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第2章 新国家「エデン」
第40話 ヴァレリオ様・・・
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私が治める魔族統一国家エデン。その防衛のために明けの明星様がおつくりになられた新国家ゴルゴダの王にはヴァレリオ様が就任されました。しかし魔王ほどの力を持たない若いヴァレリオ様が就任されることをよく思わない家臣が出ることは想像にたやすく、またヴァレリオ様も゙その任の重さに困惑する有り様でした。
そのことをよく思わなかった明けの明星様はヴァレリオ様に一つの秘跡を授けたのでした。
その秘跡とはヴァレリオ様の魂を昇格させるために、そのお体に神文を刻むというものらしいのです。
らしいのですというのは、その儀式は秘儀で私は見ることが許されなかったから、詳しいことはわからないからなのです。
明けの明星様は仰いました。
「あかんっ!! あかんでっ! お前には絶対に見せられんっ!!
今から行う儀式はお前には刺激が強すぎるしっ!! これは秘密の儀式やっ!!
そもそもこれは男同士のつながりを深めるためのそれはそれは、貴い儀式なんやっ!!
お前は見たらあかんっ!!」
そう言って立ち合いを許されたのは魔神であるお姉様のみ。明けの明星様とヴァレリオ様、そしてお姉様の3人は誰もいない秘密の場所で3夜にわたり儀式を行ったそうです。男同士だとか言いながら、お姉様まで呼ばれている意味が解りません。
ですが、その儀式の後、ヴァレリオ様の肉体には多くの魔法が使用可能になる神紋があちらこちらに刻まれ、その魂には明けの明星様の因子が混ぜ合わせられたそうです。
興味本位でお姉様に儀式の内容を聞いたのですが、
「お二人とも凄かったですわぁ~~。私、何度失神させられたかわからないのぉ~。
ヴァレリオも私が目論んだ通り、女の扱いが上手いのです~。」
「あの時の私はまるで二人の旦那様を得た気分でした・・・。
ああんっ・・・。思い出すだけで体が火照りだしてしまう最高に幸せな時間でしたわぁ~・・・。」
と、顔を赤らめながら体をくねらせるだけで詳しいことは何も教えてはくれません。ですのでお姉様が相当な負担を受けたというのは間違いありません。魔神様であるお姉様が何度も失神するくらいですから、それはそれは、本当に恐ろしい儀式だったのでしょう。
・・・・・・それにしては「ヴァレリオは女の扱いが上手い」とか「二人の旦那様を得た気分」とか「最高に幸せな時間だった」とか意味が解らない感想をお姉様が述べられるので・・・。私、本当にどんな儀式をしていたのか解りませんでした。
きっと、私のような下級の魂ではうかがい知ることさえできない貴い儀式をヴァレリオ様は経験なさったのでしょう・・・。
しかし、その儀式の甲斐あって現在のヴァレリオ様は、以前のような優秀な騎士というだけではなく多くの魔法を駆使する魔王としてその魂が昇華されました。お姉様に言わせると低レベルな魔神では太刀打ちできないほどの実力をすでにお持ちなのだとか。明けの明星様からそれほどの御寵愛を受けたのですからヴァレリオ様に対して明けの明星様がご期待なさっておられるのかがわかります。
なにせ、私たち魔族はそれ以外の種族の国々と相争う関係なのですから、その防衛の任を任されたヴァレリオ様に対して明けの明星様が何もお思いになるところがないわけがないのです。
私には明けの明星様の真意はわかりませんが、先の戦でのヴァレリオ様の獅子奮迅のご活躍が相当、お気に召されたのでしょう。あのフェデリコさえ、戦っている最中だというのにヴァレリオ様に対する賛辞を惜しまなかったほどなのですから、それも当然の評価なのかもしれません。
きっと、ヴァレリオ様は地方の男爵に収まっていて良い人材ではなく、運命に導かれるようにして明けの明星様に拾い上げてもらったのだと思います。私が言うのもおかしな話ですが、彼も数奇な運命をたどっているのでした。
さて、ヴァレリオ様の魂の昇華儀式が無事終わると公国の王に相応しい魔王の格を手に入れられましたヴァレリオ様の、その王位任命式がエデン女王である私の手によって古式めいた厳かな空気の中で執り行われたのでした。それは明けの明星様がゴルゴダの王にヴァレリオ様を指名してからわずか3週間後の事でした。
初めのうちは地方の一男爵でしかなかったヴァレリオ様が国王になることに難色を示した者もおりましたが、その魂の格が魔王、それも魔神クラスの存在となった今では反対する者などいようはずもなく、全員がヴァレリオ様のゴルゴダ国王の就任式に参列したのです。
任命式に参集した各州の知事、つまりそれぞれが元々は魔族の国の王だった者達がエデンの防衛を果たすための国ゴルゴダの王ヴァレリオ様を祝福して、これを見守りました。
ゴルゴダは魔族以外の勢力との戦闘を主な使命とされたので、多くの兵力を要しました。そしてその兵力と指揮官は各州の軍事を担当していた伯爵家などが引き抜かれ、全ての者達がヴァレリオ様の下で働くこととなったのです。
普通に考えれば各州の知事にとって支配地域を切り取られる上に軍事力と優秀な人材をヴァレリオ様に奪わる形となったわけですが、そんな散々な仕打ちを受けても、明けの明星様の決定ともなれば反対する意見は出せるはずもない上に、むしろ各州の知事たちは、かなり強い魔王に昇華されましたヴァレリオ様へ敬意を払って積極的に協力することになったのです。
それは勿論、ヴァレリオ様のお力に対する敬意だけでなく、明けの明星様のお気に入りと目されたヴァレリオ様に対して積極的に貢献することで、明けの明星様の覚えが良くなるように努力するようにしようという政治的な目論見も当然あったのでしょうけれど・・・。ヴァレリオ様が各知事から敬意を払われることを私は素直にうれしく思いました。
ただ、その政治的取り組みは、ヴァレリオ様を困らせる勢いだったようです。
「いやぁ、姫様。参りましたよ。
各国の元・王たちが私に取り入ろうとあれやこれやと協力を申し出てくれるのですが、私にとって彼らは本来は雲の上の存在。それが明けの明星様の一声で立場が入れ替わってしまったのです。困惑いたしますよ、全く。」
ゴルゴダ王に就任なされたヴァレリオ様はしばらくの間は私の側で事務手続きに追われる日々を過ごしました。それはヴァレリオ様にとっても骨が折れることだったらしく、たまに顔を見合わせたら、愚痴をこぼすようになったのです。
「あらあら。知事たちも明けの明星様の覚えを良くしようと必死なのですわ。
それにヴァレリオ様は言ってみれば我が国の軍事力の要。知事たちがゴルゴダの強化を望み協力を申し出るのは当然の事と言えますわ。
どうぞ、お気を悪くなさらないで?」
お互い忙しい間を縫ってのお茶会だというのに、ヴァレリオ様は愚痴ばかりです。その上、
「い、いやぁ。姫様にそう言われるのもなんだか、おかしな気がいたしますね。」
なんて、未だに私の家臣のような態度で接するのです。私、何故だか取っても腹が立ってしまって言うのです。
「ヴァレリオ様っ!! いい加減、姫様姫様はおやめくださりませ。
あなたはもう既に魔王様の位を得られた王でございます。私と対等に王族になったというだけでなく、もう魂の格で言えばヴァレリオ様は私よりも上の御立場なのですよ?
過去の地位にいつまでも縛られて、へりくだった態度をとることはゴルゴダの民の為にもおやめくださいませ。」
私が強くそう願い出ると、ヴァレリオ様は困ったような表情をされますが。「では、姫様の事は今後どのようにおよびすれば?」と、尋ねるのです。
そう言われると私も何故だかとても照れ臭いのですが、
「どうぞ、ラーマか姫とお呼びください。御身は私どもの軍事力の象徴にして私たちを御守り下さる存在。
むしろ保護される私たちにとっては感謝してもしきれない存在なのです。
できればヴァレリオ様、どうぞ。親しみを込めて私の事はラーマとお呼びください。」
私にそう促されてヴァレリオ様は1月程経ってから、ようやく私の事を「ラーマ」と呼んでくれるようになったのです。そうしてヴァレリオ様からラーマと呼んでいただけることを私は何故だからととも嬉しく思うのでした。
そんな私の気持ちの揺らぎはお姉様にも伝わるようでした。
「ラーマ。ヴァレリオがあなたに対して対等な物言いをするようになってから、幸せそうね。」
と、ご一緒に寝る前に話しかけてくるほどでした。
お姉様は私の事を本当の妹のように気遣ってくださるので、最近は同じベッドで寝ることも増えたのですが、そんな眠りにつく前のおしゃべりの時間にもお姉様はヴァレリオ様の話を振るのです。
「ええ。お姉様。
ヴァレリオ様は私にとってはまるで絵物語の騎士様です。物語の騎士は姫を救い出す白馬に乗った王子様。
窮地を身を挺して救ってくれる希望の光。
ヴァレリオ様はまるで町娘たちが恋焦がれるステキな物語に出てくる乙女の憧れのような存在。」
「私もこういう立場でなかったら、ヴァレリオ様へ対して恋に落ちてしまっていたのかもしれませんわ。」
そんな事をお姉様に言いました。
初めのころ、お姉様はそんな私の告白を聞いて目をまん丸にされて
「あ、あなた・・・それってどういう意味?
ていうか、まさか・・・ええええええっ?」 などととオーバーなほどに狼狽えておられましたが、最近になっては、ヴァレリオ様の話を普通に語れるようになったのです。
「ねぇ、ラーマ。
最近、ヴァレリオとちゃんとお話ししている?」
「あの男、意外と女慣れしているから、目を離しちゃ駄目よ。
天然のプレイボーイなのよ、あの男。」
「女の方がヴァレリオによって来るんだから、あなたがちゃんと牽制しないとダメよ?」
などと、よくわからないご指導まで、ご一緒に眠る際にはしてくださるようになりました。
そして、私が
「でも、最近はお忙しいみたいで、あまりお会いできておりませんの・・・。」
と、愚痴を言えば私をゴルゴダの王城にいるヴァレリオ様のところまで攫う様にして連れて行ってくれるのです。
お優しいお姉様。きっと私の心のオアシスがヴァレリオ様であることをよくよくご理解くださっているのでしょう。
そうしてヴァレリオ様も王城に現れた私を抱きしめて迎え入れてくださるのです。
「やぁ、ラーマ。よく来てくれたね。
君に会えてうれしいよ。」
「今日はまだ仕事の途中だが、君と話をするためなら、仕事なんか後回しにするよ。
さぁ、お手をどうぞ。ラーマ・・・私の美しいお姫様。
我が自慢の庭園をご案内しながら、色々と話をしよう。」
と言って、建設中の庭園をエスコートしてくださりながらお話してくださるので、私はもう夢心地です。
ヴァレリオ様は元々、整った美しいお顔をされていましたが、黄泉返りした後に明けの明星様より新たに与えられた漆黒の髪と漆黒の瞳がとても印象的です。そのお顔で私に微笑んでくださるのですから、私の心が満たされるのは当然のお話。私と言えで女ですもの。美男子に優しくされて嬉しくないはずがないのです。
しかも、お顔立ちだけでなくヴァレリオ様は背も高くて目線を合わせようと思ったら厚底の靴を履いた私が背伸びしないといけない程の体格でしたし、その上、騎士として鍛え上げられた素晴らしい肉体の持ち主。まさに物語の王子様のようなお姿をしておられたので、私がヴァレリオ様を物語の王子間に見立てても仕方が無い事だと思います。
そして何よりも、私のために寄り添い、命を捨てて戦ってくださった御姿は正に王子様そのもの。
あの時、共に死のうと誓ったことさえ、私にとっては美しい記憶です。
もしかしたら、私。今が人生で最高に幸せな時間なのかもしれませんわっ!!
そのことをよく思わなかった明けの明星様はヴァレリオ様に一つの秘跡を授けたのでした。
その秘跡とはヴァレリオ様の魂を昇格させるために、そのお体に神文を刻むというものらしいのです。
らしいのですというのは、その儀式は秘儀で私は見ることが許されなかったから、詳しいことはわからないからなのです。
明けの明星様は仰いました。
「あかんっ!! あかんでっ! お前には絶対に見せられんっ!!
今から行う儀式はお前には刺激が強すぎるしっ!! これは秘密の儀式やっ!!
そもそもこれは男同士のつながりを深めるためのそれはそれは、貴い儀式なんやっ!!
お前は見たらあかんっ!!」
そう言って立ち合いを許されたのは魔神であるお姉様のみ。明けの明星様とヴァレリオ様、そしてお姉様の3人は誰もいない秘密の場所で3夜にわたり儀式を行ったそうです。男同士だとか言いながら、お姉様まで呼ばれている意味が解りません。
ですが、その儀式の後、ヴァレリオ様の肉体には多くの魔法が使用可能になる神紋があちらこちらに刻まれ、その魂には明けの明星様の因子が混ぜ合わせられたそうです。
興味本位でお姉様に儀式の内容を聞いたのですが、
「お二人とも凄かったですわぁ~~。私、何度失神させられたかわからないのぉ~。
ヴァレリオも私が目論んだ通り、女の扱いが上手いのです~。」
「あの時の私はまるで二人の旦那様を得た気分でした・・・。
ああんっ・・・。思い出すだけで体が火照りだしてしまう最高に幸せな時間でしたわぁ~・・・。」
と、顔を赤らめながら体をくねらせるだけで詳しいことは何も教えてはくれません。ですのでお姉様が相当な負担を受けたというのは間違いありません。魔神様であるお姉様が何度も失神するくらいですから、それはそれは、本当に恐ろしい儀式だったのでしょう。
・・・・・・それにしては「ヴァレリオは女の扱いが上手い」とか「二人の旦那様を得た気分」とか「最高に幸せな時間だった」とか意味が解らない感想をお姉様が述べられるので・・・。私、本当にどんな儀式をしていたのか解りませんでした。
きっと、私のような下級の魂ではうかがい知ることさえできない貴い儀式をヴァレリオ様は経験なさったのでしょう・・・。
しかし、その儀式の甲斐あって現在のヴァレリオ様は、以前のような優秀な騎士というだけではなく多くの魔法を駆使する魔王としてその魂が昇華されました。お姉様に言わせると低レベルな魔神では太刀打ちできないほどの実力をすでにお持ちなのだとか。明けの明星様からそれほどの御寵愛を受けたのですからヴァレリオ様に対して明けの明星様がご期待なさっておられるのかがわかります。
なにせ、私たち魔族はそれ以外の種族の国々と相争う関係なのですから、その防衛の任を任されたヴァレリオ様に対して明けの明星様が何もお思いになるところがないわけがないのです。
私には明けの明星様の真意はわかりませんが、先の戦でのヴァレリオ様の獅子奮迅のご活躍が相当、お気に召されたのでしょう。あのフェデリコさえ、戦っている最中だというのにヴァレリオ様に対する賛辞を惜しまなかったほどなのですから、それも当然の評価なのかもしれません。
きっと、ヴァレリオ様は地方の男爵に収まっていて良い人材ではなく、運命に導かれるようにして明けの明星様に拾い上げてもらったのだと思います。私が言うのもおかしな話ですが、彼も数奇な運命をたどっているのでした。
さて、ヴァレリオ様の魂の昇華儀式が無事終わると公国の王に相応しい魔王の格を手に入れられましたヴァレリオ様の、その王位任命式がエデン女王である私の手によって古式めいた厳かな空気の中で執り行われたのでした。それは明けの明星様がゴルゴダの王にヴァレリオ様を指名してからわずか3週間後の事でした。
初めのうちは地方の一男爵でしかなかったヴァレリオ様が国王になることに難色を示した者もおりましたが、その魂の格が魔王、それも魔神クラスの存在となった今では反対する者などいようはずもなく、全員がヴァレリオ様のゴルゴダ国王の就任式に参列したのです。
任命式に参集した各州の知事、つまりそれぞれが元々は魔族の国の王だった者達がエデンの防衛を果たすための国ゴルゴダの王ヴァレリオ様を祝福して、これを見守りました。
ゴルゴダは魔族以外の勢力との戦闘を主な使命とされたので、多くの兵力を要しました。そしてその兵力と指揮官は各州の軍事を担当していた伯爵家などが引き抜かれ、全ての者達がヴァレリオ様の下で働くこととなったのです。
普通に考えれば各州の知事にとって支配地域を切り取られる上に軍事力と優秀な人材をヴァレリオ様に奪わる形となったわけですが、そんな散々な仕打ちを受けても、明けの明星様の決定ともなれば反対する意見は出せるはずもない上に、むしろ各州の知事たちは、かなり強い魔王に昇華されましたヴァレリオ様へ敬意を払って積極的に協力することになったのです。
それは勿論、ヴァレリオ様のお力に対する敬意だけでなく、明けの明星様のお気に入りと目されたヴァレリオ様に対して積極的に貢献することで、明けの明星様の覚えが良くなるように努力するようにしようという政治的な目論見も当然あったのでしょうけれど・・・。ヴァレリオ様が各知事から敬意を払われることを私は素直にうれしく思いました。
ただ、その政治的取り組みは、ヴァレリオ様を困らせる勢いだったようです。
「いやぁ、姫様。参りましたよ。
各国の元・王たちが私に取り入ろうとあれやこれやと協力を申し出てくれるのですが、私にとって彼らは本来は雲の上の存在。それが明けの明星様の一声で立場が入れ替わってしまったのです。困惑いたしますよ、全く。」
ゴルゴダ王に就任なされたヴァレリオ様はしばらくの間は私の側で事務手続きに追われる日々を過ごしました。それはヴァレリオ様にとっても骨が折れることだったらしく、たまに顔を見合わせたら、愚痴をこぼすようになったのです。
「あらあら。知事たちも明けの明星様の覚えを良くしようと必死なのですわ。
それにヴァレリオ様は言ってみれば我が国の軍事力の要。知事たちがゴルゴダの強化を望み協力を申し出るのは当然の事と言えますわ。
どうぞ、お気を悪くなさらないで?」
お互い忙しい間を縫ってのお茶会だというのに、ヴァレリオ様は愚痴ばかりです。その上、
「い、いやぁ。姫様にそう言われるのもなんだか、おかしな気がいたしますね。」
なんて、未だに私の家臣のような態度で接するのです。私、何故だか取っても腹が立ってしまって言うのです。
「ヴァレリオ様っ!! いい加減、姫様姫様はおやめくださりませ。
あなたはもう既に魔王様の位を得られた王でございます。私と対等に王族になったというだけでなく、もう魂の格で言えばヴァレリオ様は私よりも上の御立場なのですよ?
過去の地位にいつまでも縛られて、へりくだった態度をとることはゴルゴダの民の為にもおやめくださいませ。」
私が強くそう願い出ると、ヴァレリオ様は困ったような表情をされますが。「では、姫様の事は今後どのようにおよびすれば?」と、尋ねるのです。
そう言われると私も何故だかとても照れ臭いのですが、
「どうぞ、ラーマか姫とお呼びください。御身は私どもの軍事力の象徴にして私たちを御守り下さる存在。
むしろ保護される私たちにとっては感謝してもしきれない存在なのです。
できればヴァレリオ様、どうぞ。親しみを込めて私の事はラーマとお呼びください。」
私にそう促されてヴァレリオ様は1月程経ってから、ようやく私の事を「ラーマ」と呼んでくれるようになったのです。そうしてヴァレリオ様からラーマと呼んでいただけることを私は何故だからととも嬉しく思うのでした。
そんな私の気持ちの揺らぎはお姉様にも伝わるようでした。
「ラーマ。ヴァレリオがあなたに対して対等な物言いをするようになってから、幸せそうね。」
と、ご一緒に寝る前に話しかけてくるほどでした。
お姉様は私の事を本当の妹のように気遣ってくださるので、最近は同じベッドで寝ることも増えたのですが、そんな眠りにつく前のおしゃべりの時間にもお姉様はヴァレリオ様の話を振るのです。
「ええ。お姉様。
ヴァレリオ様は私にとってはまるで絵物語の騎士様です。物語の騎士は姫を救い出す白馬に乗った王子様。
窮地を身を挺して救ってくれる希望の光。
ヴァレリオ様はまるで町娘たちが恋焦がれるステキな物語に出てくる乙女の憧れのような存在。」
「私もこういう立場でなかったら、ヴァレリオ様へ対して恋に落ちてしまっていたのかもしれませんわ。」
そんな事をお姉様に言いました。
初めのころ、お姉様はそんな私の告白を聞いて目をまん丸にされて
「あ、あなた・・・それってどういう意味?
ていうか、まさか・・・ええええええっ?」 などととオーバーなほどに狼狽えておられましたが、最近になっては、ヴァレリオ様の話を普通に語れるようになったのです。
「ねぇ、ラーマ。
最近、ヴァレリオとちゃんとお話ししている?」
「あの男、意外と女慣れしているから、目を離しちゃ駄目よ。
天然のプレイボーイなのよ、あの男。」
「女の方がヴァレリオによって来るんだから、あなたがちゃんと牽制しないとダメよ?」
などと、よくわからないご指導まで、ご一緒に眠る際にはしてくださるようになりました。
そして、私が
「でも、最近はお忙しいみたいで、あまりお会いできておりませんの・・・。」
と、愚痴を言えば私をゴルゴダの王城にいるヴァレリオ様のところまで攫う様にして連れて行ってくれるのです。
お優しいお姉様。きっと私の心のオアシスがヴァレリオ様であることをよくよくご理解くださっているのでしょう。
そうしてヴァレリオ様も王城に現れた私を抱きしめて迎え入れてくださるのです。
「やぁ、ラーマ。よく来てくれたね。
君に会えてうれしいよ。」
「今日はまだ仕事の途中だが、君と話をするためなら、仕事なんか後回しにするよ。
さぁ、お手をどうぞ。ラーマ・・・私の美しいお姫様。
我が自慢の庭園をご案内しながら、色々と話をしよう。」
と言って、建設中の庭園をエスコートしてくださりながらお話してくださるので、私はもう夢心地です。
ヴァレリオ様は元々、整った美しいお顔をされていましたが、黄泉返りした後に明けの明星様より新たに与えられた漆黒の髪と漆黒の瞳がとても印象的です。そのお顔で私に微笑んでくださるのですから、私の心が満たされるのは当然のお話。私と言えで女ですもの。美男子に優しくされて嬉しくないはずがないのです。
しかも、お顔立ちだけでなくヴァレリオ様は背も高くて目線を合わせようと思ったら厚底の靴を履いた私が背伸びしないといけない程の体格でしたし、その上、騎士として鍛え上げられた素晴らしい肉体の持ち主。まさに物語の王子様のようなお姿をしておられたので、私がヴァレリオ様を物語の王子間に見立てても仕方が無い事だと思います。
そして何よりも、私のために寄り添い、命を捨てて戦ってくださった御姿は正に王子様そのもの。
あの時、共に死のうと誓ったことさえ、私にとっては美しい記憶です。
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