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サタン@現実世界/カイ・グランデ編

土下座して語尾に『ぴょん』をつけて詫びろ!

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ーーー1804年2月。

その日は雪が降り、異常に寒かった。

お気に入りのロングコートの襟を持って前を締めるように歩く。

(いくらなんでも寒すぎだろ……!こんな日は、家で"ホットワイン"でも飲むに限るわ……とかいって)

おしゃれなワードを出してしまった自分に苦笑しながら一歩一歩前へ進む。

吹雪のため、あまりの視界の悪さに"真紅の瞳"を発動しながら家路へついていた。

すると、正面から赤い影(敵意がある場合)が俺に向かってくるのが見えた。

めんどくさいので、うんと左に交わしてみるが、明らかに俺と同じ方向に寄ってきている。

(なんだよこいつ……)

そして、案の定、肩がぶつかってしまった。

しかし、俺の体幹はしっかりしているため、ぶつけてきたそいつの体が逆に横向きになる。

そのことが、そいつの闘志に火を付けたようだった。

「舐めてんじゃねぇ!ぶっ●ろすぞこの野郎!!」

相手を食いちぎらんとばかりに詰め寄ってくる。

「やめてやめて!今日は寒いし、早くホットワイン飲みたいんだよ」

「ホットワインなんて似合ってねーんだよ、ヌケサク!!俺に舐めた態度取ったテメーには、土下座しながら語尾に『ぴょん』を付けて詫びるまで絶対許さねぇ!」

「はいはい。そんなイライラしてないで、家でアップルパイでも焼いてなさい。そして笑顔で近所に配りなさい。それが幸せな人生ってもんだ。わかったね?」

「なんでアップルパイなんだこの野郎!!」

「そこ!?」

だが軽くあしらってもまだ俺のコートを掴んで、思いっきりメンチを切ってくる。

「ぶっ●すぞ!んの野郎!」

あまりにもしつこいチンピラに対し、さすがにイラッとしてきた。

「じゃあ……」

「あ!?」



「お前が俺を、殺してくれるのか?」



「っ!!?」


吸血鬼の鬼気迫る目で見つめられた男は、コートを離し、少し後ずさる。

「殺してくれるのか?って聞いてるんだけど」

俺は一歩前に出た。

「ぐ……!?で、できねぇと思ってんのかよ!?や、やるぜ俺は!」

「だからどうやって殺すんだよ」

もう一歩、前に出てやった。

「な、なんなんだお前……。頭おかしいのか?」

俺は深く呼吸をすると、苛立った気持ちを落ち着けていった。

こんな人間にムキになっても仕方ない。

冷たい空気を肺いっぱいに吸い込むと、すぐに冷静になった。

「ザコ相手にムキになって悪かった。お詫びに語尾に『ぴょん』付けてやるよ」

「な、なんだと……?」


「殺せるならいつでも殺してくれぴょん!歓迎するぴょん!だから、今日はもう、"泳いで"帰るんだぴょーーーーーん!」


「……ぶっげぇえええぇ!!!」


そう言って、超威力のデコピンをお見舞いしてやると、男は真冬のセーヌ川に落下していった。
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