黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

翔田美琴

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第二十二夜 迷いと決意と

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 雪菜を弄んでいいのよ──。
 直美様の妖艶な声が心の中で響いていた。
 この『黒猫館』を支配している一族、鮎川家の女主人とその娘との間には確執みたいなものがあるらしい。
 俺は雪菜様を玩べと直美様から了承してしまった。直美様は俺が監獄に帰り際に言った。

「雪菜に呼ばれた時に実行するのよ? 私が来たのが合図ね。彼女が泣き叫ぼうが快楽の罠に嵌めてあげなさい」
「強情だったら?」
「プレイの一貫で、殺してもいいわよ」
「この地下の世界は、普段あなた達が住んでいる世界ではない。人殺しすらも合法になる場所なのだから──」

 恐れいったね。
 殺しすらも合法になる場所なんて恐ろしい所だ。つまり直美様に生命の手綱を握られているも同然という事でもあった。
 監獄に掘削道具が運ばれた事により、より捗る事になった。皆は俺に身体を張ってくれた事に感謝して、一日でも早く隧道トンネルを造ろうと躍起になる。
 シャベルが土を掘り返す音が小気味よく聴こえる。ここの土はそこそこの固さの土だが、シャベルを使えば掘り返す事はできる。
 俺は直美様の言葉の真意を考えていた。
 少しでも時間が空くとそれを考えてしまう。
 その時、唐島からしまが話かけてきた。

「どうした? 松下。事は順調に進んでいるのに辛気臭くなって」
「直美様の言葉が気になってさ」
「何を言われたんだ。話をしてみろよ。水臭いじゃないか?」

 そうだな。こういう時は素直に誰かに相談すべきかもしれない。

「次に雪菜様に呼ばれた時に、その雪菜様を玩べって命令された」
「直美様にか?!」
「マジかよ!?」

 鳴川なるかわもその言葉で俺の周りに集まってきた。
 俺が何かしらを言葉にすると、何人かの男達が周りに集まる。
 俺が話す事が結構、状況を掴むのに使えるんだそうな。

「いつの間にそんな事になっていたんだ? 松下」
「昨夜の事だよ。直美様に呼ばれた時に彼女に脅迫されたんだ。『雪菜様を弄んでみない?』って」
「断り切れなかったのか?」
「向こうは荒縄で首を絞めているんだぞ。断ったら絞殺されていたよ」
「じゃあ仕方ない事だな。直美様の無茶振りは今に始まった事でもないし」
「しかも。話はこれだけではなくてな、雪菜様が強情だったら殺しても構わないそうだ」
「直美様にとっては実の娘なのに、邪魔なのかな?」
「家族だからこそ、邪魔かもしれねえな」
「ねじ曲がっているぜ。鮎川家の人間達は──」
「──で、どうするつもりだ?」
「どうするって」
「雪菜様を殺すのか?」
「直美様が殺せと命令したら殺るかもしれない」
「松下は直美様のお気に入りだからな。簡単に人を殺めさせる訳ないとは思いたいけど、地下の世界は普通の世界じゃないからな」
「何にせよ、雪菜様次第だな。この話は──」

 そんな話の最中にその雪菜様が現れるのは都合が良いのか、悪いのか。
 彼女の傲岸不遜なハイヒールの音が地下室に響く。
 監獄の男達には当然、雪菜様によく呼ばれる男達もいるし、直美様直属みたいな男達もいる。
 俺は実は雪菜様にも、直美様にも呼ばれるお気に入りなのだ。
 監獄で脱出計画が練られているのは雪菜様にも情報はいっている。
 だから、皆はコソコソしないで彼女が来てもシャベルによる掘削作業は進めている。
 要するに怖くなくなった──という事か。
 もしくは、怖いからこそ、一分でも早く隧道(トンネル)を造って脱出しようと、それだけのことかもしれない──。
 
「今夜のおやつは誰にしようかしら?」

 雪菜様の嬲るような瞳は俺達を順繰りに見定めると、俺を最後に見つめた──。
 
「決めたわ。松下さん。今夜はあなたが私の相手よ」

 最早、黙って鉄の手枷を着ける亜美さんの顔には表情が失くなってしまっている。
 気が滅入っているんだ。きっと──。
 まあ、確かに普通の精神力なら一日と保たない最悪の場所だからな。
 俺も正気を保っているのが信じられないよ。

「行きましょう? 松下さん」

 地下の世界を鉄の手枷をされたままに歩く雪菜様と俺と亜美さん。
 今夜はあの外の世界の雄犬共の叫び声が聞こえる。
 試験に落ちて、畜生と烙印を押された憐れな雄犬達だ。
 大半がまだうら若い十代の若者だった。
 十代では高度な判断なんてできないだろう──と俺も思うが、監獄の奴等には十代で放り込まれた男達もいるから、会話能力次第なんだよな、きっと──。
 案内された部屋はそんな雄犬達が周囲に集まって、雪菜様を囲うベッドが置かれた部屋だった。
 そしてベッドに俺を乱暴に突き落とす。

「──!」
「フフッ……今夜はちょっとした賞与ボーナスをあげようと思うの。雄犬共にね」
「彼らに──?」
「でも立場が変わるような賞与ボーナスなんかじゃないわ。私と松下さんのまぐわいを見せつけて、欲望を晴らしてあげようって訳──」 
「それは挑発じゃないですか? 雪菜様」
「邪魔な御口ね」

 と、叱りながら接吻キスをする。
 まるで俺を乱暴に舐め回すような接吻キスだ。ちょっと気品は無い。鉄の手枷もそのままで、これでは抵抗できない──。
 俺は眼を開けて周囲を観察する。
 直美様がいつの間にか部屋にいた。
 紅いドレス姿で、腕を組み、宵闇のような瞳で、雪菜様を観ている。
 直美様は俺に視線を移すと、目で命令した。
 そいつを犯せ、と──。

「雪菜様。この手枷を外してくれませんか? コレでは奉仕をしづらいです」
「忘れていたわ、ごめんなさいね」

 白々しく謝ると鉄の手枷を外してくれた。
 無理矢理、押し倒されている俺は、ここからどうやって主導権を握るか頭を回転させている──目一杯にだ。
 やがて雪菜様は進んて口戯フェラチオをする。これだ──! これをされている時に喉の奥に無理矢理ねじ込めば──。
 
「ハアッ…ハアッ…立派な息子──これ、大好き──」
「ウウッ!」
  
 俺は不意に腰を浮かして無理矢理、息子を奥へ入れた。
 
「うウン! ウフッ!」

 雪菜様の憎しみに満ちた眼が俺を見つめる。
 だが──今夜は俺が雪菜様を支配する夜なんだよ。
 俺が研ぎ澄ました牙を剥く夜がやってきた。
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