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第14話 肖像
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エルスター伯爵城がホテルとしての営業を始めてから、無事一周年を迎えました。
当初私たちが危惧していたマナーの悪いお客様は、意外なほどにいらっしゃいませんでした。初めは落ち目の貴族を見て笑ってやろうというつもりでいらしたらしいお客様も、こちらが心から敬意をもって対応致しますと、城に招かれた客人として恥ずかしい振る舞いはできないという気分になられるようでした。
かつての騒動を覚えていた一部の新聞記者の方たちが、訪ねてきたこともありました。ですが彼らも私たちのおもてなしを受けてゆくと、新しいエルスターの姿を好意的な記事で首都の読者に紹介してくれる結果となりました。
こうしてエルスター伯爵城の名は、上流階級の口コミだけではなく、中産階級以下の庶民にまで、憧れの対象として知れ渡っていったのです。
──とある午後。
本日のチェックイン時刻に向けて、伯爵夫人らしい姿でお客様をお迎えするべく、アンティークなドレス姿に着替えていたときのことです。
「ミラベル、ちょっと来てくれ!」
「どうしたの?」
夫に呼ばれて隣室へと急ぐと、そこには艶やかに磨かれた、ひと抱えほどの大きさの木箱がありました。よく見るとその木箱には、一方に金属製の筒のようなものがついています。
「先日、祖父の旧い友人が泊まって行っただろう? あのとき彼は昔を思い出すことができたといたく感激してくれてね。これをホテルで使えばいいと譲ってくれたんだ」
「これは……」
「銀板写真機だよ」
「これが、あの噂の!?」
「ああ。これを使って、中世の衣装を着た姿を記念に残すサービスを提供してはどうだろう?」
アイザックは手早く写真機を準備すると、明るい窓辺で私を椅子に座らせて言いました。
「悪いけど、少しじっとしていてくれないか」
しばらくして出来上がった写真は信じられないくらい鮮明に、銀の板上に私の姿を描き出しています。
「とても……綺麗だ」
「ええ、本当に。まるで鏡をそのまま固めてしまったみたいに精細ね」
「いやその、それはそうなんだけど……僕が言いたいのは、君が、その……」
急にしどろもどろになる夫を見て、私は笑いました。夜はあれほど情熱的に愛を囁いてくれるのに、未だに昼間は少し照れてしまうようなのです。
「ねえ、もう一枚撮れないかしら?」
「撮れるけど、何を撮るんだ?」
「貴方と並んで撮りたいの!」
出来上がった写真は、額縁に入れて歴代の当主の肖像画が並ぶ部屋に飾られることになりました。両手のひらに収まるサイズのそれは、絵画と比べるととても小さなものです。ですがそこに写っている私たちの姿は、とても幸せそうな微笑みを浮かべておりました。
当初私たちが危惧していたマナーの悪いお客様は、意外なほどにいらっしゃいませんでした。初めは落ち目の貴族を見て笑ってやろうというつもりでいらしたらしいお客様も、こちらが心から敬意をもって対応致しますと、城に招かれた客人として恥ずかしい振る舞いはできないという気分になられるようでした。
かつての騒動を覚えていた一部の新聞記者の方たちが、訪ねてきたこともありました。ですが彼らも私たちのおもてなしを受けてゆくと、新しいエルスターの姿を好意的な記事で首都の読者に紹介してくれる結果となりました。
こうしてエルスター伯爵城の名は、上流階級の口コミだけではなく、中産階級以下の庶民にまで、憧れの対象として知れ渡っていったのです。
──とある午後。
本日のチェックイン時刻に向けて、伯爵夫人らしい姿でお客様をお迎えするべく、アンティークなドレス姿に着替えていたときのことです。
「ミラベル、ちょっと来てくれ!」
「どうしたの?」
夫に呼ばれて隣室へと急ぐと、そこには艶やかに磨かれた、ひと抱えほどの大きさの木箱がありました。よく見るとその木箱には、一方に金属製の筒のようなものがついています。
「先日、祖父の旧い友人が泊まって行っただろう? あのとき彼は昔を思い出すことができたといたく感激してくれてね。これをホテルで使えばいいと譲ってくれたんだ」
「これは……」
「銀板写真機だよ」
「これが、あの噂の!?」
「ああ。これを使って、中世の衣装を着た姿を記念に残すサービスを提供してはどうだろう?」
アイザックは手早く写真機を準備すると、明るい窓辺で私を椅子に座らせて言いました。
「悪いけど、少しじっとしていてくれないか」
しばらくして出来上がった写真は信じられないくらい鮮明に、銀の板上に私の姿を描き出しています。
「とても……綺麗だ」
「ええ、本当に。まるで鏡をそのまま固めてしまったみたいに精細ね」
「いやその、それはそうなんだけど……僕が言いたいのは、君が、その……」
急にしどろもどろになる夫を見て、私は笑いました。夜はあれほど情熱的に愛を囁いてくれるのに、未だに昼間は少し照れてしまうようなのです。
「ねえ、もう一枚撮れないかしら?」
「撮れるけど、何を撮るんだ?」
「貴方と並んで撮りたいの!」
出来上がった写真は、額縁に入れて歴代の当主の肖像画が並ぶ部屋に飾られることになりました。両手のひらに収まるサイズのそれは、絵画と比べるととても小さなものです。ですがそこに写っている私たちの姿は、とても幸せそうな微笑みを浮かべておりました。
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