128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第四十六話 兄貴

「剣一様・・・? もしかして私がヒマだと思っておられる?
 これでも大佐階級。私の仕事はこの学生寮の管理だけとお思いですか? 私はこれでも4000人の部下を配下に持っていて、基地からは逐次ちくじ、報告が回って来て諸事の指示をしております。また、私事わたくしごとでは御座いますが、当家の支配領地の政務の報告も受け、それに応じた職務もせねばなりません。
 わかりますか? ハッキリ申し上げて私は学生の色恋に付き合っていられるような立場ではないのです。
 おままごとは、ヒマな人間を見つけてどうぞ。」

 根っからの真面目人間。THE 軍人。
 ジョーンズ大佐は勇者や聖女相手に対しても規律を遵守じゅんしゅし、美野里の脅しを全く受け付けない様子で俺達に対して綺麗な『後ろ向け 後ろ』を披露するかのようにクルリと回って背を向けると軍靴ぐんかをカツカツと鳴らして立ち去っていく。

 相手の立場に屈せず自分の職務を粛々しゅくしゅくと貫こうとするその姿勢に俺はちょっと憧れる。
(カッコいいなぁ・・・・)と、思わずにはいられない。ほんの少しだけヤンチャ気質な俺には絶対になれない姿であるからこそ、カッコいいと思ってしまうのだろう。
 
 だが、天下無敵の姫男子。みんな大好き聖女様の美野里にはこの男の美学がわからないらしく。

「本気なんだからっ!
 明日はボクが男子寮に来るまで出発したらダメなんだからねっ!!」

 と、ジョーンズ大佐の背中に向かって叫ぶ。
 
 こいつ、無敵か? と、俺は呆れずにはいられないが、美野里は本気のようである。
 今度は俺の方を向いて俺の胸に掌を当てると、猫のように大きな目をうるませながら俺を見つめながら

「絶対に、絶対に一人ではいかないでくれたまえよ。
 ・・・・・ボクを一人にしないで・・・・・」

 なんて男殺しのセリフを言ってきた。
 こんなことを言われて断れる男なんか存在するわけもない。俺はその可愛い顔を直視できずに力無く「お・・・・おお。」と返事するしかなかった。

「絶対に、絶対なんだからねっ!!」

 スカートをひるがえしながら、何度も何度も振り向きながら俺にそう言って女子寮へ帰っていくその可愛い後姿から俺は目を離せずにいた。

(あいつ・・・・やっぱり、この3か月のうちにエロいケツの形になってるよな・・・・)

 可愛いお尻をクネクネ振って歩き去るその後ろ姿から目を離せずにいた。
 まったく、どうかしてるぜ。男相手にさ・・・・・。
 あいつもあいつで聖女様が板につき過ぎてちょっとおかしくなっているよな。自分が俺のエヴァになれるなんて・・・・。
 そんな物思いにふけりながら美野里の後姿をいつまでも見送っていた。


 門を越えて寮の玄関ドアを開けて中に入ると、ジョーンズ大佐が仁王立ちで俺を睨んでいた。
 さすがに仕事の邪魔をしたことは申し訳なく思った。それと、それを俺がやった事のように誤解されたら困るので
先に「仕事の邪魔をしてすいません。でも俺は何も言ってませんよ。美野里が勝手に・・・・」と、俺が言おうと思った時だった。ジョーンズ大佐のほうが先に口を開いた。

「今のは本気ですか?」
 ジョーンズ大佐はいつも怖い顔をしているので表情からは何を考えているのか読み取れない。ただ、質問にはちゃんと答えないといけない。

「ええ、恐らく。あいつはあれで意志が固いんです。
 まったく、魔法も武術も使えないあいつが来たってしょうがないんですけどね。」

「・・・・・・そうですか。わかりました。
 明日は美野里様も同行してもらいます。どうやら、こちらもお荷物を連れて行かないといけなくなったようですので・・・・」

 意外にもジョーンズ大佐は簡単に折れた。しかし、その理由はどうやら美野里のせいではないらしく、ジョーンズ大佐のいう「お荷物」が原因のようだが、お荷物とは一体何のことだろうか?
 まぁ、いいさ。
 明日は早いんだ。今日はさっさとマズい飯を食って寝るに限る。 
 そう思って俺は今日は早々に眠ることにした。




 その夜中、草木も眠るうし三つ時。寝つきが浅い事もあって、軽い雑音で俺は目を覚ました。(※丑三つ時とは午前2~3時の事。)
 コツコツとかなり小さなノック音だったが、それは風や人がトイレに起きて歩く音でもないことは間違いない。
 明らかに俺の部屋のドアをノックする音だった。

「誰だ・・・?」

 ドアを開ける前に他の寮生に迷惑をかけないように出来るだけ小さな声で確認を取ると、蚊の鳴きそうな小さな声が「・・・・・俺だ」と答えた。
 

「ウィリアムっ!? ど、どうしたんだ? 
 こんな夜中に?」

 意外な訪問者だった。規律正しいウィリアムがルールを破って夜中に俺の部屋に来るなんてことは入寮してから一度もなかった。俺が慌ててドアを開けると、ウィリアムの方も慌てて「し~~」っと言いながら、俺を押しのけるようにしながら部屋の中に入って来た。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 ウィリアムは俺の部屋に入ると、うつむいて一言も話さない。自分がどうしてこんな夜中に俺の部屋に入ってきたのか、その説明さえせずに黙りこくってしまったのだ。
 俺はその様子から何か深い事情があることを察し、とりあえず落ち着かせるために「まぁ、座れよ」といって、ベッドに腰を掛けると、ウィリアムも素直に従った。

「・・・・どうしたんだ?」

 俺がそう尋ねると、ウィリアムは俺の顔を驚いたようにまじまじと見つめると、何故か呆れたようにため息をつき、「そういや、お前はそう言う奴だったな。」と言って小さく笑った。

「・・・・・・」

 それからしばらくまた黙っていたが、ついに重い口を開いて、自分がどうして夜中に俺の部屋に入ってきたのか話し始めるのだった。

「・・・・・剣一。お前は怖くはないのか? 何故だ?
 相手はオーガなんだぞ?
 俺は正直、怖いよ。普通は初陣の相手は小者のゴブリンやマタンゴって相場が決まっている。それなのに俺達は中堅以上の騎士じゃないと勝てないと言われているオーガを初戦の相手にさせられたんだぞ?
 何故、怖くないんだ?
 頭がおかしいのか?」

 ウィリアムは俺の想像していないことを口にした。あの勝気なウィリアムが怯えていたんだ。魔物を。
 そういえば、学校でも別れ際のウィリアムの様子がおかしかった。その理由を俺は今更思い知った。

「そういわれてもな。俺はオーガに会ったことはない。どんな奴かも知らんのだから、怖がる理由がないよ。」

 そう。俺は自分で口にして、そこでウィリアムが恐れている理由が分かった。
 俺は知らない。ウィリアムはオーガの恐ろしさを知っている。その違いが二人の状況を変えているんだ。
 ウィリアムもその事に気が付いたらしく、クスッと笑った。

「・・・・そっか、それは羨ましい話だ。
 じゃぁ、知らないままの方が良い。出会うまであいつの恐ろしさを知らない方が良い。その方が安心して眠れるってもんだ。」

 そう言って笑うウィリアムだったが、その両肩がかすかに震えていた。
 ウィリアムは決して臆病な男ではない。それどころか勇敢だ。勇敢で賢い。だから、恐ろしいのだろう。
 賢すぎるからオーガに油断しない。最悪の状況を簡単に想像できてしまう。
 
 俺は、異世界で生まれた自分の幸運に感謝すると、震えるウィリアムの肩を抱いてやった。

「武者震いだ。そうだろう?
 俺が知っているウィリアムは怯えたりしない。」

 その一言の何がきっかけだったのかわからないが、ウィリアムは泣き出してしまった。俺はその涙を見ないようにウィリアムの頭を撫でてやりながら、
「今日はもう寝ろ。明日からお前は戦えるだろう?
 ほら、一緒に寝てやるから」と言って慰める。

「・・・うん。うん・・・・・わかった。
 でも、剣一・・・・」

 ウィリアムは泣きながら俺に「わ、笑うなよ。今夜だけは兄貴って呼んでいいか?」と不安そうに尋ねて来た。
 しっかりしているが、ウィリアムは俺と同じまだ少年でキンメリア王国の第三皇子だ。きっと不安になって兄貴たちが恋しくなったんだろう。
 俺は初めてこの世界に来た夜、美野里と二人して抱き合って泣いたことを思い出していた。


 全く、同級生二人から兄貴呼ばわりされる覚えはないだけどな。

「ああ。今夜だけだぜ。」

 俺はそういってウィリアムをベッドに寝かしつけるのだった・・・・・。 
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