だった。目を合わせなければ、緊張も不安も何もかも襲ってこないと気が付いた。
「今日は何か予定があるの?」
「何もないわ…」
「そうか…」
正面にリルが座っているけど、自分の視線は窓に向けられいた。いつもいつも彼の一挙手一投足を見逃さないように見つめていたのに、今は窓の外へ向いている。
こんなに外の風景は綺麗だったのね。今まで見てこなかった街並みに感動すら覚えた。小さな女の子が転んで泣いている。それを同い年くらいの男の子が抱き上げて、大丈夫?と言って頭を撫でていた。まるで小さな頃の自分とリルみたいと思ってしまって、根強い執着に顔を歪ませた。
「何かあったの?」
「いえ…」
顔も合わせず、窓ばかり見ている自分に何か感じたのか。ふいにそうリルが尋ねてきた。何もないと言えば、はぁとため息をつかれて、びくりと体が反応してしまった。
まただ。嫌われたかもと心臓が鼓動を速める。大丈夫、大丈夫。自分を安心させるようにスカートの裾を握り締めた。
「じゃあ、放課後。愛してるよ、シェリー」
「えぇ…」
頷いてリルの傍を離れる。愛してると返さなくても貴方は何も言ってくれないのねとチクリと胸が痛んだ。けれど、教室に向かう足取りは軽かった。
「おはよう」
「……」
バーバラは答えてはくれない。けれど、今の自分は何故か何でも出来るような面持ちだった。だから、一歩踏み出したのだからとここでも踏み出してしまいたくなった。
「バーバラ、ごめんね」
そう背中に呼びかけると、バーバラは驚いたように振り返り、目にたくさんの涙を貯めながら顔をくしゃくしゃに歪ませていた。
「なんで…なんでっ、貴方が謝るのよ」
「なんとなくよ」
「この馬鹿!」
お互いに笑いが込み上げてきて、バーバラは何も出来ない自分が不甲斐なかったからどう話しかけたらいいか分からなかったと正直に話して謝ってくれた。平民のバーバラが貴族のリルに問いかけることすら怖かっただろうに、友人の正義感には感服だった。
「私、変わるから」
「え?」
「もう変わらないといけないって思えてるの」
貴方の勇気を称えるわとバーバラの涙が零れ落ちて、貴方が消えてしまうんじゃないかと怖かったと呟いた。やっぱり、聞こえていたのねと言うと意外と声が大きかったわと笑った。久しぶりにこんなに笑ったかもしれない。
「おはよう、リル」
それだけ交わすと手を引かれ馬車に乗り込む。すぐに行動に起こせない弱い自分だが、ひとつ自分の中にルールを決めた。リルと目を合わせない。それだけだったが、自分には大きな一歩だった。目を合わせなければ、緊張も不安も何もかも襲ってこないと気が付いた。
「今日は何か予定があるの?」
「何もないわ…」
「そうか…」
正面にリルが座っているけど、自分の視線は窓に向けられいた。いつもいつも彼の一挙手一投足を見逃さないように見つめていたのに、今は窓の外へ向いている。
こんなに外の風景は綺麗だったのね。今まで見てこなかった街並みに感動すら覚えた。小さな女の子が転んで泣いている。それを同い年くらいの男の子が抱き上げて、大丈夫?と言って頭を撫でていた。まるで小さな頃の自分とリルみたいと思ってしまって、根強い執着に顔を歪ませた。
「何かあったの?」
「いえ…」
顔も合わせず、窓ばかり見ている自分に何か感じたのか。ふいにそうリルが尋ねてきた。何もないと言えば、はぁとため息をつかれて、びくりと体が反応してしまった。
まただ。嫌われたかもと心臓が鼓動を速める。大丈夫、大丈夫。自分を安心させるようにスカートの裾を握り締めた。
「じゃあ、放課後。愛してるよ、シェリー」
「えぇ…」
頷いてリルの傍を離れる。愛してると返さなくても貴方は何も言ってくれないのねとチクリと胸が痛んだ。けれど、教室に向かう足取りは軽かった。
「おはよう」
「……」
バーバラは答えてはくれない。けれど、今の自分は何故か何でも出来るような面持ちだった。だから、一歩踏み出したのだからとここでも踏み出してしまいたくなった。
「バーバラ、ごめんね」
そう背中に呼びかけると、バーバラは驚いたように振り返り、目にたくさんの涙を貯めながら顔をくしゃくしゃに歪ませていた。
「なんで…なんでっ、貴方が謝るのよ」
「なんとなくよ」
「この馬鹿!」
お互いに笑いが込み上げてきて、バーバラは何も出来ない自分が不甲斐なかったからどう話しかけたらいいか分からなかったと正直に話して謝ってくれた。平民のバーバラが貴族のリルに問いかけることすら怖かっただろうに、友人の正義感には感服だった。
「私、変わるから」
「え?」
「もう変わらないといけないって思えてるの」
貴方の勇気を称えるわとバーバラの涙が零れ落ちて、貴方が消えてしまうんじゃないかと怖かったと呟いた。やっぱり、聞こえていたのねと言うと意外と声が大きかったわと笑った。久しぶりにこんなに笑ったかもしれない。
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