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第08話 出発
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首都から去った、あの日。私たちを駅で待っていたのは、最近外国から輸入して導入されたばかりだという、最新鋭の蒸気機関車でした。
黒くそびえるこの大きな鉄の塊が、まさかひとりでに走ってゆくなんて。黒煙を噴き上げながらホームへと入るその姿を見ていると、私は改めて時代の変化を思い知らされるような気分でした。
客車の中は通路沿いに仕切り客室が並ぶ造りになっていて、ドアを開けると内部は小さな個室になっています。私たちは向かい合うように設置されたソファのそれぞれ窓際に腰掛けると、物珍しそうに窓の外に目をやりました。
列車が石造りの街並みを抜けて郊外へ出ると、窓の外には緑の丘陵が広がっています。所々でのんびりと草を食む白い羊たちの姿を、ぼんやりとながめているのにも飽きたころ。ふと向かいの席に目をやると、窓枠に肘を乗せて眠る彼の姿が目に入りました。
彼はここ数日、私をエルスターの自城に迎えるために、ほぼ寝ずに動いてくれていたというのです。私は彼を起こさないようそっと席を立つと、彼の隣に座りなおしました。
寝顔は彼をいつもより少しだけ幼く見せていて、知り合って間もない頃のシェリンガム君の姿が重なって見えるようです。
──図書室に到着した私がその姿を探すと、彼は机上に伏して居眠りをしているところでした。窓から差し込む光を浴びながら、それでもすやすやと寝息を立てている彼に、そっと近付くと。彼の淡いアッシュブラウンの髪、そして同じ色の睫毛はまるで絹糸のように輝いていて……思わず吸い込まれるように顔を近づけていった私は、ハッとして慌てて身を起こしました──
……でも今はもう、あの時のようなしがらみはないのです。心惹かれるまま、その柔らかそうな見た目に反して私より少し硬い髪に口づけると……急にパチリと青い瞳が開きました。
「い、いつから起きていたの!?」
「……君が、隣に座ったくらいかな」
「起きているのなら、言ってくれればいいのに!」
「……まさか君の方から寝込みを襲ってくるとは思ってもみなかったよ。まったく、僕がどんな思いで我慢してるかも知らずに……」
「おっ、おそうなんて、私っ……!」
羞恥に顔を染めた私は慌てて立ち上がって逃げようとしたものの……揺れる客車に足を取られ、気づけば彼の腕の中にすっぽりと収められてしまいました。
「先に手を出したのは君だから」
「あ、あれはそんなのじゃな……」
私のあげた小さな抗議の声は、すぐに列車の騒音に紛れ込み……あえなくかき消されてしまったのでした。
黒くそびえるこの大きな鉄の塊が、まさかひとりでに走ってゆくなんて。黒煙を噴き上げながらホームへと入るその姿を見ていると、私は改めて時代の変化を思い知らされるような気分でした。
客車の中は通路沿いに仕切り客室が並ぶ造りになっていて、ドアを開けると内部は小さな個室になっています。私たちは向かい合うように設置されたソファのそれぞれ窓際に腰掛けると、物珍しそうに窓の外に目をやりました。
列車が石造りの街並みを抜けて郊外へ出ると、窓の外には緑の丘陵が広がっています。所々でのんびりと草を食む白い羊たちの姿を、ぼんやりとながめているのにも飽きたころ。ふと向かいの席に目をやると、窓枠に肘を乗せて眠る彼の姿が目に入りました。
彼はここ数日、私をエルスターの自城に迎えるために、ほぼ寝ずに動いてくれていたというのです。私は彼を起こさないようそっと席を立つと、彼の隣に座りなおしました。
寝顔は彼をいつもより少しだけ幼く見せていて、知り合って間もない頃のシェリンガム君の姿が重なって見えるようです。
──図書室に到着した私がその姿を探すと、彼は机上に伏して居眠りをしているところでした。窓から差し込む光を浴びながら、それでもすやすやと寝息を立てている彼に、そっと近付くと。彼の淡いアッシュブラウンの髪、そして同じ色の睫毛はまるで絹糸のように輝いていて……思わず吸い込まれるように顔を近づけていった私は、ハッとして慌てて身を起こしました──
……でも今はもう、あの時のようなしがらみはないのです。心惹かれるまま、その柔らかそうな見た目に反して私より少し硬い髪に口づけると……急にパチリと青い瞳が開きました。
「い、いつから起きていたの!?」
「……君が、隣に座ったくらいかな」
「起きているのなら、言ってくれればいいのに!」
「……まさか君の方から寝込みを襲ってくるとは思ってもみなかったよ。まったく、僕がどんな思いで我慢してるかも知らずに……」
「おっ、おそうなんて、私っ……!」
羞恥に顔を染めた私は慌てて立ち上がって逃げようとしたものの……揺れる客車に足を取られ、気づけば彼の腕の中にすっぽりと収められてしまいました。
「先に手を出したのは君だから」
「あ、あれはそんなのじゃな……」
私のあげた小さな抗議の声は、すぐに列車の騒音に紛れ込み……あえなくかき消されてしまったのでした。
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