魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第1章「始まり」

第3話 開封の儀式

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 てんやわんやの騒動のあと、魔王様との言い合いのおかげで少し恐怖感が薄らいだのか、心が落ち着いて体の自律神経の正常を取り戻したわたくしは尿意を止めることができるようになりました。
「うう~・・・や、やっと、止まったか。
 まったく、このションベン娘がっ!!」

 すでに収まったというのに、魔王様は私を口汚くののしります。

「・・・・・・グスグスっ・・・・・・ううっ、ひ・・・酷いですわぁ~。」

 私、これほどの恥辱を受けたことがありませんでしたので、尿意が収まっても涙は止まることがありません。身を震わせて泣いているというのに魔王様は、なおも私を責め立てます。

「ええ加減、泣きやまんかいっ!! 泣きたいのはこっちやで、マジで。
 下のお水は止められても上のお水は止められんっちゅ~んかいっ!? お~?」

「ひ、酷いことをおっしゃらないでくださいっ!! わ、私・・・・・・もう死んでしまいたいっ!!」
 しかし、涙交じりの私の抗議はアッサリと否定されました。
「アホたれ。
 お前が泣き止まんかったら、話が前に進まんやろうがっ!!
 ここでお前が何時までもグズグズ言うとったら、お前の国の臣民しんみんは死んでまうんやで? 
 えのんか? お前、それでもえのんか?」

 はっ!! そ、そうでしたわっ!! 私の肩には我が国の民草の命運が乗っているのです。
 確かに魔王様の仰る通りです。私、いつまでも子供のように泣いているわけにはまいりませんっ!!

「あ~あ。可哀想にのう・・・・。
 お前がグズグズ泣いてる間やションベンたれとった間に何人死んだか。」

 うわ~んっ!!

「また泣くんかいっ!! ボケっ!!」





 私が心の平穏を取り戻すまでに何人が犠牲になったのかは考えないようにいたしましょう。これも天命というもの。人の生き死には人にはどうにもならぬもの。
 私。もう振り返りませんわ。今、大切なことは私が前に進むことですものっ!!

 そうやって覚悟が決まった私が次に考えなくてはいけないことは、当然。今濡らしてしまったこの肌着と単衣ひとえを・・・。どうするかということですっ!!

「・・・お前、そこそこええ根性しとるの?
 どうせ、このに及んでも俺の封禁ふうきんのことじゃなくて、ションベンで濡らした肌着を脱ぐか脱がぬかで悩んどるやろ。」

「えええええっ!!
 ま、魔王様。どうして、お気づきにっ!!?」
 魔王様があまりにも的確に私の心情を読み解いたので私は酷く慌てましたが、間髪かんはつを入れずに魔王様が指摘なさいます。
「アホたれっ!!
 そんだけ股間をモジモジさせとったらさせていたら、わかるわっ!
 大体、体裁ていさい気にしてる場合かっ! 
 お前みたいな着替えも全部、従者がしてくれてたお姫様にはピンとこんかもしれんけどな、オーバーな話やうてションベンで濡れたパンツは体に毒やぞっ!!
 脱げっ!! どうせ脱がな開封の儀式なんかできんのやっ!! さっさと全部脱いで生まれたままの姿をさらさんか~いっ!!」

 衝撃的な事実っ!!
 おしっこで濡れたパンツは体に毒っ!? 毒ってどれくらいの毒ですの? 猛毒ですの? わ、私、どうなってしまいますのっ?
 し、ししし・・・しかも、開封の儀式は全裸で行う必要がありますのっ!?
 私の脳内は、もう突然の情報の荒らしで大混乱です。
 魔王様は、そんな私の動揺が手に取る様にお分かりになるようで、「はぁ~。お前、ホンマにアホやのう・・・。」と、酷い事を呟かれてから、仰いました。
 
「あのな、猛毒なわけあるかい。ションベンは体に毒言うたかて、よう考えてみんかいみなさい。それはお前の体から出たもんやろ。そんなもんが猛毒なわけないやろ。それでも股間が滅茶苦茶ただれてしまうことだってあるから言うとるんや。」
「それからな・・・。俺の前で裸になることを恥ずかしがる必要はないで?
 お前はどうせ、俺の伴侶になる身や?
 そうなったら、俺に全裸を晒すんは当たり前や。お前には俺の子供をたくさん産んでもらうんやからな・・・。」

 魔王様は先ほどまでとは打って変わってお優しいお声で話してくださいました。きっと、私。あきれられてしまったのね。
 でも、考えてみれば、仰る通り。お小水は私の体から出たもの。もし死に至るような猛毒が体に入っていたら、とっくの昔に私、亡くなっていましたわね。
 私は魔王様のお言葉の一部に納得して、一度はうなずきましたが、すぐにもう一方のご説明に疑問を覚えましたの。



「あの・・・魔王様。私が魔王様の赤子を宿すことと、全裸になることに何の関係が?」


「・・・お前っ・・・・・・マジかっ・・・・・!?」

 再び魔王様は呆れたようなお声をお上げになられましたが、すぐに諦められたかのように深いため息をついたあと・・・

「あああああああっ!! もうっ!! 一々、説明してられるかっ!! このアホたれ娘がっ!!
 もう、ええから脱げっ!! さっさと脱げ~っ!!
 お前が脱がなお前の臣民は全員、死んでまうんやで~~~っ!!」

 魔王様はとうとう、最後の手段である私の大切な領民の命を盾に私に肌着を脱ぐことを強要してこられました。・・・・・・しかし、これには抵抗できる理由もなく、私は恥ずかしさに肌を紅潮させながら肌着も単衣を脱ぎ捨てます。
 「ひゅ~、え乳しとるのぉ・・・・・・。」
 私の生まれたままの姿を見て、魔王様は口笛鳴らしてはやし立てます。
「ええのう、ええのう。Gカップはあるんちゃうんか? マジでええ乳しとんなぁ、お前。
 狭い肩幅に手折たおれそうなほどに細い腰。ムチムチの太ももときたら、男の欲望を絵にかいたような美ボディやぞ。お前。」
 魔王様は、私の体についての感想を意味不明な用語を交えて述べられました。
 ううっ・・・。は、恥ずかしい。殿方の前で裸になった経験も無ければ、男性からこのようないやらしい物言いをされた経験などありませんっ!!
 私は恥ずかしさのあまりその場にしゃがみこんでしまいましたが、その姿は床下に封禁されている魔王様からすると全てが丸見えになるようで「おおおお~~~っ!!!? 誘っとんかい? 誘っとんか~いっ!?」などと興奮する声をお上げになられたので、私は恥ずかしさのあまり大きな声を上げて抗議いたします。

「い、いいから、早く開封の手順を仰って下さいませっ!!」

 魔王様は私の抗議を聞いて嬉しそうな笑い声をあげると、私に開封の儀式の進め方を説明なされます。
 
「ええか? 幸いなことに開封の儀式には魔術はいらん。要するにお前のように貧弱な魔力しか持っていないアホ娘でも問題なく出来るっちゅーことや。」

 酷いっ!! 私はアホではありませんっ!! 幼いころから英才教育を受けた才女ですわっ!!
 撤回てっかいを、撤回を求めますっ!!

「あ~、もうそういうのええから・・・。 それでな、具体的に何をするかっちゅーたら、その鍵先を口に含んで入れたり、出したりしてその鍵先に封印されとる術式を吸い出して、鍵から放出させるわけや。それで封禁術は解ける。
 この儀式ばっかりは神聖な乙女やーたら駄目いかん。その上で俺の伴侶となる存在。つまり、愛の力が必要なんや。
 俺の魔力にひれ伏さへん人間との混血で処女。そして俺との結婚に同意する姫巫女のお前や-たらいかんのや。わかるな?
 ちょっとビジュアル的にいやらしい儀式になるけど・・・まぁ、ここは一つ頼むわ。」

 「え? こ、この蛇の頭をした鍵先を口に含んで入れたり出したりするだけでいいんですかっ!?」
 「・・・・き、気持ち悪いですわ・・・。でも、そんなことに何の意味がございますの?」

 魔王様の仰ることの半分も私には理解が及びませんでしたので尋ね返しますと、魔王様はこれまた呆れたように返事を返します。

「いや、お前・・・。蛇の頭って・・・。それは蛇の鎌首を模した物やいで?
 それはの・・・男根じゃ。」

「・・・? 大根ですか? 
 ええっ!? 大根にはこんな雁首かりくびはないはずですわよ? それとも異界の大根とは、このような姿かたちをしていますの?」

「・・・・・・。そっか、お前処女やさかい見たことないわな。
 もう説明するのも面倒や。それは蛇の頭でええからさっさと口にくわえて中の術式を吸い出さんかいっ!!」
「ひっ!! わ、わわわ、わかりましたぁっ!!」

 魔王様が私に愛想をつかしたかのように急に怒鳴りだすので、怯えた私は気持ち悪い蛇の頭の形の鍵先を言われた通り急いで口に含むと中の術式を吸い出そうと懸命に頑張ります。

「はぁっ・・・はぁっ・・・。
 んっ・・・はぁっ・・・・。」
 頑張って口に含んだ鍵先を前後させながら、吸い続けると咥内こうない唾液だえきが分泌されてクチュクチュと湿った音を立てます。私はそのうち、苦しくなって途切れ途切れに吐息交じりの声を上げます。
 しかし、それが魔王様にとっては好印象らしく「ええぞ、ええぞっ!! いま、ビジュアル的に最っ高にエロいことになっとんでっ! お前。」と、ご機嫌なご様子で褒めてくださいます。
 て、いうか、私。本当に気持ちが悪いのでこんな事させられて褒められても腹が立つ一方ですわ。
 ああんっ!! もうっ、早く術式が解けてくださいっ!!!

 私がそう思った矢先、魔王様が「おおっ!! で、出るぞっ!! 鍵先から顔を離せっ!! し、死ぬぞっ!!」と、声を上げると一拍おいてから鍵先から何かが恐ろしい勢いで飛び出してきました。
 それは、恐ろしいほど高圧力で圧縮された粘度の高い液体だったようですが、鍵先から飛び出した勢いはすさまじく、私を大きく飛び越えて岩屋の壁に直撃すると轟音ごうおんを立てながら岩屋の壁を破壊して飛び出して、どこかへ飛んでいき、後には真っ白な液体の残滓ざんしが岩屋をベトベトに濡らしておりました。

「ひっ・・・・・・ひいいいいいいっ!!
 こ、これ死んでましたわよね? 私が魔王様の命令通り顔を鍵先から離しておかねば死んでいましたわよねっ!?」
 
 爆音を立ててなおも遠くの何かを破壊して飛んでいく音が岩屋の中に響いている中、恐怖のあまりに腰が抜けてその場にへたり込んでしまった私の頭をどなたかが後ろから優しく撫でてくれました。

うやったな。俺の言いつけを守って偉いぞ。
 あれは魔王の封禁を解くために淫蕩いんとうな真似をした娘を罰する仕掛け。う無事やった。」

 (・・・だ、誰ですの?)
 想像を絶する出来事を受けて混乱する私は、おずおずと声の下方向を見上げると・・・・・・。

 そこにはこの世の者とは思えぬほど美しい、美しい。本当に美しい16、17歳くらいの美少年が全裸で立っておりました。
 
「大儀であったっ!! 開封の儀式はここになされた。
 俺がお前の求めた魔王である。」

 その透明感あるお声と佇まいに私は見とれてしまい時を忘れて固まってしまいました・・・。
「て、いうかっ!! 全裸ってっ!!
 ぜ、ぜぜぜ、全部さらけ出しているじゃありませんのっ!!
 破廉恥はれんちですわっ!! こんなの破廉恥ですわ~~~っ!!」

 狼狽うろたえる私に魔王様はいやらしい笑みを浮かべて言いました。
 
「お前も全裸やないかい。 ホンマにエロい体しとるのぅ・・・」

 ・・・っえ、・・・
 あ、そ、そういえば・・・私、今・・・。

「きゃああああああああ~~~っ!!」

 殿方の前で全裸になった恥ずかしさと魔王様の全てを見つめてしまった気恥ずかしさに私ははしたないほど大きな声で悲鳴を上げてしまうのでした・・・。  
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