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フローラルな香水
しおりを挟む放課後、迎えの馬車の前でリルを一人待っていた。いつまで経っても来ないリルに何かあったのかと不安に襲われ、彼の教室に呼びに行ったが、クラスメイトからはもう帰ったと聞かされて…また女の子といるのかと気分が沈んだ。なら、先に帰っててと言えばいいのに…探しに行って浮気現場に鉢会うのはまだ怖い。
「もう帰っていいかしら…」
ずっと立っていて疲れた。もう一時間は待っている気がする。馬車の御者もまだかと不機嫌そうにしていて、居心地が悪い。
「シェリー?」
「リル、随分遅かったわね。待ちくたびれたわ…」
「え?あ…あぁ!うん、ごめんね」
慌てたように謝るリルに本当の謝罪の意味なんてないと思う。それに、この香水の匂いに苛立ちさえ感じる。朝は付けてなかったじゃない…女に会うためにつけたというのだろうか。なんて酷い男だ。自分には香水すら勿体ないと言われてるようで惨めに思えて心が漆黒に染まってゆく。
「じゃあ、また明日」
「えぇ…」
馬車の中ではたいした話もせず、ずっと無言だった。待ちくたびれたと言ったのが、そんなに嫌だったのか。屋敷についてもなんだか釈然としなかった。
「シェリー、おかえり」
「ただいま、お兄様!」
「今日はなんだかご機嫌だな?」
「そうなの!バーバラと仲直り出来たの!」
「へー…仲直りか」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないさ」
今日は嫌な事も良い事もあった。でも、なにより友人と仲直り出来たことの方が大きい。すこしずつ、リルの存在が小さくなっていってる。これなら、次の段階に進んでもいいかもしれない。
____________________
「本当にいいのですか?」
「えぇ、大丈夫よ!覚悟は出来てるわ!」
侍女が震えながら問いてきても、自分の覚悟は変わらない。もっともっと前に進みたいのだから。
「では、行きます!」
じゃりと小刻みいい音が聞こえ、前髪が整えられていく。久しぶりに視界がクリアだ。何年前髪を伸ばしてきたっけ?そんな事どうでもいいわね。
「まぁまぁまぁ!なんてお美しい!」
「眼鏡もさらしもやめるわ」
「なんてこと!こんな嬉しい日が訪れようとは…」
「大げさよ…」
ううっと泣き出してしまった侍女を宥め、いつもかけていた分厚い眼鏡と巻いていたさらしはゴミ箱に入れた。リルの顔を見たらまた傷つくかもしれない。だけど、進みたい。泥だらけの悪路でもその先に何かあるんだったら知りたいんだもの。
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