魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

最終話 あなたと共に

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「俺の封禁がほころんだのは、ガブリエルが分霊をした為や。
 ガブリエルの力が弱った分、俺の拘束力が下がり100分の1の復活を遂げた。・・・・・・まぁ、お前はそのおまけで復活を果たしたというわけや。」
 
 明けの明星の説明を受けた高き館の主はショックを隠せない。

「おまけっ!? 俺がっ!?
 俺がおまけで復活しただとっ!?」

「せや。お前、よっぽど軽く見られとるの・・・。」

「おまけ・・・? 俺が・・・この俺がルーちゃんの100分の1の分霊のおまけ?」
 
 高き館の主はショックのあまり地面を見つめたまま何やらブツブツ呟いているだけになってしまった。
 既に勝負あったことを確認した明けの明星はタヴァエルに駆け寄って心配そうに声をかけた。

「おいおい。タヴァエル。
 お前、傷だらけやんけっ!! 大丈夫か?」

 明けの明星の言う通り、タヴァエルはボロボロだった・・・。
 明けの明星はその理由を知っていた。これが力天使と言う分を超えた行為の代償だという事を。
 タヴァエルの傷をいやしながら、明けの明星は大天使ミカエルを睨みつける。

「おいっ。ミカエル。お前なぁ。
 いくら越権行為をしたからって実の妹なんやぞ。ちょっとぐらい免除したれや。
 おお、タヴァエル・・・。痛かったやろう?
 ようやってくれたなぁ・・・おかげで助かったわぁ・・・。」

 そう言いながらタヴァエルの頭をなでてやると、タヴァエルは嬉しそうに微笑むのだった。

「お兄様。
 家族とは仰いますが、家族だからこそ規律を守らねばならぬのです。
 我々は執行官。不正があれば身内ならばこそ厳しくしなければ示しがつきません。
 お兄様がこの冥界に封禁されているのもその規律ゆえの事なれば、当然の沙汰とお心得下さい。」

 そう言って大天使ミカエルは威厳に満ちた声で明けの明星に反論するのだった。

「なんやとぉ?
 せやからて、こんな年端も行かない子供にこんな刑罰は重すぎるやろ?
 この娘はまだ1億歳かそこらやろがっ! 許したらんかいっ!!」

 明けの明星はそう言ってから自分の体にヒヤッとする殺気があてられたのを感じだ。

「そういうお兄様こそ・・・。
 私というものがありながら、1億歳かそこらの小娘に手を出されたようですが?」

 明けの明星の背後には大天使ガブリエルが半泣きの目で睨みつけていた。

「いやいやいやっ!!
 ちゃうよっ!! ちゃうちゃうっ!!
 聞いてぇなっ!!
 お前だけやで? お前が一番やで?
 俺のために分霊までしてこの奇跡を成してくれたお前只一人が俺の女に決まっとるやんけっ!!」
 
 慌てて取繕った嘘をついてガブリエルの機嫌を取ろうとする明けの明星だったが、二兎を追う者は一兎をも得ずの言葉通り、今度はタヴァエルの反感を買ってしまうのだった。

「ひ、ひどぉ~~~いっ!!
 私の事をあんなにも可愛い可愛いって言って下さったじゃないですかぁ~~~っ!!
 私の純潔を返してくださいっ!!
 うああああ~~~っ!!」

 明けの明星は両脇の女性に泣かれて困り果てていた。しかし、それに追い打ちをかけるように大天使ミカエルが鬼の形相で尋ねてくるのだった。

「お兄様・・・。まさかとは思いますが・・・
 妹二人に手を出したと仰るのですか?
 ガブリエルの分霊には性的干渉をせずに異界を作ったという点は見逃せますが、まさか・・・タヴァエルの純潔を奪ったとは言いますまいなっ!!」

「し、してないよっ!
 何言うてんの? ミカエル君。
 洗脳やがな。洗脳。
 そういうイメージをこいつの脳に焼きつけただけやんけ。
 ホンマやで? そもそも俺がこんな子供に手を出すわけないやんけっ!! なっ!?」

「魔王の癖に何いってるんですか。
 お兄様は子供だろうが手にかける人でしょうが・・・。誰がそんな口からの出まかせを信じるものですか全く・・・。」

 大天使ミカエルは呆れ気味にそう言いながら腰の大剣をスラリと抜くと座り込んだ高き館の主に切っ先を向けて言う。

「まぁ、そんなことよりも今はこのハエの王をどう罰するかの方が優先です。」


 ハエの王・・・。高き館の主が一番許せない言葉を吐いた。
 その言葉は魔法のように一瞬で高き館の主を目覚めさせる。

「誰がハエの王だっ!!
 このクソガキがっ!!」

 そう叫んだ瞬間にミカエルの回し蹴りが正確に頭部を捕えて高き館の主の体は宙を舞って吹き飛ぶと明けの明星の胸元でキャッチされる。

「おいおい。ミカエル。暴力はあかんぞ。
 それにこいつの相手は俺がせなアカン。」
「おい、ガブリエルっ!!
 俺を完全復活させろっ!! このガキ、100%の状態でボコボコにしたらぁ・・・。」

「ひっ!!」

 明けの明星の物騒な一言に高き館の主は息をのんでから命乞いする・・・。


「ま、まってぇな、ルーちゃんっ!!
 僕、そんなつもりで攻撃してたんやないやん
 ルーちゃんが俺の事を悪く言うからちょっと拗ねただけやん
 怒らんといてぇなぁ・・・。」

「なんでお前まで播州弁ばんしゅうべんやねん。」

 かつての親友の情けない姿に明けの明星は呆れるように言った。
 しかし、それは仕方がなかった。高き館の主はわかっているのだ。異界を滅ぼしたペナルティを背負っている今の自分が100%の明けの明星と戦えば先ほど自分がしたことが100倍返しでやってくることを。
 その恐怖故に必死に明けの明星に媚びを売ろうというのだ。それは理解できる。
 
 だが、おかしいのはミカエルの方だった。
 ミカエルは命乞いする高き館の主の髪を掴むと、勢いよく何度もその頭部に膝蹴りを入れるのだ。
 激しい膝蹴りで意識が飛んだ状態の高き館の主をミカエルは決して許さなかった。

「ワレの命乞いなんか無駄なんじゃボケ。
 それよりも今からお前の落とし前をどうつけさせるかって話決めよんじゃ。
 ガタガタ抜かしとらんと黙って聞いとけ、アホンダラ。」

「だからなんでお前まで播州弁なんじゃ。」

 自分のせいでキツイ方言が広がりそうなことに若干の恐れを感じる明けの明星であった。

「まぁ、冗談はさておき・・・。
 お兄様、この者をどうなさいますか?」

 大天使ガブリエルが漫才みたいなやり取りに呆れて質問すると明けの明星は笑顔で答えた。

「そやな。やっぱり今回の責任をこいつの命で贖ってもらおう。
 こいつの魔力を抜き取ってこいつが壊した異界を復活させる。
 そして、その異界にこいつを植えて再び封禁して、異界が活性化する苗床としよう。
 こいつは寝たまま未来永劫、自分が潰した異界を養ってもらう。」

 大天使ミカエルは明けの明星の提案を受け入れると失神した高き館の主から魔力を抜き取り、そのエネルギーを利用して異界を作り出し、魔力を根こそぎ抜き取られた高き館の主をその異界の大地に植え付けるように封禁した。
 これから未来永劫、高き館の主はこの異界に意識が失ったままの状態で眠り、やがて魔力が回復すればその魔力を糧にこの異界は潤っていく。そうして魔力を抜き取られ続ける高き館の主はもう二度と目を覚ますことがないだろう。

 全ての儀式が終わった時、ミカエルは再びタヴァエルに異界の王に任命する。

「タヴァエル。幼い身の上でよくお兄様の封禁されたこの異界を守り抜いた。
 その経験を高く評価し、そなたを高き館の主の眠る異界の王に任命する。」

 大天使ミカエルに褒められたタヴァエルは感激の涙をこぼして「かしこまりましたお兄様っ!!」と拝命するのだった。
 
「さてと・・・。」

 一旦、高き館の主の問題が解決したミカエルは明けの明星を見て悲しそうに呟いた。

「お兄様。残念ですが、お兄様を自由には出来ません。」

 大天使ミカエルの言葉は即ち明けの明星を再び封禁することを意味していた。
 言われずともその意味を理解している明けの明星はにっこり笑って答えた。

「わかっとる。スパッと封禁してくれ。
 俺とガブリエルはここで未来永劫添い遂げるんや。」

「はい。お兄様・・・。
 この命は、未来永劫お兄様と共にあるのです。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 わたくしが自分で生み出した異界に転移された時、目を見張りました。
 そこは美しい緑の世界だったからです。
 大地には売れた果実が鳴り、空では小鳥が歌い、大きな清流が流れているのでした。

「まるで・・・理想郷だわ・・・。」

 私は思わずそう呟きました。
 この異界ならば飢えた民が生まれない世界になるのだろうという確信があったからです。
 何故なら、私の目の前には超巨大な大木があったからです。それこそが夢で見た豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様の化粧したお姿そのものであったからです。
 
 私は嬉しくなってアンナお姉様に報告します。

「ほら、ご覧になってっ!! この世界っ!!
 この美しい世界っ!! この世界なら私達は傷つけあうことなく平和に暮らしていけるはずですっ!!
 そんな予感があるのですっ!!」

 アンナお姉様もそんな私に応えてくださいます。

「ええ、そうね。ラーマ。あなたが生み出した世界ですもの、皆が幸せにならないわけが無いわ、」

 私たちはそう言いあうと事を成した喜びで抱き締めあいました。
 ここにたどり着くまで本当に多くの事がありました。多くの人が死に、そして多くの人を救う事が出来たのです。
 フィリッポにフェデリコ・・・。それ以外にも多くの人の思いを叶える理想郷・・・。それがこの世界なのです。

 私たちがしばらくの間、二人で抱き合っていると巨大な大雷鳴と共に信じられない程、高貴な方々が降臨なされたのです。私たちは慌ててその場に平伏して高貴な方々をお迎えしたのですが、その中でもひときわ高貴なお方が私の前に進み出でて申されるのです。
「ラーマ。我が妹よ。」と・・・。

「はい? 妹?
 すみません、私一人っ子ですから、何かの間違いではありませんか?」

 私そう答えるとその高貴なお方は巨大な鳥の羽で私の頬を撫でられたのです。
 その瞬間、私の脳に電撃のような衝撃が走り、それと共に私は目覚めたのです。自分の本当の在り方に・・・。
 それを知った私はなんだか惨めになって愚痴をこぼしてしまいます。

「・・・そうですか。私はこの奇跡をもって偉大なる父上の御威光をこの世界に広めるために作られたガブリエル様の分霊だったのですね・・・。」
「ふふふ・・・まったく、 なにからなにまで、私の人生は作られたものだったのですね。」

 私は自分の人生を振り返ると馬鹿馬鹿しくさえ感じます。
 明けの明星様への瞳石として作られたお飾り姫・・・。ですがその本性はガブリエル様の分霊・・・。
 しかし、この異界を作ったことで私のお役目も終わり・・・。あとは本体に吸収されるだけ・・・。
 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・?

「・・・ガブリエル様のお力を感じない?」

 私はその時になってようやく異変に気が付いたのです。ガブリエル様の分霊の私なら異界を挟んでもその霊力を感じることができるはず・・・。なのにそれを全く感じないのです。

「・・・ミカエル様っ!!
 ガブリエル様はどうなさったのですかっ!!!?」

「慌てるな。あの子はお兄様と共に眠っておられるだけだ。
 あの二人は未来永劫、添い遂げるのだ。」

 ミカエル様はそう仰ると次元を切り開いてエデンに取り残されていた神々を召喚なさいます。その中には魔神シェーン・シェーン・クー様は勿論の事、ヴァレリオ様もおられたのです。

「ヴァレリオ様っ!!」

 私がそういって駆け寄ろうとした時、違和感を感じました。
 ヴァエリオ様は私の知っているヴァレリオ様ではなかったのです。その圧倒的な魔力はまるで・・・まるで異界の王でした。

「ラーマ。この者はお兄様のたっての願いで、お兄様の分霊の魔力の一部を注ぎ込むことで異界の王へと昇華させてある。
 この世界・・・お前とお兄様が生み出した、言わばお兄様の子供を育てるために、この異界の守護者にしたのだ。」

 そしてミカエル様は続けて仰いました。

「ラーマ。そしてアンナよ。
 お兄様からのたっての願いだ。二人ともヴァレリオの良き妻となってこの世界を守り育てる支えとなれ。」

 衝撃的な言葉でした。私とお姉様がヴァレリオ様の妻に!?
 二人一緒にっ!?

『お言葉を返すようでございますが、二人して妻になれという無法な命令にしたがうつもりはございません。』そう言いかけたその瞬間、お姉様は元気よく『承知しましたっ!!』と、お返事なさったのです。

「お、おお、お姉様っ!?
 何を仰っておられるのかわかっていますか?」

「勿論です。全て事前に明けの明星様より承っているお話です。
 ラーマ。ヴァレリオ様は既に異界の王。王族が妻の一人や二人を娶って何の不思議がありましょう。
 それよりもヴァレリオ様に恥をかかせてはなりません。謹んでお受けいたしなさい。
 それに、あなたもヴァレリオ様をお慕いしている気持に偽りはないのでしょ?」

 アンナお姉様にそう言われたら何も言い返せません。
 それに正論です。たしかに異界の王になられたのであれば妻の一人や二人いて当然です。
 「で、でもこんなの納得できませんわっ!!」と、私が言いかけた時、アンナお姉様が「しっ!」と言って目くばせなさるのです。
 そしてヴァレリオ様を見ると、ヴァレリオ様もどこか含みのある目で私を見ているのです。

 (何かあるのですね・・・。)

 私はそう察するとミカエル様に「謹んでお受けいたします。」といって深々とお辞儀をいたしました。
 するとミカエル様はホッとした表情で微笑むのです。

「いや。そうかわかってくれたか。お前に反対され切ったらどうしようかと思っていたところだ。
 ・・・さて、私はこの異界に長くはいられない。自分の職務があるからな・・・。
 ただもし、何か困ったことがあればいつでも私を呼ぶがいい、妹のお前を見捨てはしないぞ。」

 そう頼もしい事を言って下さると、100万の点の軍勢を率いてお帰りに慣れたのでした。
 その帰る姿を私たちが見送った後、ヴァレリオ様の胸元から「・・・行ったか?」と言う声が聞こえて来たかと思うと、明けの明星様がお姿をお見せになられたのですっ!!

「あ、あああ、明けの明星様っ!?
 そ、そんなっ! なんでっ!?」

 ビックリしました。だって明けの明星様は今、私の本体とともに異界で眠りについているはず。
 なのに、ここにおられるなんてっ!

「ヴァレリオに魔力を注ぐと見せかけて俺は分霊を作ってこいつの体の中に入っただけや。
 忘れるなっ! 俺は偉大な父上すら欺いた男やで!? ミカエルくらい簡単に欺けるわっ!!」

 そういって自慢げに胸を張る明けの明星様にアンナお姉様が嬉しそうに抱き着きます。

「旦那様っ!! 旦那様っ!!」

「こ、こらこらっ!! そんなにオーバーに感激すんな。
 これからはずっと一緒なんやからっ!!」

 そう言ってお二人は幸せそうに抱き合います。そして私とヴァレリオ様も再会を喜び抱き合ってキスをするのです・・・。

 ヴァレリオ様。私の旦那様。
 これから私たちはこの異界を守り育てるために生きていくのです。
 そしてみんなが救われる世界を作っていきましょう。それはとっても幸せな日々になるでしょう。

 明けの明星様。私の運命のお方。
 そして私のお兄様。
 初めてお会いした時は、こんな結果になるとは夢にも思いませんでした。
 こんな素敵な結末を迎えることができたのはあなたのおかげです。
 
 ヴァレリオ様・・・。明けの明星様・・・。
 これからステキな世界を作りましょう。
 ずっとずっとあなたと共に・・・。
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