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第2章 新国家「エデン」
第37話 フェデリコという男
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私は明けの明星様が以前仰ったように和平交渉のために相手の感情に訴えるのではなく、私どもが十分な賠償を支払うという事をちらつかせることでフェデリコの興味を引く作戦に出ました。それはアンドレア様やヴァレリオ男爵が反対したやり方でしたが、もはや敗戦は濃厚。これより他に道はないと思いました。
「フェデリコ将軍。私どもはそちらが当国に寄贈し受けた被害金額に加えて家畜300頭、絹300反を用意します。
いかがですか?」
私はまず、支払えるうちで現実的な額を提示しました。ここから上げるか下げるかは交渉次第というわけです。
しかし、フェデリコは首を横に振るのでした。
「折角のお申し出でございますが、我々はこの度の戦闘で既に2000名を大きく超える被害を出しております。
その被害は今も増え続けており、詳しくは把握できませんが、ざっと見積もっても姫様が仰った賠償は少なすぎてお話になりませんな。そして、なによりも本命の姫様の処遇をお聞かせいただかねばなりませんな。」
最初の戦闘でスパーダ軍は無理な力押しによって多大な被害を受け、更にヴァレリオ男爵の奇策によって被害を受け、そのうえ明けの明星様の暗示じみた一言のせいで現在は詳しい被害人数をフェデリコ自身が把握できない状況にあり、その賠償額はかなりの額になるという見立てです。さらにフェデリコは私の処遇についても言及します。
「事の発端をお忘れではありますまいな?
もとはといえば 姫様の結婚外交が戦争の引き金。
となれば、賠償の対象が姫様であることは最低限保証としていただかねば、私どもも交渉の余地がございません。」
つまり、私の輿入れが最低条件だというのです。
フェデリコは、そういうと明けの明星様をチラリと見てから言葉を続けます。
「姫様の思われ人が何処のどなたかはもう、語りません。
ただし、何処のどちら様がお相手であっても、和平交渉を進めたいのであれば、姫様の方からそちらにはご縁がないとハッキリとお固割になられませ。
そして、我らの王の側室になっていただきましょう。」
その言葉はつまり、私に明けの明星様との婚姻関係を解消しろと言っているのです。それは私から言い出さないと自分たちが明けの明星様の怒りを買う事を知った上での発言でした。
私はフェデリコの言葉に納得しながらも、その要求を拒否します。
「フェデリコ将軍。申し出の内容。もっともですが、私と明けの明星様の関係を切ることは全くの不可能です。
語るに値せぬお話と言っても差し支えありませんね。
何故なら、明けの明星様との契約は私に選択権はなく、全ては明けの明星様の御心次第。
私の処遇がお気に召さないと仰るのなら、どうぞ、好きにご自身の御言葉で明けの明星様に御伺いを立てなさい。」
私はフェデリコの言い分をはねのけます。そしてそれはフェデリコにとって痛い部分でもありました。何故ならフェデリコにとって明けの明星様は、” 意思の疎通ができているか怪しい存在 ”という認識だからです。明けの明星様が「OK」だとお答えになったとしてもそれが本当にOKなのかフェデリコには計り知れないからなのです。それはつまり私を国に連れて帰るという行為の危険性を意味していました。フェデリコはそのリスクを自分が背負いたくはなかったのです。出来れば私の手によって明けの明星様との縁を切りたい。なのに私はそれを拒否した。フェデリコにとって私を国に連れ帰るという選択肢はなくなってしまったのです。
フェデリコは「ふ~っ」と、ため息をつくと顔を上げて私を睨みました。
「姫様は何もお分かりになられておられぬご様子。これでは交渉事になりませんな。
我らの軍勢は確かに大損害を受けてはおりますが、それでもこのまま戦争を続ければ我らの勝利はゆるぎないものと心得ます。
我らは和平交渉に応じる必要がないのです。」
フェデリコはそう言うとそれ以上は何も言わずにじっと私を見据えて返答を待ちました。交渉を進めるにあたり明けの明星様に関わらない内容にかじ取りをしようと言う上手いやり方です。あくまでもエデンとスパーダとの戦争に関する話題に絞らせるつもりです。しかし、そうは問屋が卸しません。
「フェデリコ。それは浅慮というものです。(※浅慮とは浅はかな考えの事。)
私の国は言ってみれば明けの明星様の国でもあります。現に嫁取合戦に勝利したのは明けの明星様。ならば、この国の王は明けの明星様と言うことになります。
フェデリコ、あなたはいかようにして戦争に勝ち、明けの明星様の国から賠償を奪おうというのですか?
それよりも明けの明星様とではなく、直接、私との交渉に応じた方がよろしくなくて?」
私の言葉にフェデリコは「ううむっ!!」と唇をかみしめて唸りました。私の交渉術が効いている証拠です。
明けの明星様は確かに私たち下等な生命の争いごとには関与されないと仰いましたが、それはフェデリコの立場からすると、信用できない言葉です。ならば、その不信用。私が交渉に利用させていただきましょう。フェデリコの猜疑心を利用して、あたかもこの国の資源を奪う事は明けの明星様から物を奪おうとするに等しいと思わせることで、私の提示した内容を受け入れた方が安全だと思わせることができるのです。フェデリコがそう思うように仕向けたのです。
フェデリコは大粒の汗を流しながら考え込んでしまいました。
このまま戦争を続ける危険性と明けの明星様の真意を信じる危険性を天秤にかけなければ、この和平交渉の主導権を握れないばかりか、この戦争自体を引き上げなければ明けの明星様の怒りを買って滅ぼされるのではないか・・・? きっとフェデリコはそんなことを悩んでいるのでしょう。それこそが私の狙い。ならば、フェデリコは私との交渉に応じざるを得ない。それが私の立てた作戦でした。
ところが思い詰めたフェデリコは意外な行動に出たのでした。彼は自分の腰元の短剣をスラリと鞘から抜くと、むき出しの刃を自分の首元に押し当てて明けの明星様に質問したのですっ!!
「高貴なお方にお尋ねいたしますっ!
御身は私達の交渉事にご関与なされませんとおっしゃいましたが、それは御身の名にかけてのお言葉でござりましょうかっ!?」
フェデリコは、自身の質問が明けの明星様の怒りを買ってしまうというリスクを自分が命で償う意思を見せて明けの明星様の真意を確かめようとしているのです。
勿論、そのような態度に出たからと言って明けの明星様が動揺するはずもなく、ただ軽蔑するかのような視線をフェデリコに向けるのでした。
「お前のその態度を俺が殊勝な心がけと褒めると思うか?
わきまえんかい。お前は俺を疑ったんやぞ?
それをどう償うつもりや? あん?」
明けの明星様はあからさまに不機嫌なお顔でそう仰りながら、右手の指をすり合わせてパチリと鳴らします。するとフェデリコの手にしたナイフから青い炎が燃え上がりフェデリコは悲鳴を上げてナイフを手放しました。
「今度、俺を試す真似をしたら許さんぞ。
我が尊敬する父上が試されることを嫌悪したように俺も試す真似は許さん。」
「俺が関与せんと言うたら、関与せん。
わかったら話を続けろ。」
明けの明星様から確約を受けたフェデリコは炎に焦げた手の痛みに耐えながらも勝者の笑みを私に向けるのでした。
「お聞きになられたか? 姫様。
明けの明星様が関与なされない以上、脅しは通用しない。私の勝利です。我が軍は姫様の和平交渉には応じられませんな。我らにとっては交渉で得られる賠償など意味がないのです。」
「姫様にはお判りになられないでしょうが、戦争に参加した兵士には国の目的や野望などどうでもよいのです。
好みの女や男を手に入れたり、奴隷や家財を売り払ったり自分のものにしたりしなければ戦争に参加させられた不満を押さえられないのです。」
「この度は多くの兵士が死んだ。兵士たちの不満は相当なもの。
これを無視することは出来ないのです。暴動が起きかねませんからな。兵士たちの心を満足させるためにも我々は奪うことをやめられないのです。」
「それからエデンは敗戦後には属国として厳しい税や強制労働が待ち構えていると思いなさい。
わかりましたか? あなた方エデンがこの先に支払う生き地獄以上の対価を差し出さない限り、我々は止まらないし、止められないのですよ。」
そういって笑みを浮かべるフェデリコを見て私はあることに気が付き、怒りで髪が逆立ちそうになりました。
「あなたはっ・・・!! 兵士たちの怒りを掻き立てやすいようにワザと初戦で大損害を出させたのですねっ!?
そうすれば、兵士たちの乱暴取りの欲求が強く成り、兵士たちも戦争を進める意志が強く成る。
戦争に勝つために、兵士のやる気を引き出すために、ワザと被害を出したのねっ!?」
フェデリコは大やけどを負った私に右手を見せながら「その対価に見合った勝利を手にしました。」と言って笑ったのです。痛み耐え、吹き出す脂汗を見せながらも、フェデリコの顔は晴れ晴れとしていました。フェデリコにとって勝利こそが目的。勝利こそが将軍の誇りと感じていることを私に見せつけるための態度です。
私たちは考えが甘かった。ヴァレリオ男爵をはじめ多くの重臣たちは敵に痛い思いをさせれば戦争で勝利するよりも和平交渉に応じた方が被害が少なくていいと敵に思わせることができると考えていたのです。ですが、それは通常の将軍が相手だった場合の話です。我々が敵に回したフェデリコと言う男は、戦争に勝利するためならば、むしろ味方の損害さえも望む狂気も持ち合わせた怪物だったのです。家臣に対して温情があるように見えて、その反面、兵士たちを容赦なく地獄へ送り届ける、毒と薬が混在するような男だったのです。
私たちは考えが甘かった。この男は、敵に回すには強敵過ぎたのです。
もう、私の頭にはフェデリコを侮辱するために必要な言葉はいくらでも浮かんでくるというのに、彼を止める手立ては思い浮かばなかったのです。
私が交渉に破れたと自覚してしまったことは、傍目に見ても分かりやすかったのでしょう。フェデリコが明けの明星様に「交渉決裂です。戦争の再会を希望いたします。」と進言できるほどでした。
そして、フェデリコの進言を受けた明けの明星様は私を見て「ふっ」と呆れたように笑うと、戦争再会をお認めになったのです。
「ええやろうっ!! ラーマ。俺はお前の負けを認めようっ!!
フェデリコよ、好きにするがいい。兵士たちにかけた暗示も今、解こう。
フェデリコよ。お前の勝利やっ!!」
明けの明星様がそう言って指を擦り鳴らすと、混乱していた戦場は急に静かになり、敵味方問わずに殺しあっていた兵士たちは我に返ったのでした。
それをみたフェデリコ将軍は叫びました。
「エデン国の将軍、ヴァレリオ男爵を打ち取り、ラーマ姫を捕虜として手に入れたっ!!
我らの勝利だっ!!
兵士諸君っ!! 勝鬨を上げよっ!! そして、敵から全てを奪いされいっ!!」
その一言と同時にスパーダ軍の兵士たちは口々に「俺達の勝利だっ!!」と叫び、エデンの兵士たちはチリジリになって戦場から逃げだすのでした。
残されたのは私と戦場で死んだ者達の遺体のみ・・・。もう、抵抗の余地などなかったのです。
ですが、フェデリコは最後の最後にミスを犯したのです。それは勝利に酔いしれたその時に私に向かってこう言ってしまったことです。
「もう、お判りでしょう。私達を止めたければ、私たちに敗北を認めさせる以外の道はなかったという事を・・・。」
その一言が、私に最高の奇策を思いつかせ、私の勝利を確定させることになろうとはフェデリコはおろか明けの明星様ですら夢にも思わなかったでしょう・・・。
「フェデリコ将軍。私どもはそちらが当国に寄贈し受けた被害金額に加えて家畜300頭、絹300反を用意します。
いかがですか?」
私はまず、支払えるうちで現実的な額を提示しました。ここから上げるか下げるかは交渉次第というわけです。
しかし、フェデリコは首を横に振るのでした。
「折角のお申し出でございますが、我々はこの度の戦闘で既に2000名を大きく超える被害を出しております。
その被害は今も増え続けており、詳しくは把握できませんが、ざっと見積もっても姫様が仰った賠償は少なすぎてお話になりませんな。そして、なによりも本命の姫様の処遇をお聞かせいただかねばなりませんな。」
最初の戦闘でスパーダ軍は無理な力押しによって多大な被害を受け、更にヴァレリオ男爵の奇策によって被害を受け、そのうえ明けの明星様の暗示じみた一言のせいで現在は詳しい被害人数をフェデリコ自身が把握できない状況にあり、その賠償額はかなりの額になるという見立てです。さらにフェデリコは私の処遇についても言及します。
「事の発端をお忘れではありますまいな?
もとはといえば 姫様の結婚外交が戦争の引き金。
となれば、賠償の対象が姫様であることは最低限保証としていただかねば、私どもも交渉の余地がございません。」
つまり、私の輿入れが最低条件だというのです。
フェデリコは、そういうと明けの明星様をチラリと見てから言葉を続けます。
「姫様の思われ人が何処のどなたかはもう、語りません。
ただし、何処のどちら様がお相手であっても、和平交渉を進めたいのであれば、姫様の方からそちらにはご縁がないとハッキリとお固割になられませ。
そして、我らの王の側室になっていただきましょう。」
その言葉はつまり、私に明けの明星様との婚姻関係を解消しろと言っているのです。それは私から言い出さないと自分たちが明けの明星様の怒りを買う事を知った上での発言でした。
私はフェデリコの言葉に納得しながらも、その要求を拒否します。
「フェデリコ将軍。申し出の内容。もっともですが、私と明けの明星様の関係を切ることは全くの不可能です。
語るに値せぬお話と言っても差し支えありませんね。
何故なら、明けの明星様との契約は私に選択権はなく、全ては明けの明星様の御心次第。
私の処遇がお気に召さないと仰るのなら、どうぞ、好きにご自身の御言葉で明けの明星様に御伺いを立てなさい。」
私はフェデリコの言い分をはねのけます。そしてそれはフェデリコにとって痛い部分でもありました。何故ならフェデリコにとって明けの明星様は、” 意思の疎通ができているか怪しい存在 ”という認識だからです。明けの明星様が「OK」だとお答えになったとしてもそれが本当にOKなのかフェデリコには計り知れないからなのです。それはつまり私を国に連れて帰るという行為の危険性を意味していました。フェデリコはそのリスクを自分が背負いたくはなかったのです。出来れば私の手によって明けの明星様との縁を切りたい。なのに私はそれを拒否した。フェデリコにとって私を国に連れ帰るという選択肢はなくなってしまったのです。
フェデリコは「ふ~っ」と、ため息をつくと顔を上げて私を睨みました。
「姫様は何もお分かりになられておられぬご様子。これでは交渉事になりませんな。
我らの軍勢は確かに大損害を受けてはおりますが、それでもこのまま戦争を続ければ我らの勝利はゆるぎないものと心得ます。
我らは和平交渉に応じる必要がないのです。」
フェデリコはそう言うとそれ以上は何も言わずにじっと私を見据えて返答を待ちました。交渉を進めるにあたり明けの明星様に関わらない内容にかじ取りをしようと言う上手いやり方です。あくまでもエデンとスパーダとの戦争に関する話題に絞らせるつもりです。しかし、そうは問屋が卸しません。
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私の国は言ってみれば明けの明星様の国でもあります。現に嫁取合戦に勝利したのは明けの明星様。ならば、この国の王は明けの明星様と言うことになります。
フェデリコ、あなたはいかようにして戦争に勝ち、明けの明星様の国から賠償を奪おうというのですか?
それよりも明けの明星様とではなく、直接、私との交渉に応じた方がよろしくなくて?」
私の言葉にフェデリコは「ううむっ!!」と唇をかみしめて唸りました。私の交渉術が効いている証拠です。
明けの明星様は確かに私たち下等な生命の争いごとには関与されないと仰いましたが、それはフェデリコの立場からすると、信用できない言葉です。ならば、その不信用。私が交渉に利用させていただきましょう。フェデリコの猜疑心を利用して、あたかもこの国の資源を奪う事は明けの明星様から物を奪おうとするに等しいと思わせることで、私の提示した内容を受け入れた方が安全だと思わせることができるのです。フェデリコがそう思うように仕向けたのです。
フェデリコは大粒の汗を流しながら考え込んでしまいました。
このまま戦争を続ける危険性と明けの明星様の真意を信じる危険性を天秤にかけなければ、この和平交渉の主導権を握れないばかりか、この戦争自体を引き上げなければ明けの明星様の怒りを買って滅ぼされるのではないか・・・? きっとフェデリコはそんなことを悩んでいるのでしょう。それこそが私の狙い。ならば、フェデリコは私との交渉に応じざるを得ない。それが私の立てた作戦でした。
ところが思い詰めたフェデリコは意外な行動に出たのでした。彼は自分の腰元の短剣をスラリと鞘から抜くと、むき出しの刃を自分の首元に押し当てて明けの明星様に質問したのですっ!!
「高貴なお方にお尋ねいたしますっ!
御身は私達の交渉事にご関与なされませんとおっしゃいましたが、それは御身の名にかけてのお言葉でござりましょうかっ!?」
フェデリコは、自身の質問が明けの明星様の怒りを買ってしまうというリスクを自分が命で償う意思を見せて明けの明星様の真意を確かめようとしているのです。
勿論、そのような態度に出たからと言って明けの明星様が動揺するはずもなく、ただ軽蔑するかのような視線をフェデリコに向けるのでした。
「お前のその態度を俺が殊勝な心がけと褒めると思うか?
わきまえんかい。お前は俺を疑ったんやぞ?
それをどう償うつもりや? あん?」
明けの明星様はあからさまに不機嫌なお顔でそう仰りながら、右手の指をすり合わせてパチリと鳴らします。するとフェデリコの手にしたナイフから青い炎が燃え上がりフェデリコは悲鳴を上げてナイフを手放しました。
「今度、俺を試す真似をしたら許さんぞ。
我が尊敬する父上が試されることを嫌悪したように俺も試す真似は許さん。」
「俺が関与せんと言うたら、関与せん。
わかったら話を続けろ。」
明けの明星様から確約を受けたフェデリコは炎に焦げた手の痛みに耐えながらも勝者の笑みを私に向けるのでした。
「お聞きになられたか? 姫様。
明けの明星様が関与なされない以上、脅しは通用しない。私の勝利です。我が軍は姫様の和平交渉には応じられませんな。我らにとっては交渉で得られる賠償など意味がないのです。」
「姫様にはお判りになられないでしょうが、戦争に参加した兵士には国の目的や野望などどうでもよいのです。
好みの女や男を手に入れたり、奴隷や家財を売り払ったり自分のものにしたりしなければ戦争に参加させられた不満を押さえられないのです。」
「この度は多くの兵士が死んだ。兵士たちの不満は相当なもの。
これを無視することは出来ないのです。暴動が起きかねませんからな。兵士たちの心を満足させるためにも我々は奪うことをやめられないのです。」
「それからエデンは敗戦後には属国として厳しい税や強制労働が待ち構えていると思いなさい。
わかりましたか? あなた方エデンがこの先に支払う生き地獄以上の対価を差し出さない限り、我々は止まらないし、止められないのですよ。」
そういって笑みを浮かべるフェデリコを見て私はあることに気が付き、怒りで髪が逆立ちそうになりました。
「あなたはっ・・・!! 兵士たちの怒りを掻き立てやすいようにワザと初戦で大損害を出させたのですねっ!?
そうすれば、兵士たちの乱暴取りの欲求が強く成り、兵士たちも戦争を進める意志が強く成る。
戦争に勝つために、兵士のやる気を引き出すために、ワザと被害を出したのねっ!?」
フェデリコは大やけどを負った私に右手を見せながら「その対価に見合った勝利を手にしました。」と言って笑ったのです。痛み耐え、吹き出す脂汗を見せながらも、フェデリコの顔は晴れ晴れとしていました。フェデリコにとって勝利こそが目的。勝利こそが将軍の誇りと感じていることを私に見せつけるための態度です。
私たちは考えが甘かった。ヴァレリオ男爵をはじめ多くの重臣たちは敵に痛い思いをさせれば戦争で勝利するよりも和平交渉に応じた方が被害が少なくていいと敵に思わせることができると考えていたのです。ですが、それは通常の将軍が相手だった場合の話です。我々が敵に回したフェデリコと言う男は、戦争に勝利するためならば、むしろ味方の損害さえも望む狂気も持ち合わせた怪物だったのです。家臣に対して温情があるように見えて、その反面、兵士たちを容赦なく地獄へ送り届ける、毒と薬が混在するような男だったのです。
私たちは考えが甘かった。この男は、敵に回すには強敵過ぎたのです。
もう、私の頭にはフェデリコを侮辱するために必要な言葉はいくらでも浮かんでくるというのに、彼を止める手立ては思い浮かばなかったのです。
私が交渉に破れたと自覚してしまったことは、傍目に見ても分かりやすかったのでしょう。フェデリコが明けの明星様に「交渉決裂です。戦争の再会を希望いたします。」と進言できるほどでした。
そして、フェデリコの進言を受けた明けの明星様は私を見て「ふっ」と呆れたように笑うと、戦争再会をお認めになったのです。
「ええやろうっ!! ラーマ。俺はお前の負けを認めようっ!!
フェデリコよ、好きにするがいい。兵士たちにかけた暗示も今、解こう。
フェデリコよ。お前の勝利やっ!!」
明けの明星様がそう言って指を擦り鳴らすと、混乱していた戦場は急に静かになり、敵味方問わずに殺しあっていた兵士たちは我に返ったのでした。
それをみたフェデリコ将軍は叫びました。
「エデン国の将軍、ヴァレリオ男爵を打ち取り、ラーマ姫を捕虜として手に入れたっ!!
我らの勝利だっ!!
兵士諸君っ!! 勝鬨を上げよっ!! そして、敵から全てを奪いされいっ!!」
その一言と同時にスパーダ軍の兵士たちは口々に「俺達の勝利だっ!!」と叫び、エデンの兵士たちはチリジリになって戦場から逃げだすのでした。
残されたのは私と戦場で死んだ者達の遺体のみ・・・。もう、抵抗の余地などなかったのです。
ですが、フェデリコは最後の最後にミスを犯したのです。それは勝利に酔いしれたその時に私に向かってこう言ってしまったことです。
「もう、お判りでしょう。私達を止めたければ、私たちに敗北を認めさせる以外の道はなかったという事を・・・。」
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