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0話 プロローグ
しおりを挟む人は鬼により殺害された後花を咲かす。
それを彼岸花と呼ぶ。
鬼はその花を食べる事で生きる事ができる。
またその花には、絶望の青と歓喜の黄色、そして憤怒の赤と3つ種類がある。
この色の違いは鬼に人で言うところの味覚に影響を与えるらしく、青を好む者もいれば、赤を好む者もいるらしい。
花の色は死ぬ間際にその人が思っていた感情によって変化する。
その為鬼は自身の好みの色に変える為、殺す前にその人達を色に合う感情にさせるために、様々な工夫をする。
それにはまさに、人ではないものの所業と言わざるを得ない残忍さがある。
それらの鬼の所業から人々を守る者達がいる。
それが守術師である。
「冬次、おそらくこの奥に奴がいる」
「そうか……わかった、俺が先に行って隙を作るからお前は俺と鬼が見える位置で隠れていてくれ」
「わかった」
そう言うと坂本は冬次と呼ばれる大柄の男の命令に従うようにその場から離れていった。
都内にある大通りから外れた細い路地で大雨の中傘を刺すことなく、この2人の男はとある鬼を追っている。
その鬼は最近頻発して起きている大量殺人の犯人とされており、捕まえる事が急務とされている。
冬次が坂本から言われた通り奥へ進むとその鬼はいた。
「お前はたしか大門家の守術師か」
「……黒鬼」
冬次はその鬼を見て、険しい表情を浮かべその鬼の名を呼んだ。
今まさに食事中だったらしく、黒鬼の右腕は黒鬼の前で意識なく膝をついている20代前半の女性の心臓を貫いていた。
その女性の血を額に付けた黒鬼は、冬次をみて少し驚いていた。
「大門家と言えば、名家中の名家である彼の六門家と肩を並べる大名家ではないか、そこの若造がこの老ぼれに何用かな?」
「黙れ、お前のその嫌な言い回しを聞きたくて俺は来たんじゃない」
黒鬼はまるで親戚の子供を見るように微笑んでそう言った。
冬次はそんな黒鬼をぶん殴ってやりたかったが、隙を作るにはまず奴を油断させなくていけないため、どうにか心を押さえていた。
冬次は今年28になる。
28といえば若くもないがおじさんでもない年齢である。
そんな冬次と黒鬼は容姿でいえばそれほど変わらない。
だが黒鬼の年齢は推定1000歳と言われている。
鬼は基本出現してから遅くとも1年以内には守術師により封印されるのがほとんどである。
ただ個体によってはその強さから、守術師から生き延びている者もいる。
それでも、1000年間生き延びているのは異常である。
「大門君、ここは見逃してもらえないだろうか」
「何を言ってるんだ貴様は」
「おそらく君では私に勝てない、ただ私としても大門家からこの先狙われ続けるのは得策ではなくてね」
「脅しているのか?」
黒鬼が笑っているのに対して冬次は怒りで酷い顔をしている。
その表情の差が2人の心の余裕の違いを表している。
そして黒鬼に脅された冬次は溢れ出る殺気を黒鬼に向けた。
その瞬間、その場にピリッと緊張が走った。
その時だった2人のちょうど間にあるゴミ箱の蓋が静かに開いた。
「ほぉ大門君、ここに来たのはどうやら君一人だけではないようだね」
「な、坂本!なんで出てきた」
「ごめん冬次」
坂本は冬次の殺気を感じまずいと思い隠れていたゴミ箱から出てきてしまった。
「お前、なんでまたこんなところに」
「冬次が隠れてろっていうから」
「だけどお前、なんでゴミ箱なんだ」
「なるべく近い方がいいと思って」
「バカ野郎……」
冬次はそう言って右手を額に当てて空を見上げた。
ただ坂本があそこで出て行かなければ冬次は黒鬼に飛びかかっていたので、冬次としては正直助かったという感じだった。
対して黒鬼は坂本を見るや否や笑顔が消えていた。
「坂本久しぶりだな」
そう言う黒鬼からは先程までの余裕は消えており、殺気を隠す事なく坂本に向けていた。
「黒鬼か、また逃げようとしたなお前」
一方で坂本は普段のどこか間の抜けた表情を変える事なく淡々とそう言った。
守術師は鬼から人を守る者である。
そのため守術師は鬼を殺すことはできない。
しかし、鬼が人を殺せるように人もまた鬼を殺す事ができる。
その者達は特異な能力を土地神から授かっており、鬼を殺す事ができる。
ただ極めて数が少なく、100年間に多くて3人しかいない。
その者達を鬼を攻めるものとして、攻術師と呼ぶ。
「3年前は取り逃したけど、もう容赦しない」
「あの時は世話になったな小僧、もう偶然はないと思えよ」
黒鬼はそう言って貫いていた右腕を女の身体から抜いた。
抜いた右手には青色の彼岸花があった。
それを見て坂本の表情からは普段の間の抜けた感じではなく、静かな殺気を放っていた。
それと同時に坂本の髪は黒から赤に変色していった。
鬼を殺す力を宿す攻術師は、その力を使う際に髪が赤く変色する。
そのため人々は赤い髪をした彼らのことを赤髪の攻術師と呼ぶ。
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