128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第五十一話 進化する魔物

 敵に破れ、首を刎ねられたというのに鬼王の死に顔はまるで何かを成し遂げた様な満足感を感じさせるものだった。敵に掴まって絶体絶命の中、それでも言葉が通じぬかのように擬態し、スパイ行為の果てに勇者を打ち取ろうとした。そこには自分の命など勘定に入っていない意志の強さを感じる。そんな男が戦いに敗れさったというのに、こんな満足した死に顔をさらすだろうか?

 いや。それはない。それは実際に戦った俺でなくても目に見えてわかる違和感だった。
 誰もが「なんだ? 一体、何を企んでいるんだっ!?」と、不安の声を上げた。

「ウィリアム君っ! 大丈夫にゃんっ!?」

 戦いが終わったのでパンが慌ててウィリアムのもとへ駆けて来た。俺達よりも少し察しが悪いパンは鬼王の違和感など気にもせずにウィリアムの状態を心配してやって来たのだ。それが救いだった。

「そうだ・・・・ウィリアムっ!!」

 俺も周囲の兵士たちも慌てて駆け寄り、傷ついたウィリアムの体を鬼王から引きがし、治癒魔法をかけて傷を癒す。

「肋骨が5本ほど。あと右の上腕骨じょうわんこつが折れています。内臓も折れた肋骨のせいでダメージがあるかもしれない。
 とにかく治癒に人数がります。皆、集まってくれっ!!」

 治癒専門の兵士は、ウィリアムを見てすぐに重傷具合を診察し、仲間の助けを求めた。

「な、治りますか?」

「勇者様? 俺達は戦場で治癒専門の特殊部隊ですよ?。まぁ、見ていてください。これぐらいの傷、必ず治して見せますよ。」

 不安になった俺の問いかけに兵士は信頼できる返事を返してきた。
 そうして、そんな治癒を受けているおかげか、ウィリアムは血反吐を吐きながらも戦いの反省点を述べるのだった。

「俺は・・・俺はわかったよ。甘っちょろかったんだ。
 ヘンリー師範の言う通りだ。これは・・・・ごほっ・・・・これは木剣試合ではありえない戦い方だ・・・・ごほっ・・・・」

 血反吐を吐きつつ、そんなことを言うウィリアムに「もう、黙ってろ。治療が済むまで静かにしていろっ!」というのだが、ウィリアムは深手の痛みよりも実戦を経験した歓びと興奮が収まらぬようで言葉を続けた。

「言わせてくれ。剣一。
 鬼王は、死ぬことをエサに俺達に襲い掛かってきたんだ。必死の抵抗に見えた拳の攻防も、すべてあいつにとっては最終目的ではなかった・・・・ううっ・・・・最終目的では・・・・なかったんだ・・・・
 俺は思い知ったよ。自分の命を勘定に入れずにただ敵を殺すためだけに戦う実戦の狂気を。
 ・・・・俺は二度と戦場で敵を軽んじない。勝利の確信は戦闘が終わるまで・・・・終わるまで、やっちゃいけないんだ。」

 そう言いながらウィリアムは意識を失った。

「ウィリアムっ! おい、ウィリアムっ!!」

 狼狽えた俺にハカが「大丈夫。治癒魔法が効いている証拠です。いま、ウィリアム様の体は傷を治すために全生命力を使っているので眠っているだけです。10分もすれば目覚めますよ。大丈夫。うちの治癒班はもっと重症患者も治していますから。」と、声をかけて安心させてくれた。

 やがてジョーンズ大佐、ウェストン侯爵、オースティンもこの場にやって来て、ウィリアムの状態を見て安心した。重傷だったはずのウィリアムの傷が目に見えて治って来ていたからである。

「しかし・・・・鬼王の最後の言葉。気になりますね。」

 ジョーンズ大佐がウィリアムの様子を見ながらウェストン侯爵に話しかけた。ウェストン侯爵は眉間にしわを寄せて考え込んでいた。

「魔物が言葉を話すなんて初めて聞いたにゃん。いったい、何時の間に言葉を覚えたのにゃん?」

 パンの素朴な疑問にヘンリー師範も同意した。

「わからない。ここに連れてこられてから覚えたのか、もしくは実は魔物は初めから話せたのか。
 特異進化を遂げた種だったのか・・・・」

 ヘンリー師範の言葉に一同は口を閉ざしてしまった。
 ただの魔物が人語を話すなんて聞いたことが無かった。それこそ地母神アアスから生まれた魔王イルルヤンカシュが人語をかいしたというのなら、わかる。魔王が流暢りゅうちょうに人語を話した前例が多いからだ。
 だが、相手は鬼王とはいえ、中級の上というようなレベルの魔物である。それが人語を話すなんて思いもよらないことだったのだ。

 鬼王の首を見つめながらハカが言う。
「魔物は武器を製造したり、群れを成して行動する高度な知的生物です。彼ら独自の言葉の文化があるのは、間違いなく、知能指数を考えれば人語を聞き取ることは可能かもしれない。
 むしろ彼らの言葉が雄たけびにしか聞き取れない我々の方が、言語の解読には不利な気がします。」

 ハカの意見はもっともだった。俺はアスモデウス神わが神の御神託によって武装し、陣を組み列をなす魔物の軍勢の姿を見た。あれは人間と比べて全く遜色そんしょくのない軍事レベルだった。だから、人語を理解できる可能性については十分あり得た。
 問題は、いつから敵が人語を話せるようになっていたか・・・だ。

 その問題についてウェストン侯爵は腕組をして考え込んでいたが、やがて死体から流れてくる血がウェストン侯爵の足下に届いた時。その様子を見てウェストン侯爵が目を見開いた。

蟲毒こどく・・・・っ!!」

 その言葉に俺もウェストン侯爵が何に気が付いたか察して、叫んだ。

「そうかっ! あの共食いだっ!
 俺はあれを蟲毒に似ていると思った! ウェストン侯爵は、あれを見て鍛えていると思った!
 きっと、それはどちらも正しいんだろうっ!
 あれは呪力をもって、怨念の力をもって魔物の進化をうながす方法だったんだっ! だとすれば・・・・。だとすれば恐ろしいことだっ!
 あいつらの共食いはきっと今に始まった事じゃなかったんだっ! この鬼王のような存在を生み出すために何百何千という犠牲と時間を費やして、この種を作り出す準備をしてきたんだっ!!
 それが今に形となって表れたっ!!」

 ウェストン侯爵は俺の解説を聞いて、同意の意思を示して何度も頷いた。

「奴らが何処で蟲毒の術を知ったか・・・・いつから話せるようになったか。
 いや、それは今すぐの問題ではない。
 今すぐの問題は敵は進化して強くなっていること、そして、やはりこの鬼王は最後に何かやり遂げたことだ。
 一体・・・・・一体、こいつは何をやり遂げたんだ?」 

 ウェストン侯爵の言葉に場内の緊張が高まった時だった。城外から凄まじい雄たけびが聞こえたきた。それは、一人二人の声ではない。千を超す魔物の群れが肺腑はいふから声を絞り出す雄たけびの声だった。
 と、同時に見張り台の男が叫んだ。

「侯爵っ!! 敵の攻勢ですっ!
 奴ら川を乗り越えて突撃してきます。鎧を付けたまま飛び込んで、おぼれる味方の体を踏み台にしながらなりふり構わず突撃してきますっ!!」

「なんだとっ!?」

 ウェストン侯爵はその報告を聞くと迷わずすぐに兵士に下知げちする。

「総員戦闘配置に付けっ!! 今すぐだっ!!
 急げ、急げっ!! 一刻の猶予ゆうよもないぞっ!!」

 侯爵の号令ごうれい一下いっか、兵士たちは迷わずに駆け出した。実戦で訓練され切った彼らは緊急事態においても慌てることなくなすべきことを速やかになす。ハカも俺達に挨拶する間もなく駆け出して自分の配置場所へ向かった。彼は軍曹だ。部下の面倒を見なくてはいけない。迷わずに駆け出していった。
 その様子を見ながら俺は男子寮での起床訓練を思い出し、ああいったことの重要性を再認識するのだった。
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