混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第3章 混沌、それは人の心

3-5 血の揚羽蝶

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 結局の所は混沌の女神ルーアも共にルージュパピヨンの話を聞く事になった。
 しかし本当の所はルーアは顔の知らない人と共にいるより、レムと共に居たいからその部屋にいる。
 その混沌の女神の騎士はルージュパピヨンの調査結果を真剣な表情で耳を傾ける。
 彼にとっては血の揚羽蝶の力を得る事が優先事項であった。
 エリック隊長から瘴気の森にてされたルージュパピヨンの調査結果が話される。

「ルージュパピヨンの生態を利用して力を得る方法は結論から言うとあります。かなり危険な方法ですがね」
「具体的には?」
「まずは前提条件として一度、奴に噛まれる必要があります。そうして奴に血の味……というか気力を覚えさせるんです」
「やはり噛まれる必要はある訳だね」
「しかも一匹ではなくてできれば数匹に噛まれるのが理想的というか覚えやすい。奴等は一度噛んだ獲物を気に入ると向こうから自然に寄ってきます」
「その者の気力が気に入ったって印ですね」
「はい」
「次の段階で今度はルージュパピヨンが気に入った者に別の何者かの気力を送り込みます。これが魔物の場合だと狂ってしまう訳ですね。別の生物の力を送り込まれても本能的に拒絶反応が起きる。それが我々がルージュドラゴンやルージュオルガロンと呼称している個体です」
「それを人の力で齎すにはルージュパピヨンに噛まれた他の人間も必要になる──?」
「──ええ、端的に表現するとそうです。血の揚羽蝶が媒介になって、他の人間の気力を送る。親和性の高い人物同士なら可能でしょう。ただルージュパピヨンがあくまでも気に入った者にしか、この、ある意味給仕としての能力は発揮はしません」
「──理屈じゃないって感じだね」
「危険なんです。血の揚羽蝶がどんな理由で気に入るとかは気力次第って部分が読めない」

 ルーアはそこで気になる事を聞いた。体調的にはどのような影響が人には出てしまうのだろうか?

「体調的にはどんな影響が出るのでしょうか?」
「──恐らく、精神的に不安定になるでしょう。それだけならまだ影響は少ないですが、生命力は削られます」
「どうやってルージュパピヨンの生態を使うのですか?」

 そう──それが問題なのだ。
 ルージュパピヨンは人間達がどうこうしようとしてどうにかなるような生態ではないのだ。
 血の揚羽蝶はまるで主人を選別するように噛み付いては気力を吸い取り宿主を試している。
 あの血の揚羽蝶にとっては血を吸う事が自らの生命力を保つ意味もあるのだから、より良い宿主を探すのも当然の生態だった。
 アルトカークスでも古い人類達は血の揚羽蝶の力の恩恵を得ようと試みた事はある。
 結果は宿主となった人物が狂戦士化をして村全部が全滅した。その宿主も同じ村の人間に殺されてしまい、以来、血の揚羽蝶は凶兆の生物という認識が広がったのだ。
 学業都市アカデミアでは、しかし、昔の失敗談から今に繋がる技術を得ようと様々な研究がされている。
 ルージュパピヨンもその一つだった。
 あれこそ、まさに人智を超えた途轍もない力そのもの。
 それを人工的に使えるようにしようというのは無理に見えるかも知れない。
 しかし、アルトカークスだけの危機でもなく、地球にまで影響が出たとなると手段を選んでいる状況でもないのだ──。
 そこで話された事はある意味での最終手段である人間を使った実験だった。
 ある程度の魔力や武力を持つ人間でなければ、この被験者になることはできないが、そこに混沌の女神の騎士が被験者となる事を了承する。

「──その被験者、私にさせて貰えないかな? 私もルージュパピヨンの力を得たい。一度、血の揚羽蝶に噛まれた事もあるよ」
「本当に良いのですか? 命懸けの実験になるかも知れない」
「……ああ。危険は覚悟している」

 ホープは暫く瞑目する。
 ここで飼われている血の揚羽蝶より、より野生の方が実験をするなら実践的に使える。
 その時の対策をできるだけしたら、すぐにでも実験をしよう。
 
「──解りました。エリック隊長。被験者となるレムさんの体調チェックをして万全を期して臨みましょう。ルージュパピヨンは瘴気の森に棲息する個体を使用します」
「もう一人、被験者がいると助かりますね」
「私も参加させて下さい」
「ルーア姫様」
「私もルージュパピヨンに噛まれます。共に旅をするパートナーとして苦しみを分かち合いたい」

 彼らはその言葉で納得するしかなかった。
 この時点で皆で「止めた方がいい」と言っても、彼女は退かないだろう。なら、その心意気を汲んで実験を成功させるのが学業都市アカデミアの総意だ。
 
「解りました。ルーア姫の体調チェックもして万全を期しましょう」
「……ルーア。二人でならこの試練にも立ち向かえられる。共に助け合おう」
「……うん」

 報告が終わり、シャーリーが会議室の外で待っていた。
 気軽に声をかけようとしたが、会議室の面子の空気は緊張感に満ちている。
 これからアカデミアの威信を賭けた実験が始まろうとしている。
 張り詰めた空気に、アカデミアの他の研究員達もそれぞれが自らの研究に打ち込む。
 彼女はますます自分だけ蚊帳の外みたいな気分になっていく──。
 
 そしてこれから、瘴気の森にてルージュパピヨンの生態を利用する為の大掛かりな実験の準備がされるのであった。
 アカデミアの医師による体調チェック。
 問診、血圧測定、魔力測定、心拍数の測定、病気の有無、など健康チェックをする。
 実験開始日の前夜。
 彼らはアカデミアの個室にてその時を待っている。
 
「ハアっ……ハアっ……レム……っ」
「ルーア……」

 激しく身体を重ねる二人はお互いに首に唇を這わして、例え血の揚羽蝶に噛まれても、断ち切る事のない絆を結ぶ為に愛を交わす……。
 中途半端な会話も必要ない。
 これが自分達の覚悟の印──。 
 彼らから漏れる気力は、アカデミアで飼われている血の揚羽蝶も数匹が周囲を飛び回っている。
 
「ああっ! ああっ!! レム……っ! 深くきてぇ……お願い」

 レムは唾液を交歓しながら滾る欲望を花びらへ入れると甘美な表情のルーアの顔を覗きながら、優しく腰を踊らせる。
 ふくらみの頂きを舌で嬲る。ねっとりと乳輪に沿って舐めて、少し歯を立てる。
 何度も、何度も、頂きを嬲る。
 快楽の嬌声を上げるルーアにレムは彼女に懇願する。
 自分の首に君の痕をつけて欲しい──と。
 ルーアの白い歯が遠慮がちに彼の首筋を噛んだ。
 ──これでいい──これでいいんだ。
 彼の腰は艶めかしく彼女の腰に重なり、自らの愛を捧げる。
 そうして、実験日の朝方まで体を繋ぎ合っていた──。
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