混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第2章 パラレリアクロス

2-8 新たなる力

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 セントラルパークの入口にて軍用車両から降りて彼らの通信を聞きながらオグス中佐は、セントラルパークの奥から金色の光が放たれるのを観ていた。
 同時に通信では彼らの勝利に湧く声も聞こえた。どうやらあの化け物を倒した様子だな。
 それにしてもこのはしゃぎようは傍から見るとこちらが恥ずかしくなる。
 それだけ強敵だったのだろう。元々彼らはエースパイロット。強敵程倒すのは心地よい気持ちは解らなくもない気持ちだった。
 しばらくすると彼らがセントラルパークから戻ってくる。
 見た感じではそれほどの大怪我はしていない様子だ。擦り傷や火傷は所々にしているが身体的に影響が残る大怪我ではなさそうだ。
 
「あの化け物を倒したようだな。通信でもはしゃぐ声が聞こえたぞ」
「ああ。あの化け物を倒せたのは紛れもなくこの武器を紹介してくれた人物のお陰だな」
「詳しい話は本部でしよう。後処理もしなくてはならないだろう?」
「そうだな」

 そうしてカオスドラゴン退治を終わらせた彼らは一息つく為に司令本部へと帰還を果たす。
 そのまま司令本部の休憩室へと向かうと、その場でロベルトからオグス中佐への引き継ぎがされた。

「指揮の引き継ぎ? 私にか?」

 そこでオグス中佐にも現在起こっている地球の異変が話された。
 そしてその異変を解決する為にジェニファー・レンブラントへ頼んだ父親のレム大佐の事も話される。
 アルトカークスのハイテクノロジー武器を彼らに渡すようにキッドに依頼したのもレム大佐の頼みだったとキッドは話す。
 レム大佐は技術士官として彼らに接したので適性が分かっていた。なので彼らが扱いこなせるだろう武器も渡すべき人に渡したのだ。
 パラレルワールドの武器すらも理解してしまうのは脱帽ものの離れ業だった。

「ロベルト大佐もその地球の異変を正す為の旅に出ると言うのかね?」
「レム大佐の指名だし、俺自身もこの状況を何とか出来るなら行くべきだと思うよ」
「後任にオグス中佐がしてくれるなら部下達も納得ですよ」

 ハザードが付け加えた。
 オグス中佐の指揮能力と人望はあの人類最悪の戦争にて証明されている。常に部下の事を気遣う心意気に前線に赴く兵士達は信頼を寄せた。
 ならロベルトはこれ程の適任をカルベローナ公国の守りにつかせるなら安心して異変の解決に赴く事が出来る。
 異変の解決がされれば自然と地球も宇宙の情勢も安定するだろうという考えだ。

「確かにその考え方はアリだな。──良いだろう。カルベローナ公国は任せて、一刻も早くこの状況を何とかしてくれ。私は私の使命を果たす」
「これで最後の一人は紅い稲妻、ジョニー・ライトニングだな」
「あいつなら確か、アメリカに本社を置く軍需産業会社【ペガサス社】にテストパイロットとして招聘されたと聞いたぞ」
「地球のニュース記事はちょっとだけ目を通したけど、ニューヤークに落ちた隕石の事で持ちきりだね」
「まずはシャトルで地球に向かう事が先決だね」
「シャトルの手配をしてこよう」

 ロベルトは休憩室から去って早速、地球行きのシャトルの手配に入る。
 そしてそのままオグス中佐に業務引き継ぎの手続きに入り、そのままジェニファーとキッドはサイド3にて一泊する事になった。
 余りにもめまぐるしく変わる世界にジェニファーは目眩を覚えるように深い眠りへ入る。
 キッドは途中経過を報せる為に、黒猫の妖精に戻り、アルトカークスへと一旦戻った。

  
 異世界アルトカークス。
 時間の概念が崩壊してレムの体感で一週間が経過した頃にキッドがアルトカークスへ報告しに戻ってくる。
 その間、彼の前に立ち塞がる女神殺しを企む騎士、ビヨンド・グレイブは一切襲ってこなかった。
 それがレムにとってはかえって恐ろしく感じる。この世界からは地球の出来事は見えない。
 唯一の手掛かりはキッドからの情報と彼の守るべき女性に宿る【女神の瞳】を通してみる娘ジェニファーが視ている世界だけだった。
 守るべき女性と娘ジェニファーは【女神の瞳】を通してリンクしている。
 ただその力を行使すると少なからず生命力が削られてしまうので極力使用するのは彼自身が避けていた。
 確かに知りたい。
 自分の娘の心境や成長を。
 だけどそれで死んだら何にもならない。
 なら自分が出来る事はキッドを通して地球の知り合いにこの異変を報せる事。
 そして彼らなら迷いがあっても実行に移してくれるという信頼だった。
 
「レム」
「キッド。地球の方は?」
「流石はレムの知り合いだね。既にハザードとロベルトの説得に成功したよ。これからジョニーの所へ向かうらしい」
「地球の様子は?」
「もうめちゃくちゃもいい所だよ。サイド3カルベローナ公国にまでカオスドラゴンが出現したよ」
「皆、アルトカークスの武器に度肝を抜かしていたよ」
「私だってこの世界の武器には度肝を抜かしたからね。でもそんなに早く適合するとは恐るべきは彼らだな」
「ジェニファーにも渡したよ。あの機械仕掛けのクロスボウを」
「どうだった? 彼女の様子は?」
「生きてるなら姿を見せてよ……って言ってた」
「──そうしたいね。でもグレイブがいつ襲ってくるかもわからないのに離れる訳にはいかない」
「ルーアの様子は?」
「女神の瞳の影響かな……徐々に生命が削られているみたいだ」

 彼はそこで初めて創造神の金のルシファーに対して憎しみの言葉を発した。

「こんな呪わしい仕組みを考えた神をできる事なら殺してやりたいね!」
「レム──」
「そんな奴に遣わされた騎士という立場が俺は恨めしいよ」

 キッドはレムも徐々に混沌に呑み込まれつつある事を敏感な感覚で察知していた。
 混沌の力は人間の負の感情を感じるとそれを増幅して吸収しようという習性を持つ。
 そして心が暴走をする頃には混沌によって闇へ堕ちて、それだけだ。何もない世界へ戻る。
 全く、確かに『混沌』って存在は厄介な代物だとキッドは心の中で舌打ちした。
 彼にとっても娘ジェニファーは『希望』だった。ジェニファーにとっても父は『希望』だったのである。

 キッドが地球へと戻る頃には、地球ではシャトルの手配が済み、そして彼らも地球へと足を向けた頃合いである。
 残る仲間はジョニー・ライトニングのみ。
 彼らの旅はまだ振り出しにもなっていない。
 しかし、確実に前に向かっているのは確かな事実だった。
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