128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第五十五話 鬼の住む谷

 俺は観念した。
 きっと今まで心の奥底では、本当は気が付いていたんだろう。
 本当はずっと。初めて会った時から美野里の美しさを恐れていたくらいだから当然だ。
 

 須加院すかいん 美野里。俺はずっとこいつの魅力に心を奪われていた。
 あの日、セーラー服姿の美野里は反則的に可愛かった。あの時から、もう俺は自分を騙すことは出来なくなっていた。
 
 可愛い。本当にそう思ってしまった。もう、女にしか見えなかった。
 そうでなければ男の体に女性物の下着姿をつけただけの映像に誰が欲情したりするものか。

 でも、認めたくなかった。自分はノーマルだと決め込み、無意識化で美野里への恋心をずっと否定していた。考えないように、思いつかないように努力していた。

 今、死を間近にした今。そんなことは出来ないと悟って俺はとうとう観念し、告白してしまった。
 男にこんなことを言われて気持ち悪いと思われてしまうかもしれない。
 そんな風に思われたくない。美野里に嫌われたくなんかないんだ。

 でも言わずに死ぬなんて絶対に嫌だっ!
 情けない話だが、俺は涙を流してこんな気持ちの悪いことを言ってしまった。

 だが、優しい美野里はそんな俺に気を使ってくれた。
 俺の冷たくなり始めた頬に手を当て、優しい口づけをしてくれるのだった。

「バカだね。剣一君。
 君って、本当に人の気も知らないで好き勝手言っちゃってさ。」

 ああ・・・・。
 もう、死んでもいい。このまま、このまま死んでもいい。
 本気でそう思った。
 美野里の柔らかい唇の感触を感じる、この永遠のように貴い一瞬の中で俺は死んでしまえたらどんなに幸せだろうか?



 優しく、甘いキス。
 そんな思いに浸っていると、どこからともなく我が神の声が聞こえて来た。

鬼谷きずみとは、すなわち鬼住きずみのこと。』
『鬼の血を引く者がいると伝えられるその谷に住む者たちは全員、人並み外れた肉体の持ち主ばかりだった。』
『やがてその一族は、その神妙な伝承に支えられ、シャーマンとして祭り上げられて後に神官となった。』
『それが鬼谷一族の由来・・・・・。』

『鬼谷 剣一よ。お前が知らなくてもお前の魂に刻まれている記憶に私は見た。』
『お前がその土地神の末裔であることを。』
『忘れられた荒神の末裔であることを。』

『128人目の勇者よ。お前の血に宿る荒魂あらみたまが私を呼んだ。』
『お前と私の出会いは偶然ではない。』
『お前は通例の勇者とは異なる。異常なほどまでに霊的に恵まれている。』

『お前の伴侶はんりょもまた同じこと。』
『お前たちがこの世界に同時に召喚されたことも偶然ではない。』
『すべては星の巡り。宿命である。』
『だから、お前は次にウルティアを訪ねよ。そして、お前の伴侶と共にシャウシュカを訪ねよ。』

『星の宿命を乗り越えよ。』
『お前の体は、この世界において簡単には死ねぬ。それがお前の体に流れる鬼神の血の宿命。』
『一万年以上の宿業を乗り越えて蓄積された奇跡の力。』

『簡単に死ねると思うな・・・・・。』

 その言葉を最後に神の声が途絶え、俺はとっさに叫んだ。

「お待ちください、我が神よっ!!」

 そう叫びながら俺はまばゆい光の中で起き上がった。
 ・・・・・起き上がった? 瀕死ひんしの俺が?
 しかも、この目が眩むほどまばゆい光は何だ? この光のおかげで俺は苦しみを全く感じない。

 そう思いながら自分の体を確認すると、俺に治癒魔法を施すシンディー先生が俺の腹部に手を当てているのが見えた。
 この眩い光は治癒魔法の光だ。だが、異常すぎる魔力量だ。これはシンディー先生一人のものではない。

 そう思いながら光の中心にあるシンディー先生の手をよく見ると、美野里が手を添えているのが見えた。


「おかえり、剣一君。
 よく生還してくれたね。言ったでしょ? すっごいご褒美をしてあげるって?」

 美野里はそう言って笑った。

「い、一体。何が? こ、この異常な治癒魔法の光。
 まさか・・・・・・お前の・・力か?」

 驚く俺にシンディー先生が補足してくれる。

「ええ。正確には私の体を媒介にして治癒魔法を会得していると言ったところですが。
 覚えておられますか? 美野里様が剣一様の治癒魔法の魔力の流れを感じ取っていたことを。
 凄まじい魔力が私の体を通して剣一様を癒したのです。
 そして、それは・・・・信じられない奇跡を起こしています。」

「信じられない奇跡・・・・?」

 シンディー先生は周囲を見ろと言わんばかりに首を回す。つられて俺も周囲を見ると、治癒室に運ばれていた負傷兵全員の傷が美野里の治癒魔法の光を受けた影響で完治していた。

「な・・・・なんだこれはっ!?」

 驚く俺にウィリアムが説明してくれた。

「な? 驚くよな?
 俺も驚いたよ。お前が意識を失ったと同時に美野里様が悲鳴を上げながら、シンディー先生の手に触れたんだ。
 すぐには魔法は発動しなかった。けれど、半狂乱で『死なないでっ!』って連呼していたら、突然、『あっ・・・・・わかっちゃった。』だってさ。
 次の瞬間、恐ろしいほどの治癒魔法の光がこの部屋を満たして、負傷兵の傷が完治したのさ。
 とんでもない奇跡だ。さすが稀代の聖女様だよ。」

 俺は、目の前で起きている奇跡を眺めながら、魔力測定用の巨大水晶玉を一瞬で破壊した美野里の魔力量のことを思い出していた。

 すると、ベッドの上で上半身を起こした俺に美野里が抱きついてきた。

「ね? 剣一君。
 君、気絶する前になんて言ってくれたか、ちゃんと覚えてる?」

 美野里は俺の顔を覗き込むようにして見ながら、イタズラっぽい笑顔を浮かべて聞いた。
 全てを自覚した俺は一切の迷いもなく即答する。

「もちろんだ。美野里、俺はお前に惚れている。
 愛しているんだ。ごめんな?」

 謝りながら、その頭をすまなさそうに撫でる俺に美野里は嬉しそうに答えた。

「何言ってるんだい?
 ボクなんか地球にいた頃から、ずっと君のことが好きだったんだぜぃっ!!」

「・・・・・はっ?」

 意外な言葉に俺が呆けた声を上げると美野里はクスクス笑った。

「クスクス。バカみたい。
 君って本当に他人の恋愛沙汰には聡いくせに、自分のことになったら朴念仁なんだから。
 ボクは本当に困ってしまうよ。」

 そうして、愛を告白しあい、抱き合う俺達に気を使ってくれたのか、知らぬ間に部屋の中には誰もいなくなっていた。
 そうなった時、美野里は初めて自分の気持ちを語ってくれた。

「ボクね。召喚される前、セーラー服を着ていただろう?
 あれは本当は演劇部の服じゃなくて自分の服なんだよ。
 ボクはね、周りからずっと姫系男子って呼ばれていたけどさ。本当のことを言うとボク自身も女の子に、そして君のお姫様になりたいって思っていたんだ。
 だから、あの日。セーラー服を着て・・・・・君の彼女になって甘い学生生活を送っている夢を空想していた。
 それが男に生まれてしまったボクのささやかな幸せ、望みだったんだ。」

「そうだったのか・・・・。」

 俺は美野里のことを完全に誤解していた。こいつは両親のことで恋愛に興味が無くなっていたんじゃない。
 男から自分がどう見られているとか、女体に対する性欲とか、無頓着なんじゃなくてそういったものとは相反する魂を持っていたってことなんだ。
 でも・・・・。

「でも、俺とお前は接点がなかった。
 俺はお前の可愛さにおぼれることを恐れて避けていたし、いつ、なんで俺のことを好きになったんだ?」

 美野里は目をまん丸にして驚いてから、再びクスクス笑いだした。

「何時だって? 接点がないだって?
 何言ってるんだよ? 君は地球でもここでもモテモテだよ? 
 イケメンで、背が高くて、男らしくて、強くて賢くて・・・・なのにとっても優しいんだ。接点なんかなくったって女の子は皆、君にメロメロだよ?」

「マジかっ!! 俺、イケメンだったのか?」

「あっ・・・・言わなきゃよかったかな?
 浮気されちゃう?」

 俺は慌てて否定する。

「しないしないっ! 俺は美野里一筋だ。お前の愛以外いらない。
 お前の下着姿でメチャクチャ出たけど、あんなに出たのはお前が初めてだ。本当だっ!」

「こんな場面で何言いだすんだよっ!! バカっ!!」

 そう言ってビンタする美野里だったけど、ガーターベルト姿を見せてくれたとき、どうしてあんなに恥じらいながらもどこか嬉しそうな笑みを浮かべていたのか、今ならわかる。男の自分を性的に見てもらえたことが嬉しかったんだ。
 そうとわかれば、俺は美野里の肩をガシッと掴んで男らしく言う。


「例え男でも俺はお前のことが世界で一番可愛いっ!!
 全然、抱けるぜっ!! 俺はっ!!」

 その告白を聞いて、美野里はキョトンとした顔をして、それから恥ずかしそうにうつむきながら言う。

「そ、そういえば・・・・生きて帰ってきたら・・・・
 すっごいエッチなご褒美をおねだりしていたよね?」

「っ!! ・・・おおっ!!
 したしたっ!! ま、まさか、今からしてくれるのかっ!?」

 嘘だろ? 最高かよ、お前。キスよりもっといいことしてくれるって言うのかっ!?
 
 俺が期待していると柔らかいその手で俺の右手を握ると・・・・・・


 ぷにっ・・・・という柔らかい感触が伝わってくるほど俺の腕を自分の胸に押し付けた。

 えっ・・・・
 これって、オッパイ・・・・・?

「あのね・・・・・。皆、最初から男の子でも聖女様として扱えば聖女様になるって言っていただろう?
 あれってこう言う意味だったんだ。
 ボクはね、もう君の赤ちゃんだって産めるんだぜぃっ!」

 誇らしげにそう言う美野里の体は完全に女の子になっていて・・・・・俺はその乳房の柔らかい感触に目の前がクラクラするほどの感動を覚えていた。



「あのね。剣一君。」


「ボク、女の子になれて本当によかったっ!!!」

 

 そういって嬉しそうに涙ぐむ美野里は世界中のどんな女よりも美しいのだった。
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