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第二十八話 破軍の星
俺は手にした兵学の本を読んで感動していた。
非常にわかりやすい教科書だった。
この世界の戦争の仕方。例えば陣形の取り方などは魔法と一体となったものであることが教科書を読めば直ぐに分かった。しかも近世までの日本にも陣形の取り方などには魔法や呪術と関連したものが多いので理解しやすかった。
日本の場合、多くの兵学が天体が戦争勝利に導くと教えていた。古来、星々は人の運命を司る存在であり、北極星、北辰、妙見、破軍星、大将軍星などと呼ばれる星は死を司ると言われていた。この星に向かって進軍すれば死に至るという信仰だ。
対人武術にもこれが応用され、多くの武術が自分の剣先を破軍星(北辰、妙見)に見立てて、自分に向かって攻めてくる敵に死の運命を歩ませるというという呪術要素を多分に含んだ戦法を伝えていた。
他にも有名な話として神武天皇が東征の際に奈良(大和)でナガスネヒコに一度敗戦したのは、太陽神の子孫である自分が太陽に向かって進軍したからだと悟り、進軍方向を西から東ではなく、東から西に攻め入れるように軍を大回りさせてナガスネヒコと再戦するという神話があるが、これも太陽と言う天体が呪術的要素として戦争に影響を与えている事は明らかである。
そして軍の立ち位置や攻める方角や天体が持つ運命によって影響を受けるという呪術要素は、このパノティアと言う世界にも存在していた。
リリアンとヴァイオレットが学問所で学ぶ科目に「星見」があると言っていたが、この星見と言う物が天体観測。つまり、天体の動きを見て吉兆を占う事を学ぶ事であり、軍の配置や陣形を天体に見立てて軍勢に星々の力を付与する呪術を学ぶことでもある。
一応、我が神道虎臥妙見流もその名が示すように神道流から分派を繰り返す歴史の中で妙見信仰を取り込んだ一派のためにパノティアの戦法を理解することはたやすい。
そして、この世界での妙見に当たる星の一つにシャウシュカという明星神がいるらしい。これはウルとアアスとは血の繋がりがない独立したシャウシュカという女神が支配する星ことらしい。
俺はこのシャウシュカと言う神がつまりは地球の金星神に当たるのではないかと予想している。地球でも金星神は絶大な権力を有する神だが、パノティアのシャウシュカもそれに酷似していてパノティア最強の軍神の一つと言える。
それは魔法が実在するこの世界において絶大な影響力を持っているようで、これを利用しない手はなく、この呪術を絡めた陣形は相当な威力を持っているだろう。
俺がそんなことを考えながら教科書を読んでいると、廊下の方からまたヒソヒソと話声が聞こえて来た。
「見たか? あいつ見た目通りメチャクチャ強いぞ。」
「剣だけじゃない。レスリングも強い。ウィリアムが不意をつかれたとはいえ、あんなに簡単に投げられるなんて・・・・化物か、あいつは。」
「やっぱり邪神の力じゃないのか? 呪われてる男だ。」
「そうだ、そうに決まっている。邪神の力を借りてないとウィリアムに勝てるわけがないんだ。」
「・・・・卑怯な奴だ。」
「でも、魔法は初心者だろ? 明日の授業で笑いものにしてやろうぜ。」
「待てよ。それは美野里様も同じだろ。俺達がアイツが魔法を使えないことをバカにするってことは美野里様も傷つけるってことだぜ?」
「・・・・う。そ、そうか。」
「・・・・・いや、まて。一つ方法があるぜ。明日、美野里様の前であいつに大恥をかかせてやる方法がな。」
・・・・・どうやら、やはり俺はあいつらと仲良くは出来ないらしい。
正直、今すぐ部屋から出て誰が一番強いか教えてやりたいところだが、どうやらあいつらには何やら考えがあるらしい。
面白れぇじゃねぇか。その考えに乗った上で叩き潰してやる・・・・・。
翌朝。俺は男子寮の風呂が意外と清潔だったことと、非常訓練がなかったことに気を良くし、大して美味くもない朝食に不満も抱かずに平らげてから、歯を磨き、学問所へと向かう。
途中、ゾロゾロととりまきを連れたウィリアムが声をかけて来た。
「おはよう、剣一。一緒に学問所へ行かないか?
どうせ、午前は魔法の授業だ。バラバラに行ったところで更衣室で一緒に着替えになるんだし、どうだ?」
ウィリアムは剣を交えた仲であり、この学問所で唯一俺が心を許せる男子生徒だ。断る道理はない。
「もちろん。お前さえよければ一緒に行こうぜ。ウィリアム。」
「よし!」
ウィリアムは俺の快諾に心を良くしたのか、俺の背中をボンッと叩くと俺の横を歩く。
俺よりも背丈が3~4センチだけ低いが堂々とした体格の上に顔が綺麗に整った長髪美少年である。後頭部に長い金色の髪をまとめたポニーテイルが引き締まった顔をより精悍に見せているし、白い肌に切れ長の青い瞳がよく映える。
(う~ん。悔しいが理想の王子様像だな。美野里が頬を染めるのも無理ないか・・・・)
俺はそんなことを考えながら、きっと心のどこかでウィリアムをライバル視していたのだろう。
つい、「ウィリアムは恋人はいないのか?」と尋ねてしまった。
ウィリアムは一瞬、びっくりしたような顔で俺を見てから、「ああ。そういうことか。」と納得してから答える。
「もちろん。これでもキンメリア王国の第三皇子だからな。
政略結婚に側室にと既に候補が数人いる。」
そのどうにもはっきりとしないものの言い方が気になった。
「候補? 何だか結婚相手がまだ決まってないみたいな言い方だな。」
「ああ。もちろん。
俺は第三皇子だからな。今後の身の振り方はまだ決まっていない。この学生生活次第では、その話もおじゃんになるかもな。」
「・・・・おじゃん? そんなことありうるのか?」
要領を得ない俺の返事にウィリアムは少し呆れたように笑ってから、再び俺の背中を叩いて
「何言っているんだ。この先、場合によっては政略結婚なんかしている場合じゃなく、お前のお供として一緒に魔王軍と戦うことになるかもしれないだろ? 勇者様。」と答えるのだった。
学問所に着くと教室にカバンを置くこともなくそのまま魔法訓練場に直行らしい。その途中に美野里に会った。
「おはよう、剣一君。」
取り巻きの女子8人に囲まれたまま、俺を見つけると嬉しそうに笑って手を小さく振ってくる。
その仕草は小悪魔的に可愛い。
思うにこいつは自分が男にどう見られているか、自分の何気ない所作がどれほど男を惑わしてしまうことかを少しは自覚したほうがいい。
俺は美野里の可愛い仕草に心臓を鷲掴みにされるような思いをしたが、美野里達の身体の方向が女子更衣室の方向である事に気が付いた。
「おはよう。美野里、これから着替えか?」
美野里は軽く肩をすくめて笑った。
「そうなんだよ。参ってしまうよ。ボクとしては君と一緒がいいのだけれど。」
そう言ってスルリと俺の手の甲を一度に触れると、名残惜しげな意味深長な目で見つめ、それから踵を返して女子更衣室の方へ向かった。
その背中を無言で見送っているとウィリアムに背中を肘で小突かれ「おい。何か返事をしてあげないのか?」と言われ「何かって。何で?」と答えると、ウィリアムは大きな青い瞳を見開いて俺をマジマジと見つめた後に「剣一。お前は女心を理解してない。」と、言われてしまうのだった。
・・・・・いや。いくらこちらが可愛いと思っていても美野里は一応、男の子なんだが。
非常にわかりやすい教科書だった。
この世界の戦争の仕方。例えば陣形の取り方などは魔法と一体となったものであることが教科書を読めば直ぐに分かった。しかも近世までの日本にも陣形の取り方などには魔法や呪術と関連したものが多いので理解しやすかった。
日本の場合、多くの兵学が天体が戦争勝利に導くと教えていた。古来、星々は人の運命を司る存在であり、北極星、北辰、妙見、破軍星、大将軍星などと呼ばれる星は死を司ると言われていた。この星に向かって進軍すれば死に至るという信仰だ。
対人武術にもこれが応用され、多くの武術が自分の剣先を破軍星(北辰、妙見)に見立てて、自分に向かって攻めてくる敵に死の運命を歩ませるというという呪術要素を多分に含んだ戦法を伝えていた。
他にも有名な話として神武天皇が東征の際に奈良(大和)でナガスネヒコに一度敗戦したのは、太陽神の子孫である自分が太陽に向かって進軍したからだと悟り、進軍方向を西から東ではなく、東から西に攻め入れるように軍を大回りさせてナガスネヒコと再戦するという神話があるが、これも太陽と言う天体が呪術的要素として戦争に影響を与えている事は明らかである。
そして軍の立ち位置や攻める方角や天体が持つ運命によって影響を受けるという呪術要素は、このパノティアと言う世界にも存在していた。
リリアンとヴァイオレットが学問所で学ぶ科目に「星見」があると言っていたが、この星見と言う物が天体観測。つまり、天体の動きを見て吉兆を占う事を学ぶ事であり、軍の配置や陣形を天体に見立てて軍勢に星々の力を付与する呪術を学ぶことでもある。
一応、我が神道虎臥妙見流もその名が示すように神道流から分派を繰り返す歴史の中で妙見信仰を取り込んだ一派のためにパノティアの戦法を理解することはたやすい。
そして、この世界での妙見に当たる星の一つにシャウシュカという明星神がいるらしい。これはウルとアアスとは血の繋がりがない独立したシャウシュカという女神が支配する星ことらしい。
俺はこのシャウシュカと言う神がつまりは地球の金星神に当たるのではないかと予想している。地球でも金星神は絶大な権力を有する神だが、パノティアのシャウシュカもそれに酷似していてパノティア最強の軍神の一つと言える。
それは魔法が実在するこの世界において絶大な影響力を持っているようで、これを利用しない手はなく、この呪術を絡めた陣形は相当な威力を持っているだろう。
俺がそんなことを考えながら教科書を読んでいると、廊下の方からまたヒソヒソと話声が聞こえて来た。
「見たか? あいつ見た目通りメチャクチャ強いぞ。」
「剣だけじゃない。レスリングも強い。ウィリアムが不意をつかれたとはいえ、あんなに簡単に投げられるなんて・・・・化物か、あいつは。」
「やっぱり邪神の力じゃないのか? 呪われてる男だ。」
「そうだ、そうに決まっている。邪神の力を借りてないとウィリアムに勝てるわけがないんだ。」
「・・・・卑怯な奴だ。」
「でも、魔法は初心者だろ? 明日の授業で笑いものにしてやろうぜ。」
「待てよ。それは美野里様も同じだろ。俺達がアイツが魔法を使えないことをバカにするってことは美野里様も傷つけるってことだぜ?」
「・・・・う。そ、そうか。」
「・・・・・いや、まて。一つ方法があるぜ。明日、美野里様の前であいつに大恥をかかせてやる方法がな。」
・・・・・どうやら、やはり俺はあいつらと仲良くは出来ないらしい。
正直、今すぐ部屋から出て誰が一番強いか教えてやりたいところだが、どうやらあいつらには何やら考えがあるらしい。
面白れぇじゃねぇか。その考えに乗った上で叩き潰してやる・・・・・。
翌朝。俺は男子寮の風呂が意外と清潔だったことと、非常訓練がなかったことに気を良くし、大して美味くもない朝食に不満も抱かずに平らげてから、歯を磨き、学問所へと向かう。
途中、ゾロゾロととりまきを連れたウィリアムが声をかけて来た。
「おはよう、剣一。一緒に学問所へ行かないか?
どうせ、午前は魔法の授業だ。バラバラに行ったところで更衣室で一緒に着替えになるんだし、どうだ?」
ウィリアムは剣を交えた仲であり、この学問所で唯一俺が心を許せる男子生徒だ。断る道理はない。
「もちろん。お前さえよければ一緒に行こうぜ。ウィリアム。」
「よし!」
ウィリアムは俺の快諾に心を良くしたのか、俺の背中をボンッと叩くと俺の横を歩く。
俺よりも背丈が3~4センチだけ低いが堂々とした体格の上に顔が綺麗に整った長髪美少年である。後頭部に長い金色の髪をまとめたポニーテイルが引き締まった顔をより精悍に見せているし、白い肌に切れ長の青い瞳がよく映える。
(う~ん。悔しいが理想の王子様像だな。美野里が頬を染めるのも無理ないか・・・・)
俺はそんなことを考えながら、きっと心のどこかでウィリアムをライバル視していたのだろう。
つい、「ウィリアムは恋人はいないのか?」と尋ねてしまった。
ウィリアムは一瞬、びっくりしたような顔で俺を見てから、「ああ。そういうことか。」と納得してから答える。
「もちろん。これでもキンメリア王国の第三皇子だからな。
政略結婚に側室にと既に候補が数人いる。」
そのどうにもはっきりとしないものの言い方が気になった。
「候補? 何だか結婚相手がまだ決まってないみたいな言い方だな。」
「ああ。もちろん。
俺は第三皇子だからな。今後の身の振り方はまだ決まっていない。この学生生活次第では、その話もおじゃんになるかもな。」
「・・・・おじゃん? そんなことありうるのか?」
要領を得ない俺の返事にウィリアムは少し呆れたように笑ってから、再び俺の背中を叩いて
「何言っているんだ。この先、場合によっては政略結婚なんかしている場合じゃなく、お前のお供として一緒に魔王軍と戦うことになるかもしれないだろ? 勇者様。」と答えるのだった。
学問所に着くと教室にカバンを置くこともなくそのまま魔法訓練場に直行らしい。その途中に美野里に会った。
「おはよう、剣一君。」
取り巻きの女子8人に囲まれたまま、俺を見つけると嬉しそうに笑って手を小さく振ってくる。
その仕草は小悪魔的に可愛い。
思うにこいつは自分が男にどう見られているか、自分の何気ない所作がどれほど男を惑わしてしまうことかを少しは自覚したほうがいい。
俺は美野里の可愛い仕草に心臓を鷲掴みにされるような思いをしたが、美野里達の身体の方向が女子更衣室の方向である事に気が付いた。
「おはよう。美野里、これから着替えか?」
美野里は軽く肩をすくめて笑った。
「そうなんだよ。参ってしまうよ。ボクとしては君と一緒がいいのだけれど。」
そう言ってスルリと俺の手の甲を一度に触れると、名残惜しげな意味深長な目で見つめ、それから踵を返して女子更衣室の方へ向かった。
その背中を無言で見送っているとウィリアムに背中を肘で小突かれ「おい。何か返事をしてあげないのか?」と言われ「何かって。何で?」と答えると、ウィリアムは大きな青い瞳を見開いて俺をマジマジと見つめた後に「剣一。お前は女心を理解してない。」と、言われてしまうのだった。
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