128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第二十二話 生涯の友

「飛ぶかっ! 異世界の剣技はっ!!」
 ウィリアムは一本取られたことよりも俺の剣技に興奮していた。
「天狗飛び。八相はっそう飛びとも言うっ!!」
 俺もその熱意にこたえて強く返事すると、ウィリアムに告げる。

「3本勝負だっ! 残り一本っ!! よろしいかっ!!」
 そう。俺もウィリアムの剣技に魅了されていたのだ。
 先程のように防戦一方に追い込まれたことなど、ここ5年。父親相手以外になかった。
 まさか同年代の少年にあそこまで追い詰められるとは思いもしなかった。これは嬉しい大誤算だった。
 その大誤算の興奮をここで冷ましたくない俺は既に2本先取して勝利が確定したにもかかわらず、ウィリアムに勝負を挑んだ。
 
 いや。これはもう勝負ではない。剣に見せられた俺達にとって「最高の娯楽」だったのだ。
 
 その想いはウィリアムも同じだった。嬉しそうに笑うと
「おうっ! いざ、切り結ばんっ!!」と叫び、一歩飛び去って間合いを作る。
 俺も同じく飛び下がって剣を自分の脇横の高さに構える『八相に構え』になると叫んだ。
「いざっ! 切り結ばんっ!!」

 そうして、両者は再び必殺の構えを取る。

 だが、今度は様相ががらりと変わった。
 ウィリアムは剣をまっすぐに自分の顔の前に立てたのだ。
 フェンシングの礼法であり西洋剣術で言うところの「王冠の構え」。日本古武術では「不動剣」と称して使用する流儀もあるらしいが、俺自身はオリンピックでフェンシングの選手がこうやって構えている姿を映像を見たことがある程度で実際にこの構えと戦うのは初めてのことだった。

 ウィリアムは2本勝負の際に随分と攻めに転じていたので大きく体力を消費していた。肩を揺らして大きな呼吸をしながら、剣の刀身の向こうから俺を睨みつけている。
 ウィリアムは体力を消費したから、動きの小さなこの構えに転じたのだろうか?
 俺は最初、そうあなどった。
 様子伺いに軽く足を間合いの中に入れて、ウィリアムの出方を待った。

 しかし、ウィリアムは動かなかった。相変わらず肩を揺らす大きな呼吸をしているものの、その眼には闘志が宿り、一部の隙も感じさせなかった。
 その眼を見て俺は思った。
 これはもしかしたら、俺は既に追い詰められているかもしれない。と。

 ウィリアムの構えに隙を見いだせない俺は彼の術中にはまりつつある事実を感じ始めていた。
 その事実は俺に焦りを生じさせ、ウィリアムの間合いを破壊するためにあえてさらに半歩間合いに入った。

 次の瞬間、弾丸のようなウィリアムの逆手切りが飛び込んできた。
 正直、俺はその動きが見えなかった。正面で両手もちに構えた剣が、左右上下どちらからも切り込めるのだと気が付いていなかったのだ。だから予想を超える動きに目が反応できなかった。ただ、勘が「ここにいてはいけない」と俺に伝えて、俺を転ばせた。
 ウィリアムの逆手切りをくぐるように地面を転がり、大きく間合いを取ってウィリアムの追撃を逃れる。

 だが、ウィリアムは俺を追撃してくることはなかった。
 再び「王冠の構え」をとって身じろぎ一つしない。その様子を見て、俺は先ほどの一瞬の攻防を通じてウィリアムがすでに俺に対する対抗策を得てしまったことを悟る。

「・・・・・破れまいっ!」
 顔面に剣を構えたままの姿勢でウィリアムは小さな声で、それでいて力強く呟いた。
 その声には自信があった。いや、確信があった。
 自分のこの構えを鬼谷剣一は破れない。そういう確信をウィリアムは得ていたのだった。
 それは当たらずとも遠からずというところだった。

 俺は確かにこの道の構えに対する対策がなかった。
 否。常人の王冠の構えであるならば、難なく破って見せただろう。
 だが、この男。100年に一度の天才と称されるウィリアム・キンメリア騎士爵は別である。正面からまともにやり合えば、十中八九じゅっちゅはっくどころの騒ぎではない。99%彼が勝利する。そう俺が確信するほどウィリアムの王冠の構えは洗練されていた。
 そして、その集中力は研ぎ澄まされた針のように鋭かった。

 だが、しかし。策がないわけではない。
 俺には一つだけ、玉砕覚悟の特攻技とっこうわざが残されていた。
 
 その覚悟を決める時間を稼ぐために俺はウィリアムの間合いから半歩下がってチラリと美野里を見た。
 心配そうに俺を見ていた。その美野里の目を見て俺は覚悟を決める。
「ふーっ」と、細く長い息を吐くと(良いところ・・・・・を見せないとな。)と心の中でつぶやき、剣の構えを解くと脱力した姿勢でツカツカと歩いてウィリアムの間合いに入った。

 この程度の奇策ではウィリアムは動揺を見せない。ただ一心に俺という的を見据えていた。
 その顔には自信が満ち溢れていた。
「破れまい・・・・」
 ウィリアムが再びそう呟いた時だった。俺は手にした剣をウィリアムの腹にめがけて投げた。
 顔面への攻撃ならば、その場で身をよじればかわせるかもしれないが、自分の体の重心位置である腹部を狙われた場合は別である。身をよじったくらいではかわせない。大きく体を移動させるか、剣で薙ぎ払う以外に選択肢はない。
 そして、その選択肢の中で一番、早く動けるのは当然、剣による薙ぎ払いである。

 果たしてウィリアムが剣による薙ぎ払いを選択した瞬間、俺はウィリアムに飛び掛かり、剣を薙ぎ払うために伸びた腕に手をかけた。そして、その腕を一本背負い投げにて投げ飛ばした。

「わあああっ!!」
 見守る生徒たちの歓声が聞こえたと同時にウィリアムの体は地面にたたきつけられていた。
 次の瞬間、マクドネル師範が叫んだ。

「反則っ!! 勝者ウィリアムっ!!」
 そうして、地面にたたきつけられたウィリアムの体を手で引っ張り上げて立たせると、その右腕を天に掲げてやるのだった。

 ・・・・え? 反則って何?
 
 呆然とする俺にウィリアムが「いてて」と打ち付けた腰をさすりながら「剣を投げた時点で君の負けなんだよ」と教えてくれた。
 い、言われてみれば・・・・・剣道でも竹刀を手放すのは反則負けだよな。
 俺はあまりにもバカな反則負けを喫してしまうのだった。

 しかし、そんな俺にウィリアムは歩み寄ってくると
「だが、2本先取したのは君だ。この勝負は君の勝ちだよ。
 さすが、勇者様。完敗だよ。」と、俺を讃えてくれた。

「いや、ウィリアム。勝負は時の運だ。
 それに俺は奇策をろうして君に勝っただけだ。単純な剣技なら君の勝ちだったろう。
 そして、奇策はいつまでも続くとは思えない。このままでは、いつか君に破れる日が来るだろう。
 俺はもっともっと強くなるために修行するよ。」

 俺も自分の気持ちに正直にウィリアムを讃える。実際、ウィリアムのネコ科の肉食獣のような瞬発力には圧倒された。あれに更に剣技の冴えが加われば、勝つことは難しくなるだろう。
 そう思った。
 
 ウィリアムと俺は互いに見つめ合い、お互いを尊敬した。

「ウィリアム。これからも俺と一緒に剣技を磨いてくれるか?」
「勿論だっ!!
 共に強くなろう。剣一っ!!」

 俺たち二人は熱い抱擁と誓いを交わした。
 これまでの俺は戦いの中で殺気にとらわれずに戦いを楽しむなんて考えられなかった。だが、ウィリアムは違った。彼と戦っている途中から、俺は殺気など放っていなかった。ただただ、彼との戦いを楽しんでいた。

 俺は彼との抱擁の中で確信していた。彼こそ俺を解き放つ者だと。

 これが俺の生涯のライバルになるウィリアム・キンメリア騎士爵との出会いだった。
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