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第四十九話 鬼の王
前線基地に到着して休む間もなく、俺とウィリアムは鬼と戦うことになった。
基地内の広場に出され、装備を整えて鬼が出てくるのを待った。ちなみに美野里は、どうせ抗議し邪魔するだろうからと俺が言ってこの戦闘を見る事を禁止させ、アビゲイルの監視の下、宿舎に閉じ込められている。
さて、俺達の装備はといえば西洋的な鉄兜に鎖帷子。その上に急所を鉄板で覆っただけの厚手の服を身にまとうもの。この厚手の服こそがRPGに登場する「旅人の服」と呼ばれる鎧に近い存在だと知った。服などというから、もっとチンケなものだと想像していたけれども、実際はナイフ位では簡単に傷つかない鎧として立派に機能する。それが盗賊などに襲われる可能性があった旅人の服なのだ。
とはいえ、服は服だ。さすがに「こんな薄い装甲で大丈夫かな?」と、ウィリアムに尋ねてしまう。
ウィリアムはガタガタと肩を震わせながら答えた。
「だ、大丈夫だ。むしろ魔物と肉弾戦になったら重装備は意味がない。鎧なんか直ぐに破壊されるんだ。だったら軽装にしておかないとスピードが犠牲になる。そっちのほうが問題だ。
いいか。剣一、こ・・これが・・・・・今のこのチンケな装備の方が安全なんだよっ!」
ウィリアムは自分に言い聞かせるかのように言う。怯えているんだ。
俺は傍目に見てもそれがわかるウィリアムの胸を拳で小突きながら、力強く語り掛けてやった。
「武者震いだ。そうだろう?
俺とお前が戦うんだ。絶対に負けはしない。俺が指示を出す。絶対に負けない。わかるな?」
俺に真っすぐに見つめられたウィリアムは安心したのか、怯えて瞳孔が開いていた目に力が戻り、表情が一気に引き締まった。
「当然だ。お前を信じているぞ、剣一。」
その時だった。ウィリアムがそう答えるのを待っていたかのように魔法で作られた鎖に束縛された巨大な人型の鬼が広場に連れ出されてきた。
身の丈、凡そ3.5メートル。体重も1トン以上はあるだろう。とんでもなくデカい存在が出て来た。
そのときになって俺は初めてウィリアムの気持ちが分かった。まるでインド象と戦うようなものだったからだ。
「お、鬼どころか、鬼王じゃないかっ!
こ、こんなものと戦えっていうのかっ!」
その姿を見たウィリアムは恐怖しながら猛抗議した。
「なんだ? 普通の鬼とは違うのか?」
俺の質問にウィリアムは苛立って答えた。
「何言っているんだ、あれはオーガロードだよっ!! 鬼族を束ねるボスだよ。
鬼は群れで行動する習性があって、その一族の中でとりわけ大きく強い者がオーガロードに選ばれる。
あいつは屈強な鬼の中でも最強の戦士ってわけだよっ!
は、話が違うじゃないかっ」
ウィリアムはウェストン侯爵に向かって抗議した。みると観覧席にいたジョーンズ大佐もウェストン侯爵に何か慌てた様子で抗議をしていた。
どうやらそれほどの逸材らしい。それはそうだろう。観察すれば只者じゃないことも分かる。
その青緑の肌は分厚く、本当に剣が通るのか不安になるくらい堅そうだ。
筋骨隆々な姿から、確かに動きが鈍くなる重装備は逆に不利になることを悟らされる。
鋭い眼光と体中に負った刀傷の多さから、戦闘経験豊富な化け物だとわかる。
しかし、戦闘に際して怯えていたら簡単に殺されかねない。
俺も正直言って生きた心地がしないほど恐ろしい。
だから、逆に殺してやる。
そう覚悟を決めると不思議と精神は落ち着いてきた・・・・・。いや、それどころか過去の俺が蘇ってくるのを感じた。
体の内部から沸々と湧き出す溶岩のように敵を焼き殺さんとする意志。殺気があふれ出すのを感じるのだった。
「なんと禍々しい殺気。」
「噂にたがわぬ狂気だ。」
「邪神アスモデウスの申し子だ。イカレている・・・・。」
見物兼何かあった時に俺達を守る役目を負わされている兵士たちが俺の殺気に驚き、思わず声を上げた。俺の様子の変化を初めて見るジョーンズ大佐もウェストン侯爵も眉をひそめている。
だが、一人。実際に俺と殺しあったハカだけがそんな俺の正気を保証してくれる。
「大丈夫です。剣一様の殺気は確かに禍々しいですが、誰よりも優しい。
剣一様を殺そうとしたのに命乞いをしてアッサリと許された私が言うのですから、間違いありませんよ。」
少しおどけた様子でそう言ってくれた。途端にその場にいた者たちから笑い声が起きた。
その笑い声に緊張感がとけたのか、ウェストン侯爵が戦闘を開始しても良いかと俺に尋ねて来た。
「その様子だと戦闘の心づもりは万端の様だが、鬼の拘束を解き、戦闘を開始しても良いかね?」
俺は鬼をじっと見つめ、ある不満点に気が付き、指摘する。
「その鬼は素手で戦うのか? 武器を持って戦わない生き物なのか?
そうでないなら何か武器を与えてください。」
俺の提案を聞いたウィリアムが血相を変える。
「正気か? 鬼は拳で殴るだけで馬一頭くらい簡単に殺せるんだぞっ!
その上で武器なんか持たせてどうするつもりだっ!」
俺は答える。
「ウィリアム。俺達はイノシシを狩りに来たんじゃないんだぞ。
これは初陣だ。リアルな戦闘じゃないと意味がない。お膳立てされては甚だ迷惑。
この程度の敵に生き残れないような奴がなんで魔王と戦う勇者になれよう。」
「・・・うっ!」
俺に生ぬるい戦闘の無意味さを指摘されたウィリアムは、返事に窮して何も言えない。そして、そんな俺達の様子から覚悟が決まっていると感じたウェストン侯爵は戦闘開始と共に鬼王に棍棒を与えると約束してくれた。
「それでは、戦闘を開始する。魔法の拘束を解けっ!!」
ウェストン侯爵が号令をかけると兵士たちは鬼王を束縛していた魔法を解いた。自由になった鬼王は一瞬、驚いた表情を見せたが、自分の前に棍棒を投げ渡されると同時に10メートルほど離れた位置にいる俺達が抜剣したのを見て状況を察したのか、「ぐふふふ」と不気味な声を上げて嬉しそうに棍棒を手に取った。
鬼王の戦闘準備が整ったのを確認すると、俺はすぐにウィリアムに指示を出す。
「攪乱するっ!
俺が正面から突撃して敵の注意を惹きつけるから、お前は右回りに背後を取れ。行くぞっ!」
「応っ!」
俺が声掛けすると、先ほどまで怯えていたはずのウィリアムは力強く返事した。さすがだ。一瞬で戦士の顔になった。これは気の強さからくる豹変ではない。雄の本能というものでもない。戦士としての本能だ。
戦わねば生き残れない。そういった覚悟が生まれつき魂に刻まれている生粋の戦士だけが持ち合わせている戦闘覚悟なのだ。
それでこそ我が永遠のライバルだ。
俺は友の豹変ぶりを頼もしく思いつつ、鬼王に向かって突撃する。
とは言え、俺は鬼王の身体能力がどれほど高いか知る由もない。むやみに突撃するのは流石に無謀過ぎる。
そこでまずは手にした長剣ではなく、腰に差した小太刀を抜き取ると敵の間合いに入る前に投げ放つ。
我が神道虎臥妙見流は二刀流や手裏剣術も内包する。一般的なイメージとして二刀流は左右の手にもって刀を駆使して戦うものと思われがちだが、その二刀を駆使する技術の中には飛刀術がある。つまり、緊迫した近距離間合いの中で突然、刀を投げ打って射殺するわけだ。
俺が投げ放った小太刀は剛速球のように鬼王の眉間を襲う。小太刀を簡単に投げ捨てると思いもしなかったであろう鬼王は狼狽えて思わず反射的に手にした棍棒で小太刀を打ち落としてしまった。
そう。緊迫した近距離間合いで小太刀を打ち落としてしまったのだ。それはすなわち俺に対して武器を放棄したに等しい行動だ。
その行動は俺にとって予想範囲内のことであったので、鬼王が撃ち落とす動作に重ねるようにして袈裟切りを放った。そしてまさしく棍棒が小太刀を打ち落とした瞬間、その伸びた手首を俺の袈裟切りが切り落とす。
「ぎゃあああああっ!」
手首を切断された鬼王は悲鳴を上げながらも反対の腕で俺を殴りつけにかかった。その拳の速度は俺の予想をはるかに超えていて、魔法の壁を作らなけば直撃していたかもしれない。
かもしれない。つまり、俺は攻撃を免れることに成功した。と、同時に敵の注意が逸れた隙をついて背後に回っていたウィリアムの鋭い一太刀が鬼王の下腿部を鋭く切り裂くのだった。
基地内の広場に出され、装備を整えて鬼が出てくるのを待った。ちなみに美野里は、どうせ抗議し邪魔するだろうからと俺が言ってこの戦闘を見る事を禁止させ、アビゲイルの監視の下、宿舎に閉じ込められている。
さて、俺達の装備はといえば西洋的な鉄兜に鎖帷子。その上に急所を鉄板で覆っただけの厚手の服を身にまとうもの。この厚手の服こそがRPGに登場する「旅人の服」と呼ばれる鎧に近い存在だと知った。服などというから、もっとチンケなものだと想像していたけれども、実際はナイフ位では簡単に傷つかない鎧として立派に機能する。それが盗賊などに襲われる可能性があった旅人の服なのだ。
とはいえ、服は服だ。さすがに「こんな薄い装甲で大丈夫かな?」と、ウィリアムに尋ねてしまう。
ウィリアムはガタガタと肩を震わせながら答えた。
「だ、大丈夫だ。むしろ魔物と肉弾戦になったら重装備は意味がない。鎧なんか直ぐに破壊されるんだ。だったら軽装にしておかないとスピードが犠牲になる。そっちのほうが問題だ。
いいか。剣一、こ・・これが・・・・・今のこのチンケな装備の方が安全なんだよっ!」
ウィリアムは自分に言い聞かせるかのように言う。怯えているんだ。
俺は傍目に見てもそれがわかるウィリアムの胸を拳で小突きながら、力強く語り掛けてやった。
「武者震いだ。そうだろう?
俺とお前が戦うんだ。絶対に負けはしない。俺が指示を出す。絶対に負けない。わかるな?」
俺に真っすぐに見つめられたウィリアムは安心したのか、怯えて瞳孔が開いていた目に力が戻り、表情が一気に引き締まった。
「当然だ。お前を信じているぞ、剣一。」
その時だった。ウィリアムがそう答えるのを待っていたかのように魔法で作られた鎖に束縛された巨大な人型の鬼が広場に連れ出されてきた。
身の丈、凡そ3.5メートル。体重も1トン以上はあるだろう。とんでもなくデカい存在が出て来た。
そのときになって俺は初めてウィリアムの気持ちが分かった。まるでインド象と戦うようなものだったからだ。
「お、鬼どころか、鬼王じゃないかっ!
こ、こんなものと戦えっていうのかっ!」
その姿を見たウィリアムは恐怖しながら猛抗議した。
「なんだ? 普通の鬼とは違うのか?」
俺の質問にウィリアムは苛立って答えた。
「何言っているんだ、あれはオーガロードだよっ!! 鬼族を束ねるボスだよ。
鬼は群れで行動する習性があって、その一族の中でとりわけ大きく強い者がオーガロードに選ばれる。
あいつは屈強な鬼の中でも最強の戦士ってわけだよっ!
は、話が違うじゃないかっ」
ウィリアムはウェストン侯爵に向かって抗議した。みると観覧席にいたジョーンズ大佐もウェストン侯爵に何か慌てた様子で抗議をしていた。
どうやらそれほどの逸材らしい。それはそうだろう。観察すれば只者じゃないことも分かる。
その青緑の肌は分厚く、本当に剣が通るのか不安になるくらい堅そうだ。
筋骨隆々な姿から、確かに動きが鈍くなる重装備は逆に不利になることを悟らされる。
鋭い眼光と体中に負った刀傷の多さから、戦闘経験豊富な化け物だとわかる。
しかし、戦闘に際して怯えていたら簡単に殺されかねない。
俺も正直言って生きた心地がしないほど恐ろしい。
だから、逆に殺してやる。
そう覚悟を決めると不思議と精神は落ち着いてきた・・・・・。いや、それどころか過去の俺が蘇ってくるのを感じた。
体の内部から沸々と湧き出す溶岩のように敵を焼き殺さんとする意志。殺気があふれ出すのを感じるのだった。
「なんと禍々しい殺気。」
「噂にたがわぬ狂気だ。」
「邪神アスモデウスの申し子だ。イカレている・・・・。」
見物兼何かあった時に俺達を守る役目を負わされている兵士たちが俺の殺気に驚き、思わず声を上げた。俺の様子の変化を初めて見るジョーンズ大佐もウェストン侯爵も眉をひそめている。
だが、一人。実際に俺と殺しあったハカだけがそんな俺の正気を保証してくれる。
「大丈夫です。剣一様の殺気は確かに禍々しいですが、誰よりも優しい。
剣一様を殺そうとしたのに命乞いをしてアッサリと許された私が言うのですから、間違いありませんよ。」
少しおどけた様子でそう言ってくれた。途端にその場にいた者たちから笑い声が起きた。
その笑い声に緊張感がとけたのか、ウェストン侯爵が戦闘を開始しても良いかと俺に尋ねて来た。
「その様子だと戦闘の心づもりは万端の様だが、鬼の拘束を解き、戦闘を開始しても良いかね?」
俺は鬼をじっと見つめ、ある不満点に気が付き、指摘する。
「その鬼は素手で戦うのか? 武器を持って戦わない生き物なのか?
そうでないなら何か武器を与えてください。」
俺の提案を聞いたウィリアムが血相を変える。
「正気か? 鬼は拳で殴るだけで馬一頭くらい簡単に殺せるんだぞっ!
その上で武器なんか持たせてどうするつもりだっ!」
俺は答える。
「ウィリアム。俺達はイノシシを狩りに来たんじゃないんだぞ。
これは初陣だ。リアルな戦闘じゃないと意味がない。お膳立てされては甚だ迷惑。
この程度の敵に生き残れないような奴がなんで魔王と戦う勇者になれよう。」
「・・・うっ!」
俺に生ぬるい戦闘の無意味さを指摘されたウィリアムは、返事に窮して何も言えない。そして、そんな俺達の様子から覚悟が決まっていると感じたウェストン侯爵は戦闘開始と共に鬼王に棍棒を与えると約束してくれた。
「それでは、戦闘を開始する。魔法の拘束を解けっ!!」
ウェストン侯爵が号令をかけると兵士たちは鬼王を束縛していた魔法を解いた。自由になった鬼王は一瞬、驚いた表情を見せたが、自分の前に棍棒を投げ渡されると同時に10メートルほど離れた位置にいる俺達が抜剣したのを見て状況を察したのか、「ぐふふふ」と不気味な声を上げて嬉しそうに棍棒を手に取った。
鬼王の戦闘準備が整ったのを確認すると、俺はすぐにウィリアムに指示を出す。
「攪乱するっ!
俺が正面から突撃して敵の注意を惹きつけるから、お前は右回りに背後を取れ。行くぞっ!」
「応っ!」
俺が声掛けすると、先ほどまで怯えていたはずのウィリアムは力強く返事した。さすがだ。一瞬で戦士の顔になった。これは気の強さからくる豹変ではない。雄の本能というものでもない。戦士としての本能だ。
戦わねば生き残れない。そういった覚悟が生まれつき魂に刻まれている生粋の戦士だけが持ち合わせている戦闘覚悟なのだ。
それでこそ我が永遠のライバルだ。
俺は友の豹変ぶりを頼もしく思いつつ、鬼王に向かって突撃する。
とは言え、俺は鬼王の身体能力がどれほど高いか知る由もない。むやみに突撃するのは流石に無謀過ぎる。
そこでまずは手にした長剣ではなく、腰に差した小太刀を抜き取ると敵の間合いに入る前に投げ放つ。
我が神道虎臥妙見流は二刀流や手裏剣術も内包する。一般的なイメージとして二刀流は左右の手にもって刀を駆使して戦うものと思われがちだが、その二刀を駆使する技術の中には飛刀術がある。つまり、緊迫した近距離間合いの中で突然、刀を投げ打って射殺するわけだ。
俺が投げ放った小太刀は剛速球のように鬼王の眉間を襲う。小太刀を簡単に投げ捨てると思いもしなかったであろう鬼王は狼狽えて思わず反射的に手にした棍棒で小太刀を打ち落としてしまった。
そう。緊迫した近距離間合いで小太刀を打ち落としてしまったのだ。それはすなわち俺に対して武器を放棄したに等しい行動だ。
その行動は俺にとって予想範囲内のことであったので、鬼王が撃ち落とす動作に重ねるようにして袈裟切りを放った。そしてまさしく棍棒が小太刀を打ち落とした瞬間、その伸びた手首を俺の袈裟切りが切り落とす。
「ぎゃあああああっ!」
手首を切断された鬼王は悲鳴を上げながらも反対の腕で俺を殴りつけにかかった。その拳の速度は俺の予想をはるかに超えていて、魔法の壁を作らなけば直撃していたかもしれない。
かもしれない。つまり、俺は攻撃を免れることに成功した。と、同時に敵の注意が逸れた隙をついて背後に回っていたウィリアムの鋭い一太刀が鬼王の下腿部を鋭く切り裂くのだった。
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