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第六十三話 免許皆伝
紀元前の数学者でもあり物理学者でもあったアルキメデスは変人だった。
自分が仕えていたヒエロン2世の王冠が純金かどうかを確かめる方法を風呂場で思いついた時、感動のあまり素っ裸のまま「エウレカっ!!」と叫びながら裸で町中を走り回った。
自分の住む都市『シラクサ』がローマ軍に攻め入れられていた時も地面に図を書いて計算に没頭。その計算を邪魔したとして「私の図形(円)を踏むなっ!」と言って怒鳴りつけてローマ兵を怒らせて切り殺されてしまった。
思い込むと一途に没入してしまう人だったのだ。
今の俺はまさにその変人だった。
食事中だというのに地下の一室に戻るとひたすら石像に向かい合って神経を集中していた。
それは戦いに対する集中力とは全く別の存在だった。
今まで俺はただ、体の奥底から湧き出てくる殺意と闘争本能に忠実だった。それに忠実であるがためにその殺意に耳を傾けるかのように心を研ぎ澄ませた。耳を澄ませていた。
どうしてそうしていたかといえば、それが結果に繋がっていたからだ。
俺の攻撃も反撃も防御も俺の期待を裏切らなかった。常に勝利をもたらせていた。
そうなればなるほど俺は自分の闘争本能に忠実になっていった。
俺も意識できないほど魂の奥底に眠る荒魂。そこから流れる鬼神の殺気は狂気じみていたが、常に正しかったから俺は何の疑問も持たなかった。
だが、同じ年ごろの天才ウィリアムに出会った時、俺は変わっていた。
湧き上がってくる殺意よりも同世代に自分と同じくらいかそれ以上の天才児ウィリアムと出会えたこと、戦えることへの歓びが優先して殺気は消え果ていた。
なのに鬼3匹に追い込まれた時の俺は失態を演じた。確かにあの鬼たちは強かったし、三対一という絶対的な不利もあった。だがもっと楽な戦い方、勝利の仕方はあっただろうに目の前の戦いに集中してしまっていた。あの時の俺が殺気をコントロールできていればもっと楽に勝つことが出来たはずだ。
その証拠が暗がりを利用した目眩ませだ。致命傷を負っていた俺は我に返って冷静な勝ち方を見つけることが出来ていた。視野が広くなっていたんだ。
しかし、だからとて俺の戦闘本能は無下にして良いものでもない。ウィリアムとの戦いの時にも俺は意識せずとも体の本能があと一歩というところで救ってくれる活躍も見せてくれた。俺の体に流れる戦闘本能も又、正しいのだ。
では、どうするのか?
答えは一つである。最適な使い分けをすることだ。
これは簡単なことのようで複雑なことだ。17年間の人生に付きまとっていた戦闘本能を殺しつつ、それのアンテナは決して折りたたんではいけないのだから、そのコントールがいかに困難なことか想像に難くないだろう。
だが、俺はそれを成し遂げねばならない。
師匠は言った。「それでは腐食魔法とは言えない。ただの破壊魔法だ。」と。
リリアンたちは部位ごとの食材の切り分けの大事さを語ってくれた。
その両方が最終目的と手段の違いだ。
肉の切り分けは、よりよい料理を完成させるという最終目的ための手段でしかなく、腐食魔法は敵を破壊することを最終目的にしているのではなく、敵を腐食させて滅することを最終目的にしている。
ならば戦いとは?
腐食魔法とは?
俺の中に眠る鬼神の血とは?
俺は石像を見つめ考える。そうやって石像を睨み続けると石像の石目が見えてくる気がした。石目とは石が破断するラインの事である。つまり、それが破壊するポイント。
ここを攻撃するのがこれまでの俺のレベル。
俺はここから先。石を腐食させるのに効率よいエネルギーの波動を探す。
初めは石像を舐めとる程度の弱弱しい魔法レベルで破壊を試み、そして色々な魔力の流れを試してみる。
美野里は他人の魔力の流れを以て治癒魔法の波動を自分の魔力の流れに同調させることが出来た。ならば俺にも弱電波のような魔力の波動を石像に与えることで、たとえ弱くても石像を腐食せしめる魔力の波形を感じ取ることが出来るはずだ。
破壊することは手段に過ぎない。腐食魔法を浸透させることを目標にしていれば、おのずと最適解が導き出されるはずだ。
「くっ・・・・・うう・・・・」
これが思いの外、繊細な魔力コントロールが要求される。集中力はすり減り、堰き止められている体中の魔力エネルギーが決壊しそうになる。その苦痛に耐えきった時だった・・・・。
「あ・・・・わかっちゃった・・・・。」なんて美野里みたいなことを言いながら、俺は悟った魔力の流れに従って腐食魔法を石像に浸透させる。
石像は俺が手を離した後もドロドロと溶け続け、やがて台座も溶かしきってしまった。
「おっ・・・・おおおお・・・・・こ、これかぁ~~~っ・・・・」
俺は解けてしまった台座を見ながら静かに感動していた。
必要な魔力は思っていた以上に少なかった。これまではただ、高出力で腐食魔法を送り込むことしかしていなかったからな。腐食魔法で敵の体をごっそりと溶かすような使い方をしていた。
だが、この進行性の腐食魔法の使い方は無慈悲に対象を腐食し続けている。魔法のエネルギーの送り方が全く異なっている。
ただ、倒すことと腐食魔法の特性を最大限に生かせる倒し方をするという事でこれほどの結果に差が出るとは思わなかった。
そして、それの阻害になっていたのが殺気だ。敵を殺すことが最終目的であり、最速で敵を殺す方法を手段として選択していた。それが腐食魔法の真価を発揮できない理由になっていたんだ。
師匠は言った。
「一つの真理は他の真理にも通じる部分があるのがこの世の理。」と。
ならば剣は? 剣術にもこれが通じるのならば・・・・?
『剣一。殺気を抑えろ。自分をコントロールしろ。
そうでなければお前の成長は先どまり、神道虎臥妙見流は奥伝レベルで終わってしまう。免許皆伝を与えることなど出来ない。
お前の剣には、その先があるんだよ、剣一。』
俺の脳裏に俺を指導する父の姿が蘇ってくる。それが今、どういうことなのか俺にもようやくわかった。
「ああ・・・・・俺にもようやくわかった。・・・・わかりましたよ・・・・・お父さんっ!!!」
感動で涙があふれ出した。
久しぶりに思い出した父の声は特別優しく、俺には見えていなかった父の本当の姿が思い描けたのだった。
そうして、しばらく泣いてから俺が振り返ると、少し離れた位置に師匠が立っていた。
(もしかして、ずっと俺を見守ってくれていたのか?)
師匠の足下を見ると付き添いのリリアンとヴァイオレットはどうやら眠ってしまっているらしく、二人で抱き合ったまま寝転がっていた。
「・・・・やれやれ思い込んだら突き進む・・・・全く、仕方がない子だ・・・・。
それにしても、剣一様。放たれた魔力の波動でわかりますぞ? この短期間でよくぞ腐食魔法を会得されましたな。
どうやら我が娘の見立ては正しいようです。あれは魔法の才能は程々でしたが、人を見る目は一級品らしい。貴方様は間違いなく千年に一度の天才です。」
ウルティアさんがそう言って頭を下げるので慌ててその体を支える。
「やめてください、師匠。全ては師匠のおかげです。あなたが俺を導いてくれたのです。
師匠のお言葉通り、俺は剣術にも先が見えました。これから試してみたいと思いますっ!!」
俺がそう言うと、師匠は笑っていった。
「いけません。もう朝ですよ。
剣一様は半日ほども、魔法に集中なさっておられました。
リリアンとヴァイオレットも私も今日は一日眠らないと体がもちません。」
「えっ!!?」
俺は驚く。俺はそんな長い間、石像と向き合っていたらしい。
自分が仕えていたヒエロン2世の王冠が純金かどうかを確かめる方法を風呂場で思いついた時、感動のあまり素っ裸のまま「エウレカっ!!」と叫びながら裸で町中を走り回った。
自分の住む都市『シラクサ』がローマ軍に攻め入れられていた時も地面に図を書いて計算に没頭。その計算を邪魔したとして「私の図形(円)を踏むなっ!」と言って怒鳴りつけてローマ兵を怒らせて切り殺されてしまった。
思い込むと一途に没入してしまう人だったのだ。
今の俺はまさにその変人だった。
食事中だというのに地下の一室に戻るとひたすら石像に向かい合って神経を集中していた。
それは戦いに対する集中力とは全く別の存在だった。
今まで俺はただ、体の奥底から湧き出てくる殺意と闘争本能に忠実だった。それに忠実であるがためにその殺意に耳を傾けるかのように心を研ぎ澄ませた。耳を澄ませていた。
どうしてそうしていたかといえば、それが結果に繋がっていたからだ。
俺の攻撃も反撃も防御も俺の期待を裏切らなかった。常に勝利をもたらせていた。
そうなればなるほど俺は自分の闘争本能に忠実になっていった。
俺も意識できないほど魂の奥底に眠る荒魂。そこから流れる鬼神の殺気は狂気じみていたが、常に正しかったから俺は何の疑問も持たなかった。
だが、同じ年ごろの天才ウィリアムに出会った時、俺は変わっていた。
湧き上がってくる殺意よりも同世代に自分と同じくらいかそれ以上の天才児ウィリアムと出会えたこと、戦えることへの歓びが優先して殺気は消え果ていた。
なのに鬼3匹に追い込まれた時の俺は失態を演じた。確かにあの鬼たちは強かったし、三対一という絶対的な不利もあった。だがもっと楽な戦い方、勝利の仕方はあっただろうに目の前の戦いに集中してしまっていた。あの時の俺が殺気をコントロールできていればもっと楽に勝つことが出来たはずだ。
その証拠が暗がりを利用した目眩ませだ。致命傷を負っていた俺は我に返って冷静な勝ち方を見つけることが出来ていた。視野が広くなっていたんだ。
しかし、だからとて俺の戦闘本能は無下にして良いものでもない。ウィリアムとの戦いの時にも俺は意識せずとも体の本能があと一歩というところで救ってくれる活躍も見せてくれた。俺の体に流れる戦闘本能も又、正しいのだ。
では、どうするのか?
答えは一つである。最適な使い分けをすることだ。
これは簡単なことのようで複雑なことだ。17年間の人生に付きまとっていた戦闘本能を殺しつつ、それのアンテナは決して折りたたんではいけないのだから、そのコントールがいかに困難なことか想像に難くないだろう。
だが、俺はそれを成し遂げねばならない。
師匠は言った。「それでは腐食魔法とは言えない。ただの破壊魔法だ。」と。
リリアンたちは部位ごとの食材の切り分けの大事さを語ってくれた。
その両方が最終目的と手段の違いだ。
肉の切り分けは、よりよい料理を完成させるという最終目的ための手段でしかなく、腐食魔法は敵を破壊することを最終目的にしているのではなく、敵を腐食させて滅することを最終目的にしている。
ならば戦いとは?
腐食魔法とは?
俺の中に眠る鬼神の血とは?
俺は石像を見つめ考える。そうやって石像を睨み続けると石像の石目が見えてくる気がした。石目とは石が破断するラインの事である。つまり、それが破壊するポイント。
ここを攻撃するのがこれまでの俺のレベル。
俺はここから先。石を腐食させるのに効率よいエネルギーの波動を探す。
初めは石像を舐めとる程度の弱弱しい魔法レベルで破壊を試み、そして色々な魔力の流れを試してみる。
美野里は他人の魔力の流れを以て治癒魔法の波動を自分の魔力の流れに同調させることが出来た。ならば俺にも弱電波のような魔力の波動を石像に与えることで、たとえ弱くても石像を腐食せしめる魔力の波形を感じ取ることが出来るはずだ。
破壊することは手段に過ぎない。腐食魔法を浸透させることを目標にしていれば、おのずと最適解が導き出されるはずだ。
「くっ・・・・・うう・・・・」
これが思いの外、繊細な魔力コントロールが要求される。集中力はすり減り、堰き止められている体中の魔力エネルギーが決壊しそうになる。その苦痛に耐えきった時だった・・・・。
「あ・・・・わかっちゃった・・・・。」なんて美野里みたいなことを言いながら、俺は悟った魔力の流れに従って腐食魔法を石像に浸透させる。
石像は俺が手を離した後もドロドロと溶け続け、やがて台座も溶かしきってしまった。
「おっ・・・・おおおお・・・・・こ、これかぁ~~~っ・・・・」
俺は解けてしまった台座を見ながら静かに感動していた。
必要な魔力は思っていた以上に少なかった。これまではただ、高出力で腐食魔法を送り込むことしかしていなかったからな。腐食魔法で敵の体をごっそりと溶かすような使い方をしていた。
だが、この進行性の腐食魔法の使い方は無慈悲に対象を腐食し続けている。魔法のエネルギーの送り方が全く異なっている。
ただ、倒すことと腐食魔法の特性を最大限に生かせる倒し方をするという事でこれほどの結果に差が出るとは思わなかった。
そして、それの阻害になっていたのが殺気だ。敵を殺すことが最終目的であり、最速で敵を殺す方法を手段として選択していた。それが腐食魔法の真価を発揮できない理由になっていたんだ。
師匠は言った。
「一つの真理は他の真理にも通じる部分があるのがこの世の理。」と。
ならば剣は? 剣術にもこれが通じるのならば・・・・?
『剣一。殺気を抑えろ。自分をコントロールしろ。
そうでなければお前の成長は先どまり、神道虎臥妙見流は奥伝レベルで終わってしまう。免許皆伝を与えることなど出来ない。
お前の剣には、その先があるんだよ、剣一。』
俺の脳裏に俺を指導する父の姿が蘇ってくる。それが今、どういうことなのか俺にもようやくわかった。
「ああ・・・・・俺にもようやくわかった。・・・・わかりましたよ・・・・・お父さんっ!!!」
感動で涙があふれ出した。
久しぶりに思い出した父の声は特別優しく、俺には見えていなかった父の本当の姿が思い描けたのだった。
そうして、しばらく泣いてから俺が振り返ると、少し離れた位置に師匠が立っていた。
(もしかして、ずっと俺を見守ってくれていたのか?)
師匠の足下を見ると付き添いのリリアンとヴァイオレットはどうやら眠ってしまっているらしく、二人で抱き合ったまま寝転がっていた。
「・・・・やれやれ思い込んだら突き進む・・・・全く、仕方がない子だ・・・・。
それにしても、剣一様。放たれた魔力の波動でわかりますぞ? この短期間でよくぞ腐食魔法を会得されましたな。
どうやら我が娘の見立ては正しいようです。あれは魔法の才能は程々でしたが、人を見る目は一級品らしい。貴方様は間違いなく千年に一度の天才です。」
ウルティアさんがそう言って頭を下げるので慌ててその体を支える。
「やめてください、師匠。全ては師匠のおかげです。あなたが俺を導いてくれたのです。
師匠のお言葉通り、俺は剣術にも先が見えました。これから試してみたいと思いますっ!!」
俺がそう言うと、師匠は笑っていった。
「いけません。もう朝ですよ。
剣一様は半日ほども、魔法に集中なさっておられました。
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