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ご飯を作って待つ君へ
しおりを挟む初めてご飯を作ってくれたとき、正直美味しいとは思えなかった。
でも、一生懸命に作ってる君の後ろ姿を見てたから、不味いと言えずに美味しいって言ってあげた。
私は優しいから。
きっと君と私は付き合っているんだろう。
泣きながら懇願する君にドン引きしたのを覚えている。
何度も何度も「好きです付き合って」を軽くあしらってたから、泣かれた時は本当に困った。
仕方なく、本当に仕方なく付き合ってあげたのに……
君はそれからも全く手を出さないな……
寂しいとかそんなんじゃないんだぞ。
手を繋ぐとか、きっキスと言うものくらいしてもいいのではないだろうか……
世間一般ではそういうものをするのだろう?あまり好きではない女子の会話に私も挑戦してみたらそういう話を沢山教えてもらったんだぞ。
こっ子作りの時の所作もマナーもあるとまで聞いたんだ。
勉強したのに、君はそれを披露させてもくれないんだ。
全く、君は酷い恋人だな……
君のご飯が美味しいかもしれないと思い始めた頃。
私と君の部屋に結婚情報紙とやらが目に付くようになった。
君との結婚を考えた訳ではないんだからな。
そこにあるから読んでみただけなんだ。それに付録がいいから使ってやってるだけなんだからな。
指輪の特集の所に丸が何個もついていたから、その中で私が好きなものに丸を着けておいた。
そしたら君の指輪のサイズが付け足されたから、私のサイズも書いておいた。
そこまでしてやってるのに……こんなに私は優しいのに……
君からのプロポーズを待っても待ってもしてくることはなかった。
私に一週間の出張が命じられた。
君と同棲して初めての出張。
告げた後の君の号泣に久々にドン引きした。
前日の夜には「絶対、怪我とかしないで無事にここに帰ってくるんだよ」と保護者かと慣れないツッコミとやらをしてしまいそうになった。
君と初めて離れる一週間。
たったそれだけなのにな……何でこう物足りない感じがするんだろうな。
君が朝から夜ご飯まで全部作ってくれていたから、君のではないご飯がこうもしっくりこなくなっているなんて思いもしなかった。
君に電話をかけようか迷って、でも何かそれが悔しい気がしてかけられなかった。
ホテルで開いた荷物の中に君からの手紙が入っていた。
『約束して欲しい事
1、怪我をしないこと。君は慌てるとすぐにこけるから、気を付けてね。一応絆創膏は鞄の中に入れておいたから確認してね。
2、寂しくなったら電話をする事。一応10時に電話をするから、ちゃんと出てね。
3、知らない人に着いていったりしないこと。親切にしてくれる人でもすぐに信用しないこと。君は純粋だから心配だよ。知り合った人は全部報告するんだよ?絶対だからね。
最後に、ご飯を作って待ってるからちゃんと家に帰ってきてね。』
君は本当に心配性だな。
10時に電話してくるのか……それなら待っててやろう。
君がかけてくるから、仕方なく出てやるんだ。私は優しいからな。
無事に自分の使命を終えて会社に報告も終わり、疲れてるだろうからって早めに退社させてもらった。
君には早く帰っておいでって言われていたけれど、少しの寄り道くらいはいいと思うんだ。
思ったより寄り道に時間がかかってしまった。
君が待ってくれている家に急いで帰る。
ただいまと声をかけながら玄関のドアを開けると美味しそうな匂いと君のおかえりが聞こえた。
「よかった、定時で帰ってくるのには遅いから心配してたんだよ。怪我とかしてない?」
「してない」
「してるよね……足、血が出てるよ」
「あっ……」
「急いで帰って来てくれたんだね。ありがとう」
「別に……君のためじゃ……」
「うん。先ずは手当てしようね、ソファーに座ってて、救急箱持ってくるね」
君は消毒と絆創膏をさっさと着けてくれる。
手慣れているなって感心している間に終わってしまうから、消毒の痛さを全く感じない。
「さて、ご飯食べようか。久々に一緒のご飯だからね、頑張ったんだよ」
そう言って君が立とうとするのを手を引いて私は止めた。
ご飯は早く食べたいけど、それより私の決心が揺らぐまでに早く言っておかなきゃいけない事がある。
「ん?どうした?怪我痛いの?それとも仕事で何かあった?」
「ちっ違う。その……ちゃんと聞けよ」
「何?改まって……」
「今から、大事な事を言うからな。それで、その……まずぎゅってしろ!!」
「うん?ハグ?いいよ」
「違う、後ろからぎゅってしろ!!」
「ええ?後ろから……?」
戸惑いながらも君は私を後ろからぎゅってしてくれた。
ふう、これで顔を見られる心配もないな。
君の左手をにぎにぎする。
薬指。間違えちゃいけないからな。
「ふふっ、何?手を握りたかったの?」
違う、もっと大事な事だ。
「……君と、ずっと一緒にいてやってもいい」
「ん?」
「だからっ、君のご飯をずっと一生食べてやるから、私とけっ結婚しろ」
君の薬指に、指輪をはめる。
良かった、サイズは申告どおりだったらしい。ぴったりで安心した。
ホッとしていると君の抱き締める腕が強くなった。
「何だ?苦しい」
「ごめん、嬉しくて……ちょっとこのままでいて……」
君の声が震えていて、私の肩辺りが湿ってくる。
何だ、泣いているのか。
仕方ないやつだ。しばらくこのままでいてやるから、早く泣き止んでもらいたいものだ。
「いいの?俺でいいの?」
やっと言った言葉がこれだ。全く、いいからプロポーズをしたというのに。
ダメならそもそも指輪なんて買ってもこない。
「いい。君しかいない。けど、条件がある」
「なに?何でも聞くよ」
「浮気はするなよ、許さないから」
「うん、しない。絶対にしない」
「したら去勢させるぞ」
「うん、絶対にないけどもしそんなことがあったらすぐに手術するね」
「あと、私より一日でも長く生きろ……私の葬式までちゃんと面倒みろよ」
「うん、分かった。寂しい思いはさせないからね」
「じゃあ、これ……」
私の指輪を渡す。
自分でするより君にして欲しいから。
「うん、一生大事にします」
そう言って君が私の左の薬指に指輪をはめてくれた。
ふふっ、君とのお揃いか……
「プロポーズはね、誕生日にしようと思ってたんだ……先越されちゃったな……」
君が照れたように笑う。
「そうか……私の誕生日まで2ヶ月あるしな……」
「うん、あっ俺からも指輪をプレゼントしてもいいかな?」
「それはお揃いか?」
「えっと……ダイヤモンドが付いてるよ。俺の方には付いてないけど、きっと似合うと思うんだけど」
「選んでもらって嬉しいけど、もう買ったのか?」
「いや、その日にね、一緒にお店に行こうと思ってたからまだ買ってないけど」
「なら、いらない」
「えっ、でも……」
「君と全部一緒じゃないなら要らない」
「うん、分かった」
君がとても嬉しそうに指輪を見ながら笑う。
うん、私も君とのお揃いが凄く嬉しい。
私はこれからも君が作ったご飯を食べる。
君はそのご飯を食べる私をずっとこれからも見てて欲しい。
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