128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第三十二話 戦略

「おお。火の神。その眷属にして万象のうちの火を司りし我らが祖神サラマンドラよ。その権能をもって敵を貫く炎の矢、我らにもたらし給え。」

「おお。水の神。その眷属にして万象のうちの水を司りし我らが祖神ウンディーネよ。その権能をもって凍てつく氷の矢、我らにもたらし給え。」

 試合開始と同時に生徒全員が武装魔法を唱えだす。本来なら戦士が時間稼ぎをしている間に詠唱する呪文も魔法オンリーの場合は作戦遂行の前に準備しておかねばならない。そうして生徒達は氷の矢、炎の矢、石の矢など様々な魔法にて武装し突撃体制を整えると、敵陣3チームの内の2チームが申し合わせたように力を合わせて俺の守る陣地に向けて突撃してくる。俺を倒すための共同戦線。というよりは俺に恥をかかせることしか考えていないよこしまな連中だ。

 一方、逆に俺達のチームは総員、陣地から前に出て敵の侵攻を止めるためにファイアーウォール、アイスウォールなど文字通りに鉄壁の防御陣形を作る。

「なんだ? アイツら。ろくに攻める気がないぞ?」
「しょせん、剣一以外は雑魚ばかりだ。一気に蹴散らしてやれ!」

 消極的な防御陣形を見た連中はこちらが弱気になっていると判断して一気呵成に攻めてくる。

「いいか! とにかく防壁が破られそうになったら前面から徐々に後退していくんだ。決して無理して配置を守ろうとか思うな。撤退が遅れていると判断したら、すぐ俺に知らせろ。必ず助けてやる!」

「了解っ!!」

 仲間たちは俺の指示通り、防壁が破られそうになったら後退する。そうして後続の者がその後退を援護するように防壁を張って敵の侵攻を食い止める。防壁を張って、破られたら後退。それを繰り返していると敵にとっては壁、また壁・・・・と言った感じで中々先に進めない。そのもどかしさに「戦う覇気はないのか、臆病者共っ!」となじる。

 しかし、元々それが原因で爪弾きになった連中だ。言われて気にするはずがない。全員が俺の指示通りに行動する。
 いや、一人を除いては・・・・という訂正が必要だった。
 こって牛のチャールズは違った。言われてムキになって「てめぇらっ! 調子に乗りやがって!!」と吠えながらたった一人で敵に向かって突き進んでいく。
 当然、一人で突っかかったところで敵のグループに囲まれて寄ってたかって攻撃され、あっという間に試合から脱落する。

 アホすぎる・・・・。アホにふさわしい末路だが、それでも俺にとっては都合がいい。
 アホに気を取られたアホ共が、こって牛退治にやっきになっている隙をついて作戦を遂行させてもらう。

 そうやって敵の集中が防壁かられた瞬間だった。シンディー先生が笛を鳴らして警告する。

「それまで! 陣地を取られた2チームは全員脱落です! 速やかに競技の場から出ていきなさいっ!」

「な、なんだぁ?」
「やったぁ! 勝ったぞっ!!」

 試合場は突然の警告に意味が分からず混乱する生徒たちと勝利を確信した生徒たちに二極化した。
 しかし、すぐに敗北した生徒たちは理解した。自分たちが俺の陣地を攻撃するために己の陣地を守る兵も残さずに突撃してしまったためにウィリアムのチームとうちの伏兵パンが空いた陣地をウマウマと頂いていたことを。

 俺の立てた作戦にまんまと引っかかった。壁は防壁の為だけではない。目くらましにもなる。交替交替に壁を張っていたので、一人の伏兵が戦線から逃げ出し、回り込んで陣地を狙っていた事を隠し通せた。
 さらに図らずともチャールズが、その目くらましの役に立っていた。全員の攻撃目標がチャールズになった瞬間、パンはネコ科の獣人の特性を生かして素早く、そして密かに敵の陣地を奪っていたのだった。

 また、敵の2チームがウィリアムには目もくれずに陣地を開けていたことをウィリアムが見逃すはずもなく、悠々と陣地を奪っていたのだった。

「あっ・・・ああ・・・・そ、そんなっ!」

 陣地を取られた生徒たちはようやく自分たちがどれほどの愚行を犯していたのか気が付いた。
 これは団体戦だ。しかし、共同戦線ではない。自分たちの陣地を放っておけば他の勢力がかすめ取るのは当然のことだ。そんなことも思いつかなかったのか・・・・。いや、もしかしたらそんなことをさせるひまもなく俺の陣地を取れる自信があったのかもしれない。こいつらにとっての勝利条件は俺の陣地を取ること。その後どうなろうが構わないのだから。

 だが、結果としてはどうだ。こいつらは自分達が役立たず扱いした連中を攻めきれずに敗北したのだ。
 俺は声高々と公開説教をしてやる。

「見たか。そして思い知ったか。
 お前たちは敗れたんだ。お前たちが見下したもの達に、だ!
 本陣の防御も忘れ自分達の感情を制御出来なかった報いだ。
 これが戦場なら死んでいたぞ。
 お前たちが見下した者たちに首を刈りとられて無惨な死体をさらしていた。」

「クソッ」

 敗れた生徒達は口々に無念の言葉を吐いた。それは浅はかな行動をしてしまった自分達への怒りでもあった。
 そして彼らは、自分達が見下した者たちに見送られて訓練場の外に出るという屈辱を味わうのだった。
 勝者の俺の友人たちはそれを悠々と見送った。

 ただ、一人だけ。納得できずに騒ぐアホがいた。チャールズだ。
 一人で突進して早々と敗れて呆然としていたが、他の生徒たちが競技の場から離れる姿を見送りながら、ようやく自分がはめられていたことに気が付いたのだ。
 チャールズは俺の胸倉を掴んで怒鳴った。

「おいっ! お前・・・・おまえ、よくもっ!!
 俺をおとりに使ったなっ! パンを敵陣に送るために敵の目をくらませるために俺が突撃するのを見捨てたっ! いやっ、俺を激昂げきこうさせて突撃するように仕向けたんだろうっ!! 」

 俺はせせら笑いながら答えてやる。

「へぇ。よく気が付いたな。アホのくせに賢いじゃないか。だが、お前はやっぱりバカだな。
 いいか。お前が一人で特攻をしかけたときに見殺しにし、利用したのは事実だ。
 だが、俺はお前に共に戦うチャンスをやったぞ。だが、お前は自分の意思で俺達と決別したんだ。
 敗北する事よりも俺に従わないプライドを優先したんだ。そして自分勝手に振舞い、自滅したんだ。
 お前はその時すでに俺達の仲間じゃない。守る義理が何処にある?」

「うっ・・・・お、おのれ~~~っ!」

 言い負かされてどうしようもなくなったチャールズはついに実力行使に出た。胸倉を掴んでいた手を放して俺に殴りかかってきた。
 愚かなことだ。
 俺はその拳を掴むと一本背負いに投げ飛ばす。
 急に天地がひっくり返る景色を見たチャールズは「うわあああ」と悲鳴を上げた。
「よっ・・・と」
 チャールズが地面にたたきつけられる寸前。俺はチャールズの腕と奥襟を掴んで引き上げてやり着地の衝撃からその体を守る。チャールズは既に試合に敗北している。これ以上傷つける必要はない。
 
 一方、かなりのダメージがあることを覚悟していたチャールズは自分が無傷なことに驚き、そしてなぜ自分が助けられたのか理解できずに困惑していた。
「う・・・あ? な、何故?」
「チャールズ。これでわかったろう。お前は本当は優秀だよ。身体能力に優れ、強者を恐れずに向かっていく勇敢さももっている。
 だが、お前は冷静さと仲間を思いやる優しさに欠けていた。だから敗れたんだ。
 お前が敗れた理由は俺じゃない。お前のその性格がお前を無能たらしめている。慢心まんしんを捨て自分と他人を見ろ。」
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