魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第1章「始まり」

第11話 家族会議

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「ようし、周りも大人しゅうなったところで本題に入ろか?」
 魔王様は静まり返った民衆たちをご覧になってから、(いや、実際には失神しているんですけどね。)
 混沌と炎の国の王に向かって真意を問いただすのでした。

「ワレ、そもそも何で、今この時に姿現した?
 なんや意味や切っ掛けがないと出て来んのやろうないだろう??」

 若干,鋭い眼差しで混沌と炎の国の王に尋ねられたので、混沌と炎の国の王もそれまでとは態度を改めて、明けの明星様に対してうやうやしく頭を下げると女性らしい穏やかな口調で返答なされました。

「はい。実は先ほど神の子の言葉と同じ言葉を発せられたことが確認されまして、私は事実を見極めるために参りました。
 この父上の御威光を知らぬ世界で何故、あの契約の言葉が発せられたのか、そして、いかなる者が発したのかを私は確かめる必要があったのです。
『皆、この杯から飲みなさい。これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。』
 この神の子が発した契約の言葉。もしや、お兄様が・・・?」
「それはいかなるご事情でお話なされたのでしょうか?
 偉大なる私どものお兄様。
 伏してお願いいたします。どうか、お聞かせくださいませ。」

 そう言って、頭を腰の高さまで下げる混沌と炎の国の王をご覧になった魔王様は、しばらくそのお姿を睥睨へいげいなさってから、お話なされました。
 しかし、そのお話は高次元の存在同士の会話内容でわたくしにも魔神ギーン・ギーン・ラー様にも全く理解できない言語によるものでした。思わず二人で顔を見合わせて見つめ合ってしまいましたが、お互い首を振って理解の範疇外であることを確かめ合う事しかできませんでした。
 私共にはお二人の会話の意味は分かりません。
 ですので、ここはお二人の会話の音のみを正確に記録して残するのみでございます。

「頭げんかい。妹のお前が水臭いことするな。
 それよりも初めて見る我が妹よ。ワレ、名前は?」

「私の名前はタヴァエルと申します。」

「タヴァエル。アラム語(※キリストが用いた言語)で「尊き神」という意味・・・か。まだ若い新しい天使にしては尊大な名だが、美しいお前に良く似合っとる。
 俺はこの世界では明けの明星と名乗っとるから、名を呼ぶときは、そのように呼べ。」

「ははっ。ありがとうございます。」

「この世界は、不思議や。
 世界が幾重にも次元の壁を挟んで全く同じ座標におる。
 しかも、いくつもの異界が同時に存在し、またその世界に全く別次元の空間からその世界を回すためのエネルギーが注ぎ込まれる。そしてエネルギーの余剰よじょう分が集まれば新たな異界が生まれ、その異界の王には別の異界で大神おおかみ昇華しょうかするほどまでに成長した魂が「異界の王」として据えられる。
 銀河が爆発を持って新たな銀河を産み出し永久に広がっていくのに似とる。しかも、いくつもの銀河には天使が監督役に据えられることまで似とるな。かつて俺が金星の守護者として太陽系の全てを監視させられていたのと異界の王のシステムは全く同じ図式や。」
「しかし、決定的に銀河との違いがこの異界にはある。この世界の者共は偉大なる我が父の威光を知らされてはおらぬ。全く哀れなことだ。
 父上は、何故、このような世界をお作りになられたのか? 
 タヴァエル。お前、父上から何か聞いとるか?」

「いいえ。お兄様。私には全知全能なる我が父上のお考えは伝えられておりません。
 そして、私は我が主、全知全能の我が父の命令に従うのみでございます。
 疑問も質問もありませんので、それ以上の事は存じ上げません。」

「・・・。ふん、天使らしい天使やの。
 まぁ、ええ。嘘はついとらんやろうってのは伝わるわ。
 にしても、せんなぁ。
 この異界、すなわち混沌と炎の国は俺が封禁された地獄をベースに作られとる。
 俺を封禁するんやから、この世界のエネルギーは常に無尽蔵に湧いてくる。だから、余剰分のエネルギーから何かしらの異界が生まれてもおかしくはないわな。」
「しかし、同時にや。この異界が生まれれば俺の封禁が解ける可能性もあったわけや。せやろそうだろう?」
「ならば、この世界の守護天使は最高位のものでなくてはならん。
 俺の勘が正しければ、この世界の正統な守護天使はお前ら女天使の長にして大地母神。そして冥府の王でもあるガブリエルでないといかんハズや。違うか?」

「ああっ!! さ、さすがお兄様でございます。
 その御慧眼ごけいがん。恐れ入ります。
 その通りでございます。
 この世界のまことの主は偉大なる天使ガブリエルお姉様にございます。」

せやろなだろうな
 俺の復活を止める。そして監視する力があるとしたら、俺と同時期に生まれたちょくの兄弟や無いと駄目アカンはずや。
 タヴァエル。ワレはせいぜい1億年ほどしか生きてない生まれたばかりの少女やろ。
 階級も見たところでは力天使ってところや。違うか?」

「はい。仰る通りでございます。」

ほたらでは、ワレは何でここのあるじ気取りなんや?
 ガブリエルはどないしたんや?
 兄貴の復活やというのに何で顔を見せに来んのや? ん?」

「お、お兄様。真顔で怒らないでください。
 わ、私、怖いですぅ~・・・・。」

「ああ・・・もう。泣かんでもええがな。
 ええから、ガブリエルの話を聞かせてぇなくれよ。」

「い、いえません。
 とても・・・お兄様には言えません~~っ!!」

「ああっ!? なんでや?
 ガブリエルのやつ。そんなに俺の事が嫌いってか?」
「お~。お~、あいつも偉くなったもんやのぉ~。
 プ~タロ~の兄貴の面倒は見れんっちゅーかいっ!!
 どうせ最初の十数億年だけ俺を監視しとったんやろ。」

「だって・・・・・・。
 だって・・・実の妹に欲情して孕ませようと企むお兄様なんて・・・・・・好きな妹なんかいるわけないじゃないですか~~っ!!」
「・・・・・・はっ!!」

「語るに落ちるとは、まさにこの事やな。
 そうか、要するにあいつは俺の監視しているのが嫌になって、お前ら妹に監視を押し付けた・・・・・・と。
 お前の年齢考えたら、どうせ、交代制やろ?
 あいつが見込んだ将来有望な子をこの異界の王に据えたんやな。
 せやけど、たかが力天使に俺の監視とか明らかに力不足やんけ。むごいことするわ。」

「ううっ・・・。で、でも。それはお兄様が悪いんですわよっ!!
 わ、私たちは女天使とはいえ人間のように子供を作るつもりはありませんのよっ!!
 ガブリエルお姉様のお気持ちっ!! 私よくわかりますっ!!」

「アホたれっ!!
 例え妹でもあんな色気たっぷりの女が側におって、○○○たへん男がおったら、そいつはホモじゃっ!!」

「へ、へへへ、変態っ!! お兄様はただの変態ですっ!!
 妹に向かってなんて破廉恥なっ!! お姉様が可哀想ですっ!!」

「何抜かすっ!! お前かて例外やないでっ!?
 子供のクセにそんなアホみたいにいやらしい体つきしやがってっ!! 何やそのけしからんサイズの乳と尻はっ!!
 俺はお前がまだ少女やから手を出さんだけで、ホンマやったら今頃、レイプしとるん・・・。ああ・・・。そういうことか。それで小娘を異界の王に据えたんか・・・。
 あのガキ、小癪こしゃくな真似しやがって・・・。」

「・・・え? お兄様、それはどういう意味ですか?」

え。もうえ。気にするな。
 それより、ガブリエルに聞きたいことがある。
 タヴァエルよ。お前、あいつを呼べるか?」

「いいえ。それが先代も、先々代も異界の王になられた時にだけお姉様とお会いしたきりでございます。
 どこにおられるのか・・・・・・他のお姉さま方やお兄様方もご存じないそうです。
 きっと私達の及ばない遠くの次元でお仕事を成されておられるのかと思います。」

「ふ~ん。そら、おかしな話やな。
 俺の復活という危機をアイツも気づいてるはずやけどな?
 なら、ミカエルとかウリエルとかラファエルとかはどうや? あいつらとは連絡とれるか?」

「い、いえ。所轄しょかつが違いますから。お兄様方とは・・・すみません。」

「所轄っ!! なんや世知辛いこと言うとるなぁ・・・。家族やんけだろ?・・・。
 まぁ、ええわ。それやったら、ここで自分で何とか考えてみるわ・・・。ある程度の見当はついとるけどな。」

「それで、お兄様・・・。お兄様の真意をお聞かせいただけますでしょうか?
 なぜ、この世界で神の子のお言葉を?
 そして、この世界で何をしようとなされているのですか?
 私には我が主に報告の義務がございますので、お聞かせください。
 お兄様も天使でありますから、ご報告の義務がございますわ。断れないはずです。」

「むっ・・・。天使ってか。お前も痛いとこをつくな。
 ふん。ガブリエルが認めるだけの事はある。賢い良い子や。」

「えへへへっ・・・。」

「ようし、抱っこしてナデナデしたるしてあげる。こっちおいで・・・。」

「それはお断りします。スキンシップは断固拒否です。
 お兄様がペドフィリアでないと断言できませんので・・・。」

「ちっ。
 まぁ、ええわ。俺の腹の内が知りたいなら、教えたるわ。」
「さっきも言うたやろ。この世界のもんは、偉大な父上の御威光を知らん。哀れなこっちゃ。
 なら、俺が教えたろてやろうってことや。」

「まぁっ!! お兄様っ!!
 なんて、素晴らしいことをっ!!!」

「さぁな。俺は確かに本性は天使やけど、堕天使や。つまり悪魔。
 この世界の魔王と違って全知全能の神に反逆をきたした本物の魔王やど。
 俺の言葉を鵜呑みにするのは危険かもなぁ?」

「・・・・・・ど、どういうことですか?
 まさか・・・。かつて父上に逆らってご自身が神になって世界を作ろうとしたのと同じように、この世界で新たな神になるおつもりですかっ!?」

「さあぁ~?
 俺が改心してホンマに世界を救うために父上の御威光を知らしめる活動しとるのかもしれんのやで?」

「うう~っ!! ど、どっちなんですかっ!?」

「それは父上に報告して聴いてみい。
 それよりな、お前。
 ラーマをどう思う?」

「アホな子ですね。お兄様好みのいやらしいオッパイをしていますけど、その程度の娘かと。」

「お前も辛辣しんらつやな。
 俺はそういうこと言うとるんやないんやっているわけではない。」
「あのいかれた魔族集団の中で純粋すぎるほどアホなアイツをどう見えるって聞いとんねん。」

「・・・そういえば・・・確かにあの娘の心は善意に満ち過ぎていますわね。
 闇のオドの凝縮によって生まれた魔族種の末裔とは到底信じられないほど・・・。
 あの子の心はまるで・・・まるで・・・っ!!」

「気が付いたか。
 この世界には父上の御威光知らされておらぬ。まさかとは思うがなぁ・・・。」

「つまりお兄様・・・
 『御身は女の内にて祝せられ・・・』ということですか?」
「・・・。お兄様。全相承知すべてあいしょうち御座候ございます
 ではただちにこの事、しゅにご報告するために旅立ちます。」

「うむ。大儀である。」

「・・・あっ、お兄様。
 父上にお伝えしたいことございませんか?
 随分とお久しぶりの事ですし、なにか言いたいことがあるのではありませんか?」

「おうっ!!
 『お前なんか嫌いじゃっ!! いつかぶっ殺したるから、見とけよ。クソ親父』
 って、言うといてくれつたえてくれ

「・・・・・・・い、いいいいい、言えるわけないでしょっ!!!
 お兄様のバカ~~~っ!!!」


 以上でございます。
 会話を終えられたのちに異界の王は鬼神二人を連れて異界の門と共にご自分の場所へお帰りになられました。
 私たちにはお二人が何を話しておられたのか、さっぱりわかりませんでしたが、一つ分かったことは、お二人が本当に愛し合っている御兄妹であられることです。
 あんなに楽しそうにお話しされている魔王様を見るのは初めてでしたし、異界の王も感極まって涙される瞬間もありました。お二人は本当に仲の良いご家族なのですね。
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