128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第六話 神道流

 ウルティアの体に付けれた烙印らくいんは、そのハッキリとした火傷跡から、かなり深く体に刻まれたものだとわかる。恐らく、信じられないほどの高温まで焼かれた鉄の焼き印をその肉に押し当て、体をえぐり、焼き尽くした結果なのだろう。
 おおよそ見当もつかないほどの苦痛だったに違いない。
 傷口はぐにはえずに数週間は苦しんだだろう。

 その傷の数、一人につき60人分以上・・・・・・・。
 これは嘘やごまかしのために付けられる傷の深さではない。なにか途轍とてつもないほど強い意志。思い入れ。そして覚悟がないと出来ないことだった。

 彼はこれまで死んでいった勇者達を自分たちの同士だと言った。その言葉は真実なのだろう。
 そして、戦わねば生きていけないという言葉も真実なのだろう。そして、それは俺も美野里みのりも同じ立場ことなのだろう。

 ・・・・・俺は覚悟を決めた。
 ウルティアの目を真っすぐ見つめて問うた。

「ウルティア。俺は何をすればいい?」

 俺の言葉を聞いて美野里は「ダメっ! 剣一君っ!!」と言って引き留めたが、そう言うわけにはいかないことを俺達はもう知っている。理解したくなくても、行動したくなくても、嫌なことであっても。もう知ってしまっているのだ。

 やらなくてはいけない。

 俺の声と目から、ウルティアは俺の強い意志を感じたのか、深々と頭を下げてから

「では、まず第一の試練として、我が国の衛兵と剣を交えて戦って頂きます。」

 ウルティアの目が鋭く光った。どうやら本気らしい。
 そして、その言葉を合図に群衆の中から神殿内で警備のためにいたらしい一人の大柄な戦士が俺達の前まで進み出て来た。
 向かい合ってみると、その戦士は身長186センチある俺より背が高いように見える堂々とした体格の持ち主で、しかも異相いそうだ。
 人間のような体形にトカゲのような顔。獣頭人身じゅうとうじんしん。リザードマンって奴らしい。
 リザードマンは神殿中央にいる俺達の前に立つと「どうぞ。」と言って俺に一振りの長剣ロングソードを手渡した。長さは柄を足して150センチくらいある。装飾の無い簡素の作りだが、良い剣のようだった。
 ウルティアは俺がおくせずに剣を取ったのを見ると満足そうに小さな声で「うん!」とうなってから、配下の者に「勇者の砂時計を・・・」と命令し、テーブルの上に砂時計を用意させた。

「この者はハカ・トリ。我が軍の軍曹ぐんそうの階級を与えられし最前線で活躍する戦士。
 気勢きせい十分にして経験豊富。
 このハカと、この砂時計の砂が落ち切るまで戦い、生き残っていれば合格。ここで死ぬような資質ならば、まずもってこの世界で長く生き残ることは出来ません。」

 その言葉を聞いて髪が逆立つような恐怖を覚えたのか、美野里みのりが半泣きの顔で俺の腕を掴んで引き留めようと騒いだ。

「ダメだよっ!! 気が付いてないの? 彼ら本気だよっ!
 ずっと戦争をしてきた彼らと戦争とは無縁の日本で過ごしてきた君が戦うなんて、勝負にもなりゃしないんだ!
 剣一君、わかっているのかい? 君は殺されてしまうよっ!
  逃げようっ! この世界にだって二人きりで生きていられる場所くらいあるはずさっ!」

「なんだ? 男同士二人が生き残っても、この世界のアダムとエヴァにはなれないんだぜ?」

 俺が冗談めかして返答すると美野里は泣きながら本気の肩パンを入れて「バカ野郎っ!」と抗議してきた。
 これはマジだな。
 そう思った俺は、動揺して騒ぐ美野里に俺は努めて冷静な声で言う。

「美野里。わかっているはずだ。ここには戦わずに生きていける場所なんかない。
 そんな場所があるなら、こいつ等だって見逃さないさ。」

 俺はそう言って美野里の胸を押して遠ざける。華奢きゃしゃな美野里の体は簡単に飛ばされて、バランスを崩して美野里は倒れた。そこへウルティアの配下の者たちがあつまり、美野里の体を抑えた。
 その様子を見ながら俺は(美野里が本当に女の子だったら、さっき胸を押した時のはラッキースケベになったかもしれんのに、惜しい事だ)とか、そんなバカなことを考えていた。

 そんな俺の余裕を感じ取ったのかウルティアは「準備が出来たら、合図を」と強い口調で言う。
 戦う戦わないの同意は求めない。戦わねば死ぬことは俺がよくわかっていることをウルティアも、もうわかっていることだったから。
 俺はまだ戦いを止めようと泣きながら騒いでいる美野里の声をBGM代わりに聴きながら、長剣を抜いて一振り二振りして、その剣の感触を確かめる。

 長剣にブレは感じられなかった。どうやら目釘めくぎの心配はないらしい。(※目釘とは剣の刀身部分とそれを包む柄を固定するための釘。湿気の多い日本では竹製だが、海外においては文字通り金属製の目釘も使う。)

「では、ハカ。よろしくお願いします。」

 俺は深々と頭を下げる立礼をしてから、ハカに向かって長剣を下段に構えて脱力する。

「・・・・・っ!」

 俺の構えを見て何かを悟ったハカは、明らかに狼狽うろたえた表情で三歩下がってから、剣を自分の頭の上に高々と持って構えた。
 ハカが見せたのは、大上段の構え。
 腹部が完全にガラ空きになるこの構えは、実力差がある相手を威圧するためのモノでもあるが、今のハカがとった構えは使用用途が異なる。単に自分を大きく見せて威圧したいだけの行動だった。それは動物的本能から来るもので蟷螂とうろうおのと言っていい程、武術的に意味はない。
 だが・・・・
(※蟷螂とはカマキリの事。力のない者が強い者に挑む様、無謀な戦いなどの意。)
 

「へぇ・・・・。わかるのか。さすが鍛えらえた戦士だな。」

 ハカが俺の構えを見ただけで、俺の実力を悟った事に感心し、そして同時に実力がバレる前に倒しておきたかった策が終わってしまったことを残念に思った。
 
 古来、伝えられる話に日本の武術は二流儀を母体に生まれたものという。
 いわく関東七流かんとうしちりゅう京八流きょうはちりゅう
 源義経よしつねに武術を教えた大天狗、僧侶にして陰陽師でもあった鬼一法眼きいちほうげんが僧侶八人に伝えし京八流。それが西日本の武術の発祥であるならば、関東の武術の発祥は関東七流。単に神道流しんとうりゅうとも言う。鹿島神宮祭神の武甕槌大神たけみかづちのおおかみが悪神を鎮める際に使用した技がその始まりで7人の神官が古くから伝わる剣術を東国を中心に広めたものだ。

 神仏習合の信仰さえ捨てなかった俺の家は、その関東七流に端を発する古武術「神道しんとう虎臥こが妙見みょうけんりゅう」を伝え残し、俺は幼いころから山野を駆けずり回って父に鍛えられて、その奥傳おくでんまできわめた。
 ハカは俺の構えを一目見て、俺の実力を見極めたのだ。彼も只者ただものではなかった。

 俺もハカの実力を悟り、彼が実力を発揮する前に倒すべきと思い、ツカツカと一気に間合いを詰める。
 しょせん俺の剣は竹刀を用いた剣道や木剣もっけん剣術。実際に殺し合いなんかしたことがない。ルールや形に守られた競技・武道しか知らぬ俺は実戦の狂気を知らない。ハカにとって俺の実力が未知数ならば、俺にとってハカの実戦経験は脅威でしかない。だから、お互いの真の実力が知れる前に叩いておこうというのだ。
 相手が実力を出す前に倒すのは喧嘩の定石じょうせき。俺は剣を取っての殺し合いはしたことはないが、喧嘩には自信がある。それこそ姫系男子の美野里にでも俺が学園きっての肉体派だと知れるほどに。

「お、おおおおお~~~っ!!」

 そしてハカは俺の策略にかかり、近寄って来た俺の圧力に屈して不本意な一撃を放つ。
 俺はその斜めに切り込んでくる袈裟切けさぎりをハカの体の横をすり抜ける勢いで低く飛んでかわしつつ、その奥にあるハカの足首を切る。

「うああっ!!」

 ハカは己の足首に走る強烈な痛みに驚きの声を上げて座り込んだ。

「勝負ありだ。
 アキレス腱はおろか動脈も切られている。早く手当てしてやらんと死ぬぞ。」
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