魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第1章「始まり」

第6話 明けの明星

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「さぁっ、者共。
 我に続けっ!! 魔王ルーカ・シューと囚われの仲間を救い出すぞっ!!」

 魔王様に先導されて、僅かに生き残っていた兵士はおろか民衆までもが武器を手に取り、復讐を果たさんと追撃を始めました。
 わたくしも僅かな死霊術と兵法の心得があるので、武装して彼らに同行します。勿論、魔王様の側にいるわけですが・・・・・。
 
 いや、側にいるというか・・・・・・。

「なんで私、背負子しょいこに乗せられていますの~~っ!?
 おろしてくださいっ!! 私とて姫将軍。乗馬の心得もあれば、剣の心得もございますっ!!」
 
 魔王様がお乗りになられる神馬しんめは家臣たちが魔神ギーン・ギーン・ラー様の神殿に寄進された馬を特別に取り寄せたもの。その背の脇に乗せられた背負子に私、荒縄で縛られた状態で同乗させられましてございます。
 こ、こんなのあんまりですわ~~~っ!!
 しかし、私の抗議は魔王様の
 「アホたれ、お前みたいなお飾りのお姫様の乗馬と剣術が役に立つかいっ! ええから黙って乗ってっ!!」
 の一言で却下されました。
 さて、この神馬は元々は軍馬の中でもとりわけ大きいものでこの国一番の名馬です。その体躯たいくには魔王様も「おう。よしよし。え馬用意したな。白馬というのもええな。」とご満悦でした。さすがに大きな身体なので、完全装備の私と魔王様の二人が乗っているというのに、何の問題もなく風のように大地を駈けていきます。ま、もっともなぜか魔王様は依然、全裸でございますが。
 民衆たちはそれぞれが馬車に乗車して追いかけてきますが、魔王様の神馬とは大きく距離が開いていきます。

「まぁ、これでええ。どうせ、あいつらっても足手まといや。」
 魔王様はそう言って愉快そうに笑って背後を見ます。
 きっと、魔王様は民衆を戦わせる気なんてなかったのでしょう。それでも、敗北を受け入れる魂がお気に召さなくてあのような態度をおとりになられたのでしょうね・・・。
 私は魔王様の広いお考えに深く感動いたしました。

「さぁ、敵が馬でルーカめを連れ去ったとはいえ、捕虜の多くは徒歩よ。
 そう早くは進めはせんでしない。そろそろ敵の後ろ髪が見えてくるころやぞっ!!」
 魔王様はそう仰るとはるか後方に向けて手にした槍を掲げて号令を送ります。

「者共っ!! そろそろやぞっ!!
 死ぬ気で突っ込んで来~いっ!!」
 あら。この魔王様ったら、実は戦わせる気満々では?
 私が呆れていると、前方に砂煙が見えます。この独特の砂煙は大勢の人間が行進するときのもの。魔王様が仰る通り、敵の最後尾が見えてきたという事かしら・・・と、私が思った時、魔王様は走行する馬の背に立ち上がり、立ったまま手綱を操っておられます。
 て、言うか揺れてますっ!! 魔王様の黒ヘビ・・・が馬の振動に合わせて別の生き物みたいに激しくビッタンビッタンとのたうち回っていますわぁ~~~っ!
「いやあああああ~~~~っ!!
 破廉恥ですわっ!! こんなの、破廉恥すぎますわぁ~~~っ!!」
「やかましいっ!! 誰も見てくれ言うてへんわっ!! 
 いやったら見んかったえんやっ!! この淫乱娘がっ!!
 お前はどこぞのクレイマーかっちゅうねん!!」

 魔王様。ちょっと楽しそうです。ひょっとして私、遊ばれています?
 ショックを受けてしまいますが、魔王様は気にも留めずに右手で顔にひさしを作りながら前方を睨むと、状況を確認しておられるご様子で、
「おおっ。逃げとる、逃げとる。
 しかし、この進軍速度やと面倒やな。後方は捕虜が徒歩。ずっと離れて魔王がおる。
 このまま馬鹿正直に突っ込んでも、捕虜が邪魔して魔王に近づけん。
 前方の魔王の部隊を直接叩かなあかんなだめだな
 と、仰ると何やら作戦を考えておられるご様子でした。
 私も何か兵法の知恵をお貸しできないものかとお声がけしようと思った矢先の事でした。
 突然、魔王様は誰もいない天を指差してこう言われたのです。

「おい、そこのお前。そう、お前や。
 お前の大きさが丁度良えんや。お前以外のものでは味方まで被害を被る。」
「許す。我が領地に住む栄誉を与えよう。
 さぁ、落ちて参れっ!!
 そして、我が敵を打ち滅ぼすがいいっ!」

 魔王様がそうおっしゃってから、暫くすると天を揺るがす轟音と共に一筋の流れ星が降り注ぎ、前方のジャック・ダー・クーの軍勢のいる場所に堕ちたのでした。

 そして、一瞬、すべてが白む閃光の時が訪れるのでした。
 ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・
「きゃああああああああ~~~っ!!」
 凄まじい爆発音とともに、前方から土が吹き飛んできます。そのひとつが私の頭部に当たりましたが、兜が無ければ即死したかもしれない勢いでした。
 流れ星が落ちた勢い凄まじく、前方の魔王軍には甚大な被害があったもようで、敵の進軍はピタッと止まりました。
 全ての者が呆気に取られている中、魔王様だけが愉快そうです。

「うむうむ。丁度良い大きさやったな。これでこの星も少しはうるおい、汚らわしい者も払えたというもの。良き仕事をしてくれたわ。」
 そういってから、再び民衆の方へ振り向き、「突撃っ!!」の合図とともにご自身の馬を突撃させます。

 ひっ・・・・・・ひいいいいいいっ!!
 魔王様は私を背負子に縛り付けておられるのをお忘れでしょうか? わき目も降らずに敵軍に突撃していきます。
 あ・・・。私、やっぱり今日死ぬんですわね。こんな縛られた状態では戦うどころか守ることも叶わずに一方的に攻撃されてしまいます。
 そう覚悟を決めたとき、意外なことが起こりました。
 私の前に無人の野が開けたかのように、さーっと敵兵が避けていくのです。
 考えてみれば当たり前のお話です。魔族の誰がこの神々しい魔王様に歯向かおうなどと思うものですか。
 皆、己の魂に刻まれた恐怖に逆らえずに魔王様をジャック・ダー・クーの下へ案内するかの如く、道を上げたのでした。
「ふふふ。面倒のないことよ。」
 魔王様はジャック・ダー・クーの前に立つとそう仰いました。
 ジャック・ダー・クーは命乞いとばかりに土下座していました。
 お父様は重症の身の上で馬に引きずられたという瀕死の状態にもかかわらず、ジャック・ダー・クーのそんな哀れな姿を見て愉快そうに「これでお前は終わりだ。お前たちは終わりだ。この世を滅ぼす異界の魔王が契約によって現れたのだからなっ!!」と、声を上げられました。
 魔王様はその姿を見て呆れたように言いました。

「なんや、お前。死にかけてるやんけ。
 せっかく、俺が一介の魔族にすぎんお前に魔力を与えて魔王にしたったしてやったというのに下手打って、そんな様かいや。」
 魔王様は手になされた槍で我が父を指し示すようにしながら、せせら笑いました。

「おお・・・。異界の魔王様。しばらくぶりで・・・・・・。
 と、いうか・・・・・・。なんでそんなにおられるのですか?
 前はもっと威厳に満ちたお話しぶりでしたのに・・・。」

 父上から意外な言葉を聞いて「え? そうでしたの?」と、私はつい、聞き返しました。
 だって、私、魔王様のこういうお話しぶりしか聞いたことが無かったので、これがデフォルトかと思っていましたの。
 魔王様は父上の質問を聞くと、面倒くさそうに頭をかきながら「あ~、それな」といって話を切り出されました。

「いやな。お前の娘があろうことか、我が尊敬する偉大な父が施した封禁術にションベン垂れやがってな。
 俺は不完全な復活をとげる羽目になったんや。
 俺は今まで通り上流言葉をつかっとんやで? せやけどお前らの世界の言語にうまく変換トランスレイトできんでこの有様なんじゃ・・・・・・。」

 ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
「しょ・・・ションベン垂れた? 魔王様の封禁術に?」
 父上が呆気に取られています。
 て、いうかっ!!

「きゃあああああっ!! してませんっ!! そんなこと、するわけがないでしょうがっ!!
 魔王様っ!! 衆目がある所でなんてことを仰るんですかっ!!」
「いや、事実やろが。
 お前、何を狼狽えてんねん。」

 ちっがーうっ!! 事実とかそう言うの今は良いんですっ!!
 それよりもそんなことを否定して下さらないと、私が失禁してしまったことが多くのものに知られてしまうじゃありませんかっ!!

「してませんっ!! 私、そんな事絶対致しませんものっ!!
 ていうか、生まれてこの方、おトイレなんかしたことありませんもの~~~~~~っ!!」

 周囲に私の魂の雄たけびが鳴り響くと、魔王様はしばらく真顔で固まっておられましたが、やがて、何かを察したかのように「ああっ・・・」と、言われ・・・・・・。

「おーい。者どもきけー。今のは間違いや~。
 この姫は生まれてから一度もションベンなんかしたことないぞ~
 ええかぁ~? 絶対にそんなことないからなぁ~ わかったなぁ~」

 と、周囲に言いふらされました。
 ありがとうございます。私を傷つけないためのそのお心遣い・・・・・・何故だかメチャクチャ腹が立ちますわっ!!
 ううっ・・・。ひょっとして、私、バカにされていますの?

 しくしくと私が背負子の上で泣いていると父上が慌てて尋ねられました。
「ま、魔王様。
 い、いま。不完全な復活を遂げられたと申されましたか?
 して・・・・・・それはどのような復活を?」
 瀕死ひんしの身もかえりみないほど狼狽うろたえた父上の言葉に魔王様は頭をかきながら答えました。

「ん~? ああ、本来の俺の100分の一くらいの力かなぁ?
 ほれ、俺、こんなちんちくりんの若造姿やろ?
 まぁ、言うたら今の俺は本来の俺の搾りかすみたいなもんや。本体はまだ、この世界に封禁されたままやで?」
 
 ・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・
「えええええええええ~っ!? 魔王様、今、百分の一の魔力しかないんですかぁっ!?」
 私はあまりにビックリの事実を聞かされて目をむいて驚きました。
 だって、そんなことを一言も聞かされてなかったし・・・・・・。

「いや、あれやで?
 俺は万全やったら、夜空に輝く星の3分の一を一度に降らせることができるんやで?
 さっきのメテオは当然、俺も加減しとったけど、それぐらい凄いからな? 本来の俺・・・・・。」

 その言葉を聞いて、誰もが呆気に取られていましたが、やがて土下座をしていた魔王ジャック・ダー・クーが立ち上がりました。
「フハハハハハっ!! とんでもない霊位に驚いてひれ伏して損をしたわ。
 おい、小僧。よくも驚かせてくれたなっ!! こらっ!!」
 そう言って子供を小突くようにして魔王様の頭を殴りつけると、宣言します。
「お前みたいななりそこないの魔神、恐るるに足らずっ!! この場でねじ伏せて、凌辱の限りを尽くして我が色小姓に飼いならしてくれるわ。」
 と、下品な声と共に宣言します。
 そして、次の瞬間、私の魔王様が振るわれた拳槌けんついの一撃によって地面深くまで打ち込まれてしまうのでした。
「オンドラァ~~ッッ!! 
 ちゃああっそぉーーっじしゅきせい!! 
 ワレあなたこらぁあーーーっだめですよ!!!!」

 魔王様はそう怒鳴ってから、怒りに体を震わせながら吐き捨てるように仰いました。
「ドアホがっ!! 百分の一の力とて、お前らみたいな偽物パチモンの魔王が相手になるかい。
 身の程をわきまえろっ クズめがっ!!」

 魔王様の怒りの一撃で魔王ジャック・ダー・クーは死に、戦争は終わりました。
 恐ろしいほどのお力・・・。魔王様は、一体、何者なのでしょうか・・・。
 何者・・・・・・。そう思った時、私はハタと気が付きました。

「魔王様、そういえば私はまだ魔王様のご雷名らいめいを伺っておりません。」
「ふっ、今頃それに気が付いたんか。全く聡しい子なんか、天然なんか・・・。」

 私の問いかけを聞いた魔王様は嬉しそうに指をパチリと鳴らすと、不思議なことに私を背負子に拘束していた荒縄は音もなく細切れになって私の体は自由になります。その魔法に驚いている私を見て、魔王様は愉快そうに笑いながら仰ったのです。


「俺の名は、ルシ・・・・・
 いや、俺の事は「けの明星みょうじょう」と呼ぶがいいっ!!」
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