128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第四十八話 蟲毒

オーガが捕獲されている前線基地まで10日の道のりだった。その旅路の中で仲間内で色々話したり、旅行中でも武術と魔法の訓練を俺達は欠かさなかった。
 問題があるとすれば美野里だった。旅立ち前からどうもおかしい。思えばジョーンズ大佐に向かって脅迫めいたことを言ったあたりから美野里はおかしかったかもしれない。この数日は自制できないというか、情緒不安定と言うか・・・・・、とにかくほんの少しのことで怒ったり、泣いたりする日が2,3日、続いたかと思えば目的地に近づくころには、普通の美野里に戻っていたから、わけが分からない。
 ある日なんかは「お腹が痛い」とか言ってふさぎ込んでいるから、「どうした? 大丈夫か?」と近づいただけで「うるさいよ。向こうへ行って!!」と吠えたかと思うと、俺を見ながら情けない顔してボロボロ泣き出して・・・・。本当に俺はどうしたらいいのかわからない。

 それなのに旅が終わるころには、いつもの美野里に戻るという不可解さ。俺はまるでサイコホラーの映画の主人公になったみたいだ。
 そんな旅路の末、最後の丘を越えて見える景色は、そこがこの世とあの世の境だと思えるほど恐ろしいものだった。
 先ず、何よりも空の色が違う。晴天の昼間であるにも関わらず、どんよりと暗い青紫色の雲が前線基地周辺に立ち込めていた。

 大きな川を掘りのように使う基地の城壁は横に長く伸び、まるで万里の長城のようだが、その強い壁をもってさえも不安に思えてしまう光景だった。

「うなぁ~~・・・」

 その光景を見てパンが怯えた声を上げている。ウィリアムはじめ他の連中の顔つきも緊張感を増してきた。その表情を見ていると俺にも緊張感が映ってきたのか、美野里が不安そうに俺の顔を見ていた。

「大丈夫さ。俺は負けねぇよ。」

 そう言って力強くガッツポーズを見せると、美野里はいくらかはホッとした表情を見せたが、それでも緊張感は消えることがなく、俺達を載せた馬車は前線基地に入っていくのだった。
 3重の城門を超えて基地の内部に入ると、そこには荒んだ目をした男たちが沢山いた。訓練をする者、休憩を取る者。敵を警戒して城壁から外部を監視する者。色々な男たちがいたが、誰一人として緊張感を絶やす者はいなかった。

(これが戦場の緊張感か。)
 俺がそんなことを感心していると、馬車が止まり目的の場所に着いたことを知らせた。

「剣一様。前線基地の本丸に到着しました。これから下車して司令官であるウェストン・グロスター侯爵とお会いしていただきます。」

 ジョーンズ大佐に促されて馬車から降りると、そこへ懐かしい声が聞こえて来た。

「剣一様っ!!」

「ハカじゃないかっ!! あなたはここで戦っていたのかっ!」

 ふりむくと、そこには俺に勇者適性があるかどうか推し量るために真剣を持って戦いあったリザードマンの戦士ハカ軍曹がいた。
 嬉しい再会に俺と美野里は喜んで出迎えの挨拶を受け入れた。

「お二人とも、こんな危険な場所までよく来られましたね。しかも早馬でのご報告は先に聞き及んでいますよ。学生二人でオーガと戦うそうですね。本当に勇敢です。」

「そうか。前線基地には早馬で既に連絡がとどいていた・・・・まぁ、そりゃそうか。いきなりこられても準備が大変だもんな。」

「ええ。ここからは私が侯爵の所へご案内いたします。」

 ハカはそう言うとジョーンズ大佐に敬礼をし、説明した。

「ようこそいらっしゃいました。大佐。
 お疲れのところ申し訳ありませんが、今すぐにウェストン侯爵の所へご案内しなくてはいけません。必要な人数のみ私と共に来てください。他の方々は別の者がご宿泊なされます宿舎にご案内いたしますので、よろしくお願いします。」

 ジョーンズ大佐はハカに向かって敬礼を返すと、誰と誰が侯爵の所へ行くか指示を出す。
「ご苦労軍曹。それでは剣一様とご学友に淑女のお二人は私と一緒に。」
 
 言われて俺達はハカとジョーンズ大佐の背中を追うようにして後に続いて歩いた。
 基地の最後部。ひときわ大きく高いレンガ造りの館が司令部だった。中に入ると位の高そうな服を着た男達や屈強そうな男たちがウロウロと歩き回っていた。

 ハカはそんな男たちに目もくれずにただまっすぐに俺達をウェストン侯爵の控える作戦本部に連れて行く。石造りの階段を4階上がった奥の間にウェストン侯爵はいた。ひときわデカい重厚な扉を押し上げると、巨大な窓から外の光が差し込んでくるのだった。

「侯爵閣下。勇者様御一行をご案内いたしました。」

 ハカがそう言って声をかけた方向を見ると、ハカよりも一回り背が高くぶ厚い筋肉に覆われた巨漢のリザードマンが立っていた。

「久しぶりだな、ジョーンズ。子供を連れてこんなところまで物見遊山ものみゆさんとは良いご身分だ。」

 ウェストン侯爵と思しきリザードマンは歯にもの着せぬ物言いで、俺達がここに来たことを面倒くさがるかのように言い放った。そして次に俺の方を睨むと、手招きして窓の外を見るようにジェスチュアするのだった。

「要件があるなら、口で言ったらどうですか?」

 俺はそんな憎まれ口を言いながらもウェストン侯爵の望む通りに窓の外を見た。


「・・・・・な、なんだ。これはっ!!」

 窓の外の景色を見た瞬間、俺は我が目を疑った。信じられないものを見たからだ。
 城壁には敵を矢で狙う撃てる狭間と呼ばれる小窓が作ってあるものだが、それが部屋の窓の位置と連絡してあるいちにあったので、室内から城壁の向こうが見えたのだ。
 そこには、大勢のモンスターが群がっているのがみえた。それも100や200ではない。恐らく千近くいるだろうモンスターたちがいたのだ。
 そして、そいつらはただ、そこにいるわけじゃなかった。

 
 殺しあっていた。共食いをしていたんだ。


 その異様な光景を見せながらウェストン侯爵は城壁の外で何が起きているのか俺に説明する。
「・・・・・あいつらが何をしているかわかるか?
 鍛えているんだよ。」

「鍛える? あの共食いで?」

 意外な説明を聞いた俺がオウム返しに聞き返すとウェストン侯爵は忌々いまいましそうに答えた。

「そうだ。ああやって殺しあって弱いものは淘汰とうたされ、より強い個体だけが生き残る。
 そうやって種族を鍛えているんだ。まぁ、単純に食糧難という見方もできるかもしれんが、俺にはとてもそんな単純な話とは思えん。
 見ろ、あいつらの目を。狂ってるが、その眼の中には何か強い意志を感じる。」

「ええ・・・・。まるで蟲毒こどくだ。」

 異様な光景に圧倒されながらも無意識のうちに俺がそう相槌あいづちを打つと、今度はウェストン侯爵が怪訝な表情で「蟲毒?」と聞き返す。

「俺が以前いた世界の呪法ですよ。俺も実際に見たことがあるわけじゃありませんが、それはこういう呪法です。
 一つの亀の中に数種類の毒虫を閉じ込めて共食いをさせる。
 残酷な話ですが、その共食いを生き残った毒虫には強い怨念と魔力が宿る。その力を呪法に役立てようって方法なのですが、なんだか俺には今の光景がただの共食いではなくて、なにかそれに近い禍々しさを感じるんですよ・・・・。」

 ウェストン侯爵は俺の話を興味深そうに聞いて「蟲毒・・・・なるほど、確かに・・・・」と納得すると、「そうだとするとやはりマズいな。これは。」と言って目を細めて歯ぎしりをした。
 そして次に警告した。

オーガを倒しに来たんだな? 長旅の所を気の毒だがな、今すぐに戦ってもらうぞ。あの光景はお前たちが近づいて来た数日前から急に始まったんだ。これが偶然だとはとても思えん。
 嫌な予感がする。
 俺はこの基地を守る司令官として今の状況をとても楽観視は出来ん。さっさと鬼を倒して出ていけ。」

 ウェストン侯爵はそこまで説明するとジョーンズ大佐に向かって「そういうわけだから、今すぐに討伐してもらうぞ。基地の中にあいつをいつまでものさばらせておくわけにもいかんのだ。」と命令する。ジョーンズ大佐は敬礼すると「はっ! 了解。」と短めの返事をする。

 こうして到着早々、荷物のひもをほどく間もなく俺とウィリアムは鬼と戦うことになった。
 あのウィリアムが恐れたオーガと・・・・・。
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