128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第四十二話 次のステージへ

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 アスモデウス神が俺の夢枕ゆめまくらに立たれて御神託ごしんたくを下さった日から俺は変わった。
 いや、それまでもなまけていたつもりはないが、もはや形振なりふり構っていられなかった。
 今や御神託から3カ月過ぎて俺は大きく成長したのだ。

 魔法授業では無詠唱で一瞬の間も置かずに魔法を発動させ、時間の許す限り鍛え続けた。
 武術の修業ではウィリアムとヘンリー・マクドネル師範とできる限り剣を交えて戦った。
 学校の授業が終わった後も寮に戻れば、兵学の本とこの世界に起きた魔物との戦争歴史本を読み漁った。

 魔法ではアスモデウス神が仰ったとおり「呼吸法が上達した」「無詠唱を獲得した」などと言葉少なく説明することを貫き、アスモデウス神が下さった『工夫』については一切秘密を貫いた。
 俺の魔法の成長速度は異質すぎた。しかし、元々アビゲイル先生に「1000年に一度の天才」と太鼓判を押されていたこともあり、大きな混乱は無く、誰もが「今勇者は別格だ」と期待してくれた。

 魔法の授業では俺に大きく水をあけられる結果となったウィリアムは、その差を埋めるべく、凄まじい執念を見せた。結果として、たった三ヶ月のうちに俺達は国一番の剣士であったヘンリー師範と試合をしても3本に一度は勝てるほど強くなっていたが、その俺に対して10本勝負したら3本しか勝てないほど強くなってしまった。ウィリアムは『100年に一度の天才』という評価にふさわしい成長を見せたのだ。まぁ、これはウィリアムは元々、単純な技の切れは俺の上を上回っていたし、初めての対決の時も俺に対する攻略法を見つけていたことも大きいが。
 さて武器術の話をするなら、神道流は元々、槍に薙刀にと多くの武器術を駆使するが、その全てにおいて俺はウィリアムに水をあけられていた。
 俺が武芸関連で彼に完全に勝てるのは、柔術レスリングと兵学だけになってしまうほどウィリアムは強くなってしまった。

 しかし、俺とウィリアムの頑張りは、他の生徒にも影響を与えたようで、皆もわずか3ヶ月の間に大きく成長していた。
 体が小さく臆病だったパンは、団体戦の活躍を経験したことで自分の才能に自信を持ち、ネコ科の獣人の特性を大きく伸ばして優秀な斥候スカウトになりつつあった。
 幼いころから狩りを趣味としていたオースティンも自分の占星術に関する知識と弓の腕前を大きく伸ばし、パンと同じく偵察狙撃兵レンジャーとしての道を歩み始めていた。

 その成長は目覚ましいほどで多くの教授の注目を集めるところとなった。
 皆、口々に「勇者様はよき相棒たちを得た」と感心するほどに成長したのだった。

 だが、反対に成長できぬ者がいた。ただのクラスメイトの話ではない。
 美野里の話だ。
 伝説的な魔力量を誇る美野里であったが、3か月を過ぎても精霊を取り込むに至っていなかった。勿論、それは美野里が怠けていたとか言う理由ではない。
 魔法のない世界で生まれ育った美野里にとって魔法習得は特別に難しいことだったからだ。しかも、これまでの聖女の中で魔法の存在する異世界から召喚されたものが14人もいたそうだが、その14人ですら魔法のことわりの違うこの世界パノティアでは訓練なしでは清浄の光を発動できなかったという難易度の高さ。
 美野里に罪は無いのだ。

 だが、美野里は俺との成長の差を気にしていた。優しい、とてもいい子なんだ。気にしないわけがない。
 そんな美野里に対してアビゲイル先生やシンディー先生も「剣一様は1000年に一度の天才。比べては精神も体も持ちません。10年かけて修行する覚悟で焦らずに頑張っていきましょう」と励ますのだが、美野里は気を落とす。

「悪いが美野里。俺は天才だ。
 お前、メジャーリーガーになることが約束されているような奴と一緒に野球を練習したとして、ついて行けると思うか? 同じ速度で成長できると思うか?
 お前の頑張りは皆が見ている。お前のことを悪く思う奴なんかいないよ大丈夫だ。」

 俺も落ち込む美野里を度々、励ました。見ていられなかったからだ。
 また、それは俺がアスモデウス神の『工夫』を使っている罪悪感を紛らわせるためでもあったのだろう。俺は無意識のうちに美野里を励ますことが癖になっていた。
 だが、それを功を奏したようで、美野里も俺がアスモデウス神の『工夫』を隠さずに使いだしてから2カ月もすると心の平静さを取り戻した。神の祝福を受けた俺と比較してもどうにもならないことを納得したのかもしれない。
 
「全く、君はズルいチートキャラだね。
 あ~あ。ボクもチートキャラだったはずなんだけどなぁ・・・・」

 美野里は俺との特別授業が始まる時に長い髪をかき上げながら愚痴を言った。
 長い髪。
 美野里は元々、肩まで伸びたボブカットの髪だったが、この3ヶ月は髪を伸ばし続けていたので肩などとうに通り越したセミロングの髪になっていて、より一層、美少女感が増していた。いや、男だけどね。

 そして、美野里の魅力はますます男女問わずとりこにして言った。他の学年の者たちも何とか美野里とのコンタクトが出来ないだろうかと機会をうかがう程であり、まさに学園のマドンナって感じだ。
 しかもこの頃になると美野里もすっかり聖女様が板について来たようで、どうやら俺以外の者と一緒にいるときはすっかり女言葉で話をしているらしい。
 一人称さえ「ボク」ではなく「私」を使用し、いよいよ女らしくなってきた。

 俺としては強制された聖女スタイルではなく美野里の好きなように生きてほしいものなので、俺と二人っきりの時に男言葉であっても、あえて口を挟むような真似はしない。
 ただ、一つ気がかりことは、俺にはもう時間があまり残されていないことだった。
 アスモデウス神の神託によると、魔王イルルヤンカシュが攻勢を仕掛けてくるのは早ければあとひと月ほどのことであり、俺はそれまでに訓練を終わらせておかねばならない。
 さらに俺の魔法は、今やカンスト寸前。こうなれば次にアスモデウス神の指示通り俺は学問所を去ってウルティアの下へ行き、闇魔法を学ばなければいけない。次のステージに進まなくてはいけないタイミングに来ている。
 
 でも学園を去るということはですよ? 俺が美野里と別れるという事ですよ。
 それってつまり、俺の留守中に美野里が異性に狙われる可能性があるってことですよ。困ったもんだ。
 
 そんな悩みも抱えつつ、俺は今日も美野里と魔法の訓練をしていた。
 美野里は俺の魔法が既に学問所の教授クラスになっていることに感心しつつ憧れつつ、そして嫉妬しつつ眺めていたが、ふとした時に尋ねてきた。

「ねぇ。剣一君が魔法に長けている理由の一つに神の祝福を受けたからという説があるのだけれども、それってつまり。ボクにも当てはまるんじゃないかな?
 いや、つまりね。ボクも神の祝福を受けたら魔法が上達するのかなって思う次第なのさ。」

 美野里は、軽い意味で聞いてきたのかもしれないし、実はずっと考えていたのかもしれない。ただ、理には適っている話ではある。

「う~ん。可能性は高いだろうな。
 でも、神の祝福を受けるって言っても、決めるのは神様側だしな。
 それに勇者の特権として神の祝福があるわけだから、聖女のお前が受けられるかどうかは微妙なんじゃね?
 できるのなら、すでにやっているだろうしな。」

「・・・・そのあたりってどうなんだろう? 試してみた前例がないだけで実は可能だったりするのかな?」

 美野里は特に期待している様子もなく、ただ何となく口にしたような感じの口調でそう言った。
 シンディー先生の代わりに俺達の授業を受け持っていたアビゲイル先生は美野里の話を聞いて「うう~ん・・・・。聖女様はすでに聖女様という特権を得ているわけですから、他の神様の祝福を得られる可能性は低いと思って頂いた方が良いですね。」といってやんわりと否定した。
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