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第1章「始まり」
第1話 失われた姫の尊厳
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あなたは、本当に危険な存在を見たことがありますか?
私はあるのです。世界最強にして混沌と破壊と淫蕩をもたらすこの世で最も高貴な魔王を・・・・・・私は見たことがあるのです。
私の世界が3度目の崩壊を迎えようとしている頃、その魔王は現れたのです。
順をおってお話いたしましょう。
私の名は、ラーマ・シュー。多くの覇者が覇権を争う群雄割拠のこの世界。数多く存在する魔王の一人 ルーカ・シューの一人娘にして父上の王国の軍勢を預かる将軍。この国で最も臣民に慕われる姫巫女の騎士でございます。
私は父上が人間の娘との間に作った子供だというのに、庶子ではなく正当な姫として父上から溺愛され、臣民からも深く尊敬されていたので幼いころから何不自由なく育てられました。
さて、そんな幸せな私の人生にも陰りが訪れます。
事の始まりは隣国の魔王ジャック・ダー・クーが突如、同盟を破棄して襲い掛かってきたことでした。その時、国境近くの山へ鷹狩に出ていた父上は少数の手勢でジャック・ダー・クーの軍勢と遭遇いたしました。父上は家臣たちを守りながら無事に城まで逃げ延びたのでございますが、多勢に無勢。戦力差はいかんともしがたく魔王ジャック・ダー・クーの魔剣によって深手を負ってしまわれたのです。父上はそんな重傷の身でありながら、ベッドの上からでも指揮を執り敵に囲まれた我が城を護りぬいておられました。
そんな国と父上の窮地でありながら、人間と魔王のハーフである私は大した魔力もなく、戦闘力もない。兵術の知識と巫女騎士のスキル死霊術だけが取り柄のお飾り姫騎士。
ええ・・・。わかっておりました。私は偉大な魔王の娘として将軍職を預かる身ですが、ひ弱な乙女でしかありません。英才教育として幼いころから軍事教育その他の高等教育を受けてきたとはいえ、精々が600年ほどしか生きていない私が知りえた兵術など海千山千の群雄割拠の戦乱の世を生き抜いてきた魔王ジャック・ダー・クーの足元にも及びません。兵士たちは私を慕ってくれますが、それも父上の御威光あっての事。私が本当に期待されていたのは政略結婚としての駒であるという事を私は重々承知しておりました。
だから、私はこの窮地にあっても自分にできることなど大してないことを自覚していたので、ただ父上の言われるがままに部下たちに父上の出した指令を伝えるのです。
しかし、籠城戦が始まって4日目の事、遂に第一の門が破られ敵が城内に入って参りました。伝令からその知らせを受け取った父上は観念したかのように深いため息をついた後、
「あの者にすがるしかあるまい・・・。」
と、仰られました。
父上のお言葉の意味が解らなかった私が
「お父様。この期に及んでどの君をお頼りになられるのでしょうか? いえ、有力な助っ人がおられたとしても、この四方八方にめぐらされた槍衾。救援の知らせを出すのも今や至難の業でございますわ。」
と、父上に尋ね返すと、父上はご自身が大切にしまっておられた宝石箱を家臣に持ってこさせて、その箱を開けました。そして宝石箱の中から古くて厳めしい、おどろおどろしい姿かたちをした鍵を取り出しになられたのです。それはまるで蛇の頭部のような形をしておりました。
そして、父上が私にそのカギをお渡しになられますと、とても緊張した面持ちで仰いました。
「よいか、ラーマちゃん。
この城の地下には古き異界の大神によって入封された世界最強の魔王が眠っている。
これは、その魔王の封禁を解く鍵。
かつて余が若かりし頃、偶然にこの封禁を余は知ったのだ。そして、その封禁された魔王と取り決めをしたのちに、この地に王城を立てた。封禁の間を守るためじゃ。
魔王と交わした取り決めとは余が窮地になった時に初めてその封禁を解く。その後、魔王はこの世界をどうしても良いが、我が家臣、一族郎党のみは命を助けてくれという取り決めじゃ。
ようは、この世界を売る代わりに我が一族だけは助命しておくれという事じゃ。」
お父様の説明を聞いたとき、私は恐ろしくて総毛立ちました。
「お父様。なんてことをなさったのです。
あなたはご自分たちの命乞いのために世界を滅ぼすお約束をなさいましたの?」
責めるような口調で父上を説得しようと試みた私でしたが、父上は鼻で笑われました。
「何を申すかと思えば・・・・・・。よいか、このまま何もしなければ、世界の方が我らを殺すのだ。
その世界の理を壊して生き残ろうとして何の罪がある。
この罪の重さは重々承知じゃが、それ故にこのような窮地の時まで使いたくない手立てじゃった。
だがな、ラーマちゃん。
この群雄割拠の世界。ようは生きるか死ぬかなのじゃ・・・。」
父上はそれだけいうと、あとは私の言い分など聞かずに護衛に命令して私を地下の封禁の間まで連行させました。
異界の魔王の手を借りるなどという恐ろしいことに手をつけたくなかった私は必死に抵抗しようと試みましたが、屈強な衛兵たちは私の抵抗など問題にせずに両脇から腕を掴んで引き摺って行くのです。
「おやめなさいっ!!
お放しなさいっ!! ぶ、無礼ですわよっ!!」
「い、痛いっ!!
引っ張らないでっ!! や、やめなさい、・・・やめてっ!!」
「いやぁ~~~、やめてっ!! お父様っ!!
やめさせてください、お父様ぁ~~っ!!」
父上の命令に従う衛兵たちは私がいくら命令しても私の両腕を離してはくれませんでしたし、私がいくら泣き叫んでも、お父様は衛兵たちをお叱りになられませんでした。
自分がここまで無力なお飾り様だったと思い知らされたことは、今までありませんでした。
いいえ。
それどころか、自分が「お飾り様」だということの意味をこの期に及んでも私は理解していなかったのです。
私が「お飾り様」だという事を本当の意味で思い知らされたのは地下に降りてからの事でした。
衛兵たちは封禁の間につくと、あろうことか私を地面に押し倒すと、私の衣服を剥ぎ取りだしたのです。
「きゃあああ~~っ!!
な、なにをするの? やめて、やめなさいっ!!
いやぁ~~っ!! お、お父様、助けて~っ!!」
突然のことに悲鳴を上げて必死に抵抗する私でしたが、衛兵たちはやめてくれませんでした。
「姫様っ!! 大人しくご観念なさいませっ!!」
「あなたさまは、異界の魔王に捧げられるのですっ!!
異界の魔王は乙女を好まれます。衣類は無用にございますればっ!!・・・ご無礼仕りまする!」
” あなたは異界の魔王に捧げられるのですっ!! ”
その言葉を聞いた私は自分が愚かで無知な存在だとこの時、初めて本当の意味で知ったのです。
そう、人間との間に生まれた混血で無力な私を国の領民たちや家臣たちが敬ってくれたのは、姫に対する敬意ではなく、全てはこの時の為でした。私は政略結婚の駒ですらなく、異界の魔王への供物だったのです。
神への人身御供が大切に扱われるのと同じように私は臣民たちから愛されていたのだと・・・・その時、ハッキリと分かったのです。
神への供物は、その愛が重ければ重いほど意味を持つ。きっと、お父様が私を溺愛してくださったのも、そういう理由だったのだと思い知らされたのです。
バカな私・・・・・。愚かな私・・・・。
考えてみれば、おかしな話です。こんな無力な姫が将軍だなんて・・・・バカみたい・・・・。
考えれば考えるほど悲しくなった私は、衣服を剥ぎ取られることに抵抗する気も失って、ただ、ただ大粒の涙をこぼして泣きじゃくるのみでした。
そんな私にせめてもの慈悲で衛兵たちは私を全裸にすることまではせずに、肌着のみは残してくれました。そして、さらに単衣をアウター代わりとして私に羽織らせてくれました。
「姫様。ご無礼をお許しください。
その肌着と単衣姿は我ら家臣が最後に姫様に手向けることができる忠義の証。
ご安心くださいませ。姫様の貞操と純潔はいまだ守られておりまする・・・・。」
衛兵たちは地面に頭をこすりつけながら涙をこぼして私に非礼を詫びてくれました。その姿を見て一国の姫が成すことは一つ。
彼らを許し、その忠義を讃え、己の使命を全うすることのみです。
それこそが唯一、私に残された姫としての尊厳。
自国の衛兵に衣服を剥ぎ取られるという恥辱を受ける姫に何のプライドがございましょうか?
それでも、それは魔王に捧げられるという最後の時に私が活きる者として縋ることができる最後の希望だったのです。
その歪んだ尊厳に縋って、私は鍵をもって封禁の間を開けて中に入ります。
そこには最初にお話しした通り、最強の魔王が待ち構えているのでした・・・・・。
私はあるのです。世界最強にして混沌と破壊と淫蕩をもたらすこの世で最も高貴な魔王を・・・・・・私は見たことがあるのです。
私の世界が3度目の崩壊を迎えようとしている頃、その魔王は現れたのです。
順をおってお話いたしましょう。
私の名は、ラーマ・シュー。多くの覇者が覇権を争う群雄割拠のこの世界。数多く存在する魔王の一人 ルーカ・シューの一人娘にして父上の王国の軍勢を預かる将軍。この国で最も臣民に慕われる姫巫女の騎士でございます。
私は父上が人間の娘との間に作った子供だというのに、庶子ではなく正当な姫として父上から溺愛され、臣民からも深く尊敬されていたので幼いころから何不自由なく育てられました。
さて、そんな幸せな私の人生にも陰りが訪れます。
事の始まりは隣国の魔王ジャック・ダー・クーが突如、同盟を破棄して襲い掛かってきたことでした。その時、国境近くの山へ鷹狩に出ていた父上は少数の手勢でジャック・ダー・クーの軍勢と遭遇いたしました。父上は家臣たちを守りながら無事に城まで逃げ延びたのでございますが、多勢に無勢。戦力差はいかんともしがたく魔王ジャック・ダー・クーの魔剣によって深手を負ってしまわれたのです。父上はそんな重傷の身でありながら、ベッドの上からでも指揮を執り敵に囲まれた我が城を護りぬいておられました。
そんな国と父上の窮地でありながら、人間と魔王のハーフである私は大した魔力もなく、戦闘力もない。兵術の知識と巫女騎士のスキル死霊術だけが取り柄のお飾り姫騎士。
ええ・・・。わかっておりました。私は偉大な魔王の娘として将軍職を預かる身ですが、ひ弱な乙女でしかありません。英才教育として幼いころから軍事教育その他の高等教育を受けてきたとはいえ、精々が600年ほどしか生きていない私が知りえた兵術など海千山千の群雄割拠の戦乱の世を生き抜いてきた魔王ジャック・ダー・クーの足元にも及びません。兵士たちは私を慕ってくれますが、それも父上の御威光あっての事。私が本当に期待されていたのは政略結婚としての駒であるという事を私は重々承知しておりました。
だから、私はこの窮地にあっても自分にできることなど大してないことを自覚していたので、ただ父上の言われるがままに部下たちに父上の出した指令を伝えるのです。
しかし、籠城戦が始まって4日目の事、遂に第一の門が破られ敵が城内に入って参りました。伝令からその知らせを受け取った父上は観念したかのように深いため息をついた後、
「あの者にすがるしかあるまい・・・。」
と、仰られました。
父上のお言葉の意味が解らなかった私が
「お父様。この期に及んでどの君をお頼りになられるのでしょうか? いえ、有力な助っ人がおられたとしても、この四方八方にめぐらされた槍衾。救援の知らせを出すのも今や至難の業でございますわ。」
と、父上に尋ね返すと、父上はご自身が大切にしまっておられた宝石箱を家臣に持ってこさせて、その箱を開けました。そして宝石箱の中から古くて厳めしい、おどろおどろしい姿かたちをした鍵を取り出しになられたのです。それはまるで蛇の頭部のような形をしておりました。
そして、父上が私にそのカギをお渡しになられますと、とても緊張した面持ちで仰いました。
「よいか、ラーマちゃん。
この城の地下には古き異界の大神によって入封された世界最強の魔王が眠っている。
これは、その魔王の封禁を解く鍵。
かつて余が若かりし頃、偶然にこの封禁を余は知ったのだ。そして、その封禁された魔王と取り決めをしたのちに、この地に王城を立てた。封禁の間を守るためじゃ。
魔王と交わした取り決めとは余が窮地になった時に初めてその封禁を解く。その後、魔王はこの世界をどうしても良いが、我が家臣、一族郎党のみは命を助けてくれという取り決めじゃ。
ようは、この世界を売る代わりに我が一族だけは助命しておくれという事じゃ。」
お父様の説明を聞いたとき、私は恐ろしくて総毛立ちました。
「お父様。なんてことをなさったのです。
あなたはご自分たちの命乞いのために世界を滅ぼすお約束をなさいましたの?」
責めるような口調で父上を説得しようと試みた私でしたが、父上は鼻で笑われました。
「何を申すかと思えば・・・・・・。よいか、このまま何もしなければ、世界の方が我らを殺すのだ。
その世界の理を壊して生き残ろうとして何の罪がある。
この罪の重さは重々承知じゃが、それ故にこのような窮地の時まで使いたくない手立てじゃった。
だがな、ラーマちゃん。
この群雄割拠の世界。ようは生きるか死ぬかなのじゃ・・・。」
父上はそれだけいうと、あとは私の言い分など聞かずに護衛に命令して私を地下の封禁の間まで連行させました。
異界の魔王の手を借りるなどという恐ろしいことに手をつけたくなかった私は必死に抵抗しようと試みましたが、屈強な衛兵たちは私の抵抗など問題にせずに両脇から腕を掴んで引き摺って行くのです。
「おやめなさいっ!!
お放しなさいっ!! ぶ、無礼ですわよっ!!」
「い、痛いっ!!
引っ張らないでっ!! や、やめなさい、・・・やめてっ!!」
「いやぁ~~~、やめてっ!! お父様っ!!
やめさせてください、お父様ぁ~~っ!!」
父上の命令に従う衛兵たちは私がいくら命令しても私の両腕を離してはくれませんでしたし、私がいくら泣き叫んでも、お父様は衛兵たちをお叱りになられませんでした。
自分がここまで無力なお飾り様だったと思い知らされたことは、今までありませんでした。
いいえ。
それどころか、自分が「お飾り様」だということの意味をこの期に及んでも私は理解していなかったのです。
私が「お飾り様」だという事を本当の意味で思い知らされたのは地下に降りてからの事でした。
衛兵たちは封禁の間につくと、あろうことか私を地面に押し倒すと、私の衣服を剥ぎ取りだしたのです。
「きゃあああ~~っ!!
な、なにをするの? やめて、やめなさいっ!!
いやぁ~~っ!! お、お父様、助けて~っ!!」
突然のことに悲鳴を上げて必死に抵抗する私でしたが、衛兵たちはやめてくれませんでした。
「姫様っ!! 大人しくご観念なさいませっ!!」
「あなたさまは、異界の魔王に捧げられるのですっ!!
異界の魔王は乙女を好まれます。衣類は無用にございますればっ!!・・・ご無礼仕りまする!」
” あなたは異界の魔王に捧げられるのですっ!! ”
その言葉を聞いた私は自分が愚かで無知な存在だとこの時、初めて本当の意味で知ったのです。
そう、人間との間に生まれた混血で無力な私を国の領民たちや家臣たちが敬ってくれたのは、姫に対する敬意ではなく、全てはこの時の為でした。私は政略結婚の駒ですらなく、異界の魔王への供物だったのです。
神への人身御供が大切に扱われるのと同じように私は臣民たちから愛されていたのだと・・・・その時、ハッキリと分かったのです。
神への供物は、その愛が重ければ重いほど意味を持つ。きっと、お父様が私を溺愛してくださったのも、そういう理由だったのだと思い知らされたのです。
バカな私・・・・・。愚かな私・・・・。
考えてみれば、おかしな話です。こんな無力な姫が将軍だなんて・・・・バカみたい・・・・。
考えれば考えるほど悲しくなった私は、衣服を剥ぎ取られることに抵抗する気も失って、ただ、ただ大粒の涙をこぼして泣きじゃくるのみでした。
そんな私にせめてもの慈悲で衛兵たちは私を全裸にすることまではせずに、肌着のみは残してくれました。そして、さらに単衣をアウター代わりとして私に羽織らせてくれました。
「姫様。ご無礼をお許しください。
その肌着と単衣姿は我ら家臣が最後に姫様に手向けることができる忠義の証。
ご安心くださいませ。姫様の貞操と純潔はいまだ守られておりまする・・・・。」
衛兵たちは地面に頭をこすりつけながら涙をこぼして私に非礼を詫びてくれました。その姿を見て一国の姫が成すことは一つ。
彼らを許し、その忠義を讃え、己の使命を全うすることのみです。
それこそが唯一、私に残された姫としての尊厳。
自国の衛兵に衣服を剥ぎ取られるという恥辱を受ける姫に何のプライドがございましょうか?
それでも、それは魔王に捧げられるという最後の時に私が活きる者として縋ることができる最後の希望だったのです。
その歪んだ尊厳に縋って、私は鍵をもって封禁の間を開けて中に入ります。
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