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第四十五話 聖女様の脅迫
コリンズ所長の話によるときっかけは先ほどのウィリアムがした質問らしい。あの質問を受けてヘンリー師範も俺とウィリアムの実力に興味を持ったらしい。
ヘンリー師範は言う。
「私は既にあなた達は実戦で十分に通用するレベルにあると思います。いえ、それどころか並の兵士では比べ物にならないほどの実力があるとさえ思っています。
ですが、午前中の授業でお話した通り、実戦と訓練は違います。
アナタたちは十分に強い。しかし、その強さを十分に成長させるために、ここで一度実戦を経験しておくべきかと思いました。実戦を経験していない状態と実戦を経験してからの状態では稽古をするにあたって、より実践的な思考を持てるようになるはずです。一度の実戦は千度の訓練に勝るという言葉もあるほど、実戦経験は兵士を成長させるものなのですから。
そして、私は昼食の時間にコリンズ所長に提案しました。コリンズ所長もこれに同意なされ、他の教授にも相談された上で、この提案を剣一様とウィリアム君にさせていただいた次第です。」
ヘンリー師範の行動力は驚くべきものだった。午前中に受けた質問に対して、半日ほどで学問所全体の総意を得ていたのか。
・・・・いや、恐らくそうではあるまい。
きっと、皆。その事に興味があった。皆、その話題を出す機会を伺っていたのだろう。そうでなければ、これほどの案件が早々に纏まるわけがない。
今勇者の対魔物戦の実力はいかほどか?
パノティアに住む人間にとって興味がないわけがない話だった。
そして、なかでもこの話しにとりわけ関心を持っていそうな女性。氷の魔女シンディー・プレストン先生は、この懸案事項について計画を練っていたそうだ。実戦本意の彼女らしい思考だ。
彼女は言う。
「魔物討伐部隊が前線で生け捕りにした鬼という中型サイズの魔物がいます。おおよそ身の丈、人間の2倍ほどもあります。
これは実戦訓練の一環として生け捕りにされています。
剣一様とウィリアム君には、明日の朝から前線に移動し、これを退治していただきます。
とはいえ、これは訓練。ヘンリー師範や複数の兵士がお二人の生命を保証できるようにお手伝いいたします。だから安心して戦ってきてください。
その後、成果次第では兵士たちと共に実際の戦場に出て戦って頂きます。実戦の厳しさや実戦を経験したからこそ得られる教訓や気付きもあるでしょう。
この訓練が終わったのちは再び学問所に戻り、改めて訓練をしていただきます。きっと、その時は心構えから考え方の全てが一新され、より良い訓練を詰めることになるはずです。」
中々、スパルタ教育だが理にかなっている。俺に異論は何もない。
ただ、わかりましたと返事すると、コリンズ所長が「引率はヘンリー師範とジョーンズ大佐が務めるので、今日はまっすぐに寮に戻って明日に備えて早めに寝てください。」と言ってその場はそこで終りとなった。
「やれやれ。明日か、急な話だな。美野里に挨拶しておかないとな。
なぁ、ウィリアム?」
所長室を出た俺がウィリアムに話しかけると、気のせいだかウィリアムは少し浮かない表情をして「あ、ああ。俺は先に帰るよ。」と、一言俺に告げてフラフラと先に帰ってしまった。
「・・・・なんだ? あいつ。
あの勝気な気性じゃ実戦だからってビビるわけがないし、どうしたんだろう?」
俺はそんなウィリアムの様子が気になったが、今はともかく先に美野里に報告に行かねばならんと思って、魔法訓練所で居残り自主稽古をしている美野里の下へと向かった。
報告を受けた美野里の大反対ぶりは言うに及ばずだったが。
「魔物と本当に殺し合うだって!?
ダメだよっ!! そ、そんなの危ないよっ!
今すぐじゃなくていいじゃないっ! あと五年くらいしっかり鍛えてからの挑戦でいいじゃないかっ!」
美野里は大抗議だ。今すぐやらなくていい、強くなってから実戦をしたらいいというのもある意味、理にかなっている。しかし、それでは遅い。遅すぎるんだ。
アスモデウス神の御神託で俺は知ってしまった。あと半年以内に敵が大攻勢を仕掛けてくることを。ならば俺は悠長な訓練期間など許されないのだ。
しかし、神との話は他人に聞かせてはいけないもの。俺は別の理論で説得することを試みた。
「いいか、美野里。実戦を経験せずに訓練だけを行っていても本当に強くはなれないものだ。
実戦を経験し、その経験を生かして訓練をするのと、実戦を経験せずに訓練だけを繰り返しているのとでは、訓練の成果に大きな差が出るものなんだ。
畳水練って言葉を知っているか? 畳の上で水泳の練習など意味がないだろう?
実戦を経験せず訓練を重ねるのはこれに近い。実戦を知ったうえで訓練を重ねるべきなんだ。」
俺がそう説得すると、美野里は何も言い返せずに行き詰まり、感情をコントロールできなくなったのか顔を真っ赤にし涙をポロポロ溢しながら、俺を睨むように見つめ肩を震せていた。しかし、やがて何かを覚悟を決めたかの表情で俺の手を取ると、いつかのように「ボクと一緒に逃げようっ!」と言い出した。
全く。何を言い出すんだか。
「美野里、未だそんなことを言うのか?
俺達に逃げる場所なんかない。ここを守って生きていくしかないんだ。
それに俺たち二人が逃げたところで、この世界のアダムとエヴァにはなれないんだぜ。」
と、以前と同じことを言った。美野里はあの時、俺の肩を殴って「バカ野郎」と怒鳴ったものだが、今回は違った。
「なれるよっ! ボクは、もう君のエヴァになれるよっ!
だから、逃げようっ!! ねっ!?」
・・・・・こいつは一体何を言い出すのか。
どうも本気で混乱しているらしい。
ここは説得するよりも安心させる方向で考えないとダメだな。
「大丈夫だ。沢山の人が守ってくれることになっていて安全性は確保されているんだから、心配ない。
それに今のうちに強くなっていた方が後々、生き残れる可能性が上がるんだ。これは統計的に正しい。
だから、今やるべきだし、今やっている方が俺は安全なんだよ。」
美野里は実戦のことはわからない。俺にそう言われたら何となくそうなんだろうか? と思ってしまうものだ。
だが、美野里は今度ばかりは、ほんのわずかな疑いも妥協できないらしい。
とんでもないことを言いだしたのだった。
「わかった。じゃぁ、行っても構わないよ。」
「おおっ! そ、そうか。わかってくれたか。」
やっと許可がもらえたとホッとした時だった・・・・・。
「じゃぁ、ボクも一緒に行く。」
・・・・
・・・・・・はい? い、今こいつなんて言った?
「本当に安全が確保されているんだったら、聖女様であるボクが一緒について行っても大丈夫だよね?
だから、どうしても行きたいって言うんだったら、ボクも一緒に連れて行ってくれないと許さないって言っているのだよ。わかるね?」
・・・・・わからん。どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
とにかく、そこからは唇を尖らせて頑として受け入れない美野里はとうとう男子寮までやって来て引率担当のジョーンズ大佐に直談判するのだった。
「ボクが同行しない限り、剣一君を魔物討伐に連れていくことは許さないんだからね。
ボクを連れて行かないというなら、ボクは聖女としての仕事を放棄するんだからね?」
男子寮の入り口門の前で俺より一回り巨体のジョーンズ大佐に向かって仁王立ちして美野里が宣言する。
奥の事務所に詰めていたジョーンズ大佐はいきなり聖女に呼び出されてそんなことを脅迫されて意味が解らないので、とりあえず青筋立てた形相で美野里の隣にいる俺を睨みながら「剣一様・・・・?」と静かに尋ねるのだった。
いや、知らんがな。俺のせいじゃない。
ヘンリー師範は言う。
「私は既にあなた達は実戦で十分に通用するレベルにあると思います。いえ、それどころか並の兵士では比べ物にならないほどの実力があるとさえ思っています。
ですが、午前中の授業でお話した通り、実戦と訓練は違います。
アナタたちは十分に強い。しかし、その強さを十分に成長させるために、ここで一度実戦を経験しておくべきかと思いました。実戦を経験していない状態と実戦を経験してからの状態では稽古をするにあたって、より実践的な思考を持てるようになるはずです。一度の実戦は千度の訓練に勝るという言葉もあるほど、実戦経験は兵士を成長させるものなのですから。
そして、私は昼食の時間にコリンズ所長に提案しました。コリンズ所長もこれに同意なされ、他の教授にも相談された上で、この提案を剣一様とウィリアム君にさせていただいた次第です。」
ヘンリー師範の行動力は驚くべきものだった。午前中に受けた質問に対して、半日ほどで学問所全体の総意を得ていたのか。
・・・・いや、恐らくそうではあるまい。
きっと、皆。その事に興味があった。皆、その話題を出す機会を伺っていたのだろう。そうでなければ、これほどの案件が早々に纏まるわけがない。
今勇者の対魔物戦の実力はいかほどか?
パノティアに住む人間にとって興味がないわけがない話だった。
そして、なかでもこの話しにとりわけ関心を持っていそうな女性。氷の魔女シンディー・プレストン先生は、この懸案事項について計画を練っていたそうだ。実戦本意の彼女らしい思考だ。
彼女は言う。
「魔物討伐部隊が前線で生け捕りにした鬼という中型サイズの魔物がいます。おおよそ身の丈、人間の2倍ほどもあります。
これは実戦訓練の一環として生け捕りにされています。
剣一様とウィリアム君には、明日の朝から前線に移動し、これを退治していただきます。
とはいえ、これは訓練。ヘンリー師範や複数の兵士がお二人の生命を保証できるようにお手伝いいたします。だから安心して戦ってきてください。
その後、成果次第では兵士たちと共に実際の戦場に出て戦って頂きます。実戦の厳しさや実戦を経験したからこそ得られる教訓や気付きもあるでしょう。
この訓練が終わったのちは再び学問所に戻り、改めて訓練をしていただきます。きっと、その時は心構えから考え方の全てが一新され、より良い訓練を詰めることになるはずです。」
中々、スパルタ教育だが理にかなっている。俺に異論は何もない。
ただ、わかりましたと返事すると、コリンズ所長が「引率はヘンリー師範とジョーンズ大佐が務めるので、今日はまっすぐに寮に戻って明日に備えて早めに寝てください。」と言ってその場はそこで終りとなった。
「やれやれ。明日か、急な話だな。美野里に挨拶しておかないとな。
なぁ、ウィリアム?」
所長室を出た俺がウィリアムに話しかけると、気のせいだかウィリアムは少し浮かない表情をして「あ、ああ。俺は先に帰るよ。」と、一言俺に告げてフラフラと先に帰ってしまった。
「・・・・なんだ? あいつ。
あの勝気な気性じゃ実戦だからってビビるわけがないし、どうしたんだろう?」
俺はそんなウィリアムの様子が気になったが、今はともかく先に美野里に報告に行かねばならんと思って、魔法訓練所で居残り自主稽古をしている美野里の下へと向かった。
報告を受けた美野里の大反対ぶりは言うに及ばずだったが。
「魔物と本当に殺し合うだって!?
ダメだよっ!! そ、そんなの危ないよっ!
今すぐじゃなくていいじゃないっ! あと五年くらいしっかり鍛えてからの挑戦でいいじゃないかっ!」
美野里は大抗議だ。今すぐやらなくていい、強くなってから実戦をしたらいいというのもある意味、理にかなっている。しかし、それでは遅い。遅すぎるんだ。
アスモデウス神の御神託で俺は知ってしまった。あと半年以内に敵が大攻勢を仕掛けてくることを。ならば俺は悠長な訓練期間など許されないのだ。
しかし、神との話は他人に聞かせてはいけないもの。俺は別の理論で説得することを試みた。
「いいか、美野里。実戦を経験せずに訓練だけを行っていても本当に強くはなれないものだ。
実戦を経験し、その経験を生かして訓練をするのと、実戦を経験せずに訓練だけを繰り返しているのとでは、訓練の成果に大きな差が出るものなんだ。
畳水練って言葉を知っているか? 畳の上で水泳の練習など意味がないだろう?
実戦を経験せず訓練を重ねるのはこれに近い。実戦を知ったうえで訓練を重ねるべきなんだ。」
俺がそう説得すると、美野里は何も言い返せずに行き詰まり、感情をコントロールできなくなったのか顔を真っ赤にし涙をポロポロ溢しながら、俺を睨むように見つめ肩を震せていた。しかし、やがて何かを覚悟を決めたかの表情で俺の手を取ると、いつかのように「ボクと一緒に逃げようっ!」と言い出した。
全く。何を言い出すんだか。
「美野里、未だそんなことを言うのか?
俺達に逃げる場所なんかない。ここを守って生きていくしかないんだ。
それに俺たち二人が逃げたところで、この世界のアダムとエヴァにはなれないんだぜ。」
と、以前と同じことを言った。美野里はあの時、俺の肩を殴って「バカ野郎」と怒鳴ったものだが、今回は違った。
「なれるよっ! ボクは、もう君のエヴァになれるよっ!
だから、逃げようっ!! ねっ!?」
・・・・・こいつは一体何を言い出すのか。
どうも本気で混乱しているらしい。
ここは説得するよりも安心させる方向で考えないとダメだな。
「大丈夫だ。沢山の人が守ってくれることになっていて安全性は確保されているんだから、心配ない。
それに今のうちに強くなっていた方が後々、生き残れる可能性が上がるんだ。これは統計的に正しい。
だから、今やるべきだし、今やっている方が俺は安全なんだよ。」
美野里は実戦のことはわからない。俺にそう言われたら何となくそうなんだろうか? と思ってしまうものだ。
だが、美野里は今度ばかりは、ほんのわずかな疑いも妥協できないらしい。
とんでもないことを言いだしたのだった。
「わかった。じゃぁ、行っても構わないよ。」
「おおっ! そ、そうか。わかってくれたか。」
やっと許可がもらえたとホッとした時だった・・・・・。
「じゃぁ、ボクも一緒に行く。」
・・・・
・・・・・・はい? い、今こいつなんて言った?
「本当に安全が確保されているんだったら、聖女様であるボクが一緒について行っても大丈夫だよね?
だから、どうしても行きたいって言うんだったら、ボクも一緒に連れて行ってくれないと許さないって言っているのだよ。わかるね?」
・・・・・わからん。どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
とにかく、そこからは唇を尖らせて頑として受け入れない美野里はとうとう男子寮までやって来て引率担当のジョーンズ大佐に直談判するのだった。
「ボクが同行しない限り、剣一君を魔物討伐に連れていくことは許さないんだからね。
ボクを連れて行かないというなら、ボクは聖女としての仕事を放棄するんだからね?」
男子寮の入り口門の前で俺より一回り巨体のジョーンズ大佐に向かって仁王立ちして美野里が宣言する。
奥の事務所に詰めていたジョーンズ大佐はいきなり聖女に呼び出されてそんなことを脅迫されて意味が解らないので、とりあえず青筋立てた形相で美野里の隣にいる俺を睨みながら「剣一様・・・・?」と静かに尋ねるのだった。
いや、知らんがな。俺のせいじゃない。
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