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第三十八話 休日
「お疲れ様でした。美野里様、剣一様。
大丈夫ですか? お水をお持ちしました・・・・あら?」
不意に魔法訓練場にアビゲイル先生が入ってきた。苦しい訓練を終えた美野里を心配して、美野里が休んでいる間に外に出て水を持ってきてくれたのだ。
しかし、その時。何故か、俺の顔と美野里の顔が抱き合う形で接近していた。それに驚きの声を上げたのだ。
『あら?』と言う声に我に返った俺は可愛い美野里の顔がいつの間にか接近していたことに気が付き、慌てて離れた。美野里の方もアビゲイル先生の声に反応して目を開けたら、いきなり俺の顔が接近していたので驚いた。
「えっ! なになになに?
な、何で剣一君。え? なになに?」
混乱してなになにしか言わなくなった美野里に慌てて俺が、言い訳をする。
「い、いや。苦しそうな顔してたから、大丈夫かなと思ってのぞき見ただけなんだ!
本当に他意は無い。べ、別にキスしようとしていたわけじゃないぞ! 安心しろ。」
我ながら情けなくなるくらい苦しい言い訳である。が、混乱する美野里は訓練後による酸欠も相まってアッサリ俺の言う事を信じた。
「な、なんだ。目を開けたら目の前に剣一君の顔があったから、てっきりキスしてくれるのかと思って、焦ったよ!
し、心配してくれただけなんだね。ありがとう。」
あ~、良かったぁ。何とか誤魔化せた!
俺は、胸をホッと撫で下ろし、美野里は「何だ、キスじゃなかったんだ・・・・」と何度も何度も呟き状況理解に努めていた。
そんな俺の行動を未だ怪しむアビゲイル先生は、水差しと杯の載ったお盆を俺と美野里の前に置くと俺の顔を覗き見ながら楽しそうに言った。
「あら。お邪魔でしたかしら?
もう少しでしたのにね。」
「じゃ、邪魔って何の話だよ。い、いいから美野里に水を飲ませてやってくださいよ。」
・・・・お邪魔も何も俺は本当に何もしようとはしていなかった。
ただ、美野里の可愛い顔を間近で見ていたら、無意識のうちに美野里の唇に顔が引き寄せられていただけの話だ。
止められなかったら、どうなっていたんだろう。
俺は少し自分が怖くなった。
そんな俺の気持ちを知らない美野里は、酸欠で汗ばみ、紅潮した肌を冷ます為に水を飲んで「大丈夫、落ち着いて。」と、繰り返し呟くだけだった。全く人の気も知らないでいい気なもんだ。
「仲がよろしいのは大変、結構なことです。
ああ、そうですわ。明後日の休日はお二人で町に買い物に行かれてはいかがでしょうか?」
休日。当たり前の話に思えるが、この世界の学校にも俺達のいた世界と同じく休日がある。流石に週休二日とはいかないが、この世界の日曜日にあたる日は学校は休みとなり、学生は街に繰り出したり、一日大人しく寝ていたりするのだと言う。
美野里は疲れ切った顔でアビゲイル先生の話を聞いていたが、「美野里様の私服を剣一様に選んでいただいたらどうでしょうか?」と勧められると突然、目を輝かせて頷いた。
「そ、そうだね! というわけだ、剣一君。明後日はボクの服を買いに行くのを手伝ってはくれないかな?」
美野里は嬉しそうにググッと顔を近づけてお願いしてきた。
「えっ!? 俺? なんで俺?
俺は女の服とか、特にこの世界の流行りの服とかわかんねーから力になれねーと思うけど?」
本心だった。別に面倒くさいとかじゃなく、本心で俺に女の服なんかわからない。だから、やんわりとお断りしようと思ったのだが、美野里が俺の腕を引っ張って珍しく駄々をこねる。
「やだっ!! 剣一君が選んでくれないと嫌だもんっ!!」
いや、『嫌だもん』って・・・・。
普段の口調を忘れるほど狼狽えながら美野里はお願いしてきた。
ならば、仕方がない。男として可愛い美野里のお願いを断るわけにはいかない。
俺が「わかった。じゃぁ、明後日の昼食後に女子寮へ迎えに行くから。」というと、アビゲイル先生は「よかったですわね。美野里様。」と美野里に告げ、俺には「聖女様であらせられる美野里様の私服は我々が決めております。しかし、年頃の子にそれではあまりにも窮屈。どうぞ、2~3着くらいは剣一様が買ってあげてください。」と言うのだった。
そして、魔法操服から一般制服に着替え終わった後には俺達に金貨を3枚づつ手渡してくれた。
「聖女様と勇者様には本来、月に一度、御公務の報酬として大金が支払われます。
しかし、お二人はまだ学生の身。よって、大金をそのまま手渡すことは出来ませんので、今月はこれで済ませてください。残ったお金はお二人の将来のために私が責任をもって貯蓄させていただきますので、ご安心くださいませ。」
などとお年玉を持っていくお母さんのようなことを言いだした。だが、まぁ。アビゲイル先生はお母さんのような真似はしないだろう。信用しよう。
こうして俺と美野里は今ひとつ貨幣価値の分からない金貨3枚を貰って、明後日は服を買いに行くことになった。
翌日の武術の授業時間で俺がウィリアムにその事を話した。
「剣一。お前・・・・・一度断ったってバカかっ!
それで、店の当てはあるのか?」
「ん? そ、そんなに駄目だったか?
まぁ、でも行くとこになってるんだからいいじゃねーか。
しかし、服を買いに行く店に心当たりはない。それでお前に相談してんだよ。いい服屋を教えてくれよ。」
ウィリアムは俺の話を聞くと眉間に指を当てて何かを悩んだ後に俺に尋ねた。
「聞きたいのは服屋だけ・・・・なのか?
おい。まさか、剣一。お前、本気で休日に美野里様と二人で出かけて服だけ買って帰るつもりなのか?」
「いや・・・・まぁ、そのつもりなんだけど・・・・駄目だったか?」
するとウィリアムと一緒に話を聞いていたクラスメイト達が呆れた顔をする。
「うにゃ・・・・美野里様、可哀そうだにゃん。」
「剣一様~~~~。そりゃないっすよ。」
パンとオースティンに混ざって他の者たちも俺に意見してくる。
「剣一様は仮にも勇者様なんですから、男の代表らしくしていただかないと・・・・」
さらに意見は続き、チャールズまで俺に口を出す。
「兄貴、それはいけませんぜ。折角の休日なんだから楽しまないと。」
チャールズは先日の団体戦で心を入れ替えたようで・・・・というか変わりすぎてしまった。翌日には俺のことを兄貴と呼び、慕ってくる。最初は「同級生相手に兄貴は無いだろ。やめろ。」と言ったのだが、チャールズは頑として受け付けなかった。
それこそウィリアムに「貴様っ!! 誰に許しを得て剣一のことを兄貴呼ばわりしているんだっ!」と、ガチで脅されてもチャールズは受け付けなかった。・・・なぜウィリアムの許しを得る必要が?
チャールズの意思は固くウィリアムもついに諦め、チャールズを特別に「兄貴御免」とした。(※兄貴と呼んでもいいですよと免じる事)
いや。なぜウィリアムが俺の呼び名に許可を出すのか・・・・。
話はそれたが、まぁ、なんだ。俺は団体戦で爪弾き者たちを庇って戦ったことをクラスの連中もなんとなく評価してくれたようで、団体戦の後、こんな調子で打ち解けてくる者たちが急に増えてきているわけだ。
さて、俺の休日のプランを聞いて眉間に指を当てて悩んでいたウィリアムは今度は深いため息を長く吐いた後に「今夜、お前の部屋に地図と予定表を書いた紙を持って行ってやるから感謝しろ。」というのだった。
何が何だかわからん。そんなに服を買うだけではいけなかったのだろうか? などと悩む俺の姿を見たウィリアムは呆れたように肩を落としてうなだれて「全くこの朴念仁が。人の気も知らないで・・・・」と途方に暮れるように言うのだった。
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不意に魔法訓練場にアビゲイル先生が入ってきた。苦しい訓練を終えた美野里を心配して、美野里が休んでいる間に外に出て水を持ってきてくれたのだ。
しかし、その時。何故か、俺の顔と美野里の顔が抱き合う形で接近していた。それに驚きの声を上げたのだ。
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「えっ! なになになに?
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「い、いや。苦しそうな顔してたから、大丈夫かなと思ってのぞき見ただけなんだ!
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我ながら情けなくなるくらい苦しい言い訳である。が、混乱する美野里は訓練後による酸欠も相まってアッサリ俺の言う事を信じた。
「な、なんだ。目を開けたら目の前に剣一君の顔があったから、てっきりキスしてくれるのかと思って、焦ったよ!
し、心配してくれただけなんだね。ありがとう。」
あ~、良かったぁ。何とか誤魔化せた!
俺は、胸をホッと撫で下ろし、美野里は「何だ、キスじゃなかったんだ・・・・」と何度も何度も呟き状況理解に努めていた。
そんな俺の行動を未だ怪しむアビゲイル先生は、水差しと杯の載ったお盆を俺と美野里の前に置くと俺の顔を覗き見ながら楽しそうに言った。
「あら。お邪魔でしたかしら?
もう少しでしたのにね。」
「じゃ、邪魔って何の話だよ。い、いいから美野里に水を飲ませてやってくださいよ。」
・・・・お邪魔も何も俺は本当に何もしようとはしていなかった。
ただ、美野里の可愛い顔を間近で見ていたら、無意識のうちに美野里の唇に顔が引き寄せられていただけの話だ。
止められなかったら、どうなっていたんだろう。
俺は少し自分が怖くなった。
そんな俺の気持ちを知らない美野里は、酸欠で汗ばみ、紅潮した肌を冷ます為に水を飲んで「大丈夫、落ち着いて。」と、繰り返し呟くだけだった。全く人の気も知らないでいい気なもんだ。
「仲がよろしいのは大変、結構なことです。
ああ、そうですわ。明後日の休日はお二人で町に買い物に行かれてはいかがでしょうか?」
休日。当たり前の話に思えるが、この世界の学校にも俺達のいた世界と同じく休日がある。流石に週休二日とはいかないが、この世界の日曜日にあたる日は学校は休みとなり、学生は街に繰り出したり、一日大人しく寝ていたりするのだと言う。
美野里は疲れ切った顔でアビゲイル先生の話を聞いていたが、「美野里様の私服を剣一様に選んでいただいたらどうでしょうか?」と勧められると突然、目を輝かせて頷いた。
「そ、そうだね! というわけだ、剣一君。明後日はボクの服を買いに行くのを手伝ってはくれないかな?」
美野里は嬉しそうにググッと顔を近づけてお願いしてきた。
「えっ!? 俺? なんで俺?
俺は女の服とか、特にこの世界の流行りの服とかわかんねーから力になれねーと思うけど?」
本心だった。別に面倒くさいとかじゃなく、本心で俺に女の服なんかわからない。だから、やんわりとお断りしようと思ったのだが、美野里が俺の腕を引っ張って珍しく駄々をこねる。
「やだっ!! 剣一君が選んでくれないと嫌だもんっ!!」
いや、『嫌だもん』って・・・・。
普段の口調を忘れるほど狼狽えながら美野里はお願いしてきた。
ならば、仕方がない。男として可愛い美野里のお願いを断るわけにはいかない。
俺が「わかった。じゃぁ、明後日の昼食後に女子寮へ迎えに行くから。」というと、アビゲイル先生は「よかったですわね。美野里様。」と美野里に告げ、俺には「聖女様であらせられる美野里様の私服は我々が決めております。しかし、年頃の子にそれではあまりにも窮屈。どうぞ、2~3着くらいは剣一様が買ってあげてください。」と言うのだった。
そして、魔法操服から一般制服に着替え終わった後には俺達に金貨を3枚づつ手渡してくれた。
「聖女様と勇者様には本来、月に一度、御公務の報酬として大金が支払われます。
しかし、お二人はまだ学生の身。よって、大金をそのまま手渡すことは出来ませんので、今月はこれで済ませてください。残ったお金はお二人の将来のために私が責任をもって貯蓄させていただきますので、ご安心くださいませ。」
などとお年玉を持っていくお母さんのようなことを言いだした。だが、まぁ。アビゲイル先生はお母さんのような真似はしないだろう。信用しよう。
こうして俺と美野里は今ひとつ貨幣価値の分からない金貨3枚を貰って、明後日は服を買いに行くことになった。
翌日の武術の授業時間で俺がウィリアムにその事を話した。
「剣一。お前・・・・・一度断ったってバカかっ!
それで、店の当てはあるのか?」
「ん? そ、そんなに駄目だったか?
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しかし、服を買いに行く店に心当たりはない。それでお前に相談してんだよ。いい服屋を教えてくれよ。」
ウィリアムは俺の話を聞くと眉間に指を当てて何かを悩んだ後に俺に尋ねた。
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おい。まさか、剣一。お前、本気で休日に美野里様と二人で出かけて服だけ買って帰るつもりなのか?」
「いや・・・・まぁ、そのつもりなんだけど・・・・駄目だったか?」
するとウィリアムと一緒に話を聞いていたクラスメイト達が呆れた顔をする。
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