128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第六十話 復讐の誓い

「・・・・・殺してやるっ!!」
「あいつら全員。絶対に皆殺しにしてやるっ!!」

 3日後、前線基地から遠く100キロは離れた安全な拠点まで無事に戻った俺とウィリアムは復讐を誓っていきり立っていた。
 その場所には既に近隣の王侯貴族が救援要請を聞いて駆けつけ、かなりの軍勢となっていた。
 俺とウィリアムはその王侯貴族たちが次の行動について話し合う作戦会議の場でそう誓ったのだった。

 いきり立つ俺達を見た諸侯しょこうは、その殺気を危ぶんだ。

「まぁ、落ち着いてください勇者様。
 お話を伺ったところ、敵の軍勢が前線基地へ到達するのに1日はかかる距離でしょう。近隣の救援部隊およそ一万が結集するのも大体、それくらいでしょう。
 それ以降も逐次ちくじ応援を送っています。
 あそこは難攻不落の城塞。そう簡単には落ちませんよ。」

 俺達を慰めるためにデリラ・カーディフ女侯爵がそう言うのだが、それはむしろ、俺達の神経を逆なでする行為だった。

「アンタに何がわかるって言うんだっ!?
 俺は見たぞ。たった千かそこらの軍勢に少数とはいえ城壁が突破されるのを。だが、今度は数万の軍勢だっ!
 一体、何日もつかなんて計算が成り立つと思うか?
 今すぐに救援がいるんだっ! 作戦会議なんか現地についてからにしろっ!!」
 
 俺に怒鳴られたデリラ侯爵は、肩をすくめて軽く会釈をすると「全く失礼とは存じ上げますが・・・・」と、前置きした上で苦言を呈した。

「確かに戦争で物を言うのは数ですが、それでも戦略無しでは数の優位は正しく機能しないものです。
 魔物が数で来るというからと言って、我らが同じように数で応戦するだけではただの消耗戦です。
 敵が数で来るならば、我らは数だけでなく策をもって敵の猛攻を止めて見せましょう。そのための作戦会議です。
 勇者様には冷静に事実のみをお伝えいただけるようにお願いします。」

「むっ!」

 デリラ侯爵の言い分はもっともだった。確信をつかれて俺は言葉に詰まった。
 そんな俺達に助け舟を出すようにジョーンズ大佐が言う。

「剣一様が召喚前におられた異世界の呪法『蟲毒』を用いて、敵は強力に進化しております。
 剣一様が今、仰ったことは事実です。私も見ました。鬼王オーガロードが人間の言葉を話したり、常識はずれなほど急激に強くなった鬼達の姿を・・・・。
 蟲毒の術は諸刃の剣です。兵の多くを犠牲にして一部の兵士を強化する。こんな方法は消耗の方が多く長く続くわけがありません。しかし、短期決戦を仕掛ける場合、兵の数が減っても強化される個体が多ければ、蟲毒の術による損耗を補って余りある成果を出すでしょう。
 だから大至急の救援が必要です。それも弓兵、治癒班。食料です。作戦会議中ですが、ともかくここにお集まりくださった諸侯のうちから兵を出し合って1万ばかし私にお貸しください。直ちに前線に戻ります。
 もう一度言います。速やかに更なる応援部隊が必要なのです。
 今動かねば今後の作戦会議も全て無駄に終わるやもしれません。」

 歴戦のジョーンズ大佐がそう言うと説得力があるのか、聞いていた諸侯達の顔は青ざめた。

「し、しかし。ジョーンズ大佐。君には寮の管理という任務があるし、君の部下たちも国で待っているのだろう?
 救援部隊を送るのは構わんが、君は君の部下の到着を待ってはどうかね?」

 諸侯のうち、ジョーンズ大佐の申し出に待ったをかける者もいたが、シンディー先生を残してきたジョーンズ大佐がそれで止まるわけもなく、結局、ジョーンズ大佐は諸侯が出し合った1万の部隊を率いて前線基地に引き返すことになった。

 ジョーンズ大佐は諸侯の同意を得るとすぐに俺の両肩に手を置き、別れの言葉を言った。

「剣一様。私はこれより修羅に戻ります。
 短い付き合いでしたが、御武運を。」

 たったそれだけの挨拶だった。それは軍人らしいジョーンズ大佐らしい別れの言葉だったが、あの前線基地から自分たちだけ避難する屈辱を共に味わった俺達には意思の確認をする必要などない。短い挨拶の言葉だけで十分だ。

「ジョーンズ大佐っ!! 今までありがとうございましたっ!
 あなたにも我が神のご加護あらんことをっ!!」

 俺の言葉にジョーンズ大佐は驚いたように足を止め、それから振り返って俺の方を向き、子供のように純粋な笑顔を見せた。しかし、すぐに厳しい鉄面皮に戻ってクルリときびすを返すとカツカツと軍靴ぐんかを鳴らして会議室から出ていった。

 ジョーンズ大佐が会議室から離れると、諸侯は蟲毒について知りたがった。

「しかし・・・・何事ですかな?
 その、蟲毒という呪法は・・・・・。敵同士、共食いしあってより強化するですって?
 そのような呪法を敵は何処から得たのでしょうか?」

 俺は首を横に振りつつ答えた。

「わからない。考えられるとすれば敵も何らかの呪法をもって俺がかつて住んでいた世界から人間を召喚したくらいだな・・・・。」

 俺はそこまで答えると別の疑問に思い当って逆に諸侯に尋ね返す。

「となると、敵に異世界召喚の魔法を伝授した神がいるという事になる。
 地母神アアス様と魔王に味方する神に心当たりは?」

 俺の質問を聞いた諸侯たちは首をひねって各々思いつく限りの答えを出した。

「・・・考えられるとすれば、中立のシャウシュカ様か?」
「いやいや、知識神カムルセパ様という可能性もありますぞ。何せカムルセパ様から見れば魔王様は同じ母上から生まれた弟。助けを求められれば・・・・・。」
「そんなことを言いだせば、我らに召喚魔法を授けたレルワニ様とて魔王様の姉君。力を貸さぬとは断言できますまい。」

 諸侯はそれぞれ意見を出し合ったが、明確な答えは出なかった。
 そこで一度、ウルティアさんのいる神殿にてお伺いしてみるのがよろしかろうという事になって、俺とウィリアムとパン。そして諸侯から推薦された選りすぐりの巫女たちが数人同行して神殿に向かうことになった。
 俺達は神殿にて魔法の鍛錬。巫女たちは神の神託を受けるための儀式を執り行うため。別々の目的のためだが、その日のうちに俺達は共に神殿へと向かうことになったのである。

 つまり、ここで俺と美野里は離れ離れになるという事だ。

「いやっ!! そんなの絶対嫌っ!!」と、大反対されるものと覚悟していた俺は作戦会議の決定を美野里に伝えたとき、意外なほど従順に「わかった。気を付けてね。」と了解されて拍子抜けした思いがした。
 
「ボクが気絶している間にそんな酷いことがあったんなら、ボクも黙ってはいられないよ。アビゲイル先生に鍛えてもらってボクも強くなるんだ。」

 出発前のほんの僅かな時間だが、皆は俺達を二人っきりにしてくれた。俺と美野里は拠点の外の野原を歩きながら作戦会議の決定について話し合ったんだ。
 気絶している間に前線基地を抜け出した美野里は、意識を取り戻してから事の次第を聞いて、長い間、泣き崩れていた。それはきっと前線基地の皆を哀れに思う気持ちだけでなく自分自身の不甲斐なさに対する怒りも覚えていたんだと思う。
 美野里が作戦会議の決定に従順だった理由として語った「ボクも強くなる」という言葉に込められた強い覚悟と意思を俺はひしひしと感じていた。だから甘やかす気はなかった。

「おう! 俺も死ぬほど鍛えてくるから、お前も死ぬほどいじめられて来い。」

 俺がそう言うと、美野里は恥ずかしそうにうつむきながら言った。

「あの・・・ね? 剣一君が何かした時にはボクはご褒美をしてあげたじゃない?
 これから頑張る決意をしたボクが修行を乗り越えるためにさ・・・・乗り越えられる勇気を得るために、ボクもご褒美欲しいな・・・・。」

 そう言って顔を真っ赤にする美野里が求めているものが何かわからないほど俺も朴念仁ではない。
 美野里の肩を抱き寄せて、甘く優しいキスを・・・・・。
 
 キスが終わると美野里は堪え切れなくなった涙をぬぐいながら精一杯の笑顔を見せて言う。

「ありがとうっ! これでもう寂しくないよっ!!」

 それは寂しいと言ったも同然だ。それが美野里の精一杯のやせ我慢だった。
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